310. ホテルのレストラン
居間と食堂は一続きの部屋になっていて、雪山に正対する壁一面が折り戸に置き換えられていた。
ガラス戸の外には、草の斜面と視界がそのまま広がっている。
全部開け放てば、室内と室外の境いは扉一枚きりになる。
床には濃い色の木のフローリングが敷かれ、踏むと板の表面のかすかな凹凸が伝わってきた。
塗装にすっかり覆われたあの滑らかさではなく、木材そのものの触り心地が残されていた。
ソファは生成り色の布張りで、クッションは厚く、表面には手織りの毛布が掛けられていた。
深い赤と濃い藍の幾何学模様が交互に並び、縁には細く短い房が垂れていた。
サイドテーブルは低い無垢材の四角いテーブルで、天板には白磁の茶器が一組、その傍らには地元のナッツを盛った小皿が一つ置かれていた。
居間の隅には洋服箪笥が立ち、扉には手彫りの木の装飾が嵌め込まれていた。
模様は私の知らない何かの花だった。
花びらが重なりながら外へ巻き、線は滑らかだが不揃いで、刀痕と木本来の木目が見てとれた。
その手彫りの跡に、私は数秒ほど見入った。
私たちの寝室は居間の両側に分かれていた。
私は左側の半開きになった扉を押した。
部屋は広くなかったが、配置は心地よかった。
ベッドは窓に正対し、窓の方角は居間と同じく、雪山に正対していた。
ベッドサイドテーブルには暖かい黄色の小さなスタンドライトが灯り、その傍らに手のひら大の品が一つ置かれていた。
濃い藍色の土布で縫われた小さな馬だった。
布の馬のおなかには綿が詰められ、縫い目は整然と走り、四本の短い脚でしっかりとテーブルの上に座っていた。
馬の背には白い絹糸で六弁の花が一つ刺繍され、花びらの中央にごく小さな淡い青の玉が留められていた。
全体の工芸は申し分なく精緻というほどではないが、手作りであることは見てとれた。
針目の間隔は完全には均一でなく、花芯の玉は二重糸で留められ、糸の端は布の合わせの内側に始末されていた。
ベッドサイドテーブルには、折りたたんだ白いカードも一枚置かれていた。
広げると、中には数行の小さな文字が印刷体で書かれていた。
「お客様へ。ようこそお越しくださいました。これはお客様のためにご用意した納西族ナシぞくの吉祥の布馬です。地元の手仕事の職人が一針一針縫い上げました。毎日異なる特色の小さな飾りをお届けします。旅の思い出に、ひとときの温もりを添えられますように」
私は布の馬を手に取った。
布は指先に少しざらつき、化学的な柔軟加工を経ていない天然の綿布の手触りだった。
掌の上で裏返して眺めると、馬の尻尾は濃い藍色の糸を数本編んで作られ、その先に小さな結び目が一つ結ばれていた。
私はそれをベッドサイドテーブルへ戻し、元の位置に置き直した。
ユーナが自分の部屋から顔を出し、手にも同じ布の馬を一匹持っていた。
色が違い、彼女のは薄い茶色で、馬の背に刺繍された模様も六弁の花ではなく、羽を広げた白い小鳥だった。
「あなたのは何色?」彼女が訊いた。
彼女は手に持った布の馬を私に見せた。
「薄茶」
「私は濃い藍」と私が言った。
彼女は馬をライトの下で一度回してから部屋へ戻って出てきた。
「あの女性が言ってた」彼女は居間の真ん中まで来て、フロントの方角を指さし、それから言い直した。
「フロントが言ってた。毎日替わるんだって。明日は別のものだって」
「うん」と私は返事をした。
彼女はもうガラス戸の前に立ち、両手を軽く戸枠の両側に当て、体をわずかに前に傾け、視線を草の斜面の向こうへ越えて、視界いっぱいに広がるあの白い稜線の上に置いていた。
風が戸の外から染み込んできて、彼女の額の細い髪を揺らした。
彼女の唇が動き、声はとても小さかった。
「大きい」
彼女が山のことを言っているのか、空のことを言っているのか、それとも別の何かなのか、私には分からなかった。
私は彼女の脇まで行き、戸の前に立って何も言わなかった。
雪山の輪郭が窓の外で静かに伸びていた。
夕食の時間になった。
私はバルコニーの寝椅子から起き上がり、背骨が小さく一つ鳴った。
籐編みのソファに二時間近く横たわっていて、体がすっかりあの角度に馴染んでいた。
風は午後より冷たくなり、露出した前腕に細かい冷たさの層を感じた。
私は立ち上がり、クッションをソファへ戻し、居間へ入った。
ユーナも自分の寝椅子から身を起こし、上着をきつめに巻き、居間の出入口で靴を履き替えた。
母の部屋の扉がようやく開き、彼女が出てきた。
濃い藍色の長いワンピースに着替え、髪を結い直していて、顔の表情からは眠ったのか、ただ横になっただけなのかは読み取れなかった。
「食べる?」彼女が訊いた。
「食べる」と私が言った。
私たちは来たときの石板の道を引き返し、本館へ戻った。
街灯はもう灯っていて、暖かい黄色の光が低い灯柱から漏れ、石板の道に柔らかな光の輪をいくつも落としていた。
道端の潅木の茂みには地灯が仕込まれ、光が下から葉の裏へ当たり、深い緑の葉を半透明の翡翠色に照らし出していた。
遠くの雪山は紺色の空の下で、灰白色の影絵の一本線にまでなり、山頂の最後の残照が消えつつあった。
レストランは本館の二階にあり、私たちが着いたのは六時半ごろで、中には二組の客しかいなかった。
窓際の席はすでに埋まっていて、私たちは内側のボックス席へ案内された。
給仕が三冊のメニューを持ってきた。
革表紙のメニューはずっしりと重みがあり、開くと新しい紙と印刷インクの混ざった匂いがした。
私は最初のページを開いた。
青菜のさっと茹で・128
回鍋肉・198
雪山魚の清蒸し・388
牛肉のネギ炒め・268
乾鍋のカリフラワー・188
私はその「青菜のさっと茹で・128」を一瞬見つめ、それから親指で次のページをめくった。
次のページはスープ類で、最も安いのはトマトと卵のスープが188だった。
さらに後ろへめくると、主食の欄に、過橋米線一杯が128と記されていた。
ユーナは私の向かいに座り、自分の前のメニューをうつむいて眺めていた。
顔を上げないまま、ページをめくる速さは私より少し遅かった。
彼女も後ろの値段に気づいたのだろうと私は思った。
彼女は何ページかで手の動きを一度止め、それからまた後ろへめくり、何の感想も口にしなかった。
母はメニューを開かなかった。
彼女は背の高い椅子のクッションにもたれ、視線をレストランの中で一巡りさせ、窓の外の山影に置き、また戻して、私の顔に落とした。
「食べたいものを、あなたたちが頼みなさい」
私はメニューを閉じた。
「青菜のさっと茹で、回鍋肉、乾鍋のカリフラワー、それからトマトと卵のスープを一つ」と私は言った。
「それからドリンクのメニューも見せてください」
給仕がタブレットに料理名を記録し、ドリンクのメニューを差し出した。
ドリンクのメニューの内容は料理よりずっと簡潔だった。
ソフトドリンクは38から58までで、地元の特色ある飲み物は68から88のあいだだった。
私は最後のページを開き、炭酸飲料の欄を見た。
コカ・コーラ、18。
山下のスーパーで一本3元で売っているコーラが、山の上では18元の値をつけていた。
六倍の割増は、この標高では暗黙の了解のようになっていた。
私は価格にあまり長く留まらず、視線を次の行へ移した。
レモンミントソーダ、48。
その下、地元手作りの酸梅湯、58。
さらに下、雪山ローズウォーター、88。
「レモンミントソーダを三つ」と私は言い、それからドリンクのメニューを閉じて給仕に返した。
「これは飲食クレジットで精算します」
「かしこまりました」給仕がタブレットに記録した。
「お料理が428で、ドリンク三つを合わせて572になります」
給仕が立ち去った。
テーブルの上には、三組の食器と、すでに注がれた三杯のぬるま湯だけが残った。
ユーナはコップを手に取って一口水を飲み、それからコップを置き、箸の先で軽く丼の縁を叩いた。
「チン」という高い音がして、すぐに止んだ。
「料理、少し高いね」と彼女が言った。
「山の上だから」私は言った。
「物資を運び上げるのにコストがかかる。それにこのクラスのホテルは、そもそもの設定価格が高い」
ユーナはうなずき、それ以上この話題を続けなかった。
料理は思っていたより早く出てきた。
青菜のさっと茹でが最初に運ばれてきた。
菜心がさっと湯通しされ、薄い醤油と刻んだニンニクがかかり、菜の根元にはまだ少し歯ごたえが残っていた。
次に回鍋肉。
肉は薄く切られ、炒められて少し巻き、縁がわずかに焦げ色を帯び、ニンニクの芽と豆豉と一緒に炒められ、油の艶を放っていた。
乾鍋のカリフラワーが運ばれてきたとき、石鍋はまだじゅうじゅうと音を立てていた。
カリフラワーの縁はすでに焦げた黄色に焼けていて、干し唐辛子と花椒の粒と混ざり合っていた。
私は回鍋肉を一箸つまんで口に入れた。
肉の縁は香ばしく、中心はほどよい弾力を保ち、豆豉の塩気とニンニクの芽の清い甘みが口の中で混ざり合った。
驚くほど美味しいという味ではないが、この標高で、窓の外に山と夜しかないこのレストランでは、合格点の出来だった。
ユーナはカリフラワーを一箸つまんで一口食べ、何も評価せず、もう一箸つまんだ。
母は箸の先で回鍋肉を少しつまんで口へ運び、何度か噛んで、うなずいた。
私たちは酒類は頼まなかった。
レモンミントソーダが三つ運ばれてきたとき、グラスの縁には薄いレモンの輪切りが一枚はさまれ、泡が透明な液体の中を細かく昇っていた。
私は一口飲んだ。
ミントの清涼感が舌先から鼻腔へと抜け、さっきの回鍋肉の油っこさを洗い流していった。
会計は最終的に四百あまりで、残りのクレジットにはまだ余裕があった。
レストランを出るころ、山はすっかり暗くなっていた。
雪山の輪郭は夜の中で、空よりわずかに明るい灰白色の一本線へと変わっていた。
まるで誰かがよく削った鉛筆で、紺色の紙に一本線を引いたかのようだった。
街灯の光が石板の道に暖かい光点の連なりを敷き、ヴィラ群の方角へと伸びていた。
私たちは来た道を引き返した。
別の棟の前を通るとき、いくつかの窓から漏れる暖かい黄色の灯りと、カーテンの後ろで揺れる人影が見えた。
八号ヴィラの前まで来たとき、門前のセンサーランプが点き、ドアノブに掛かった小さな布袋を照らし出した。
私はそれを手に取り、布袋の紐を解いた。
中には色とりどりの綿糸で編まれた小さな飾りが一つ入っていた。
形は六弁の花のようで、底には同系色の房が数本下がっていた。
布袋には折りたたんだ紙切れも一枚入っていて、広げると、同じ書式の文字が書かれていた。
「おやすみなさい、お客様。今夜の彩雲の花が、良き夢をお届けしますように」
私はそれをドアノブに掛け直し、扉を押してヴィラの中へ入った。
納西族の「布馬」と伝統工芸
麗江(雪月城)を中心に暮らす少数民族・ナシ族(納西族)に伝わる伝統的な手仕事です。藍染め(ザザー)や土布(手織りの綿布)を使い、馬や小鳥などの形に縫い上げて刺繍を施した魔除け・縁起物の飾りです。ホテル「金茂璞修」では、こうした民族文化を取り入れたウェルカムギフトが実際に提供されています。
過橋米線(かきょうべいせん / グオチアオ・ミーシエン)
雲南省を代表する名物麺料理です。熱々の鶏ガラスープの上に鶏油の膜を張り、そこに薄切りの肉やキノコ、野菜、米線(お米の麺)を入れて食べる非常に豊かな味わいの料理です。
山頂のハイエンドダイニング(標高3,100mの物価)
標高約3,100メートルの国家風景区内に位置するため、あらゆる食材や物資が下山から運ばれます。そのため、青菜炒めが128元(約2,600円)、コーラが18元(約370円)といったリゾート特有の高級価格設定になりますが、宿泊客には1室数千元分(紅龍貨)のダイニングクレジットが還元されるサービスも忠実に再現されています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




