309. ホテル
彼は軽く一礼し、三つの箱を手に提げ、脇に停まっている白い電気カートの方へ歩いていった。
彼の歩き方は均整がとれていて、肩は大きく揺れず、箱を提げた手は自然に下ろされ、わざと苦しそうに見せるような素振りはなかった。
私は彼の後ろついて二歩、多くはない、ちょうど二歩だけ歩いて、それから止まった。
彼の後ろ姿を見た。
前世の目で見れば、彼はおそらく180センチほどで、あの頃の私とほぼ同じだった。
だが今のこの体で彼の隣に立てば、頭のてっぺんは彼の肩の下あたりにしか届かない。
一年前にこの世界へ来たばかりの頃、私は160センチしかなかった。
この一年で伸びたのは五センチに満たない。
精霊族の成長速度からすれば、悪いことではない。
何しろ精霊の成長期はとても長く、たいていの者は百歳を過ぎてからようやく成長が止まるのだから。
だが今、この180センチほどのスーツの紳士の隣に立つと、私はやはり心の中でため息をつかずにはいられなかった。
170センチが、おそらくこの体の限界だ。
運が良ければもう二、三センチ伸びるだろうが、どんなに頑張っても170センチどまりだろう。
もし精霊族の平均身長の底上げがなければ、この数字にさえ届かなかったかもしれない。
もっとも、思い返せば、エリクソンの領民たちにとって170センチはもう低くない。
中世の栄養状態を考えれば、普通の農家の出の女性が大人になって150センチあれば良いほうだった。
そう考えると、心の内のあの息は散っていった。
ホテルの門を入り、廊下を二つ曲がると、フロントに着いた。
ロビー内部の色調は、外観から受ける印象よりいくぶん暖かかった。
濃い色の木の壁、生成り色の石材の床、天井には暖かい黄色のスポットライトが一列嵌め込まれ、光が落ちるとき、床の上に均一な温度の層を敷き広げていた。
フロントには同じく灰色の制服を着た若い男が立ち、姿勢はまっすぐで、肩は自然に開いていた。
彼は誰かが近づくのに気づくと、上半身の角度をわずかに調整し、視線をきびきびと私たちの上に落とし、それから笑みを浮かべた。
その笑みの寸法は実に巧みで、わざとらしくもなく、引っ込み思案でもなく、まるで彼はもともとそこで笑っていて、私たちが通りかかったときにたまたまそれが見えたかのようだった。
「通茂利兹トンマオリーツ雪山ホテルへようこそ」彼の声は大きくはなかったがとても明瞭で、広いロビーの中でちょうど聞き取れる程度の音量だった。
「どのようなご用件でしょうか」
私はバッグから三冊の旅券を取り出し、カウンターの上に置いた。
「お世話になります。チェックインをお願いします。エリクソンの名前で予約している部屋です」
「かしこまりました。少々お待ちください」
彼は両手で旅券を受け取り、五指を揃え、掌で旅券の底を支えた。
まるで重みのある品を托すかのように。
それから彼は軽く腰をかがめ、視線をモニターへ移し、指が素早くキーボードの上を動いた。
画面の反射光が彼の顔を何度か跳ね、彼の視線はページ上の情報を行ごとに追っていった。
十秒ほど経って、彼は背を伸ばし、視線を再び私の方へ向けた。
「お待たせいたしました、お嬢様」彼は言った。
「こちらで確認いたしますと、雪山のツインベッドルーム・ヴィラを二泊、オンラインでご予約いただいております」
彼は一度言葉を切り、情報に間違いがないことを確かめてから、続きを話すように見えた。
「ご予約には毎日四名分の朝食が含まれております。あわせて二千紅龍貨こうりゅうかの飲食クレジットも付帯しており、ホテル内のレストランでご利用いただけます。ただし酒類は対象外となります」
そう言い終えると、彼はカウンターから右手を上げ、五指を揃えて、ロビーの奥の一角を指し示した。
「レストランはあちらでございます。この方向へ突き当たりまで進み、左にお曲がりいただければ見えてまいります。営業時間は朝六時から夜九時までです」
彼の手つきは実にきれいで、上げて指し示してから引き戻すまで、腕全体の力の入れ方が均一で、余計な揺れが一切なかった。
「また、ご予約にはアフタヌーンティーも含まれております。こちらもレストランでのご提供で、時間は午後二時から午後四時までとなります」彼は補足した。
語速は依然として穏やかだった。
それから彼は視線をモニターから外し、私を見た。
「お部屋は8号ヴィラにご用意しております。ホテル全体でもっとも眺めの良い一棟でございます」
この言葉を口にしたとき、彼の口調は特別に強くはならなかったが、さらりと流されることもなかった。
客観的な事実を述べているかのようだった。
「のちほど、先ほどお入りになったあの門までお戻りになり、スタッフに8号ヴィラとお伝えください。車でお三方をお送りいたします」
そう言い終えると、彼はカウンターから灰色のカードケースを一つ取り、三枚のカードキーを順に差し込み、両手で差し出した。
私はカードケースを受け取った。
「わかりました。ありがとうございます」
「どういたしまして。ご用の際は、お部屋の電話、あるいは携帯からいつでもご連絡くださいませ」
彼は軽く前かがみになり、短い一礼をした。
背筋は伸び、顎はわずかに引かれ、角度は大きくなく、時間も長くなかった。
教養があって、間違いのない、ちょうどその程度の礼だった。
ユーナは私の脇に立ち、視線をずっとフロントの男に向けていた。
じろじろ見るのではなく、観察していた。
視線はフロントの手から襟元へ、そして立ち姿へと移っていった。
彼女も心の中で、私と似たような判断をしているのだろう。
母はもう一足先に扉の方へ歩き出していた。
手にスマホを持ち、うつむいて何かを眺めながら、足取りは速くはないが、わざわざ私たちを待つでもなかった。
私はカードケースをバッグにしまい、向きを変えて扉の方へ歩いた。
あの白い電気カートはもう外で待っていて、スーツケースは後部座席の荷台にきちんと並べられていた。
運転手は運転席に座り、顔を横に向けて私たちを一目見、うなずいた。
風が雪山の方角から吹いてきて、松の木の匂いを少し含んでいた。
電気カートは濃い色の煉瓦を敷き詰めた小さな道を、ゆっくりと進んでいった。
道は広くなく、両側には低い潅木とぽつりぽつりと高山ツツジが植えられ、葉は高原の陽射しに焼けて灰色がかった緑になっていた。
運転手はあまり速く走らせず、後部座席の人が通り過ぎる一棟一棟の外観をはっきり見られる程度の速度を保っていた。
どれも独棟で、灰色の瓦と白い壁、木製の窓枠、そして棟ごとに十分な距離が取られ、互いに邪魔をしないようになっていた。
車が三棟目を回り込んだとき、前方の視界ががらりと大きく開けた。
八号ヴィラは坂地の末端に立っていた。
これまでに通り過ぎた数棟と造りは似ていたが、敷地の高さがいくぶん低く、正面の遮蔽物がすっかり消えていた。
あるのは屋根の下から伸びる一面の草の斜面だけで、それが空と雪山の境界線へ直接つながっていた。
運転手は車を門前の石板の小道の脇に停め、エンジンを切り、振り返って一目見た。
私たちが着いたことを確かめているかのようだった。
私たちは車を降りた。
私はその場に立ち、ヴィラの正面に向かい、あの山を視野のなかにすっぽりと収めた。
雲龍雪山はすぐ目の前にあった。
遠くに山の頂だけを覗かせているのではない。
山体のすべてが、完全に目の前に広がっていた。
山裾から立ち上がる斜面、剥き出しの岩壁、風に削り取られた溝の筋、そして雪線より上に広がるあの純粋な白。
それらが一層また一層と、遮るものなく視界の果てまで続いていた。
積雪の縁は光を受けて、透明感のある白を反射していた。
まるで山頂に薄く硬い氷の殻があって、それがゆっくりと溶け、光を跳ね返しているかのようだった。
正面の草の斜面の縁から、ロビー方向のあの床から天井までの大きな窓の前まで、建物も、木も、遮るものは一切なかった。
この山はただ、何もかもさらけ出してそこに在った。
地面の草の先から、空の底へ向かってまっすぐに。
私は「綺麗」とは言わなかった。
感嘆の声も上げなかった。
ただ立っていた。
ユーナが二歩進んで、私の脇に立った。
彼女の見つめる先と、私の見つめる先は、同じ一点で重なっていた。
風が雪山の方角から吹いてきて、草の斜面を過ぎ、彼女の耳元の細い髪を抜け、その冷たさをそのまま私の頬へ運んできた。
彼女は上着のファスナーを引き上げようともせず、ただそこに立ち、私と同じように、静止に近い姿勢を保っていた。
母は階段を上り、もうヴィラの扉を押し開けていた。
彼女は玄関に立ってこちらを振り返り、声をかけて急かすこともなく、口元をわずかに緩めると、くるりと向き直って居間へ入っていった。
私は扉の前で、ひと息ぶんの時間を立ち尽くし、それから階段を上り、敷居をまたいだ。
麗江金茂璞修雪山酒店(Jinmao Purelax Mountain Hotel Lijiang)
作中のモデル: 主人公たちが宿泊した「通茂利兹雪山ホテル」の現実世界のモデルです。名前に含まれる「茂」の字も「金茂」から取られていると考えられます。
立地と景観: 玉龍雪山(作中では雲龍雪山)の国家級風景名勝区内、標高約3,100メートルの山腹に位置する超高級リゾートです。作中の描写通り、広大な敷地内にヨガテラスや水鏡の池があり、全室が雪山に面したスイートまたはヴィラとなっています。
8号ヴィラからの絶景: 建物の前に遮るものが一切なく、足元の草地から空へと真っ直ぐにそびえ立つ雪山の圧倒的なパノラマビューは、まさにこの「金茂璞修雪山酒店」のシグネチャー(象徴)とも言える景色です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




