303. 列車を待つ
彼女はうなずき、私を急かすでもなく足を速めるでもなく、ただ桟道に沿って先へ歩いた。
私は彼女の二歩後ろを歩き、視界にちょうど彼女の風で散ったピンクの髪の先と、その銀の腕輪が光のなかで時折反射する光点が収まっていた。
ヘレナはさらに前を歩いていた。
彼女は相変わらずあの等速の歩調を保ち、速くも遅くもなく、上り坂に出ると歩幅を少し詰めるが、頻度は変えなかった。
七つ目の湖は桟道の尽きるところにあった。
水面は最大で、色も最も深い墨藍で、岸に近い部分にほんのりと紫の調子が差していた。
水に誰かが墨汁を一瓶こぼして、ちょうどいい濃さに薄めたようだった。
湖底に小石はなく、濃い泥があるだけなので深さが読めず、水面は差し込む天光をすべて吸い込み、沈黙した濃い色の鏡面と化していた。
岸辺には曲がった幹の木が幾本か生え、皮には灰緑の地衣が覆い、幹は湖面の方へ傾いて、水面に手を伸ばそうとしているようだった。
風が湖面から吹いてくると、水草とトウヒの樹脂の気配を帯びていた。
湖岸に立って振り返ると、風花城はもう浅い灰の線に縮まり、蒼海の銀白と蒼山の墨緑のあいだに挟まれていた。
私は湖岸に立ち、ふくらはぎの筋肉が微かに酸っぱくなっていると感じた。
半日山道を歩いたせいで、筋繊維が少し張って、指先で押さえると軽い酸っぱい張りを感じた。
ヘレナも立ち止まり、この湖を幾度か見た。
彼女は今度は腰を折り、手を水に入れ、指を少し開いて流れを指のあいだに通した。
その格好を五秒ほど保ってから手を引き、水を振って立ち直った。
ユーナが私の隣の石に腰を下ろし、靴を脱いで足を水に入れ、ためしにちょっとつけては引っ込め、甲で反対のふくらはぎをこすった。
「冷たい」
「山の水だもの、冷たいに決まってるでしょ」
彼女はそれ以上何も言わず、靴を履いて立ち上がり、ズボンについていた草屑を払った。
私たちは戻った。
道すがら出会う観光客が増えてきた。
大きなカメラを背負った中年の男が向かいから歩いてきて、足取りは速く、カメラが胸の前で歩幅に合わせて揺れていた。
揃いの色の団体ツアーの服を着た一群が三つ目の湖の近くで立ち止まり、ガイドが小旗を挙げて湖水の成因を説明していた。
私たちは彼らを避け、来た道をそのまま戻った。
一つ目の湖の近くまで来ると、陽光が雲の縁から漏れ、斜めに湖面を照らして、もともと青白かった水面を暖かな金色に染めた。
光影が水面にゆっくり移り、雲の流れに合わせて角度を変え、湖岸のトウヒの輪郭を水面に長い濃い影として引き伸ばした。
主桟道へ出ると、ロープウェイ駅の屋根がトウヒ林の上にふたたび現れた。
風が谷底から吹き上がり、桟道両側の樹冠をさらに低く押し倒した。
高いところでロープが風に揺られ、低い振動音を立てていた。
緊張した弦が空気のなかで絶え間なく微かに震えているようだった。
ユーナが前を歩き、ロープウェイ駅の入り口に着くと立ち止まり、一度私を振り返った。
私が寄って、彼女の隣に立って、手でゴンドラのドアを引き開けた。
金属の枠は冷たく、山風に一日中さらされた表面の温度は気温より数度低かった。
「入って」
彼女が先にゴンドラへ乗り、窓際の席に腰を下ろし。
私が彼女の隣に座ると、ドアが自動で閉まり、軽い音のあと、ゴンドラはゆっくりと山を下り始めた。
タクシーで戻る道は来るときより速かった。
たぶん夕方のラッシュを過ぎて、街の車の流れがだいぶ散っていたのだろう。
運転手は特別速くはなかったが、ほとんど止まらず、赤信号も二つしか引っかからず、二十分余りで古城北門からホテルの前まで私たちを運んだ。
私がドアを押し開けて降りると、夕風が迎えの面から吹き、蒼海の方の水気を帯びて、昼よりずっと涼しかった。
ホテルのロビーの灯りは暖かい黄色で、フロントは若い娘に代わっていた。
彼女はうつむいてスマホをいじっていて、人が入ってくるのに気づいて顔を上げ、私たちにちょっとうなずいた。
私が行って部屋番号と荷物を受け取る用件を言うと、彼女はパソコンを数回叩き、すぐに預かり札を差し出し、ロビーの隅の荷物預かり棚を指した。
三つの箱が、壁に並んで寄り添っていた。
黒いつや消しのがヘレナの、銀灰色のが私の、白いのがユーナの。
寸法は揃っていて、すべて二十インチの機内持ち込みサイズ。
引き出すと、車輪がタイルの床で整った転がり音を立てた。
箱は空で、中には着替え一枚と見せかけの傘が一つだけ詰めてあり、本当の品はすべて収納の腕輪に収めてあった。
でも、空の箱を引いて街を歩かないと、妙に見えてしまう。
この理屈は、紅龍国でもエリクソンでも通用する。
駅に着いたときには、もう空が暗くなっていた。
風花城駅は大きくなく、駅舎は白族の建築様式で、青瓦に白壁、軒の反りがほんのり上がり、暮色のなかで暖かい黄色の灯りに照らされると、輪郭がくっきりとして柔らかかった。
広場の人は多くなく、点在する旅人のほんの数人が箱を引いて行き交うだけで、焼き芋と茹でトウモロコシの屋台が幾台か広場の縁に停まり、立ち上る白い湯気が街灯の下でひときわ目立っていた。
私は銀灰色の箱を引いて保安検査を抜け、駅に入り、待合室の電光掲示板で私たちの列車を見つけた。
十九時四十七分発、終着は雪月城、所要は四時間半の見込み。
四時間半。
私はその数字を一度見て、もう一度見た。
風花城から雪月城までは直線距離は遠くないが、鉄道は山間の路線を通り、峡谷と山腹に沿って迂回するので、速度が上がらない。
そもそもこの線には線路が一本しかなく、花之国の南西の鉄道網は区切り区切りに作られていて、今も風花城から北へ伸びる高速鉄道線はまだ建設中だ。
だからこの単線が、上りと下りのすべての列車を背負っている。
行き違うときは、必ずどちらか一方が止まって待つ。
私は待合室の長椅子に腰を下ろし、箱を足元に横たえた。
ユーナが私の隣に座り、白い箱のハンドルを畳んで、それから私の肩にもたれた。
彼女は何も言わず、もたれかかるときに軽く息を一つ漏らしただけだった。
ヘレナは向かいに座り、黒い箱を両脚のあいだに置き、スマホを出してちらりと見てからポケットに戻し、それから背もたれにもたれてしばらく目を閉じていた。
待合室に改札のアナウンスが響いた。
私が立ち上がるとユーナも続いて立ち、私たちは箱を引いて改札口へ向かった。
列は長くなく、改札は早く、ホームへ下りると列車はもうそこに停まっていた。
私たちの車両は八号車、プレミアムビジネス席だった。
ドアが開くと、車掌が入口に立ち、濃紺の制服を着て、髪を整えて結い、笑みを浮かべて切符の情報を確かめた。
私が中に入り、最初の感じは、思ったより空間が広いということだった。
車内はたった六席、三列・二列の配置で、各席が独立した個室のようになっていた。
座席は濃い茶の革で、幅広く分厚く、肘掛けに一列の調節ボタンが埋め込まれていた。
荷物をしまおうと持ち上げると、箱は小さく、ビジネス席の頭上の棚に十分収まった。
車掌がドアが閉まる前にやってきて、目的地と時間をもう一度確かめ、それから温かいタオルと小袋の軽食を届けてくれた。
黄色いプラスチックの包装に、ナッツとドライフルーツの詰め合わせが入っていた。
ユーナがドライフルーツを一つ口に放り込み、二度噛んでから、卓上の水筒を取って一口飲んだ。
車が動き出すとき、音はほとんどしなかった。
窓の外のホームがゆっくり後ろへ流れ、灯りが暖かい黄色から橙色の線になり、それから暗闇に呑まれた。
風花城の市街が窓の外を流れた。
最初は疎らな民家の灯り、次は農地と集落の点々とした明かり、やがて山の輪郭と、時折ぽつんと灯る街灯だけが残った。
それから車が減速し始めた。
私は窓の外を見た。
ホームの灯りもなければ、信号機もなく、トンネルの入り口もない。
何もない。
ただ山間の平地で、減速し、滑り、それから止まった。
車内の灯りは変わらず、エアコンの音は続いていて、窓の外の虫の声が窓の遮音ガラスを通して届いてきた。
弱いがはっきりと。
ユーナが顔を横に向け、窓の外を一度見た。
「着いた?」
「まだ。待ってるんだ」
「何を?」
「向こうから来る車を。この線は線路が一本しかないから、二台は同時に通れない。どちらかが待たなきゃいけないの」
彼女はうなずき、それ以上は問わなかった。
ビジネス席の価値は、こういうときに現れた。
彼女は肘掛けのボタンを押して背もたれを少し倒し、それから体を横に向け、足を丸めて、半分横になり半分座った格好で座席にもたれた。
私も背もたれを少し倒したが、横にはならず、ただもたれて、窓の外の夜の色を見ていた。
墨藍(ぼくらん:濃い紺色)
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