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64. 緑の迷宮、光と炎と、鉛弾の咆哮

「クローディア様が隊列最後尾の二十人を殲滅しなかったからです。あの方々こそ、この軍団の核心なのです」


 柔らかく、それでもはっきりとした声が響き渡り、場の沈黙を破った。


 軍内の古代史知識が最も深いニーナが、ついに再び言葉を紡いだ。


「最後尾の二十人……?」


 俺は困惑を顔一面に浮かべ、眉を一層強くひそめ、思わず繰り返した。


 振り返って整然と進軍してくる衛兵隊を眺めると、確かに隊列やや後方の兵士たちは、ほかの者とは明らかに様子が異なっていた。


「あの兵士たちのことですか?」


 俺は指を伸ばし遠方の集団を指差し、不確かな口調のままニーナに振り返った。


 ニーナは軽く頷き、視線をその二十人から外すことなく、ゆっくりと解説を続けた。


「この二十人には輜重兵だけでなく、負傷者を癒す僧侶も含まれています」


 だがこの場で僧侶たちは、本来の治療という役割を失っていた。


 爆弾で戦闘不能になった兵士を死霊魔法で操り、ゾンビへと変質させ、再び戦闘力を与え、我々へ進撃を続けさせているのだ。


 彼女は指を伸ばし、隊列最後尾で亜麻色の長衣を纏った集団を指し示した。


 長衣は土埃で汚れていたが、古帝国の紋様が刺繍されていることが確認できる。


 彼らは細長い魔杖を握っており、穂先の宝石が不気味な菫色の光を放っていた。


 絶え間なく魔法を行使し続け、あのゾンビや骸骨兵士の動きを支え続けているのは一目瞭然だった。


 俺は彼女の指す方向に視線を向け、菫色の輝きを放つ僧侶たちを見て、瞳に一瞬冷たい光が宿った。


 なるほど。骨だけになっても兵士が動ける理由が分かった。


 あの僧侶たちを討ち取れば、操られている骸骨やゾンビは即座に制御を失うはずだ。


 そう考えた瞬間、俺はためらうことなく両手で印を結び、体内の魔力を一気に昂らせた。


 背後に複数の円形光魔法陣が次々と生成されていく。


 魔法陣は淡い白光を放ち、輝きを増すにつれ強大な浄化力を帯びていった。


 一秒後、数条の眩い光線が魔法陣から飛び出し、亜麻色の長衣を纏った僧侶集団を直撃した。


 だが前列の兵士たちは驚くほど素早く反応し、即座に円盾を掲げ、僧侶の元へ殺到した。


 盾が幾重にも重なり、隙間のない亀甲陣を形成し、僧侶たちを堅固に守り囲んだ。


 それでも光属性の光線は貫通力が極めて高く、盾の隙間をすり抜け、防ぎきれなかった数人の僧侶に命中した。


 僧侶たちは悲鳴を上げる暇もなく、浄化力によって瞬時に灰となって消滅した。


 僧侶が消滅すると同時に、骸骨化していた兵士たちも相次いで制御を失い、骨がカタカタと砕け散り、完全に動かなくなった。


 この一撃で敵は十数人規模で減員し、崩れ落ちた骸骨兵によって整然とした亀甲陣にも大きな隙間が生まれた。


 俺は瞳に手応えの色を浮かべ、魔力を練り上げその隙間へ連続して光線を放ち、敵に一瞬の休まる暇も与えまいとした。


 だが亀甲陣外周の兵士たちの対応はあまりに迅速で、即座に踏み出し、盾を掲げ、隙間を埋め補った。


 瞬く間に穴は塞がれ、陣形は再び整然と戻っていた。


 俺は思わず唇を歪めた。さすが古帝国軍団、臨機応変な対応力には感服せざるを得ない。


 奇襲を受け損害を被っても混乱することなく素早く陣形を立て直す。


 この様子を見て、俺は遠距離魔法攻撃に拘るのをやめ、腕輪に指を添えると眩い白光が閃いた。


 ブリュンヒルデの槍が現れ、槍身は神聖な輝きを帯び、強大な力が指先から全身へ広がっていく。


 背中の白い翼を大きく羽ばたかせ、長槍を強く握りしめ、魔力を全身に巡らせ、亀甲陣へ向かって急降下した。


 神話級の武器だけあって、ブリュンヒルデの槍は亀甲陣最外層の盾を難なく貫いた。


 帝国兵は必死に陣形を調整し突破箇所を塞ごうとしたが、ユーナが彼らに隙を与えるはずもなかった。


 数条の灼熱火柱が地面から噴き上がり、補位しようとした兵士二人に正確に命中した。


 真鍮製の鎧板は高温で瞬時に溶解し、兵士たちは悲鳴も上げる間もなく炎に飲み込まれ灰と化した。


 俺が槍を振って亀甲陣をさらに引き裂こうとした刹那。


「シュッシュッシュッ」


 矢が空を切る音が相次ぎ、鋭い矢が相次いで俺の側を掠め抜けた。


 そのうち一発が正確に俺の鱗甲に命中した。


 この時俺の衣装は既に普通のワンピースから、戦乙女ブリュンヒルデの鱗鎧へと変化していた。


 鱗甲の防御力は極めて高く、矢は衝突と同時に弾かれ、俺に傷一つ付けることはなかった。


 即座に悟った。彼らは俺を軍団最大の脅威だと認識し、集中狙いで攻撃してきたのだ。


 亀甲陣内の兵士たちが隠れて長弓を構え、空中の俺に一斉射撃を仕掛けていた。


 俺の突進やユーナの妨害を受けながらも、彼らは進軍の足を緩めなかった。


 依然として整然と軍陣を保ち、一歩ずつキャンプへ接近し続ける。


 以前小川だった、罠が密集する長溝へ間もなく到達する。


 あの長溝は俺が最も多くの罠を設置した区域であり、燧発銃にとって最適な射程距離でもある。


 彼らがここに踏み入れた瞬間、我々にとって絶好の反撃機会となる。


「チャーリー、ニーナ、射撃準備!」


 状況を察したユーナが、即座に二人に低い声で命令を下した。


「長溝に足を踏み入れた瞬間、引き金を引きなさい!」


 チャーリーは即座に燧発銃を握りしめ、迫り来る衛兵隊に視線を固定した。


 ニーナももう一丁の銃を構え、指先が震えながらも深呼吸し射撃態勢を整えた。


 その後、俺は再びブリュンヒルデの槍を振るい、光翼を羽ばたかせ、亀甲陣へ急降下した。


 敵の注意を自分に引き寄せ、二人に射撃の隙を作るためだ。


 今回敵は万全の対策を練っており、盾の角度を巧みに調整し、槍の衝撃を受け止める体制を整えていた。


 俺の槍は盾に激しく突き刺さったが、前回のように貫くことは叶わず、盾の曲面を滑ってしまった。


 衝撃の大半が逸らされ、敵にほとんどダメージを与えることができなかった。


 仕方なく俺は翼を羽ばたかせ、素早く上空へ離脱し、一度距離を取った。


 急降下の勢いが失われれば、槍の威力は大幅に低下し、長く陣内に留まれば窮地に立たされるだけだからだ。


 だが今回の突撃が無駄だったわけではない。


 下方を見下ろすと、槍が接触した盾の表面に微細な光粒が浮かんでいた。


 光粒は盾の上で膨張し続け、集結していく。


 三秒後、光粒は一斉に炸裂し小型衝撃波を生み出し、周囲の衛兵たちを弾き飛ばした。


 兵士たちは衝撃波で飛ばされ地面に叩きつけられた。


 起き上がる間もなく、地面から再び轟音が響いた。


 彼らがちょうど俺が事前に埋めた爆弾の上に落下したのだ。爆発が起こり、兵士たちは跡形もなく砕け散った。


 元々整然としていた亀甲陣はこの連鎖衝撃で大きく欠け、防御に致命的な隙間が生まれていた。


 ユーナはこの好機を逃さず、二人に射撃を指示した後即座に魔力を練り上げ、陣の亀裂へ集中的に火柱を放った。


 灼熱の火柱が唸りを上げ飛び出し、逃れきれなかった兵士たちを直撃した。


 真鍮の鎧は瞬時に溶け、兵士たちは悲鳴もなく炎に包まれ灰となった。


 その瞬間、「バンッバンッ」と二発の銃声が響いた。


 チャーリーとニーナが同時に燧発銃を発砲したのだ。


 二発の弾丸が最前列の兵士の右手を正確に貫いた。兵士は絶叫を上げ、持っていた盾を地面に落とし、防御を失った。


 これはユーナに絶好の攻撃機会を与えた。盾を失った兵士の側面の弱点が丸出しになったのだ。


 兵士たちは急いで補おうとしたが、ユーナの反応はそれより遥かに速かった。


 火球が瞬時に射出され、防御を突破し、背後の兵士まで巻き込み、敵の防衛線を一気に崩壊させた。


 俺は混乱する戦況を見て再び槍を握りしめ、全力で翼を羽ばたかせ陣の亀裂へ急降下した。


 銃で右手を撃たれ、盾を落とした兵士が痛みで地面にうずくまっていたことで、ほかの兵士の補位ルートが塞がれ、俺に絶好の隙が生まれていた。


 俺はためらわずその方向へ突進した。


 ブリュンヒルデの槍が兵士の鎧を貫き、勢いのまま前方へ弾き上げ、彼と背後の兵士をまとめて串刺しにした。


 槍先の魔法が即座に炸裂し、貫かれた兵士たちは急速に風化し、灰となり、戦闘力を完全に失った。


 この兵士たちは元から生きた人間ではなく、死霊魔法によって作られた存在だったのだ。

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