郵送組合に向かう道中にて
◆◇◆◇◆
「…さて」
招待状を受けた以上正装を新調しなければならなくなった。あの手の場では《装備》であっても許されるが《賄賂》が同封されているところを見るに《そういうこと》なのだろう
「採寸するか…」
5人分を採寸から被服屋に頼んだなら相当な金額になってしまう。採寸を済ませてから向かうべきだな、賄賂から察するにアルトラだけを呼び出しているようにも見える
最悪、アルトラひとりで行かせようモノなら何が起こるか分かったモノじゃない。特権階級から非難を浴びるならまだしも問題を起こせばそれこそことだ
「…」
しかしなんだ。こんな悩みごとをする日が来ようとは思わなんだ。厄毒恐るべし───これはアイツがボロを出さないようにするべきだな
◆◇◆◇◆
郵送組合の近場で本屋に寄り、アビーク公爵領に関する書籍を購入した時になって漸く恐ろしいことに気がついた
「…これは」
公爵家は分家済みとのことだった
蝋印の形を確認して冷や汗が出た。招待状を送ってきたのは分家からの招待状だったからだ
これの何が恐ろしいのか───ひとつ、招待状の送り主が本家と勘違いしていた場合かなりの狼藉として糾弾されることは避けられない。最悪指名手配を受ける。これは蝋印への返事であれば問題ないことだが
それよりも恐ろしいこと───無益な争いを避ける為、戦争により功績を上げて権利を受けた本家と争いを好まず開拓による土地の獲得と献上で名を挙げた分家なところだ
「最早別の家柄だな」
分家側の頑張りが凄まじい───開拓。それは資金、人材、時間を割いて行われる計画。山なら切り崩し、谷なら埋め立て、木々があれば伐採する
言うは易し行うは難し、肉体労働を超えた肉体労働───ただ単純に切り開けば良いと言うモノでもないのが《これ》を年単位の計画にする要因だ
測量から始まり、土地質を確かめ、見積もりを出し、人材を確保し、それに掛かる衣食住を整える。金で済めば良い方だ
領内発行の白金貨───金貨100枚の価値。金貨幣1枚でさえ今泊まっている宿を年単位で寝泊まりできる規模だ。白金貨なんて取り出した日には一室を死ぬまで占領すると言う脅迫だ
「それを僅か数年で、だからな」
それこそ偉業の領域だ。分家による恩恵で得られる伯爵があったとしても異例の速さと言わざるを得ない。戦争による土地の占領換算で言えば2回の戦闘をこなした規模だ。常人なら発狂している
『アビーク公爵領に関する知識』を獲得しました
「取り敢えずの領域だな」
本を閉じ、ため息をつく───資金の大化け物からの招待状とは凄まじいの一言に尽きる
はてさてどうなることか───被服屋に採寸用の道具を買いに向かった。相手の好意に甘えるもひとつの手だがアルトラの初舞台を潰す真似はしたくないので謙虚に行くことにした




