302. 七鳳女池
ロープウェイ駅の前の掲示板には、透明なセロハンテープで一枚のA4用紙が貼ってあった。
「風の強さのため、本日は山頂直通ロープウェイを運休。洗羊潭ロープウェイは中駅までの運行とする」とある。
文字は太いゴシック体で、朝の露にじっとりと濡れて、輪郭が少しにじんでいた。
私は掲示板の前で内容を読み終えると、振り返って窓口へ戻り、中駅までの三人分の料金を差し出した。
係員は無言で金を受け取り、機械から三枚の磁気カード式の切符を吐き出した。
差し出すときに切符の端が窓口の角に引っかかったので、私は指先で直してから抜き取った。
ロープウェイが上がり始めると、風がゴンドラの換気口から途切れることなく吹き込んで、ユーナがさっき結んだポニーテールから髪の房を何筋も解き散らした。
彼女は手で一度押さえたが、おさまらず、諦めて放っておいた。
ゴンドラが軽く揺れ、支柱を一つ越えるごとに低い金属の共振音を立てる。
車内に貼られた安全案内の青いシールは、一隅がもう剥がれ始めていて、風に微かに震えていた。
足元には広葉樹の林が広がり、樹冠が風に灰緑色の裏側を覗かせて、山全体が整った呼吸をしているように見えた。
ゴンドラが着くと、桟道の入り口の風は山麓より一段強かった。
私が最初の板を踏んだ瞬間に、それを感じた。
風が谷底から吹き上がり、桟道の両側のトウヒの林を一方向へ押し倒し、すべての樹冠が同じ向きに傾いていた。
板の上には薄い松葉と削りくずが積もり、踏む感触は枯れ葉の上と変わらず、パリッとして軽い音がして、足の裏にほんのりとした弾力があった。
桟道は山稜の起伏に沿って北西へ伸び、数十メートルごとに曲がり角があり、角を一つ曲がるたびに見える景色が入れ替わった。
最初のうちはロープウェイ駅の屋根が見えていたが、三つ目の曲がりを越えると、駅はトウヒの樹冠にすっかり隠され、前後には桟道とトウヒと、足元で広がり続ける視界だけが残った。
木の遮蔽のない曲がり角で、風花城が桟道の左下方に丸ごと現れた。
高いところから見下ろすと、古城はもうあのにぎわう表通りでも、明かりのともる店でも、南城門で揺れる提灯でもなかった。
それは広がる青灰色の輪郭となり、蒼海の西岸に静かに収まっていた。
密集した古い市街地と、東へ疎らに広がる新市街地のあいだに明確な境はなく、ただ灰色が濃いところから薄いところへと移り、やがて湖岸の白い水際に溶けていた。
蒼海は午前の光のなかで灰青と銀白の入り交じる色をしていた。
風が湖面に千万の細かい波紋を吹き立てていた。
一つ一つの波紋が違う角度で違う光を反射するので、湖全体は誰かが巨大な貝殻の内側を極限まで磨き上げて、山のふもとに敷いたようだった。
ユーナが私の隣で立ち止まり、手を桟道の鎖にかけた。
彼女はしばらく見て、きれいだとも雄大だとも言わず、ただ顎を鎖に載せて、黙って見ていた。
風が吹いてくると、彼女の前髪の乱れが目の前で何度か揺れたが、彼女は手をやっておさえることもしなかった。
ヘレナは私たちの数歩後ろに立っていた。
彼女も立ち止まったが、鎖のそばへは寄らず、ただ桟道の真ん中に立って、顔を湖の方へ向け、何気なく数秒見つめてから、先へ歩き出した。
私はついていかず、もうしばらく鎖のそばに立ってから、振り返ってあとを追った。
桟道は先へ伸びていた。
板の隙間からは下の低木と露出した岩が見え、露に濡れて色を落とした板もあって、踏むと微妙な滑りがあった。
斜行エレベーターで下へ移動し、降りると目の前に案内板が置かれていた。
案内板は鉄板製で、白地に赤文字。「七鳳女池・300m」のような文字が記されていた。
矢印は左の、さらに細い桟道を指している。
桟道の鎖には錆びた錠前がいくつかぶら下がっていた。
「行く?」ヘレナが一度私の方を振り返った。
「行く」
細い桟道をそれほど歩かないうちに、植生が変わり始めた。
トウヒの密度が少し下がり、代わりにツツジとササが増えた。
低木の高さが押さえられた分、視界は主桟道よりもかえって開けていた。
足元の板はさらに細い切り石になり、無数の靴底に磨かれて光り、湿った空気のなかで微かに水気を帯びていた。
最初の湖はトウヒ林の縁に現れた。
水は深くなく、湖底の白い小石がはっきり見えた。
水の色は青と緑のあいだで、白い小石に際立たされて、湖全体が流れるカルセドニーを満たしたように見えた。
水面は極めて静かで、風の大半はトウヒに遮られ、水面にはごく細い波紋が一層浮かぶだけで、水に映る雲影をぼやけた白い塊に揉みほぐしていた。
湖岸には低いすげが生え、水面に沿って茂り、水陸の境に細やかな深緑の房飾りの線を引いていた。
私はしゃがんで、手を水に入れた。
水温は指先よりずっと低く、触り心地は清らかで、浅瀬にありがちなぬめりはなかった。
水が指のあいだを流れるとき、流れが指先の温もりを奪う速さが感じられた。
ユーナが私の隣でしゃがみ、彼女も手を伸ばして水を探った。
彼女は何も言わず、手を引っ込めて二度振ると、水滴が裾の上に落ち、葉を伝って水の中へ滑った。
二つ目の湖はさらに高い山あいにあり、細長く、引き伸ばした楕円のかたちをしていた。
湖底には濃い褐色の落ち葉と枯れ枝が沈み、水に浸って茶葉のような色をしていた。
湖岸には厚い苔が生え、踏むと水に浸したスポンジを踏むようだった。
私は苔の縁で一歩踏み、靴底が苔の層にめり込み、くぐもった吸い音を立てた。
三つ目と四つ目の湖はごく近く、あいだに細い尾根を一つ挟むだけだった。
左は淡い青、右は墨緑だった。
同じ水源が異なる鉱物を含む岩層を二つ抜け、同じ標高でまったく違う色に染まっていた。
淡い青の湖底には細かい白い砂が敷かれ、墨緑の湖底は濃い腐葉土の堆積で、二つの色が並ぶさまは、誰かがわざと違う色のガラス板を二枚、地面に並べたようだった。
五つ目の湖はもう少し低い位置にあり、陽光がちょうど水面を直射していた。
水温は前の湖より高く、湖底に細長い水草が生え、流れのなかでゆっくり揺れていた。
一本一本の葉に、日光が細い金の縁取りをまとわせていた。
私は湖岸にしばらく立ち、水草の揺れを見ていた。
風はない。水面の揺れはすべて水の中から来ていた。
見えない何かの流れが湖底から湧き出し、水草を同じ向きへ押しやっては、また引く。
往復、反復。
六つ目の湖は坂を上がる道をしばらく歩いたあと、突然桟道の右に現れた。
水面は前のどれより広く、対岸に小さな草地があり、そこに白い花がいくつか咲き、風に軽く揺れていた。
空には極めて細い雨足が漂っていた。
雨と言うには、風に散らされた霧といったほうがよく、頬に落ちて冷たさを感じる間もなく乾いていた。
湖面はこの雨霧に覆われ、対岸の輪郭がぼやけ、濃淡の違う緑の層だけが残った。
一羽の水鳥が湖心を泳ぎ抜け、水面に細長いV字の波紋を引いて、それから雨霧のなかへ消えた。
ユーナが立ち止まり、水鳥の消えた方角を見ていた。
彼女は手を鎖から下ろし、衣の裾で指に付いた水気を拭ってから、私に尋ねた。
「あと、いくつ?」
「一つ」
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