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290. 彩雲城へ向かう

 最後の一尾を食べ終えたとき、皿のなかにはサラダ菜の葉がまだ何枚か残っていた。


 誰ももう巻く気がなかったからだ。


 私は箸を置き、椅子の背もたれに体重を預けて、ひと息をついた。


 満腹になったあとの、あの満足げなため息ではない。


 いやまあ、とにかく食べ終わった、といった、どこか諦念を含んだため息だった。


「今日の食事のまとめを言うと」ユーナは二つのつけダレの碗をテーブルの端へ並べ、手を拭きながら言った。


「朝ご飯はよかった。お昼の勐海米粉は、苦くて酸っぱくてまずかった。夜の焼き鳥は辛すぎ、焼き魚は塩からく、ココナッツゼリーは甘すぎ、ポーシュイババはべたつきすぎ」


「それから菜包魚」を私が受けた。


「ソースはよかったけど、魚に味がない」


「うん」ユーナはうなずいた。


「つまり、叻沙(ラクサ)城の本当の食のテーマは、完璧なものが一つもない、ってことね」


 私は少し黙って、それから認めた。


「……確かに、そういうことになりそうだわ」


 母は最後に使わずじまいだったサラダ菜の葉を皿へ戻し、ティッシュで手を拭うと、葬式の弁士のような平静な口調で言った。


「叻沙(ラクサ)城は、景色は悪くないが、食べ物がダメね」


 少し間を置いて、もう一言、とても真面目な顔で付け加えた。


「全部、ダメよ」


 その三文字が放たれたあと、テーブルはしばらく沈黙した。


 それから、私とユーナが同時に吹き出した。


 彼女が間違っているからではない。


 あまりにも正確すぎたからだ。


 そしてこれは、彼女がエリクソン公爵夫人として、ひとつの地球の都市に対して下した、いちばん簡潔な結審のことばだった。


 会計を済ませ、店を出る。


 夜市の人波は、入ったときよりもずっと増えていた。


 広場のほうから歓声が上がっていて、どうやら何かの催しが始まっているらしい。


 タイ族の伝統舞踊で、遠くから太鼓の音が聞こえ、人声に混じって、熱帯の祭り特有の熱っぽい空気を帯びていた。


 母は顔を上げて広場のほうをちらりと見た。


 足取りは緩んだが、結局はその騒ぎへ繰り出すことはなかった。


「今度ねにしましょう」と彼女は言った。


「今日はもうお腹いっぱいで、立って見る元気も出ないもの」


「それもそうね」私は言った。


「じゃあ、次に来たときのお楽しみに取っておくわ」


 私たちは来た道を戻り、夜市を出て、約束していたバスの停車場所を見つけ、そこで帰りの便を待った。


 夜風は街に入ったときよりも肌寒く感じられ、蒼南江から吹いてくる風にほんのりと水気が混じり、肌を撫でながら、叻沙(ラクサ)城がこの一日で溜め込んだ熱をそっと持ち去っていった。


 ユーナは私の隣に立ち、両手を薄手の外套のポケットに突っ込み、顔を上げて夜空を一瞥した。


「今日食べたもの、まともなのは一つもなかった」彼女は言った。


「でも、景色はまあまあだった」


「景色は外れなかったわ」私は言った。


「うん。少なくとも、孟勒の金塔寺はきれいだったし」


 私たちはしばらく沈黙した。


 夜風が吹き渡り、蒼南江に映る月の光が静かに揺れていた。


「明日は」母は路肩に立ったまま、叻沙(ラクサ)城の夜空を見上げて言った。


「彩雲城へ行くわ」


「うん」私は言った。


「明日、出発する」


「彩雲城に着いたら」彼女はひと呼吸置いた。


「あそこの食べ物なら、さすがに外れはしないでしょうね」


 そう聞かれて、私はかえって保証しかねた。


 なにしろ、彩雲城の駅で食べたあの一碗の米線も、私たちの口に合わなかったのだから。


「……まずは、観光客の少ない店から攻めてみましょうか」私は慎重に言った。


 母はうなずき、それ以上は何も言わず、ただ静かに、すっかり消えきらない夜市の灯りのほうを遠く見つめていた。


 やがて、バスのヘッドライトが路地の先から灯り、ゆっくりと私たちの目の前に停まった。


 あの日に焼けた大叔さんがまた現れ、ドアにもたれて、ものうげに手をひと振りした。


「美味しく食べられましたか」と彼は聞いた。


「食べました」と私は言った。


 特別な感情のこもらない口調で。


「菜包魚です」


「あの店ですか」彼はうなずいた。


「味はどうでした」


 私は少し迷った。


 彼は私たちに乗車券を渡してくれたし、人柄もよかったから、その店がダメだったとは率直に言いにくい。


「……ソースが、なかなかよかったです」私は礼儀正しい言い回しを選んだ。


 彼はおそらく何かを察したのだろう。笑った。


 物わかりのいい大人の笑みで、まるで「お気持ち、痛いほど分かります」と言っているかのようだった。


「叻沙(ラクサ)城の食い物はね」と彼は言った。


「何日か住み着かないと、本当に慣れるもんじゃない。観光客が来たばかりで好きになるわけないでしょ。そりゃそうよ」


 私はそれ以上何も言わず、ただユーナと母について車に乗り、窓際の席に腰を下ろした。


 彼の言うとおりだった。


 私たちはここにたった二日しかいない。


 そして、どの食べ物も、時間が必要なのだ。


 時間が合わなければ、味も合わない。


 それは誰かのせいではない。


 バスはゆっくりと動き出し、路地を抜け、橋を渡り、蒼南江を越え、叻沙(ラクサ)城の新城区のほう、あの静かな通りへと戻っていった。


 窓の外、月の光が蒼南江の水面に差し、あの赤土の滩は月明かりのなかで、意外なほど柔和な色をしていた。


 歩道もなければ、街灯もない。


 だが、月の光はあった。


 この叻沙(ラクサ)城での旅は、食べ物はことごとく外れだったが、景色は一つも外さなかった。


 おそらく、あの菜包魚のソースのように。


 もの自体は悪くない。


 ただ、相応しい組み合わせに出会えていないだけなのだ。


 翌朝八時、私たち三人は荷物を整え、ロビーで彩雲城行きのバスを待っていた。


 ホテルの朝食は昨日と同じで、同じ炒め米粉、同じゆで卵、同じ何の味か分からない薄粥だった。


 私たち三人は慣れた手つきでそれぞれ皿を取り、窓際の席を見つけて座った。


 窓の外、叻沙(ラクサ)城の朝は思っていたよりずっと静かだった。


 昨夜の月光夜市の賑わいは、まるで別の世界で起きた出来事のようだ。


 今のこの通りには、荷物を運ぶ三輪車が何台か走っているだけで、たまに一羽の熱帯の鳥が向かいの店の軒先にとまって、道を覗き込むように首をかしげ、それから羽ばたいて飛び去っていく。


「彩雲城の食べ物、叻沙(ラクサ)城よりはましでしょうね」母が箸で碗のなかの炒め米粉をかき分けながら、ふと口を開いた。


 その口調には、用心深い期待が滲んでいた。


「そうでしょうね」と私は言った。


「なにしろ省都だし、選択肢は多いでしょうから」


「願わくば」と彼女は言って、うつむき、碗の米粉をかき込み続けた。


 ユーナがこっそり私の肩を突き、耳元で小声で言った。


「ヘレナ様の、叻沙(ラクサ)城の食べ物へのご評価は」


「全部ダメよ」と私が代わりに言い終えた。


「昨夜、彼女が言ってたでしょ」


「さすがは公爵夫人」ユーナは笑いをこらえながら言った。


「総括が的確すぎるわ」


 私はその薄粥の一碗を飲み干した。


 出発の前に、ホテルのフロントのスタッフが私たちの顔を覚えていて、わざわざカウンターのうしろから出てきて、昨夜補充しておいた二本の虫除けスプレーを手提げ袋にねじ込んでくれた。


「彩雲城へ行かれるのでしたら」と彼は言った。


「あっちは蚊がずっと少なくなりますよ。標高が高い分、気温もこっちより涼しくて、朝晩は上に羽織るものが必要です」


「彩雲城と叻沙(ラクサ)城と、どれくらい差がありますか?」私は聞いた。


 彼は考えてから、答えた。


「昼間でも二十二度ほどで、朝晩はもっと下がるかもしれません。こっちほど蒸し暑くもなければ、日差しもきつくありませんよ」


「涼しい気候ですって?」母が脇で繰り返し、顔ににわかのような期待の色を浮かべた。


「あっちは、叻沙(ラクサ)城みたいに暑くないの?」


「彩雲城は標高が高くて、一年中春のように過ごしやすい気候ですから」とフロントのスタッフは言った。


「涼しいのがお好きなら、行ったらとても快適だと思いますよ」


 母はそれを聞くと、一気に活気が戻ってきた。


 彼女は深く息を吸い込み、まるでその冷たさを先取りして味わうようにしてから、うなずき、戦意に満ちた顔つきで言った。


「よし、私、準備できたわ」


 私とユーナは彼女を見て、もう一度顔を見合わせた。


「母さん」と私は言った。


「あなた、旅行に行くのであって、戦争に行くんじゃないですよ」


「どっちも同じよ」彼女は、とても平静な口調で言った。


「準備ができれば、出発するだけのこと」

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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