331. 黒晶人の真相
細かい黒い粉末が数粒、衝撃の反動でユーナの銃身を握る指へ跳ね返ってきた。
粉末は人差し指と中指の関節に落ちる。滑りもせず、弾かれもせず、そのまま彼女の皮膚の表面へ溶け込んだ。
ユーナは自分の手を見下ろした。
その場所にはもう何もない。粉末は消え、皮膚は無傷で、痕跡も残っていない。
彼女の体が一度揺れた。
散弾銃の銃口が垂れ、銃床が肩の付け根から滑り落ちて、足元の土にぶつかる。
膝が一度折れた。だが、まだ完全には崩れない。
ただその場に立ち、両手を体の横に垂らし、目を見開いている。瞳孔には焦点がなく、視線は目の前でまだ足掻いている黒晶人ヘイジンレンを貫き、この戦場には存在しないどこかへ落ちていた。
私はずっと彼女の方を気にしていた。
馬上で体を横に向け、騎兵の肩越しに見下ろす。
ユーナは黒晶人ヘイジンレンの手前三歩の位置に立ち、動かない。
背中には何の異常もない。肩は震えておらず、膝も曲がっていない。立ったまま眠ってしまったようだった。
黒晶人ヘイジンレンはまだ生きている。
胸を撃ち抜かれたあとも、残った結晶が再生している。穴の縁から外へ向かって広がっていく。
すぐに元へ戻るだろう。
私は魔力を核から騎兵の胴へ流し込んだ。
騎兵の蹄が土を二度掻き、そして弦を離れた矢のように走り出す。
風音が耳の脇を裂き、騎兵の肩が私の下で上下する。一歩ごとに三メートル近くを跳ぶ。
私はグリンマンランク帝国の剣を左手に持ち替え、ユーナに近づいたところで体を伏せ、右手を騎兵の肩の下から差し込んで、その腰を一気に抱き寄せる。
彼女の体重がその瞬間、すべて私の腕に落ちてきた。抵抗はなかった。
私は彼女を引き上げ、背中の後ろの馬体に載せ、騎兵のマントにもたれさせる。
手は冷たく、瞳孔は縮まない。
騎兵は陣線の後方へ戻る。
私はユーナを馬から下ろし、道端の枯れ木の幹にもたせかけた。
手を上げて額を触る。熱くもなく、冷たくもない。
呼吸はある。脈もある。
だが目は開いたままだ。瞳孔は広がったままで、視線は私を貫き、枯れ木を貫き、空を貫いて、私には届かないどこかまで伸びている。
私は振り返る。
御者は二本の匕首を側面から結晶兵の膝の裏へ差し込み、結晶の接合を切ってから横へ跳び退いた。着地した片足が、まだ完全に粉になっていない残骸を踏み、体が一度ぐらつき、それから踏み直す。
鉄甲聖騎兵の陣線はまだ前方を押している。騎兵たちは大槌で黒晶人ヘイジンレンを絶えず後退させ、こちらへ近づく隙を与えていなかった。
私はグリンマンランク帝国の剣を目の前の土へ突き立て、両手で柄を握る。
ユーナが目を開けた。
いや。目を開けたのではない。
彼女は一片の麦畑のなかに立っている。
金色の麦の穂が足元から視界の果てまで続いていた。麦の茎は彼女の腰よりも高く、穂先は重たげに垂れて、風に揺れている。
波が立つとき、麦畑はざあざあという音を立てる。音は遠くから来て、彼女の脇を通り、そしてまた別の方へ遠ざかっていく。
風は暖かく、熟した麦の甘い匂いと、陽に晒された土の乾いた匂いを運んでいた。
彼女は下を向く。
自分のこの両手は、彼女のものではない。荒れていて、指の関節は太く、手のひらと指の腹は厚いたこだらけだった。
爪の隙間には土と麦の殻の屑が詰まっている。
右手には鎌が握られている。柄の木は汗に浸って黒く変わり、刃は麦の茎に擦れてできた欠けに錆が付き始めていた。
腰が痛い。膝も痛い。長く曲げ続けた腰に溜まった鈍い痛み。怪我ではなく、使いすぎだ。
息のなかに麦の芒の匂いがある。喉は少し乾いている。
彼女は麦を一束刈る。指で麦の茎の根元を握り、鎌を側面から入れる。茎が刃の下で断ち切られるとき、澄んだ折れる音がした。
刈り取った麦を脇に置き、また腰を曲げて次の束を刈る。
この動作を、もう数え切れないほど繰り返している。彼女がしているのではない。この体がしているのだ。
彼女は、この体の内側に貼りついた一対の目でしかない。見ることはできる。聞くこともできる。掌の汗も、腰と背中の鈍い痛みも、頬に当たる穂の微かな疼きも感じ取れる。だが、この体のどの動きも変えられない。
どれだけ経ったのか、彼女にはわからない。
太陽は頭の上から西へ傾き、彼女の影は足元から麦畑の反対側まで伸びていた。
麦を刈り終えた。彼女は腰を伸ばし、手の甲で額の汗を一度拭い、最後の一束を抱え上げて、畦道へ歩いていく。
冷たい感触が背中に当たった。
彼女は振り返らない。
体は振り返らない。
だがユーナの意識は背骨を伝って上へ広がり、この体の知覚を通して、その冷たさの出どころを探す。
背中の中央より少し左、肩甲骨の下。そこに小さな皮膚の一角が、冷たい金属の何かに貼り付けられていた。
その接触面の形から判断するなら、刃だ。
剣の刃か、刀の切先か。金属の温度が薄い麻のシャツ越しに皮膚に伝わり、鳥肌が一層立った。
「おとなしくついてこい。抵抗するな!」
声は背後の方から来た。男の声で、若い。だが、その語調には若者が持つべき衝動も緊張もない。
その言い方は、同じことばをもう何度も何度も口にしてきた者のそれだった。相手を説得するためではない。ただ手順を終わらせるために言っている。
ユーナは振り返りたかった。だが、体を向けられない。
この体は前へ歩き始めた。恐怖や服従からではない。刃が背中に当てられたあと、畦道の左側から飛び出してきた兵士が、槍の柄で膝の裏を思い切り打ったからだ。
脚の力が抜け、体が二歩よろめき、そして後ろの者に押されて歩かされ続ける。
彼女は視線を前方へ送った。
遠くないところに村がある。規模は小さく、二十から三十戸ほど。
家々は一本の街道に沿って二列に並び、壁は日干しレンガ、屋根は茅で葺かれていた。
何軒かの屋根の上には炊事の煙が上がっている。煙は夕暮れに淡い金色へ染まり、麦の穂の色に近かった。
彼女は押されるまま、村の中央の広場へ入っていく。
そこにはもう二十人あまりが追い立てられて集められていた。
大半は彼女と同じ年配者だ。髪に白が混じった老人たち。背中を丸め、膝を曲げ、立つときには両足が肩幅より広く開き、重心は踵に落ちている。長年腰を曲げて畑を耕してきた者にしか身につかない立ち方だった。
彼らは頭を垂れ、足元の土を見ている。
若者は一人もいない。
人々のなかで、誰かが小さく何かを唱えていた。
ユーナにはことばが聞き取れない。だが唇の開閉の速さから、繰り返される短い句だとわかる。
罵りではない。慟哭でもない。極度の恐怖のなかで人が繰り返し呟く、自分を慰めるための呪文だ。内容はおそらく「何も起こらない」「麦を刈り終えれば済む」「食糧を取れば彼らは帰る」といったもの。
彼女が憑いているこの女は、広場の人々のなかに立ってから、いっさい声を発しなかった。
視線が広場を囲む家々を一つずつ追っていく。
扉はどれも開け放たれ、何枚かは蝶番から外されて地面へ投げ捨てられ、そこに靴底の泥の跡がついている。
木の柵は倒れ、鶏籠は逆さまになり、羽根がまだ竹ひごに貼りついたまま、風に震えていた。
日はすぐに暮れた。
夜に入ると、広場の周りの家はすべて暗くなり、斜め向かい、五十歩ほど離れた一軒だけが灯りを点していた。
光源は窓から漏れている。色は黄色に寄り、暖かみがある。蝋燭か油皿だ。火の底がとても安定しているところを見ると、その家は厚い壁と瓦で、窓からの通気が少ないのだろう。
中に人がいる。
一人や二人ではない。大勢だ。
窓をときおり横切る影から、いくつもの人の輪郭が見て取れる。背の高い者も低い者もいるが、どれも若い体つきで、背中を丸めた者はいない。
一つの声が、彼女の意識のなかで響いた。
「あれが私の娘のイスーよ。彼女と、同じ村の娘たちが全員いるところ」
ユーナは弾かれるように視線を引いた。
振り返ろうとした。声の出どころを探そうとした。だが、この体は。いや。
この声は、外から入ってきたものではない。
意識の内側から直接響いてくる。頭のなかに小さな鈴が一つ取り付けられたように。
声の主は女だった。声は軽く、ゆっくりしている。火の前で一日を過ごした喉が、夜になってようやく声を押し殺すときの、あの話し方だ。
彼女の胸が、ぎくりと一跳ねした。
だが、考えをまとめる前に、その声はまた来た。
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