334. でも、お断りします
比喩として裂けたのではない。世界そのものが、真ん中から縦に裂けた。
まず空が二つに割れ、次に踏み均された草地が割れ、その次に、まだ燃えている苔の残骸が割れた。
亀裂の縁は紫黒い光を巻き上げ、そして光は消え、すべての光景が同じ瞬間に消えた。
ユーナの体が、ぐっと弓なりに跳ねた。
黒晶人ヘイジンレンの体ではない。
彼女自身の体だった。
喉の奥から血の味がせり上がってくる。
血ではない。あまりにも長く嚥下していなかった唾液と、埃が混ざり合った味だ。
彼女は咳をひとつした。吐き出された息が、地面に落ちていた乾いた落ち葉を一枚、裏返した。
「ユーナ。やっと目を覚ましたのね。本当に心配させられたわ」
ユーナは、声のした方へ視線を移した。
夕暮れの光を逆に受けて、彼女がまず見たのは髪だった。
白金色の長い髪。その糸のあいだに、光の下で微かな金色をきらめかせる房が幾筋か混じっている。
次に肩。
肩のあたりで、汗に濡れた布が肌にぴたりと貼りつき、その折り目が鎖骨の湾曲から外へ向かって広がっていた。
さらに上、首の側面。
そこは長時間同じ姿勢を保っていたせいで、薄くむらのある赤みを帯びている。あごの縁から襟の内側まで。
クローディアが彼女の前にしゃがんでいた。
剣は握っていない。
剣は彼女の足元から50センチほど離れた泥のなかに、斜めに突き立っている。
刀身の黒い気は大半が褪せ、剣の峰に貼りついた薄い一筋だけが、乾きかけた墨の跡のようにゆっくりと這っていた。
右手には、飲み干した魔力ポーションのガラス瓶がまだ握られている。
瓶の口は下を向き、最後の一滴が内壁に引っかかって、いつまでも落ちてこない。
クローディアの体が、少しだけ前に傾いた。
膝は泥の上につき、スカートの裾はずいぶん広く泥と草の汁に濡れている。それでも彼女は直そうとしない。
空のガラス瓶を腰の小さなポーチに押し込む。
その動作は、いつもより二度多くやり直しになった。指がポーチの口を何度か探って、ようやく開けを見つけた。
それから彼女は手を伸ばし、手の甲をユーナの額に当てた。
手の甲は冷えていて、皮膚にはまだガラス瓶の冷たさが残っている。
「クローディア」とユーナが言った。「私は平気。あの黒晶人ヘイジンレンは?」
「あの騎兵たちが引きつけてくれているから、まだしばらくは大丈夫。でも、あれは本当にしぶといわ。私達では手こずる」
そう言ってクローディアは振り返り、戦場の方へ目をやった。
ユーナもその視線を追う。聖騎士たちはまだいた。
濃い灰色の鎧が夕暮れの光のなかで鈍い反射を返し、蹄が泥の上に一つ、また一つと鮮明な足跡を刻んでいく。
彼らは散開した弧を描いて、黒晶人ヘイジンレンを西寄りの位置に囲い込んでいた。
だが陣は、もう以前のように整ってはいない。黒晶人ヘイジンレンに最も近い二騎の盾は半分ほど砕け、その破片は地面に落ちても消えなかった。
騎兵そのものは魔力の造物で、血も流さなければ痛みも感じない。だが消耗はする。盾の裂け目は、そのまま魔力の裂け目だ。
黒晶人ヘイジンレンが動いた。
以前のような、本能だけに任せた斬撃ではない。届く距離の騎兵を斬り、弾かれ、また斬る。それだけの動きだった。
今の黒晶人ヘイジンレンは、誰かがどこかのスイッチを押したように、動きに明確な指向性を持ち始めている。
最も近い騎兵は追わず、ある一点へ向かって、つまりクローディアとユーナのいる場所へ向かって、ゆっくりと押し掛かってくる。
一歩ごとに、泥の上へ前足の深い、かかとの浅い、結晶化した足跡が刻まれる。踏み折られた枯れ枝が、乾いた音を立てて折れる。
クローディアの手が、泥に突き立ったグリンマンランク帝国の剣へ伸びた。
柄を握って引き抜くその瞬間、刀身の黒い気がぐっと一回り膨らんだ。乾きかけた状態から、剣の峰に沿って上へ流れ上がる気流に変わる。
彼女は剣を体の前に横向きに構え、切っ先を黒晶人ヘイジンレンへ向けた。
もう一方の手はすでに腰から二本目の魔力ポーションの瓶を抜いている。親指で栓を押し上げると、栓は草地に落ち、二度跳ねて止まった。
「私たちに加わりなさい」
ユーナの鼓膜が震えた。耳から聞こえた音ではない。
頭蓋の内側のある一点から直接注ぎ込まれてくる。誰かが一文を彼女の脳の表面に書きつけ、その文が意識のなかで自動的に聴覚へ変換されたような感覚だった。
「私たちの敵を滅ぼすために、あなたの力が必要なのです」
その声には抑揚の変化がない。年齢も、性別もない。「懇願」とも「命令」とも呼べる感情が、一切含まれていない。
ただ、一つの提案を述べているだけだった。
しかしその陳述そのものが、奇妙な沈み込む重さを帯びている。重い物を薄い紙の上へそっと置いたようなものだ。重さは分散されているのに、紙はもう沈み始めている。
彼女は答えなかった。
右手を自分の前に掲げ、掌を開いて、夕暮れの最後の光を指の上に落とす。
爪の隙間は清潔で、乳白色の爪の表面には食べかすも、乾いた血の塊もない。
掌の皮膚は人間の皮膚だ。温度があり、汗の跡があり、地面から立ち上がるときに擦りつけた小さな泥の跡がある。
指が曲がり、自分の親指を握って、そして離した。
「あなたにも憎しみがある。殺したい相手がいる」と、その声は言った。
今度は短い一文が付け加えられ、語尾がわずかに上がっている。人と話すのがあまり得意でない者が、懸命に疑問の口調を真似たように。「違いますか?」
ユーナは唇を結んだ。一拍おいて、自分の唇がまだそこにあることを確かめてから、答える。
「あります」
クローディアが振り返って、彼女を一瞥した。
手にした魔力ポーションは、すでに半分ほど腹に入っている。口の端には、まだ拭いていない薬の跡が残っていた。
「あの修道女のおばあさんを殺した相手は、まだ見つかっていません」
ユーナは顔を上げ、黒晶人ヘイジンレンの、眼球のない、暗い光の窪みが二つあるだけの顔を見た。
声はまだ嗄れている。それでも、一語一語はしっかりと落ちていく。
「あなたに会う前だったら、たぶん、うなずいていたと思います」
彼女は肩の前に垂れていた桃色の長い髪を後ろへ払い、そして首を振った。
「でも今は、うなずく理由が一つ減りました」
黒晶人ヘイジンレンの足が、ぴたりと止まる。
その手が剣を離した。
結晶で構築された長剣は、地面に落ちても砕けず、ゆっくりと土のなかへ沈んでいく。氷が水面に沈むように。
結晶が土の表面から沈んでいく速度は速くない。ユーナには、刀身に映った最後の影を見るだけの余裕があった。
燃える村を、娘を抱えて歩いていく後ろ姿。それは長く、長く引き伸ばされていた。
「それが、あなたの選択ですか」と、声が問う。
「すみません。あなたの経験には、とても胸を突かれました。つらいとも思いました」
ユーナは右手を左の鎖骨に当て、肩をわずかにすぼめる。
「でも今の私には、もっと大切にしたい人がいます。その人を置いて、自分のことだけをしに行くわけにはいきません」
クローディアはその沈黙のあいだに、残り半分の魔力ポーションを飲み干した。
ガラス瓶を足元の草のくぼみに置く。瓶は草の茎に斜めにもたれ、転がらない。
指が瓶の上に一瞬だけ留まり、それから再び柄を握り直した。
刀身の黒い気が手の甲を流れ、手首の骨を回り、前腕に沿って肩の方へ短く登って、また退いていく。
「それもいいでしょう」と、その声は言った。
二つの言葉のあいだには、一拍の間があった。近くの枯れ草のなかから風が巻き上がり、砕けた黒い結晶の欠片を何枚か地面から持ち上げ、空中で数度ひっくり返して、もっと遠くへ落とすほどの間だった。
「ですが、私たちは敵ではありません。こうして殺し合う必要もない。また会いましょう」
黒晶人ヘイジンレンの体は、砕け散りもしなければ、爆ぜもしなかった。
ただ最も外側の晶面から、一枚ずつ、極細の粉へと分解していく。本が風にめくられて、最後のページから前へ戻っていくように。
粉は土の上に落ちると光沢を失い、普通の土とさほど変わらない灰褐色になった。
最後の一片、胸の真ん中にあった面も粉に砕けたあと、西から風が吹いてきて、粉の山を草地の上へ散らしていった。
騎兵たちも消えていた。
クローディアは剣を自分の前の地面に突き刺し返した。刀身は、手のひらほどの深さまで土に埋まる。
柄に手を当てて立ち上がる。膝が地面を離れた瞬間に一度よろけ、それから踏みとどまった。
振り返ると、ユーナが手をついて立ち上がろうとしているところだった。動きは自分より遅いが、向かう方向は同じだった。
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