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63. 緑の迷宮、古の軍勢と、死してなお歩く者

 しばらくして、ユーナはようやく驚きから立ち直り、顔を上げて俺を見た。


 瞳の奥には疑惑と心配があふれていた。


「…… それで、あの燧発銃が役に立つとお考えなのですか?」


 彼女は知っていた。俺が発明した燧発銃は射程が短く、命中精度も低く、火薬の装填にも時間がかかる。


 弓矢と比較すれば劣るばかりで、粗末な武器に過ぎない。


 それなのに今回の旅立ちに際し、俺は敢えて二丁持参すると言い張った。彼女は以前から疑問に思っていたが、今や少しずつ理由が理解できた様子だった。


「ああ。私の予測が正しければ、この武器は確かに役立つ」


 俺は頷き、確かな口調で答えた。


「古グリンマンランク帝国の軍隊は、近接戦闘を何よりも恐れない。一般人で編成された軍団だが、堅牢な真鍮の鎧と鍛え上げられた肉体によって、白兵戦ではほぼ無敵だ」


 俺は言葉を一度途切らせ、声に憂いを滲ませた。


「チャーリーとニーナの魔法腕前では、帝国の軍陣に歯が立たないどころか、一般の兵士一人相手にすら敵わないだろう。チャーリーは近接戦ならまだしも、鎧を纏った帝国兵を相手にする術を持たない。まだ幼い少女だからだ。そしてニーナは戦闘が苦手で、魔法の才能も高くはない。危機に遭えば、ただ一方的にやられてしまうだけだ」


「燧発銃は命中精度も連射速度も悪く、性能自体は並みだ。だが二人は弓を引くことすらできない。燧発銃のほうが遥かに習得しやすく、扱いも簡単なのだ」


 俺はユーナを見据え、説明を続けた。


「少なくとも火銃は、彼女たちに遠距離から帝国兵にダメージを与える手段を与えてくれる。白兵戦を回避でき、臨時で戦力を補強できる上、私とあなたの負担も軽減できる」


 ユーナは話を聞き終え、軽く頷いた。顔には納得できない表情が浮かび、瞳には不安が渦巻いていた。


「わかりました、お嬢様。ですが、あの二丁の燧発銃だけで古帝国兵を打ち破れるとは、到底思えません」


 彼女はチャーリーとニーナを信じていないわけではない。ただ、粗末な燧発銃二丁に戦いを左右するほどの期待が持てなかっただけだ。


「この燧発銃は性能が低く、鎧を貫くのが難しいことは私も承知している」


 彼女の複雑な表情を見て、俺は柔らかい口調で続けた。


「だが武器がないよりは遥かにましだ。少なくとも彼女たちに自信を与え、窮地において時間稼ぎをすることもできる。予期せぬ効果を発揮する可能性だってある」


 ユーナはもう反論せず、ただ静かに頷いて俺の決定を受け入れた。


 彼女は知っていた。俺が一度決めたことは簡単に変わらない。それに、俺の言葉にも筋が通っている。圧倒的な精鋭軍を前に、二人を素手で戦わせるわけにはいかないのだ。


 ユーナとの話が終わると、俺は休憩もそこそこに、魔力が少し回復したのを見計らって山裾へ向かった。

 ゆっくりと歩みながら周囲の気配に警戒し、前方から突然現れる魔物に備えた。


 十五分ほど歩き続け、山裾の樹林付近に到着した。ここは先ほど鎧の破片と魔力反応を発見した場所だ。


 俺は不用意に樹林へ踏み込まず、外周で足を止めて周囲を確認した後、罠を設置しながらキャンプへ戻っていった。


 腕輪から罠の素材を取り出し、慣れた手つきで穴を掘り、尖った杭を仕掛け、トリガー機構を組み上げる。


 これらの罠は迷宮の地形に合わせ、俺が特別に設計したものだ。複雑ではないが、一般の魔物や帝国兵を足止めするには十分な威力がある。


 罠を仕掛ける際は極力音を立てず、魔物を呼び寄せないよう細心の注意を払った。


 一つ設置するごとに枯れ草で覆い、発見されないよう隠蔽する。誰かがトリガーを踏むまで、罠の存在は分からない。


 歩きながら次々と仕掛け、樹林からキャンプへ続く道筋に合計十数個の罠を配置した。魔物であれ帝国兵であれ、この道を進めば必ず罠に引っかかる。


 全ての罠設置を終えキャンプに戻ると、ユーナは岩にのたまって目を閉じていた。疲労は滲んでいるものの、警戒だけは怠っていない様子だった。


 篝火が揺らめき、彼女の長髪に淡い輝きを照らしていた。


 俺は彼女を邪魔することなくそっと隣に座り、肩を寄せて目を閉じ休んだ。


 これから待ち受ける戦いは、間違いなく苛酷なものになる。早く体と魔力を回復し、彼女たちを守らなければならない。


 二人の柔らかな香りが混ざり合い、心から安心感が広がる。疲労に包まれ、俺はすぐに浅い眠りに落ちた。


 約十時間が過ぎた頃、高山の方角から突然「ううう――」と重く響き渡るラッパの音が届いた。


 低く荘厳な音色がキャンプの静寂を打ち破り、眠っていた全員を一斉に目覚めさせた。


 その音にはリズムがあり、神々しく厳かで、普通の魔物が発するものではない。


 まるで古代軍隊が出陣する際の軍楽のようで、殺伐とした雰囲気を纏い、心を圧迫してくる。


 俺はその音で即座に目を覚まし、眠気が一気に消え、瞳には警戒だけが残った。


 すぐに身を起こし躊躇なく立ち上がり、回復した魔力を動員し背中に小さな光の翼を出現させた。


 光の翼がそっと羽ばたき、俺をゆっくりと上空へ浮かび上がらせる。


 高く飛び上がり、周囲の様子を一望する。視線を山裾の樹林に定め、心の中で呟いた。


 やはり来た。予測通り、古グリンマンランク帝国の衛兵隊だ。


 上空から見下ろすと、樹林から無数の黒い人影が現れていた。


 隙間なく密集し、果てしなく続いている。壮観であると同時に、極めて恐ろしい光景だった。


 空中で静止し、素早く人数を数える。指先が微かに震え、心に一抹の動揺が走った。


 約百六十人。予想を上回る規模だった。


 これは間違いなく古帝国軍団・百人精鋭部隊。


 衛兵隊の中でも最も精鋭な集団で、戦闘力が極めて高く、規律も厳格。一般の衛兵とは比べ物にならない強さを持っている。


 上空から隊列を見下ろし、瞳に重苦しい思いが広がる。同時に安堵した気持ちも湧いてきた。


 事前に罠を仕掛けておいて本当によかった。チャーリーとニーナに燧発銃を渡してよかった。そうでなければ、四人で勝ち目など存在しない。


 彼らは整然と軍陣を組み、足並みを揃えて進軍してくる。


 一歩一歩重く地を踏みしめ、体には堅牢な鎧を纏い、急所には追加の真鍮製鎧板で防御を固めている。


 俺が拾った鎧の破片と材質も細工も完全に一致していた。


 隊員一人一人が銅剣と円盾を所持していた。銅剣は冷たい輝きを放ち、円盾には古帝国特有の紋様が彫られ、鋭く丈夫だった。


 軍陣最前列には、より重厚な鎧を着た長身の兵士が立っている。華やかな細剣を携えていた。


 明らかに隊長だ。視線をキャンプに向け、殺気だった瞳に迷いは一切ない。


 この光景を見て、俺の予測は完全に裏付けられた。


 ここは間違いなく古グリンマンランク帝国時代の地下迷宮。これから四人が戦う相手は、この精鋭部隊なのだ。


 深呼吸をし、心の動揺と不安を抑え込む。光の翼をそっと羽ばたかせ、キャンプへ向かって飛び戻った。


 早く戻って戦闘配置を整え、この苛酷な戦いに備えなければならない。


 飛行しながらはっきりと見えた。部隊は既にキャンプを目指して進軍を開始していた。


 足並みは整然で速度は緩やかだが、一切揺るがない。一歩ごとに殺気が広がり、勝利を確信しているようだった。


 残された時間は多くない。迷宮に入って以来、最も厳しい戦いになることは明白だった。


 翼の羽ばたきを速め、間もなくキャンプ中央に着地した。


 ユーナは既に火属性長剣を握りしめ、山の方角を見つめ、険しい表情をしていた。ラッパ音に気づき、即座に振り返った。


 チャーリーとニーナも彼女に起こされ、眠たそうに目を擦っていたが、疲労を押し殺し、瞬く間に緊張感を張り詰めた。


「お嬢様、状況はいかがですか?」


 ユーナが俺の元へ歩み寄り、低く切迫した口調で問いかけた。


 俺は背中の光の翼を消し、重たい声で上空で確認した情報を全員に伝えた。


「相手は約百六十人。グリンマンランク帝国衛隊、百人規模の精鋭部隊だ」


 言葉が途切るや否や、チャーリーは思わず息を呑んだ。眠気の残る瞳が一瞬にして大きく見開かれた。


「百六十人!?しかも最も精鋭な部隊だなんて…… 四人でどう戦えばいいの?絶望だ!」


 ユーナは彼女の肩を軽く叩き、冷静になるよう促し、瞳は依然として前方を見据え、強い警戒を崩さなかった。


 ニーナは唇を強く噛み締め、両手を胸元に組み体を硬く緊張させ、表情を一層引き締めた。


 四人で戦闘準備を整えている最中、遠くの樹林から突然「ドォオオオン」と激しい爆発音が響き、大地が微かに震動した。


「爆弾だ!」


 胸が締め付けられるような感覚を覚え、即座に状況を理解した。


 昨日俺が樹林からキャンプへの道に仕掛けた爆発罠が、進軍する帝国兵に踏まれ起爆したのだ。


 チャーリーとニーナは突然の轟音に驚き、怯えた。チャーリーは思わずユーナの傍に縮こまり、両手で耳を塞ぎ、驚愕の表情を浮かべた。


 ニーナは体を大きく震わせ、顔色が一瞬で青ざめ、胸元で手を強く組み、体を丸めた。


 幸い、二人は昨日の魔物戦特訓を経験していたため、混乱するのは一瞬だけでした。


 すぐに冷静さを取り戻しました。耳を塞いだ手を下ろし、爆発の方角をじっと見つめた。


 爆発は途切れることなく続き、「ドォオオオン――ドォオオオン――」と轟音が次々と響いた。


 樹林奥からキャンプへ向かって次々と起こり、爆発ごとに鼓膜と大地を揺らし、震動は次第に強まっていく。


 俺はその場に立ち眉をひそめ、視線を樹林の端に固定し頭の中で被害状況を計算し続けた。


 爆弾単体の威力は大きくないが、相手に一定の損害を与え、十分な時間稼ぎができるはずだ。


 ユーナは俺の隣に立ち、表情を崩さず片手でチャーリーを守り、もう片方の手で短剣を握りしめ、即座に緊急事態に対応できる態勢を取っていた。


 こうして爆発音は三十分間続き、やがて収まり始めた。最後の轟音が消え、大地は静寂を取り戻し、空気には硝煙と土埃の匂いだけが残っていた。


 その瞬間、古帝国衛隊の姿がついに視界に現れた。


 彼らは依然として整然と軍陣を保ち進んでいた。ただ隊列の規模は明らかに縮小し、鎧は土と血で汚れ、見苦しい姿になっていた。


 最も衝撃的だったのは前列の十数人の兵士だ。爆発の衝撃で鎧も肉も砕け散り、残ったのは白骨だけになっていた。


 眼窩は虚ろで感情もないのに、それでも円盾と剣を握りしめ、機械的な動きでキャンプへ歩み続けていた。


 俺は骸骨だけの兵士を見て胃が翻るような不快感に襲われ、思わず口元を覆った。瞳に嫌悪感と吐き気が広がった。


 骨だけになっても動き続けるなんて、あまりにも不気味だ。


「こんな姿になっても動くなんて……」


 強烈な吐き気を抑え、声に微かな震えを込め呟いた。


 隣のユーナを振り返ると、彼女も骸骨兵士を見つめ、驚愕に顔を歪めていた。こんな異常な光景が起こるとは、誰も予想していなかったのだ。


 残された時間は多くない。迷宮に入って以来、最も厳しい戦いになることは明白だった。


 翼の羽ばたきを速め、間もなくキャンプ中央に着地した。


 ユーナは既に火属性長剣を握りしめ、山の方角を見つめ、険しい表情をしていた。ラッパ音に気づき、即座に振り返った。


 チャーリーとニーナも彼女に起こされ、眠たそうに目を擦っていたが、疲労を押し殺し瞬く間に緊張感を張り詰めた。


「お嬢様、状況はいかがですか?」


 ユーナが俺の元へ歩み寄り、低く切迫した口調で問いかけた。


 俺は背中の光の翼を消し、重たい声で上空で確認した情報を全員に伝えた。


「相手は約百六十人。グリンマンランク帝国衛隊、第一精鋭百人隊だ」


 言葉が途切るや否や、チャーリーは思わず息を呑んだ。眠気の残る瞳が一瞬にして大きく見開かれた。


「百六十人!?しかも最も精鋭な部隊だなんて…… 四人でどう戦えばいいの?絶望だ!」


 ユーナは彼女の肩を軽く叩き、冷静になるよう促し、瞳は依然として前方を見据え、強い警戒を崩さなかった。


 ニーナは唇を強く噛み締め、両手を胸元に組み体を硬く緊張させ、表情を一層引き締めた。


 四人で戦闘準備を整えている最中、遠くの樹林から突然「ドォオオオン」と激しい爆発音が響き、大地が微かに震動した。


「爆弾だ!」


 胸が締め付けられるような感覚を覚え、即座に状況を理解した。


 昨日俺が樹林からキャンプへの道に仕掛けた爆発罠が、進軍する帝国兵に踏まれ起爆したのだ。


 チャーリーとニーナは突然の轟音に驚き、怯えた。チャーリーは思わずユーナの傍に縮こまり、両手で耳を塞ぎ、驚愕の表情を浮かべた。


 ニーナは体を大きく震わせ、顔色が一瞬で青ざめ、胸元で手を強く組み、体を丸めた。


 幸い、二人は昨日の魔物戦特訓を経験していたため、混乱するのは一瞬だけでした。すぐに冷静さを取り戻しました。


 耳を塞いだ手を下ろし、爆発の方角をじっと見つめた。


 爆発は途切れることなく続き、「ドォオオオン――ドォオオオン――」と轟音が次々と響いた。


 樹林奥からキャンプへ向かって次々と起こり、爆発ごとに鼓膜と大地を揺らし、震動は次第に強まっていく。


 俺はその場に立ち眉をひそめ、視線を樹林の端に固定し頭の中で被害状況を計算し続けた。


 爆弾単体の威力は大きくないが、相手に一定の損害を与え、十分な時間稼ぎができるはずだ。


 ユーナは俺の隣に立ち、表情を崩さず片手でチャーリーを守り、もう片方の手で短剣を握りしめ、即座に緊急事態に対応できる態勢を取っていた。


 こうして爆発音は丸三十分間続き、やがて収まり始めた。最後の轟音が消え、大地は静寂を取り戻し、空気には硝煙と土埃の匂いだけが残っていた。


 その瞬間、古帝国衛隊の姿がついに視界に現れた。


 彼らは依然として整然と軍陣を保ち進んでいた。ただ隊列の規模は明らかに縮小し、鎧は土と血で汚れ、見苦しい姿になっていた。


 最も衝撃的だったのは前列十数人の兵士だ。爆発の衝撃で鎧も肉も砕け散り、残ったのは白骨だけになっていた。


 眼窩は虚ろで感情もないのに、それでも円盾と剣を握りしめ、機械的な動きでキャンプへ歩み続けていた。


 俺は骸骨だけの兵士を見て胃が翻るような不快感に襲われ、思わず口元を覆った。瞳に嫌悪感と吐き気が広がった。


 骨だけになっても動き続けるなんて、あまりにも不気味だ。


「こんな姿になっても動くなんて……」


 強烈な吐き気を抑え、声に微かな震えを込め呟いた。


 隣のユーナを振り返ると、彼女も骸骨兵士を見つめ、驚愕に顔を歪めていた。こんな異常な光景が起こるとは、誰も予想していなかったのだ。

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