317. エリクソンへ帰る、そして領土拡大計画
ホテルをチェックアウトするとき、フロントの娘は三枚のカードキーをカウンターの下の引き出しにしまい、「またのお越しをお待ちしております」と微笑んだ。
私はうなずき、彼女が差し出した領収書を受け取り、折ってポケットにしまった。
ホテルの門を出ると、外の陽射しはとても良く、空気には遠くの雪山からの冷たさが少し混ざっていたが、もう首をすくめるような寒さではなかった。
タクシーは環状道路を空港の方へ走った。
窓の外の建物は、白族様式の仿古の町並みから、現代的な平らな屋根のビルへと次第に移り変わり、道端の街路樹も銀杏からガジュマルへと変わり、樹冠が正午の光の下で大きな濃い緑の影を落としていた。
ユーナは窓際に座り、額を車窓のガラスに当て、目を閉じていた。
昨晩、彼女は荷物を整理するとき、あのターコイズを嵌めた銀の腕輪をバッグから取り出してはめ直した。
今、その腕輪は陽の光の中で光を返し、車体のわずかな揺れに合わせて彼女の手首の上で位置を変えていた。
私はポケットからスマホを取り出し、時間を一目見た。
搭乗まであと一時間半。十分だ。
飛行機は雪月城を離陸し、途中一箇所で経由停車し、最後に木綿城の空港に降り立ったときにはもう午後だった。
到着ロビーを出ると、遠くから洪おじさんが見えた。
彼は迎えの口の柵のそばに立ち、灰青色のジャケットを着、手に黒い手提げ鞄を一つ提げていた。
彼は私たちが来たときよりいくぶん元気そうに見えた。
顔色はあれほど灰色ではなくなり、立ち姿も少し伸びていた。
だが彼の手はまだ柵に掴まっていて、指の節がわずかに白くなっていた。
体重の一部をあの金属の棒に分けてもらう必要があるかのように。
ジンさんが彼の隣に立ち、地味な花柄のシャツを着、髪はきちんと整えていた。
彼女は私たちが出来てくるのを見ると、まずこちらへ手を振り、それから顔を横に向け、低い声で洪おじさんに何かを言った。
洪おじさんはうなずき、同じく手を上げて、こちらへ軽く振った。
私は二人の前まで歩き、スーツケースの引き手を縮めて、立ち止まった。
「洪おじさん、ジンさん」
洪おじさんは私を見て、上から下までぐるりと眺め、それから笑った。
その笑みは、彼の話す声と同じで、歳月に磨かれたような穏やかさがあった。
「楽しかったか?」
「楽しかった」と私は言った。
彼はうなずき、それ以上は追及しなかった。
それから彼は向きを変え、背後にあるあの扉に目を向けた。
あの扉はごく普通だった。
空港の到着ロビーから駐車場へ通じる、あのガラス戸だ。
アルミの枠に透明のガラス、扉には「押」の字の赤いシールが貼られていた。
彼は数秒それを見つめ、それからゆっくりと息を吐いた。
「まさか、こんな形でこの世界を離れる日が来るとはな」
彼の言葉が終わらないうちに、ジンさんの手が彼の背中を叩いていた。
力は強くなかったが、音はとてもはっきりとしていて、「パン」という音が到着ロビーの喧騒のなかでもはっきり聞き分けられた。
「言い方ってもんがあるでしょ。知らない人が聞いたら、死にでも行くのかと思うじゃない」
洪おじさんはその一撃で前に半歩よろめき、振り返ったとき、顔にはどこか気まずそうな笑みが浮かんでいた。
彼は後ろ頭を掻き、反論はせず、ただ私に視線を向けた。
私はその場に立ち、彼の視線を受け止め、逸らさなかった。
彼の秘密。
私が知っているあの秘密。
それが今、私たち二人のあいだに横たわっている。
まるで透明な壁のように。
周りの人には見えないが、私達にはそれがそこにあると分かっていた。
母も知っていた。
彼女は私の斜め後ろに立ち、空港で買った土産の茶葉の袋を手に、視線を洪おじさんの上から流し、また外し、口を挟まなかった。
「行こう」と私は言った。
「まずは帰ってからだ」
転送陣は、洪おじさんとジンさんが借りている家の居間に設けられていた。
家具には防塵カバーが掛けられ、ソファも、テレビ台も、サイドテーブルも、みな灰色のビニールの下に覆われ、居間の灯りの下で艶消しの光を帯びていた。
壁際にスーツケースが二つ積まれ、ファスナーはぴったりと閉められ、取っ手はガムテープで何重にも巻かれていた。
台所のシンクは拭き上げられ、調理台にはコップが数個伏せて置かれ、傍らのゴミ箱には新しい黒いゴミ袋が一つかけられ、中は空だった。
洪おじさんは居間の真ん中に立ち、あたりをぐるりと見回した。
彼の視線はソファからテレビ台へ、テレビ台からベランダのあのしおれた植木へ移り、最後に戻って、床の上に落ちた。
「行こう」と彼は言った。
声は大きくなく、抑揚もなかった。
私はうなずき、ポケットから転送水晶を一枚取り出して手に握り、目を閉じて魔力の誘導を始めた。
転送陣の光が足元から灯った。
まず淡い青の線が床に円形の輪郭を描き、それから次第に明るくなり、一枚の光の膜が床から立ち上がって、私たち全員の体を包み込むようだった。
光が消えたとき、私たちはエリクソン公爵邸の客室の前に立っていた。
廊下の空気には、かすかな木とラベンダーの混ざった匂いが漂っていた。
窓の外はエリクソンの空。
夕方で、雲は低く、均一な灰色に押し固められ、陽の光をすっかり遮っていた。
廊下の突き当たりの窓が半開きになっていて、外から風が吹き込み、雨上がりの土の匂いを運んできた。
ジンさんは廊下の真ん中に立ち、あたりをぐるりと見回し、それから手を伸ばして、傍らの壁に掛かった風景画に触れた。
額は木製で、表面には木そのものの目が触れて分かった。
彼女の指は額の縁に沿ってゆっくりと滑っていった。
触覚で、この壁が、この絵が、この建物全体が、すべて本物であることを確かめるかのように。
彼女は何も言わなかったが、唾を飲み込むのが見えた。
私が洪おじさんとジンさんを先にエリクソンへ連れてきて落ち着かせようとしたのは、私たちがもう一度地球へ戻らねばならないからだ。
私たちの旅券は花の国のものだ。
紅龍国へ入るには最新のビザ免除の入国政策に頼ったが、もし再び紅龍国へ入るなら、花の国から出発しなければならない。
さもなければ不法滞在になってしまう。
この手続き上の制約が、往復のたびに一工程の手間を加えていたが、今のところはこれが最も安定した通り道だった。
いずれエリクソンがもう一つの世界での勢力をより盤石なものにしたなら、地球とのあいだの直接の貿易路を開くかもしれない。
転送陣による密輸のような往復ではなく、本当に安定した物資流通の仕組みを築くのだ。
収納の腕輪の中の空間水晶は、地球では必ず需要がある。
持ち主に魔力を与える魔晶石もそうだ。
この二つの品目だけで、二つの世界のあいだの貿易黒字を支えるには十分だが、それはもっと後の話だ。
今すべきは、人を落ち着かせること。
客室はすでに前もって片づけられていた。
シーツは新しく替えられ、白い木綿の布団はきちんと畳まれ、枕の上にはふっくらした枕が二つ置かれていた。
窓台には緑の植木が一つ置かれ、葉の大きさは均一で、縁に枯れもなく、水をやったのは数日前という様子だった。
ベッドサイドテーブルには水差しが一つと、伏せたガラスのコップが二つ置かれていた。
ジンさんは客室の中を一周し、クローゼットを開けて一目見、また閉じた。
彼女は窓辺へ歩き、カーテンを少し開けて、外をしばらく眺めた。
窓の外は公爵邸の裏庭で、果樹が数本植えられ、樹冠が夕方の光のなかで濃い緑の影絵になっていた。
「いい部屋だね」と彼女は言った。
洪おじさんはベッドの脇に腰を下ろし、手でマットレスを押して、その弾力を確かめるとうなずいた。
それからあの黒い手提げ鞄をベッドサイドテーブルの脇に置き、ファスナーを開け、中身を一つずつ外へ出し始めた。
畳まれたシャツ、電気シェーバー、そして彼とジンさんのツーショットの写真を入れた額縁。
彼の動作はとてもゆっくりで、長く入院していた人特有の細やかさがあった。
一つ一つの動きが考え抜かれ、無駄な力が使われていなかった。
私は入り口に立ち、彼が額縁をベッドサイドテーブルに置き、角度を調整し、手を戻すのを見ていた。
それを済ませると、彼はベッドの縁にしばらく座り、それから顔を上げて、私を見た。
「お前、まだ用事があるんだろ?」
私は口を開きかけた。
何か言いたかった。
彼の体調のこと、私だけが知っているあの秘密のこと、ユーナのこと。
だがそれらの言葉は口の中で一回りし、また飲み込まれた。
「うん」私は言った。
「先に書類を片づけてくる。あなたたちは先に休んで。明日、人を付けて屋敷の中を案内させるから、環境に慣れて」
洪おじさんはうなずき、それ以上は訊かなかった。
私は客室から出て、そっと扉を閉めた。
廊下はとても静かで、遠くから台所の方のかすかな皿の触れ合う音が聞こえた。
おそらく使用人が夕食の支度をしているのだろう。
私は閉まった扉の外に立ち、しばらくそのままだった。
それから向きを変え、自分の部屋へ歩いた。
扉を押し開けると、ユーナはもういた。
彼女はベッドの縁に座り、うつむいて手首の銀の腕輪の留め金を外しているところだった。
扉の音を聞いて、彼女は顔を上げて私を一目見、それから視線をまた腕輪へ戻した。
「やっと地球から帰ってきたね」と彼女は言った。
彼女の声には、少しほっとしたような響きがあった。
私は上着を脱いでハンガー掛けに掛け、机の前へ行って座った。
机の上には書類が一束積まれ、きちんと重ねて置かれ、一つひとつが細い紐で縛られ、表紙には手書きのラベルが貼られていた。
日付、分類、処理状況。
一画一画がとても丁寧に書かれていた。
書類の山の高さは目算でおよそ二十センチ。
一番上の表紙のラベルには「ハーランド帝国 北境区域の内部状況概要」と書かれていた。
私はその書類の束を横へ少しずらし、机の上に小さく空きを作った。
その動作をしたとき、一番下の書類が一冊、束の隙間から滑り出て、床に落ちた。
「パサッ」という音がして、封口には赤い封蝋が押されていた。
私は腰をかがめてそれを拾い上げた。
封蝋の封は無傷で、開けられた痕跡はなく、表面にはエリクソン公爵家の紋章が押されていた。
私は封蝋をこじ開け、中から便箋を抜き出し、広げて読み始めた。
便箋の冒頭は標準的な報告の書式で、差出人は父の部下の情報官の一人だった。
本文には、ハーランド帝国内部のここ一ヶ月の主な動向が記されていた。
北境の状況は、私が思っていたより乱れていた。
手紙によると、北方の沿岸地域の税率は三度の引き上げを経て、すでに昨年同時期の1.7倍に達していた。
小さな土地を持つ多くの自作農が、地税と人頭税の二重の圧力の下で、土地を捨てて逃亡していた。
一部の者は都市へ流れ込み、貧民街の新しい住人になった。
もう一部の者は、もっと直接的な逃げ道を選んだ。
海賊だ。
北境の海岸線は長く、島も多く、昔から私掠活動の温床だった。
今は帝国の税制に後押しされて、海賊の数はわずか数ヶ月で倍になった。
商船が襲われたとの報告は月に十数件のペースで増え、被害の範囲はハーランド近海から隣接する海域まで広がっていた。
数日前、南方商会に属する貨物船が一つ、海峡付近で消息を絶った。
船には絹と香料が積まれ、今も行方が分からない。
私は便箋を机の上に置き、指でその縁を軽く叩いた。
北境。
監視は手薄、税収は制御不能、海賊は横行。
これはまさに、私たちが入り込む好機だ。
大規模な出兵も、正面からの衝突もいらない。
海賊の討伐を名目に、沿岸に一つの拠点を築く。
軍事拠点であり、同時に行政の支点でもある。
そこから徐々に内陸へ影響力を伸ばしていく。
ハーランド帝国は今、自国のことだけで手一杯で、この周辺の沿岸地域を管理する余剰の兵力はない。
彼らの内戦が終わる頃には、私たちはもうあそこに足場を固めている。
私は椅子から立ち上がった。
着替えもせず、あの書類の束を積み直すこともせず、そのまま扉を押し開け、廊下を抜けて、父の書斎の灯りの方へ歩いていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




