316. 登山を諦める
アイゼンは十二本歯のカチッと嵌めるタイプで、前歯はわずかに上へ弧を描き、雪の反射光の中で艶消しの銀色に光っていた。
私はそれを雪面に平らに置き、登山靴の両側の金具を外し、アイゼンを靴底の前足部に合わせて奥まで押し込み、それから押さえ金具を倒した。
一足目。
私は手を伸ばしてアイゼンの縁を引っ張り、靴底の溝にしっかり食い込んだことを確かめ、それから二足目を履き始めた。
ユーナは私の右側の岩壁に寄りかかり、自分のアイゼンのベルトを調整しているところだった。
彼女の指はベルトを締めるとき、一度止まった。
手袋が厚すぎて、指先の感覚が鈍いのかも。
彼女はうつむいてそのベルトをほどき直し、また締め、それから強く引っ張って、緩まないことを確かめてから顔を上げた。
「できた」
私はピッケルをリュックのサイドポケットから抜いた。
穂先は鋼製で、風の中で触れると冷たかった。
私は手首に腕の輪を巻き付けて締め、それから柄を握って宙で一度素振りした。
穂先が空気を切り、わずかな風切り音を立てて雪面に落ち、二本指ほど刺さり、くぐもった音を立てた。
母はもうアイゼンを履き終えて、数歩離れたところに立っていた。
彼女は私たちより早く、今は風に背を向け、上の方で雪の斜面から急な壁へ変わる境目を見上げていた。
彼女のピッケルは手に握られておらず、リュックの固定ベルトに横に掛けられ、穂先を後ろへ向け、柄の端が風の中で軽く揺れていた。
ここから最初の中間休憩地点まで、高低差はおよそ三百メートル。
だが地形はもう、さっきのような連続した緩い雪の斜面ではない。
五千メートルの位置から上へ向かうと、雪の斜面は角を曲がった先で急に狭まり、岩壁に挟まれた雪の谷になっていた。
幅はおよそ三、四メートルしかなく、両側の岩壁が二本の肋骨のようにこの通路を挟み、傾斜は四十度から五十度のあいだを行き来していた。
雪の谷の底には風で吹き寄せられた新雪が積もり、表面は平らに見えるが、下がどれほど深いのか、暗い裂け目があるのかは分からなかった。
私は一歩を踏み出した。
アイゼンの前歯が雪面に食い込み、鋭い「カッ」という音がした。
重心を左脚へ移し、それから右脚を持ち上げて、より高い位置へ踏み出した。
また「カッ」という音。
音は両側の岩壁のあいだで少し反響し、それから風に運び去られた。
風は雪の谷の中ではもっと直接的だった。
両側の岩壁による絞りの効果で、気流はこの狭い通路で加速され、真正面から絶え間なく流れ込んできた。
私は頭を少し低くし、帽子の縁に真正面の風を遮らせ、それからピッケルを振り上げ、穂先を上方の雪面に打ち込み、その力を借りて体を一段上へ引き上げた。
二十歩ほど進むごとに立ち止まり、何度か息を吐いて呼吸を整え、それから続けた。
ユーナの足音はずっと私の三メートルほど後ろにあった。
風が彼女のダウンジャケットの布地を細かく擦る音は、高いところの風の中でよく聞き分けられた。
彼女の呼吸の音はゴンドラにいたときよりいくぶん重くなっていたが、乱れてはいなかった。
「この道、さっきのより長く感じない?」彼女の声が風を抜けてきた。
少し息が混じっていたが、口調はほとんど日常の雑談のようだった。
「なだらかな坂じゃなくなったからね」私は言った。
振り返らず、ピッケルを前に送り続け、次の足場を探した。
私は足を止め、ピッケルを雪に突き刺し、振り返った。
彼女は私より一段低い位置に立ち、頬が風に当たって少し赤くなっていたが、目は落ち着いていた。
「あと半分くらい」と私は言った。
「ほんと?」
私は正直に答えた。
「勘だけど」
彼女は短く笑い、それからまたうつむいて、ピッケルを雪から抜き、上へ歩いた。
私たちは十五分ほど登り続けた。
その十五分のあいだに、雪の谷は緩いカーブを一つ曲がった。
曲がった先で、左側の岩壁が内側へ一段せり出し、広い岩面がむき出しになっていた。
灰色で、表面には細かな風化のひびがびっしりと入り、揉みくちゃにされて広げられた紙のようだった。
岩面は薄い氷に覆われ、光のなかで鈍い光を返していた。
私は立ち止まり、指でその岩面を叩いた。
音はしっかりしていた。石は緩んでいないということだ。
「ここで休める」と私は言った。
私はピッケルを雪に突き刺して立たせ、それから片方の手袋を外し、手の甲で額に触れた。
額には薄く汗が滲み、風に吹かれてすぐに冷たくなった。
ユーナが私の隣で立ち止まった。
彼女は手袋を外さず、ピッケルを岩壁に立てかけ、両手を膝に突いて、うつむいて呼吸を整えた。
彼女の肩甲骨がダウンジャケットの下でわずかに上下し、その幅はいつもより大きかったが、辛いほどではなかった。
母が後ろから上がってきた。
彼女は休憩地点で止まらず、そのまま数歩進み、雪の谷が曲がる位置に立って上方を一目見てから、向きを変えて戻ってきた。
「あと百メートルほどで、傾斜がもう少し急になる。あの坂を越えれば、たぶん平らな場所に出るわ」彼女は言った。
私はうなずき、手袋をはめ直し、雪に突き刺すピッケルを握った。
「続けよう」と私は言った。
私は岩壁の風下の面から半身を乗り出し、ピッケルを振り上げ、穂先を上へ向け、頭上のあの灰白色の岩面へ打ち下ろした。
穂先が岩に触れた瞬間、私は違和感を覚えた。
音が違う。
あの実のある、澄んだ打撃音ではなく、くぐもった、空洞の音だった。
まるで、すでに緩んだ瓦を叩いたかのような。
続いて、穂先の下の岩の表面が崩れ、破片が岩壁を伝ってざあっと落ち、目の前の雪面に落ち、何度か跳ねて、止まった。
私はピッケルを握ったまま、宙に留めた手をしばらくそのままにした。
穂先は岩の表面に浅い白い筋を一つ残していた。
それ以外には、何もなかった。
私はピッケルを引いて、場所を変えて、もう一度試した。
今度はもっと力を込めた。
穂先が岩面へ食い込むとき、穂先が薄い表殻を突き抜けて、もっと柔らかく、もろい層へ入っていくのが感じられた。
それからその一帯が丸ごと崩れた。
手のひら大の岩の破片が、穂先の落ちたところから四方へ大きく広がっていった。
砕けたビスケットのように、がらがらと岩壁を滑り落ちていった。
私はピッケルを抜き、半歩後ろへ下がり、落ちてくる破片を避けた。
「駄目だ」と私は言った。
母は私の三メートルほど下に立ち、私がさっき試したあの岩壁を見上げていた。
彼女の視線は岩面の模様を一通りたどり、左側の裂け目から右側の風化帯へ、そして雪に落ちたあの砕けた石へと落ちた。
「左のあの線を試してみて」彼女は言った。
私は横へ移動し、左側で少しは無傷そうな岩脈を一本見つけた。
ピッケルを打ち込むと、音はさっきより良かった。少なくとも実があった。
私は重心を移し、ピッケルに体重の一部を預けようとした。
三分の一ほど移したところで、穂先の下からかすかな砕ける音がして、それから岩面全体が剥がれ落ちた。
私の体は剥がれ落ちる岩とともに少し下へ滑り、ブーツが岩面を何度かこすり、それから私はピッケルを放し、体を後ろへ倒した。
転送術が、体がバランスを失った瞬間に発動した。
私は休憩地点のあの岩壁の風下に立っていた。
足元の雪面には、出発前に私が踏んだブーツの跡がまだ残っていた。
母は石片を裏返して見、それから親指で石片の断面を押した。
「完全に風化してるわ」彼女は石片を脇へ放り、手についた粉を払った。
「表面は無傷に見えるけど、中はもう砕けてる。この一帯の山体は、ぜんぶ崩れてきてる」
私は岩壁に寄りかかり、ピッケルを目の前の雪に突き刺して立たせ、それから片方の手袋を外し、手の甲で額の角を拭った。
額には薄く汗が滲み、風に吹かれたあと、もう冷たくなっていた。
ユーナが後ろから上がってきた。
彼女は私の隣に立ち、何も言わなかった。
ピッケルを岩壁に立てかけ、それからしゃがみ込み、片方のアイゼンの金具を外した。
「ユーナ?」
彼女は顔を上げず、もう片方のアイゼンの金具も外し、アイゼンを靴底から取り外して手に提げた。
それからようやく顔を上げて、私を一目見た。
「もう登らない」と彼女は言った。
私は口を開きかけた。
何か言いたかった。
もう一度試そうとか、北面のあの壁は無傷に見えるとか、もうこんなに高いところまで来たんだから、諦めるのは惜しいとか。
だがそれらの言葉は頭の中で一回りし、口元まで来たところで、一つも出てこなかった。
彼女の言うことが正しいと、私には分かっていたから。
私はしばらく立ち、それから腰をかがめて自分のアイゼンも外した。
金具が外れるとき、鋭い金属音がした。
私はアイゼンを靴底から抜き、歯先に付いた細かな石くずを手袋で拭き、アイゼンをリュックのサイドポケットへしまった。
ファスナーを締めるとき、その噛み合う音が、静かな雪の谷の中でひときわはっきりと響いた。
母はピッケルをリュックの固定ベルトから外して手に握ったが、履き直そうという素振りはなかった。
彼女は私を一目見、ユーナを一目見、それからピッケルを腕に横たえ、静かに待っていた。
「転送でホテルへ戻ろう」と私は言った。
私は手を伸ばし、左手でユーナの手首を、右手で母の手首を握った。
魔力を核から腕に沿って外へ送るとき、それはいつもより滑らかに流れていく気がした。
魔力でさえ、もう節約する必要はないと分かっているかのように。
最後の転送術の光が、私たち三人を包み込んだ。
足元の感触は柔らかな雪面から、平らで硬い床へと変わった。
風の音が消えた。
空気にあの高所特有の冷たさと乾燥が、暖房と、柔軟剤と、木の家具の匂いに取って代わられた。
私は部屋の玄関に立ち、二人の手を離した。
リュックが肩から滑り落ち、玄関の床に落ちて、くぐもった音を立てた。
私はうつむいて自分のブーツを見た。
靴底にはまだ雪粒と細かな石くずが付いていて、床のタイルに小さな灰色の跡を残していた。
私はすぐには靴を脱がず、そこに立って、体をゆっくりと山の状態から引き戻していった。
ユーナが私の隣で上着を脱いだ。
彼女が上着をクローゼットに掛けるとき、ハンガーがポールの上を滑る音はとても軽かった。
それから彼女は歩いてきて、私の前に立ち、手を伸ばして私の上着のファスナーを一段下ろした。
「着替えよう」と彼女は言った。
私はうなずいた。
玉龍雪山における地質と崩落の危険性
玉龍雪山(扇子陡など)は石灰岩と変成岩で構成されており、日中の凍結融解作用(水が氷になって膨張し岩を割る現象)が極めて激しい山です。表面上はしっかり固定されているように見えても、内部は「もろく砕けた状態(風化)」になっており、本格的な登山隊の立ち入りを阻む最大の要因となっています。
アルピニズムにおける「引き返す勇気」
登山において頂上を目指すこと以上に重要とされるのが「安全な撤退(引き返す判断)」です。ユーナの「もう登らない」という一言は、魔法使いとしてではなく、一人の登山者・旅人としての人間的成長と判断力を象徴する名シーンとなっています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




