300. 崇聖三塔と彩蝶泉
車は約束した交差点で待っていた。
灰色の車体には、道端のガジュマルの木から舞い落ちた葉が何枚か貼りついている。
運転手はシートを半分倒し、つば広の帽子をかぶっていた。
私たちの足音が近づくと帽子を上げ、目を細めて人数を確かめてからエンジンをかけた。
「次はどこへ行く?」
ユーナはターコイズの腕輪を包んだビロードの布が入ったポケットを上にし、身を丸めてシートにもたれ込んだ。
膝が前の席の背もたれに当たり、キャンバスシューズの片方のかかとが脱げかけて、つま先がぶらんと揺れていた。
「崇聖三塔だ」私はシートベルトを締め、バックミラー越しに運転手と目を合わせた。「入城したとき、遠くに白い塔が三つ見えただろう。覚えてる?」
ユーナは頭を窓ガラスに凭せた。
正午の陽射しで少し熱を持ったガラスから、彼女は顔を数センチ横へずらした。
「ちらっと見ただけ。あのときはあとどれくらいでホテルに着くかばかり考えていたから」
車は古鎮の駐車場を出て、湖岸の道を引き返した。
窓の外の蒼海の色は午前よりも深く、淡い青緑から墨緑へと変わっていた。
風が湖面に細かな波紋を押し出し、岸近くから湖心へと、まるで見えない大きな櫛で梳かれたように、すべて同じ方向へと広がっていった。
対岸の山は午後の光の中で淡い青磁色のシルエットに薄れ、山脚の集落や田んぼは水面に揺らぐ光にかすんで見えた。
ヘレナは後部座席のもう一方にもたれていた。
眠っているわけではなく、目を半ば閉じ、右の人差し指でメロディのないリズムを膝の上で刻んでいる。
時折止めて指の順番を変え、また初めからやり直す。
彼女の呼吸はとても軽く、車内のエアコンからの送風音に溶け込んでしまえば、もう聞き分けがつかない。
私は背もたれに凭れ、今日歩いた道を頭の中で一度たどった。
遊覧船の語り部、花母娘娘の涙が湖になったこと、蒼海の風と六廊古鎮の石板道、大木に結わえられた願いの赤い布切れが風に翻る様子。
車がカーブを曲がり、蒼海はしばし視界から消えた。
その水域が反対側から再び顔を出したときには、三つの白い塔の輪郭が前方の梢の上から頭を覗かせていた。
ユーナは目を開けず、呼吸は穏やかでゆったりとしていた。
私の肩に預けた頭が、車の揺れに合わせてゆっくりと下へ滑った。
私は手を伸ばして彼女の顎を支え直してやると、彼女はそのまま顔を私の肩の窪みに埋めた。
ピンクのポニーテールがシートの背もたれと窓ガラスの間の隙間から垂れ、髪の先がドア内側の小物入れを掃いた。
右の手首のターコイズの銀の腕輪が斜めに差し込む陽光で光り、ドアの内壁に小さな白い光の斑点を落としていた。
その光斑は路面の起伏に合わせてゆっくり揺れ、左から右へ、またゆっくりと戻ってきた。
「もう少しで着くから、もう少し仮眠しておきな」
彼女は返事をせず、ただ膝を前の席の背もたれから引き込み、体を私のほうへさらに数センチずらした。
車は湖岸の道を北西へ進み続けた。
蒼海はずっと右の窓外に張り付いていたが、三塔の輪郭が大きく鮮明になるにつれ、徐々に後退する湖岸線がその場所を譲っていった。
崇聖三塔は思っていたよりもずっと大きかった。
より巨大な建造物を見たことがないわけではない。
エリクソン領には、この三つの塔をはるかに凌ぐ規模の城や神殿がある。
だが、あちらの建物は石を積み上げて存在を宣言しており、一つ一つの石の角が「私は重い」と言っている。
それに対し三塔の質量は内側へと収まっている。
塔身の各層が一段ずつ内側へ縮まり、塔頂で一束に束ねられるまで、すべての重みを足元の三和土を突き固めた基礎の中に収めている。
主塔は千尋塔といい、十六層。
全身に白堊色の石灰を塗り、午後二時の陽光の中でほとんど目を刺すほどに輝いていた。
塔頂には金メッキの宝刹が被さり、その金光が高原の強い光に打たれて、塔身の周りに淡い金色の光の霧を滲ませていた。
二つの副塔は主塔の背後に左右対称に立ち、主塔よりほぼ半分低い。
塔身もまた素白だが、石灰の色はより古く、地面に近い一層はすでに黄土色の下地を浮かび上がらせていた。
三塔の間隔は緻密に計算されており、正面の広場から上を見上げると、建物全体がひどく執拗なまでの対称を見せる。
左塔から中軸線までの距離、右塔から中軸線までの距離、塔と塔のなす角度。
それが正確すぎて、左右が実は異なる年に建てられた別々の建物だということを人は見落としてしまう。
千尋塔は南詔国が造った。
二つの副塔は風花国の時代に後から足された。
そのあいだには百余年の隔たりがある。
広場の煉瓦の隙間からは小さなタチツボスミレの群生が生え、観光客に踏み歪められてはまた自分で立ち直っている。
藍染めのベストを着た白族のスタッフ数人が箒で落ち葉を掃いており、箒が煉瓦をこする音と遠くのガイドの拡声器の声が重なっていた。
「千尋塔は大小無数の地震を経てきました」
傍らで小さな黄色い旗を掲げたガイドが、揃いの赤い日除け帽を被った観光客の前で話していた。
拡声器が彼女の声を遠くまで運ぶ。
「最もひどかったのは大地震で、周囲の城壁を揺るがし崩しましたが、三塔は微動だにしなかった。だから民間では『倒れない翁』と呼び、風花城の守り神にしているのです」
ヘレナは広場の真ん中で立ち止まり、千尋塔を仰いでいた。
両手をトレンチコートのポケットに突っ込んだまま。
彼女は長く見ていた。
その長さに、小さな黄色い旗のツアーが遠ざかり、新しい観光客が広場の空きを埋めるように押し寄せ、レンタル自転車に乗った子どもたち数人が広場の縁で鈴を鳴らし、チリンチリンと。
落ち葉を掃くスタッフがブリキのゴミ車を押して彼女の背後を通り、車輪が煉瓦の隙間を轢く重苦しいゴロゴロという音を残した。
ヘレナはトレンチコートのポケットから右手を抜き、エリクソンの方言で一言つぶやいた。
声はとても軽く、風に散って掴めるのはわずか数文字だけだった。
「……うちの連中より、ずっと立派だな」
私はその言葉に応えず、ただ一歩前へ出て、彼女と肩を並べて立った。
ユーナが私のもう一方の脇でスマホを取り出した。
彼女は数歩下がってしゃがみ、スマホをわざと低めの角度に構え、画面に蒼海の青、三塔の白、そして遠景の淡い青磁色の輪郭を同じフレームに収めた。
彼女はプレビューを見てシャッターを切り、それからスマホを私の前に差し出した。
「私に一枚送って」
「ああ」
彼女はうつむいて画面を数回タップし写真を私に送り、そしてまたスマホを構えた。
今度はレンズの向きを変えた。
私と千尋塔が同時に画面に収まり、塔頂の金光がちょうど私の頭上やや右に落ちるように。
私の目の端が彼女のスマホを構える動きを捉えた。
振り返らず、ただ顎をわずかにレンズの方向へ傾け、左手をポケットから抜いて体側に垂らした。
シャッター音がした。
ユーナはスマホを裏返して出来栄えを確かめ、それからロックをかけてコートのポケットにしまった。
彼女は私のそばへ戻り、肩と私の肩とのあいだが拳一つ分もない距離で、並んで三つの白い塔を眺め続けた。
風が吹いてくると、彼女の額の前髪が私の耳たぶを撫で、くすぐったくて私は首をすくめた。
彩蝶泉は風花城の西にある。
崇聖三塔から車で二十分もかからない。
運転手が私たちを景区の入り口に下ろしたとき、券売所の行列は窓口から二つ曲がって駐車場の脇まで伸びていた。
行列の中には日傘を差す者もいれば、景区の案内図を扇子に折って顔を扇ぐ者もいた。
私は三枚の切符を買い、ユーナとヘレナを連れて案内板のとおり泉へ向かった。
道は石板敷きで、両側にジャカランダがずらりと植わっている。
開花時期にはまだ早く、枝先には柔らかな緑の芽がいくつかぶら下がっているだけだ。
およそ十分歩くと石板道は尽き、目の前がぱっと開けた。
バスケットコートほどの池。
水はまずまず澄んでいて、池底の丸石や尾をゆらゆらと揺らす数尾の錦鯉が見える。
池の縁には一本の傾いた合歓の木があり、樹冠が水面の半分を覆い、枝のあいだには確かにいくつかの蝶がぶら下がっていたが、片手で数えられる程度だ。
池の周りには数人の観光客が散らばり、スマホでその数匹の蝶を撮る者もいれば、石の腰掛けに座って水を飲んだり軽食を食べたりする者もいた。
一人の子どもが池辺で手で水を掬っていたのを、母親がひっ飛ばして引っ張り戻した。
私は池辺にしばらく立っていた。
ユーナは合歓の木の下へ歩き、見上げて木の上の蝶を数え、それから振り返って私を見て、右手で「五」の字を作った。
ヘレナは池の周りを一周すると、池辺の石碑の前で止まり、そこに刻まれた「彩蝶泉」の三文字と、脇にびっしり並んだ小さな字の説明を見ていた。
読み終えると彼女は振り返り、トレンチコートのポケットに突っ込んでいた手を抜き、池に向かって一枚撮影し、それから私のほうへ顎をしゃくった。
「もう行く?」
「行こう」
中に入ってから出るまで、前後二十分もかからなかった。
駐車場へ戻る道すがら、景区の土産物店を通りかかった。
ユーナは入り口で少し迷ってから、それでも中をひと回りした。
出てきたとき、手には蝶の形をした冷蔵庫用のマグネットが一つ増えていた。
プラスチック製で、羽根に安っぽい金粉が塗られ、陽光の中で少し眩しいほどに光っている。
車に戻ると、運転手はシートを元通りに直し、保温ボトルでお茶を飲んでいた。
私たちがこんなに早く戻ってきたのを見て、彼はぽかんとしてからボトルの蓋を締め、カップホルダーへしまった。
「こんなに早く見終わったのか?」
「ああ」私はシートベルトを締めた。「ただの池一つだったから」
運転手はエンジンをかけ、来た道を戻るように鏡の中で私たちを一瞥し、口元をわずかに持ち上げたが、何も言わなかった。
車は駐車場を出て、来た道を引き返した。
蒼海が窓外にまた姿を現し、午後の陽光が湖面を白く霞ませて水色は見えず、岸近くの葦と遠くのかすんだ山影だけが見えた。
ホテルに着いたのは午後四時を少し回ったころ。
ロビーのエアコンがよく効いており、フロントの白い大理石の床とともに空間を冷たく冷やし込んでいた。
ヘレナがフロントで近くにおすすめの食事処はないかと尋ねると、フロントの娘が手描きの地図を出し、ボールペンでその上にいくつも丸を描いた。
私が覗き込むと、丸はすべて古城のあたりにびっしりと固まっていた。
いくつかの丸の脇には「地元の人も通う」の四文字が書き添えられていた。
部屋は五階で、窓から蒼海の小さな一角が見えた。
ユーナは部屋に入るなり自分をベッドへ投げ出し、キャンバスシューズを脱ぎ捨て、半回転して顔を枕に埋めた。
銀の腕輪がシーツで軽く鳴った。
私は彼女が脱ぎ捨てた靴を拾い、そろえてベッドの脇に置いた。
私はもう一つのベッドに腰を下ろし、靴を脱いで同じく横たわった。
天井は白く、煙探知機が1つあって、赤い指示灯が数秒ごとに1度瞬く。
隣のベッドからは枕に埋めたユーナの声がした。
「足が痛い」
「キャンバスシューズで石板道を歩くからだ」
「キャンバスシューズは可愛いんだもん」
私は返さず、目を閉じてエアコンの吹き出し口からの規則正しい送風音を聞いていた。
天井のその小さな赤い点は、まだ規則正しく瞬いていた。
1. 崇聖三塔と「竜を鎮める」伝説
千尋塔と南北の副塔:
現実の崇聖三塔において、主塔である千尋塔は唐代(南詔国時代)に建てられた高さ69.13メートルの唐代密檐式四角塔です。一方、左右の副塔は宋代(大理国時代)に付け足された八角形の塔で、作中の記述通り、約100年の時代の隔たりがあります。
竜を鎮める金翅鳥:
古くから大理は水の災害が多く、「竜が暴れている」と信じられていました。大理の伝説では「竜はただ大鵬だけを恐れる」とされたため、水害を防ぎ街を守る祈りを込めて、三塔の塔頂には「金翅鳥(大鵬金翅鳥)」の金の装飾が載せられました。作中で塔頂が金色に輝いているのはこのためです。
2. 「風花雪月」と大理の自然
風花城の由来:
作中の「風花城」は、現実の大理古城がモデルです。大理の美しさを象徴する4つの名物は「風花雪月」という言葉で表されます。
下関の風(下関風)
上関の花(上関花)
蒼山の雪(蒼山雪)
洱海の月(洱海月)
蒼海:
作中に登場する広大な湖「蒼海」は、現実の洱海(アーハイ / じかい)です。時間帯や光の差し込み方によって、淡い青緑から深い墨緑色へと水面の色を変える美しい高原湖です。
3. 白族の建築と伝統色彩
白い建築へのこだわり:
白族の伝統的な住宅は「三坊一照壁」と呼ばれ、外壁を漆喰で真っ白に塗り上げるのが特徴です。作中で三塔が「素白」「白堊色」と描かれているのも、大理の伝統的な白の美学に基づいています。
衣装に隠された「風花雪月」:
白族の女性が身につける頭飾りにも「風花雪月」が表現されています。垂れ下がる赤いフリンジは「風」、刺繍の花は「花」、白い絨毛は「雪」、カーブを描く形は「月」を意味しています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




