《生還》とは名ばかりで
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宿屋の一階、神銀の剣が帰還した。飲めや歌えやの馬鹿騒ぎが行われていた。ゴードンとティーナが参加してどうにか無傷であるという体裁を前面に押し出しつつ
「エリア体調はどうだ?」
「うん、問題ない」
アルトラとエリアをベッドで休ませる。その頃にはエリアの意識は回復していた。一先ず回復食で抜けるか分からないジパルハザードの厄毒に牽制を仕掛ける
「っう」
「どうした」
「味薄い、おいしくない」
「…後で口直しを作るから」
「や、食べたくない」
「食べな」
「やぁ」
華奢でいて、儚げ、仲間の中で最年少、天才───淡々と話し魔術師然とする立ち振る舞いに言動をとる。それがエリア、それが彼女という人間だ
だが今目の前にいるのは何だろうか。好き嫌いを前面に押し出し、理性より感情を先行させている。それを内面で完結させるならまだしも表に出しているのだ
「…」
「怒ってる?」
「いや、珍しいなと」
「絶対怒ってる」
俺は怒っているというより困惑している。普段の彼女とは似ても似つかないそんな状況に困惑しない方がおかしい。かと思えば
「…」
「…」
「訂正、この状態に困惑を示していると推察」
「さいですか」
霧が晴れたようになる
「エリアはその状態をどう見る?」
「ほゆうと?(というと?)」
「口にもの詰め込んだまま喋らない」
「…」
食事を優先した。食い意地にも見えてやはり以前の彼女の様には思えない。やはりというか何というか───ジパルハザードの仕業だろう
「厄毒の、毒性による、一時的な」
「あ、おい」
粥を掬っていた匙を掴んだままエリアは寝た。その様子は幼子というより最早赤子の様にも見えた。これがエリアの言う通り一時的なものであればどれ程いいことか
『直感』───だが漠然と、これが災難の始まりの様に思えてならない。ゴードンが泣き虫に、エリアが幼くなったと来ればティーナとアルトラも何かしらの変化が現れるやもしれない
「や、ぁ」
「はいはい」
一先ずは匙を掴んで寝こけているエリアを布団に戻す。食い掛けの食事は後で処分しておこう。ジパルハザードの厄毒が感染しないとも考えられない
一階の馬鹿騒ぎも本来なら自粛するべきだが、《英雄譚》と言うのはいつの時代も必要とされていふものだ
《厄》からの生還───久方ぶりの無傷の帰還者ともなれば尚更だ




