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327. 国王を生け捕る

 背後の扉が閉まり、錠の舌が枠にはまる音がした。


 伝統的な木の掛け金ではない。


 もっと乾いた、金属が噛み合う音だった。


 彼は手をテーブルに置き、指先を冷たい金属の表面に当てて、船体の下から伝わってくる絶え間ない低い震えを感じていた。


 蒸気機関が働いている。


 燃焼室が船体の奥のどこかで燃料を消費し続け、熱を力に変え、この巨大な機械を海の上で進ませている。


 彼は卓上を見つめた。


 甲板で見た光景が、頭のなかに残り続けていた。


 紙に墨をこぼしたときのように、繊維の奥まで染み込んで、こすっても完全には落ちない。


 彼らの体、彼らの痛み、彼らが失った手足と視線。


 それが戦争の結果であることは分かっている。


 彼は戦争の結果を受け入れる。


 だが、この戦争を引き起こした理由を認めない。


 アルジャーノン・ランカスターはヴェセラン城ヴェセランじょうの宮殿に座り、前に地図を広げ、手に酒杯を握り、気高き憤りと祖先の領土を取り戻すという大義によって、この遠征に火をつけた。


 宮廷の文官たちは王の両脇に立ち、金の縁取りをした長袍を着て、欲望を言葉で飾り、忠誠で私心を覆い隠した。


 甲板に立った者はひとりもいない。


 割れた船殻のなかに閉じ込められ、足元から海水を選ばず這い上がってくるのを見た者も、ひとりもいない。


 扉が再び開く音が、彼の思考を断ち切った。


 ライオネルは顔を上げた。


 二つの人影が入り口から入ってきた。


 先に立っていたのは金髪の女性で、濃い藍色の軍服を着て、肩には大将の階級章がついていた。


 後ろにもう一人の女性。


 白金の長い髪が灯りの下で淡い光を帯び、肩には准将の階級章があった。


 その体つきはまだ十分に成長しきっていなかったが、足取りに迷いはなく、視線は室内の人々と物を穏やかに掃き、そして自分の位置に立った。


 ライオネルは立ち上がった。


 それは屈服ではない。


 戦没者への敬意だ。


 海の底へ沈んだ兵たちに、せめてものけじめを与えられる者が、いま彼の前に立っている。


「初めまして」


 彼の声は、自分が思っていたより落ち着いていた。


 彼は一度咳払いをした。


「敗将ライオネル・オブライエンです。こちらは私の従弟、ユージン・フィッシャー。我々はそれぞれ、インゲリア諸島国の王家海軍と王家陸軍に所属しております」


 彼は話しているあいだ、顔を伏せなかった。


 金髪の女性の目をまっすぐ見つめ、彼女が自分の名を口にするのを待った。


 金髪の女性はうなずき、そして両手を組んでテーブルに置いた。


「ライオネル将軍がそのように率直でいてくださるなら、こちらも隠し立てはしまい。私はエリクソン公国夫人、ヘレナ・フォン・ヘリスト。こちらは私の娘で、エリクソン公国の継承者、クローディア・フォン・エリクソンだ」


 ライオネルの視線が、テーブルの角の反対側に座った若い女性に移った。


 クローディア。


 その名は聞いたことがあった。


 エリクソン公爵の一人娘で、領内の多くの新政策を押し進めている人物だ。


 その顔立ちは実年齢よりさらに幼く見えたが、彼と視線が触れ合ったとき、その目は泳がず、また瞬きもしなかった。


 その視線はそこに据えられたまま、彼が向けた注視を静かに受け止め、それから軽く一度うなずいた。


 礼ではない。


 ただの応答だった。彼が見つめていることを認識し、それを返したことを示すものだった。


 そのうなずきはとても小さく、ほとんど分からないほどだった。


 だが彼には見えた。


 ヘレナの微笑みは、速やかに消えた。


 誰かが彼女の前で一枚の簾を下ろしたかのようで、顔の温度が一瞬で何度も下がった。


「それなら」


「はっきり言おう。なぜ我々を襲った?」


 ライオネルは迷わなかった。


 この問いで時間を稼いだり、言葉を濁したりしても意味はないと分かっていた。


 どの船にも書記官がおり、航海日誌があり、上官から下された文書の命令がある。


 知らないとか、命じられただけだとか言ってごまかせば、残っているわずかな体面まで捨てることになる。


「我々はアルジャーノン・ランカスター王の命令に従い、貴国の艦隊を阻止すべく参りました」


 それだけ言うと、彼は付け加えなかった。


 戦術目標や戦略意図を説明する必要はない。


 そうした言葉は宮廷で王に向けて語るならふさわしい。


 だがここ、この鉄の船室で、たったいま自分の艦隊を海面から消し去った二人を前にしては、どんな修飾も余計だった。


 ヘレナは彼の言葉を聞き終えても、驚いた様子を見せなかった。


 ただうなずいた。


 彼女はその答えを知っていた。


 この問いを口にする前から、すでに知っていた。


「それなら」


 彼女はテーブルから両手を離し、縁を押して立ち上がった。


 ライオネルを見ようともせず、くるりと向き直って扉の方へ歩きだした。


「そのじじいと、ゆっくり話をつけてくる」


 足取りは速く、鋼の甲板を踏むブーツの音は均整が取れて迷いがなく、そして廊下の向こうへ消えた。


 彼女の声が消えたあと、扉が軽からず重からずといった具合に、金属の音を立てて閉まった。


 クローディアだけがその場に残った。


 彼女も立ち上がったが、扉の前で足を止めた。


 少し首を傾げ、何かを思い出したようだった。


 視線がライオネルとユージンのあいだを一度掃き、それから彼女は部屋を出ていった。


 扉が閉まった。


 その扉が閉まってから五秒ほど経ったころ、椅子に座っていたユージン・フィッシャーが、夢から覚めた者のような声でひとこと言った。


「兄さん、俺、恋をしたみたいです」


 ライオネルは首を巡らせ、従弟を見た。


「おいおい、どうしてそうなる」


 ユージンは彼を見ていなかった。


 ユージンの視線は、たったいま閉まった扉の方向に固定されたままだった。


 顔の表情は見えない光に縫い止められたかのようで、口元は笑みと呆けのあいだの角度で宙吊りになっていた。


「兄さん、さっきのクローディア様を見ませんでしたか。すごく可愛くて、好きになっちゃいました」


 ライオネルはしばし黙った。


「……正気に戻れ。さっきの砲撃で、お前の頭は吹き飛んだんじゃないのか」


 だがユージン・フィッシャーは答えなかった。


 彼はあの扉を見つめる姿勢を保ったまま、その一瞬に凍りついたようだった。


 無畏号の艦橋上部。


 クローディアは羅針甲板(コンパスデッキ)の前縁に立ち、冷たい風をまともに受けていた。


 無畏号の艦首からおよそ四海里の先、クーパー港の輪郭が海霧のなかから細部まで姿を現していた。


 防波堤、桟橋、倉庫の屋根、そしてヴェセラン城の城壁の上に立ちのぼる煙。


 ヘレナが彼女の脇に立ち、手に真鍮の筒の単眼鏡を掲げていた。


「城壁の上で、誰かが走っている」


「見えている」


 彼女にも見えていた。


 胸壁に沿って動く黒い影が、風に乱された蟻のように、灰白色の城壁を背景に右往左往していた。


 艦隊は速力を落とし、九艘の装甲巡洋艦が無畏号の両側に散って、それぞれ砲撃の陣地を占めた。


 クーパー港の海岸線で、すでに位置を割り出されていた防御用のバリスタが、素早く正確に一基ずつ始末されていった。


 砲火が光るたび、一つの物見櫓が爆発のなかで解体された。


 ヴェセラン城の城門は、三巡目の斉射で内側へ崩れ落ちた。


 鉄板を張った厚い木の扉が蝶番のあたりからちぎれ、両側へ開いた。


 巨人が正面から突き破った門のようだった。


 エリクソン海兵隊が破口からなだれ込んだ。


 クローディアは主力部隊に続いて中央大通りを進んだ。


 足元には砕石と灰土があった。


 両側の家々はおおむね戸と窓を固く閉ざしており、ときおり窓の隙間から目が一つ覗き、そして素早く簾の裏へ消えた。


 彼女の手には剣があった。


 切っ先は下へ向けられていたが、実際に使われることはなかった。


 あるいは、使う必要がなかった。


 進撃の途中で、まとまった抵抗に遭うことはほとんどなかった。


 国王の親衛隊は城壁が崩れた時点で混乱に陥っており、いまは城内あちこちの交差点に散発的に立っているだけで、手にした武器が誰に向けられているのかも定かではなかった。


 ヴェセラン城の王宮の大門が、破城槌に突き破られた。


 クローディアが敷居をまたいだとき、足元には木の扉が砕けて散った破片と金属の飾り金具があった。


 廊下の両側の壁掛けの灯りがまだ燃えており、通り風に揺れて、壁に映る彼女の影を長く引き伸ばしていた。


 三つ目のアーチをくぐったとき、彼女は奥の影を見た。


 アルジャーノン・ランカスターが、大広間の奥、背の高い椅子の脇に立っていた。


 王冠はまだ頭にあったが、少し傾いていた。


 彼は金の縁取りのある深い赤の長袍を着て、片手を椅子の背もたれに置き、もう一方の手に羊皮紙の巻物を握りしめていた。


 その扉から裏口へ向かおうとしている最中のように見えたが、足が止まった。


 逃げるつもりがないからではない。


 内庭へ通じる廊下の方からも、扉を破る音が聞こえてきたからだ。


 ヘレナは大広間の入口に立っていた。


 彼女の剣は腰の鞘に収まったまま、抜かれていなかった。


 アルジャーノンの手が、椅子の背もたれから離れた。


 彼の背後の側扉が外から突き破られ、二人のエリクソン海兵隊員が廊下へなだれ込み、彼の最後の中庭への道を塞いだ。


 クローディアは大広間の入口のもう一方の側に立ち、このインゲリアの王が、羊皮紙を握った手をゆっくりと下ろしていくのを見ていた。


 大広間の高い窓から差し込む光が彼の横顔を照らした。


 彼女は見た。


 彼の唇がわずかに開き、閉じ、結局何も言わなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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