330. 老練の親方を殴り倒す
剣身が姿を現した瞬間、沸き立つ黒い霧が刀身の峰の両側から溢れ出した。
背後で新しい音がした。
私は首を巡らせて一度だけ目をやった。
あの二頭の馬の後肢の傷口から、黒晶人の体とまったく同じ黒い結晶が生え始めていた。
結晶は裂けた皮膚の縁から外へ広がっていく。氷の上に水が広がるように、剥き出しの筋肉と筋膜を覆い、そして数息のうちに後肢の形を組み直した。
新しく生えた肢節は、元の馬の脚より倍近く太く、関節の数も一つ多くなっている。蹄は鋭い角錐に置き換えられ、一歩ごとに土の上へ規則正しい菱形のくぼみを残した。
その目は完全に結晶化していた。眼窩のなかの眼球は、二つの不透明な黒い多面体になっている。
魔化が完了した。
私は左手からさらに多くの魔力を剣の柄へ流し込んだ。
黒い霧が刀身の上で一度縮み、そして弾けた。二十名の鉄甲聖騎兵が霧のなかから姿を現し、私の前に二列の楔形陣を組む。
鎧の隙間からは刀身と同じ黒い霧が溢れ、馬が蹄を踏むとき、蹄鉄には火花がなく、霧だけがあった。
先頭の騎兵が鞍の側面の吊り環から大槌を外す。槌頭が宙に小さな弧を描き、すでに突っ込んできた魔化馬へ向けて振り下ろされた。
槌頭は馬の脊椎の位置に落ちる。
鈍い音が一つ。ひどく重い音で、湿った木の塊を凍てついた土に打ち込む音に似ていた。
魔化馬の後脚は衝撃に耐えきれず、膝関節が外へ折れる。だがすぐに、新しく生えた結晶がそれを受け止めた。
騎兵は立て直す隙を与えなかった。二度目の槌が同じ位置に落ちる。
馬の頭が砕けた。結晶の砕ける音は鈍くない。鋭い。ガラス片の山を高いところから大理石の床へぶちまけたような音だった。
馬体は頭を失ったあともしばらく立ったままで、顔を奪われたまま内側から外へ崩れ、細かい黒い粉末になって、海風に散った。
もう一頭の魔化馬は、鉄甲聖騎兵の防線に達する前に、二番目の騎兵に側面から止められた。
槌頭が前脚に落ち、関節の結晶が力を受けた一瞬に、横へ走る裂け目が走る。
馬体が横倒しになり、腹を天に向け、四本の脚が宙を二度蹴った。そして三度目の槌が落ちて、終わった。
黒晶人はそれに何の反応も示さない。
砕かれて粉になった魔化馬を見下ろすこともしないし、突進の向きを変えることもしない。あの二頭は、初めから存在していなかったかのように思えた。
そのまま、まっすぐ私に突っ込んでくる。
最初の騎兵がその進路に立ちはだかり、大槌を振り上げ、頭部へ落とした。
黒晶人は左手を上げ、逆手で槌頭の角を掴んだ。
衝撃音が、人影の消えた村の廃墟に一度だけ跳ね返り、遠くの枯れ木に止まっていたカラスを飛び立たせた。
足は止められた。
だが、右手はまだ動いていた。
少し離れた村の廃墟から、崩れた家の壁と横倒しになった荷車の陰から、さらに多くの影がゆっくりと歩み出てくる。
彼らの体は黒晶人と同じく黒い結晶でできているが、手足の比率には人の形が残っている。歩調のリズムも同じだった。左足が地を踏み、右足が続く。一歩ごとの間隔はほぼ等しい。
彼らはハーランド帝国軍の制式の甲冑を身につけている。体が結晶化したぶん、札板は少し押し広げられ、鎖帷子の鉄の輪には乾いた泥が数粒ぶら下がっていた。
彼らはかつて、ハーランドの兵士だった。
そして今は、殺されたあとに姿を変えられた魔物だ。あの二頭の馬と同じ。
ユーナはもう私の右側、二歩の位置に立っている。
その戦闘姿勢は、戦いが始まる前からできあがっていた。膝をわずかに曲げ、重心は後ろ脚へ。前足の裏で地面を掴み、いつでも蹴り出せる。
左手が収納の腕輪から火元素の長剣を引き抜く。鞘を出た瞬間、刀身はそこに纏わりついた炎で暗い赤色に焼かれた。
右手は散弾銃の握把を握り、親指が安全装置を押し開ける。銃床は肩の付け根に押し当てられた。
足元の乾いた土の塊を踏み砕くと、草の葉が踵の横で小さな砂埃を巻き上げる。
御者は私の左側に立っていた。
腰から二本の匕首を抜く。刃渡りはおよそ手のひら一つ分、刃先は外を向いている。
握りは逆手。刃は拳の底ではなく、親指と人差し指の間から突き出している。近接格闘用の握りで、腕を振るときに肘の関節で刃先を走らせ、相手の急所にU字型の傷を開けることができる。
呼吸のリズムはもう落ち着いている。膝をわずかに曲げ、爪先は前へ。体全体は低く伏せられていた。
私は一騎の鉄甲聖騎兵の肩に足をかけた。
長いスカートの裾は、腰を下ろすときに手で押さえ、太ももの下へ敷く。
私は自分のその手を一度見た。いつから、こんなことを気にするようになったのか。
その新しい癖にため息を一つ落とし、私はグリンマンランク帝国の剣を右肩に凭れさせ、左手で収納の腕輪からウィンチェスターM1897型散弾銃を引き抜く。
銃床を右の肩の付け根に当て、左手で前床を握り、右手で剣の柄を握る。
刀身の黒い霧が腕を伝って這い上がり、肩で半周してから散った。
私は刃を振り下ろし、前方を指した。
騎兵の陣形が楔形から横隊へ開き、蹄が地面に残った藁を踏み砕き、あの結晶化した兵たちへの最初の突撃をかける。
私が乗る騎兵は側面から食い込み、背後のもう一騎とで交差する角度を作る。
私は三メートルほどの位置から、最初の結晶兵へ剣を振り下ろした。
刃が彼の首の側面を切る。結晶を叩いた感触が柄から親指の付け根へ抜け、そして止まった。切ったのではなく、砕いたのだ。
爪の先ほどの破片が数枚、彼の首から崩れ落ち、乾いた音を立てて地面に散る。
彼が私の方へ顔を向ける。眉間がちょうど私の剣先の正面に来た。
剣先は彼の眉間の位置に、白い引っかき傷を一つ残す。
それでも彼は止まらない。
私は剣撃のあと、間を置かずに左手で散弾銃の引き金を支え、その衝撃を借りて大きく後ろへ腰を落とした。
鉛弾が彼の胸に当たった瞬間、黒い結晶がとても脆い砕け方をした。防護を撃ち抜かれたのではなく、胸腔全体の結晶が同時に砕けた音だった。
彼は、真ん中を蹴られて倒れた石膏像のように、胸から内側へ崩れる。崩れは肩へ広がり、腰へ届いた。
倒れたときにはもう体の形をなしていなかった。胸の上に残った破片は、土に触れた瞬間に細かい黒い粉末になり、海風に散る。
黒晶人は、ユーナの手にある黒く光る鉄の筒に気づいたあと、上体を後ろへ大きく反らせた。
それまでユーナの突進方向へ向けて踏み出していた姿勢が消える。
左足が一度後ろへ下がり、右足がまた半歩下がった。結晶の足裏が土の上に、深さの違う菱形のくぼみを二つ残す。
ユーナが一歩詰めれば、黒晶人は横へ一歩ずれる。二人の距離は常に三メートル以上に保たれた。左手は体の横に垂れ、右手の指先では結晶の稜が絶えず開閉し、細かい音を立てて触れ合っている。
ユーナは銃床を肩の付け根から半寸緩めた。
「魔物でも、怖いと思うのね?」
声は大きくない。だが静かな戦場では、黒晶人のところまで届くには十分だった。
話しながらも足は止まらない。二歩、前へ詰める。
黒晶人は四歩下がった。
ユーナは足を止め、散弾銃を右手から左手へ持ち替え、右手首を一度振る。
後退し続ける黒晶人を見て、口の端を少し下げた。
前世でエイとしての記憶が少しずつ完全に戻り始めてから、彼女の性格はそれまでの沈んだものから、どんどん活発になっていった。喧嘩でも、前に出て組み付きたがる。
相手がずっと避けているのが面白くない。
彼女は銃口を上げた。
銃床が肩の付け根に戻り、頬が銃床の木の側面に触れる。照星は黒晶人の左の太ももの付け根の関節の隙間を捉えた。
人差し指は引き金にかかる。だがすぐには引かない。黒晶人が右へ一歩ずれる、その瞬間を待った。
彼女は引き金を引く。
銃口が火花の塊を吐き出し、数十粒の鉛玉が円錐状に広がって飛んだ。
大半の鉛玉は黒晶人の体をかすめて過ぎ、すぐ傍の枯れ木の幹に当たる。樹皮が手のひらほどの破片になって数枚剥がれた。
だが最も密集した数粒は、太ももの関節の隙間を正確に捉え、その薄い結晶の接合面を撃ち抜いた。
黒晶人の左脚が膝の上で二つに折れる。断面は滑らかで、切り出した黒曜石のようだった。
重心が左脚の断たれた分だけ左前へ傾き、右膝が地につき、上体が前へと揺れる。
ユーナは立て直す時間を与えない。
風魔法が足の裏で圧縮された気旋を炸裂させ、その推力で彼女の体が前に飛ぶ。
三歩の距離が一歩半に縮む。黒晶人から漂う乾いた鉱物の匂いがわかる。太陽に長く炙られた石板のような匂いだ。
彼女は黒晶人の手前およそ一メートルの位置で止まり、銃口をその胸の結晶の面へ押し当てる。
銃口と結晶の接触面が、金属と石が擦れる鋭い音を立てた。
彼女は引き金を引く。
今度はすべての鉛玉が黒晶人の胸腔に撃ち込まれた。
結晶は接触面で一度沈み、そして砕ける。砕けが広がり、胸に拳ほどの穴が穿たれた。
穴の縁の破片はまだ落ち続け、その奥に、空洞の暗い胸腔が覗く。
黒晶人は上体ごと衝撃で後ろへ押され、右足が地を引きずって浅い溝を一本引いた。
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