336. 商会の定款
この一帯の通りは、他の街区よりずっと静かだった。露店の呼び込みもなく、鍛冶屋の奥から響く鉄の槌の音もない。
私たちは、その屋敷の前に立っている。
この屋敷は、この通りにある他の何棟かと同じ造りだった。外壁は灰白色の石材で、表面は丁寧に磨き上げられている。軒のあたりにだけ、浅い浮き彫りの花の帯が巡らされている。
正面の扉は濃い色の堅木で、扉板には鉄のノッカーが嵌め込まれていた。ノッカーの土台には、クローディア商会の紋章がある。
デフォルメされた精霊の少女の小さな頭。
御者のクラフが一歩進み出て、拳の関節で扉を三度叩いた。
音は静かな玄関ポーチのなかで一度跳ね、それから散っていった。
しばらくして、扉の奥から足音が近づいてくる。靴底が大理石の床板を踏むリズムは速くない。一歩一歩が、しっかりと踏まれている。
扉板の、手のひらほどの幅の覗き窓が内側から押し開かれ、目と鼻筋の一部が覗いた。
その目はクラフの顔で一瞬止まり、それから彼の制服の襟元へ移る。そこには、クローディア商会の身分証が留められていた。
「身分証を」
扉の奥の者が言った。
クラフは上着の内ポケットから身分証を抜き、覗き窓の隙間から差し入れた。
扉の奥はしばらく静かだった。
そして覗き窓が閉まる音と、掛け金が外される金属が擦れる音がほとんど同時に鳴り、扉が内側へ開いた。
扉を開けたのは、少年だった。
仕立ての良い黒い燕尾服を着て、中の白いシャツの襟元には、几帳面な蝶ネクタイが結ばれている。
髪は金色で、七三分けの分け目が一本、きれいに通っていた。
彼の視線はまずクラフに落ち、それからクラフの肩越しに、私を捉えた。
目が大きく見開かれる。
「ク、クローディア様!」
その言葉を口にするとき、彼の声は先ほど身分証を確認したときより、まる一段高くなっていた。最後の一音は上ずり、興奮と緊張のあいだで震えている。
「本日は、なぜご自身で我々の支店へ? 何か大切なご用でしょうか?」
私はうなずき、敷居をまたいだ。
「二か月後に開かれる競売会に参加するために来たの」
私は言った。
「ついでに、別の土地から持ってきた商品を少し売るつもり」
玄関ホールの天井には、数十枚の鏡を組み合わせた笠が吊るされていて、ホールに入った光をどこまでも均一にしている。
床は市松模様の大理石で、黒と白の菱形が交互に並び、目地には真鍮の帯が嵌め込まれていた。
ホールの正面にある螺旋階段は二階へ通じている。手すりは鍛鉄で、欄干には蔦と花の模様が巻きついていた。おそらく、前の持ち主の好みだ。
階段の踊り場には鉢植えが一つ置かれている。葉は整った球形に刈り込まれ、受け皿の下には深緑のビロードが敷かれていた。
「数日後の商品販売会では、ぜひあなた方の力を貸してほしいの」
「お任せください、クローディア様!」
彼は右手を高く掲げた。掌はぴんと伸び、指先は上を向いている。兵士が敬礼するように。
その拍子に、カフスが燕尾服の袖から少し滑り出て、中のシャツの袖口の銀のカフスボタンが覗いた。
「必ず任務を果たします」
「あなたの名前をまだ聞いていないの。何て言うの?」
掲げた腕が、宙で固まった。
彼は腕を下ろし、指をズボンの脇の縫い目で一度拭い、それからもう一度拭った。
「クローディア様、それは……わ、私の名前をお尋ねで?」
「それ以外に何があるの」
「エリソン・スララーフと申します」
そう言い終えてから、ようやく彼は息を吸い直した。
彼が喋っているあいだ、私はずっと彼の視線を観察していた。
始めから終わりまで、彼の目は私ひとりにしか向いていない。
隣にはユーナが立っていた。彼女は私と並んで玄関ホールへ入ってきて、その腕は私の腕と半ば掌ほどの距離しか離れていない。
エリソンが彼女に目をやったとき、そこには一瞬の停留もなかった。玄関ホールの隅の鉢植えを見過ごすのと同じだった。
「クローディア様、こちらがあなたのお部屋です」
エリソンは私たちを螺旋階段へ導いた。革靴は深紅の絨毯を敷いた段を踏んでも、ほとんど音を立てない。
彼は先頭を歩き、踊り場に着くたびに足を止めて体を横に向け、私たちがその段を登り終えるまで待った。
「こちらの侍女さんは、隣の部屋をお使いください」
彼はユーナに向かって言い、廊下の突き当たりの細い扉を指で示した。
その扉は廊下の突き当たりの曲がり角に近い。塗装は遠目にはまだ艶やかに見えるが、近づけば、鴨居の上部に細長い亀裂があるのが分かる。亀裂は鴨居の右上から壁の方へ手のひらほど伸び、その半ばは塗り直された石膏で覆われていた。
扉の下部の塗装には小さな気泡がいくつも浮いている。一番大きいものはすでに破れて、下の灰褐色の木地が覗いていた。
扉が開くとき、蝶番が乾いた悲鳴を上げた。
部屋には、窓がなかった。
空気は廊下とはまるで違う。古い木と埃と、湿った壁土の黴の匂いが混ざり合い、風の通らない四方の壁のなかで、長いこと発酵していた。
壁には壁紙が貼られていない。剥き出しの漆喰の面が、灯りの下で濃淡のまだらを見せている。
幅木に近い位置には、浸水の跡がはっきりと残っていた。染みの縁は淡い黄色で、壁の根元から人の腰ほどの高さまで広がっている。色の褪せた地図のように。
家具は、最低限の三点だけだった。
木の狭い寝台が一つ。足元の柱には、切れた麻縄の端が結びつけられている。
扉のない衣装棚が一つ。棚の底の隅には、誰が残したのか分からない布切れの屑が幾つも溜まっていた。
脚の低い四角い卓が一つ。天板には薄く埃が積もっている。その厚みは均一で、一時的に掃除を怠っているのではなく、そもそも誰も掃除しようと考えたことがないような埃だった。
ユーナは扉の前に立っていた。
部屋には入らない。
彼女の視線は、染みの浮いた壁の隅、窓のない壁、埃の積もった天板のあいだを順に巡り、それから狭い寝台の脚で止まった。
脚の地面に近い部分に、水に浸された跡の濃い輪が残っている。
私は振り返り、エリソンと向き合った。
「エリソンさん」
私は微笑みを保ったままで言う。
「こちらはユーナ。私のパートナーよ。彼女と別れて泊まりたくないから、今日は一緒に泊まることにするわ」
エリソンの喉仏が、上下に一度動いた。
彼の視線が、ようやくユーナの上で止まった。さっきのような、流して忘れるだけの一瞥ではない。本当の意味で、止まった。
口が開き、唇の形が「ユ」と「ナ」のあいだで一瞬ためらう。
「申し訳ございません、クローディア様。それから、こちらのユーナ、ユーナ様」
彼は体をユーナの方へ向け、わずかに上体を前へ傾けた。
その動作はあまりに浅い。肩の回転幅は、普通のお辞儀の半分ほどしかなかった。
「それと」
私は続けた。
「あなたが用意したこの部屋は、明らかに私の求めた規則に合っていないわ。私は、たとえ使用人であっても、清潔で窓のある部屋を用意するよう、はっきりと要求したはずよ。入職のときに、商会の定款を読みましたか?」
彼のかかとが、廊下の床の上で指一本ほどの幅だけ後ろへ擦れた。
指が燕尾服の裾を握りしめ、握っては、また解く。
口を開き、唇が何度か動いた。そして最後に絞り出せたのは、さっき扉の蝶番が立てた音よりも乾いた一言だけだった。
「すぐに直します、クローディア様。すぐに手配をして、部屋を改装させます」
「いいえ」
私は言った。
「あなたの、今の役職はもう解かれているわ」
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