《駕籠の中の人》
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アルトラが特権階級を嫌悪する理由がなんとなく分かる一幕に遭遇した。それは郵送組合で手続きをしている最中のこと
「…」
視界の端に映った《紋章》───何処かのものが目に止まった。それだけなら気にすることでもなかったがそれが扱っているモノに目が留まった
「なんだ兄ちゃん
獣人がそんなに珍しいか?」
「そうですね
珍しいと思ったのでつい」
《獣人》───分流種。大雑把に亜人種と一括りにされることが多い人類種とは別の有智種族。名前から分かる通り、その身体的特徴により《獣人》そう言われている
目の前の人間もそのひとりだ
「銀狼ですか」
「その口ぶり、コレの希少性を知ってる口か」
「えぇ、文献で見た程度ですが」
獣人の中でもその毛並み、毛色から特別視されている者がいる。銀狼───駕籠に乗せられている彼女もまたそのひとりだ
《銀・金・緋・蒼・紺》───陽の光、月の光、暗所でさえその頭髪や体毛が光り輝き、その様は神が如き神々しさを放つ故に特別視される希少種の総称
狼の獣人で、銀の毛並み───銀狼
その姿見は月を写した水面が如く、狼の凛々しさと妖しく灯る銀の光は聞きしに勝る美しさだった。駕籠からこちらを覗いている不完全な視界であってもその神聖さが滲み出ている。不思議なものだ
「そんなに興味を持ってもらっているところ
悪いが」
俺が興味深そうに見ているのを見かねて、奴隷商は《紋章》を指さした。お手つき───契約済みであるということを暗に示す仕草をした
「これは失礼しました」
「すまんな」
俺が買おうか迷っている様に見えたのだろう。これは失礼なことをしてしまった。見世物小屋の様に見ては彼女にも迷惑だろう
「無礼な態度を…」
「構いません」
駕籠の中の彼女は厳かに座していた。やはり雰囲気から特別さが滲み出ており、それを是としている風格がそれをより引き立てている
生きた白金貨とはよく言ったもので、失礼ながら納得してしまう俺がいた。程なくして彼女は丁重に運ばれていった
しかし、それでもアルトラであれば《怒気》を立ち上らせていたであろう。それは《奴隷》であること───人をひとつの物として扱う行為を良しとしない思想のもとの行動であり、彼の善性でもある
「…」
しかしだ。彼女はまだマシな部類だ。奴隷と言う身分ながら受け入れられる程の器と周りの環境、アレは特別な方で、扱いだ
無籍奴隷などの者が受ける扱いと比較すれば天と地程の差がある。そんな物をアルトラが見ようものなら怒髪天と修羅が如き形相で雇い主を糾弾することだろう。後処理のことを考えると頭が痛い
そうだ。そんな起きていないことに胃を痛めている場合ではなかった。郵送手続きを終えた俺は帰路に向けて歩き出した




