誤算と補完
【辻褄合わせ】
・『暗黒化』の使用に関する記述を削除
◆◇◆◇◆
前線が安定して機能し始めた。流石の一言に尽きる。が安心はできない。アルトラとエリアを急ぎ起こさなければジリ貧だ
『ジパルハザードの厄毒耐性』を獲得しました
『天使の白キ歌声』を獲得しました
そう思っていた俺の手は硬直した
「は?」
躊躇したわけではない。肉体に痺れが戻ってきたのだ───アルトラに刺そうとした『解毒薬』の手を止めた
『暗黒化』同様の症状に絶句した。急ぎ振り返り、戦況を見た
『俯瞰視点』『戦況分析』など───自体の把握に役立つ情報を視界に収めた。ジパルハザードが大口を開け、ゴードンとティーナに厄毒の霧が吹き荒んでいた
「ゴードン!ティーナ!」
ジパルハザードの続く突進を受けて大きく吹き飛ばされたゴードンは苦悶の表情を浮かべていた。そんな表情を見たのは駆け出しの頃以来だった
手に残る『解毒薬』の信頼性が著しく低下する今、俺は震える手でアルトラに『解毒薬』を打ち込み前線に復帰した
◆◇◆◇◆
「ゴードン!」
もつれる脚でゴードンに駆け寄り『魔力循環』を準備したが直前に『治療』───魔力を用いた体力の補強に切り替えた。『直感』『経験』『予知』により『魔力循環』は事態を悪化させる《危惧》が働いた結果だった
ただでさえ消費の激しい『治療』に意識が身体から離れる感覚がした
「…すまない」
「そう思うんなら前線に復帰しろ」
「…」
「どうした?」
「怖い」
「は?」
アルトラとエリアの回復に戻ろうとした俺に聞こえたその声に思わず振り返った。震える声で細々と呟いたそれを口にしたのはゴードンだったことに心底驚いた
「おい、どうした」
「怖い、怖いんだ
アーツ、俺は」
ゴードンに両肩を掴まれた。最初こそ何の冗談かと振り払おうとして、驚愕した。ゴードンが涙ながらに俺に訴えていたのだ
大の大人の男のゴードン、《盾職の最高峰》がだ
「アーツ、アーツ、アー…」
俺はゴードンを振り解き、彼が手放した大盾を持ち上げ、ゴードンの背後に周った。ゴードンがしてくれた様にジパルハザードの突撃に対応するべく、割り込む形で
「…ぐっ、ギ」
歯を食いしばり、必死に耐える
◆◇◆◇◆
『生命維持』で崩壊を防ぎ
『息吹』『止血』『保護』『清浄』『活性』
『大盾を扱う』ために
『盾の構え』『流転の構え』『鉄壁』
『足りないもの』を補う
『加速・応用』『跳躍力・応用』
『精密操作』『感覚視野』『均衡調整』
『集中』『鎮静』『強靭』『柔軟』『予測』
『不足分の補助』
『緩衝』『魔力循環』
◆◇◆◇◆
ありったけの思いつく限りの『魔術』『技術』『技能』を振るで使いゴードンの使っていた装備を辛うじて装備し、構える。俺が扱い切れるわけがないが、そんな心配は吹き飛んだ
「ンィ…ッ!!」
覚悟した瞬間に生じた衝撃の凄まじさ、全身を駆け巡る電撃に似た痺れと圧迫感───死が救済と呼ばれる所以を全身を持って理解する経験をした
「…」
一撃。たった一撃を逸らすだけで身体が悲鳴を上げた。前線を離れていたからではない。圧倒的な質量による攻撃の凄まじさは俺の想像を遥かに超えていた
食いしばった歯茎から鉄の味がする。喉が焼けるように熱い、目の奥から鋭い痛みが走り、脚から力が抜けてしまう───《貫通》防御や心構えをしていたとて、上限を越えれば本体である肉体にその皺寄せが来る
「…」
それでも2回目は無理だ『直感』で分かる───内側がぐちゃぐちゃだ。防御をしているという体裁を保つだけで精一杯だ
「アーツ…私は」
「ゴードン、逃げろ」
「!?」
「アルトラ、とエリアを連れて」
「そんな…」
ひとりでは、限界だ
「ティーナ!!」
ゴードンの返事は待たない。一刻でも早く2撃目に備えなければいけない。臆病風に吹かれた奴を気にかける余裕はない
「【天使の抱擁【信仰の守り手」
身体に現れた不調が嘘のように無くなっていき、先まで受けていた力不足が補われていく、これなら耐えられる
「よし…」
『戦士の心得』───脅威の認識と役割の自覚。ティーナに向かって走り、彼女の盾となるべくジパルハザードとの間に割って入り、守備に徹した
「こいつ」
余裕がやや生まれたことで分かる。ジパルハザードには知性がある。他のモンスターと違って、擬似的なものではない確固たる《悪意》を持って───アイツの立ち振る舞いがそれを物語っていた




