282. 酸苦の米粉
私たちは店に入り、窓際にある折りたたみテーブルを一つ見つけて腰を下ろした。
店内にはエアコンがなく、天井で首振り扇風機が数台、ゆっくりと回っているだけだった。
羽根にはうっすらと埃が積もっている。それどころか、扇風機が送り出してくる風自体がぬるく熱気を帯びていた。
叻沙城の正午において、文明の利器(冷房)を伴わないあらゆる涼の手段は、すべてただの徒労に過ぎないのだ。
店主は四十歳前後の男性で、肌は陽に焼けて深い褐色をしており、笑うと目尻に深じわが数本刻まれた。
彼は私たちが席に着いたのを見ると、肩にかけたタオルで手を拭きながら歩み寄ってきた。
「いらっしゃい、三名様かね? 何にしよう?」
「勐牛米粉を三杯」
母が真っ先に口を開いた。その口調は確信に満ちており、「もうこれと決めている」という強い意志が感じられた。
店主はニカッと笑い、余計な追及はせずにくるりと向きを変えて厨房へと戻っていった。
私は俯いて、テーブルの上に置かれたメニューに目を落とした。
この米粉には唐辛子も入るようだったが、メニューには辛さを選ぶ項目が見当たらなかった。
これは私が紅龍国の他の地域で米粉を食べてきた経験とは、少しばかり異なっていた。
大抵の店なら、店主が「辛さは控えめ、中辛、大辛のどれにしますか?」と聞いてくるものだ。
だが、この店のメニューの辛さ欄の脇には、見慣れない選択肢が記載されていたのだ。
『苦味:控えめ/普通/濃いめ』
私はその文字を、数秒間じっと見つめてしまった。
辛さではなく、苦さを選ぶというのか? この米粉は一体なにを売りにしているのだろう?
ほどなくして、店主が湯気の立つ米粉を三杯、厨房から運んできた。
丼は小さくなく、直径二十センチほどはある。白磁の分厚い器で、テーブルに置かれた瞬間にずっしりとした重量感が伝わってきた。
丼の中の具材は実に盛りだくさんだった。
幅広の米粉が底に沈み、スープの表面には刻んだパクチーとネギがたっぷりと浮かび、サッと湯通しされた薄切りの牛肉が数枚載っている。
ピンク色の肉片は熱いスープの中で端がほんの少し丸まっており、見るからに新鮮そうだった。
スープの表面には鮮やかな赤いラー油が一匙まわしかけられ、クリーム色の出汁の上にオレンジ色の輪が美しく広がっている。
見た目だけなら、実に食欲をそそる一杯だった。
自分で味を調えるための薬味も、店主が一緒に運んできてくれた。
だが、よくあるラー油や酢といった調味料ではなく、カットしたライムが一欠片と、クラフト紙に包まれた塩が一袋添えられていた。
店主はこの三品——米粉とライムと塩の袋をそれぞれの前にきれいに並べると、一歩下がって「ごゆっくり」とでも言いたげな笑みを浮かべ、私たちの様子を見つめた。
「そうそう」彼は思い出したように向きを変え、カウンターから飲み物を二本取ってきた。
「これは当店特製の『苦蕎麦茶』です。苦味があって米粉とよく合いますよ。いかがです?」
私はその深い褐色の液体が入った二本の瓶を見つめ、心の中に切実な疑問が浮かぶのを抑えきれなかった。
この店は「苦い」という要素に、何か並々ならぬ執着でもあるのだろうか?
「いえ、結構です」
私は丁寧にお断りした。
店主は笑って飲み物をカウンターに戻し、再び厨房へと下がっていった。
私は箸を取り、米粉を一すくい持ち上げると、ふうふうと息を吹きかけて冷ましてから口へと運んだ。
——その瞬間、言葉にできない強烈な苦味が舌の上で炸裂した。
あのゴーヤの「苦いけれど、まあ許せる」といった生易しい苦さではない。
もっと直接的で、まるで薬草の根っこを絞り上げ、その汁をそのままスープに注ぎ込んだかのような猛烈な苦味だった。
それは舌先から舌の奥へと一気に広がり、喉の奥まで侵入してきて、思わず激しく眉をひそめさせた。
さらにタチの悪いことに、あのライムは店主の仕草からして、スープに絞って風味を立てるためのものだったのだ。
私は言われた通りに試してみた。
すると、その一杯の米粉は「純粋な苦味」から「酸っぱくて苦い謎の物体」へと変貌を遂げた。
ライムの酸味は苦味を中和してくれるどころか、むしろ苦味という強固な土台の上に、酸っぱい泥沼の屋根をもう一層重ねたかのようだった。
スープ全体の味が、ますます形容しがたい混迷を極めていく。
私は苦悶の表情を浮かべ、思わず口元をぴくぴくと痙攣させた。
向かいに座るユーナも、状況は大同小異だった。
彼女は私より先に口をつけていたらしく、手の甲を唇に当て、碧い目を細めて全身をカチコチに硬直させていた。
そして母に至っては——。
母もまた、自分の誤った選択を心の底から悔やんでいるような顔をしていた。
彼女は翻訳の魔導具で言葉を紅龍語に変換するのをやめ、エリクソン現地の高地グリンマン語で私に直接言った。
「これは……実にまずいな。ここの料理人は、これを作っていて恥ずかしくならんのだろうか?」
彼女の口調は静かだった。だが、その平静さの下には、限界ギリギリの感情が押し殺されていた。
「ここはあまりにも蒸し暑いので、こういう苦くて酸っぱいものを食べて食欲を増進させるのかもしれませんね」
私も故郷の言語で母に返し、なんとかもっともらしい理屈でフォローを試みた。
「そうかもしれんな」
母は箸で器に残った米粉をぐるぐるとかき混ぜ、実に複雑な表情を浮かべた。
「だが、この味は最後の最後まで受け入れがたい……」
そのとき、店主がこちらの雰囲気を察し、会話を聞きつけたようだった。
もちろん、彼に私たちが話している言語の内容などわかるはずもない。
だが、人間の声のトーンや表情というものは、言葉の壁を越えて伝わるものだ。
だからこそ、彼はトコトコと駆け寄ってきたのだった。
あるいは自分の店の料理に絶対の自信があるのか。
それとも今の叻沙城は旅行のオフシーズンで、一人ひとりの客の反応が殊更気になるのか。
ともかく彼は私たちのテーブルの脇までやってくると、「感想を聞かせてくれ」とばかりの笑顔を向けた。
「お客さんたち、いかがでしたか? 当店自慢の名物、勐牛米粉のお味は!」
この質問は実に答えにくかった。
美味しいと言えば自分の舌と良心に背くことになる。
かといって不味いとバッサリ切り捨てれば、私たちがいたずらに不躾で贅沢な客のように映ってしまう。
そこで私たち三人は、それぞれ異なるオブラートに包んだ表現で、この米粉への評価を提示することにした。
「現地の民族の食文化を実に深く象徴した、極めて個性的な米粉ですね」
母が真っ先に口を開いた。
紅龍語で発せられたその口調は極めて丁寧で、同時にどこか冷ややかな距離感を保っていた。
翻訳の魔導具がこの言葉を非常に礼儀正しく変換してくれたものの、「私は二度とこの杯を口にするつもりはない」という裏のニュアンスは、きっと店主にも伝わったはずだ。
「このお味は、きっと地元の皆様の舌にとてもよく馴染むのでしょうね」
私も紅龍語で続き、同じように外交辞令めいた曖昧な笑みを浮かべた。
「まあまあね」
ユーナの答えが一番簡潔で、たった四文字(中国語なら二文字)だった。
だが、この短い言葉の持つ重みは、どんな長文の言い訳よりもずっと正直だった。
この回答を聞いた店主は、落胆するどころか、かえって満面の笑みを浮かべた。
外地からやってきた観光客のこういう反応には、とっくに慣れっこになっているようだった。
「そうなんですよ! こちらの人間はみんな、酸っぱいものや苦いものを好んで食べるんです。何しろこの暑さですからね。こういうガツンとくる料理が食欲をそそるんですよ」
彼はそう言いながら、肩にかけたタオルで再び手を拭いた。
「お客さんたち、かなり遠くからいらしたんでしょう?」
「ええ、かなり遠くから」
私は頷いた。具体的にどこから来たかは言わなかった。
まさか「異世界から」とは言えないし、「彩雲行省の外から」などと言えば、世間知らずの観光客だと笑われてしまう。
「ハハハ、でしょうね! ここの人間はみんな、これを子供の頃から食べ慣れてるんですよ」
店主は笑い、あまり綺麗には揃っていないものの、健康的で白い歯をのぞかせた。
「実はね、この苦味の正体は現地の植物の根っこでしてね。『苦胆藤』っていうんです。乾燥させて粉末にして、出汁をとるときに少し隠し味に入れるんですよ。もし初めて召し上がるなら『控えめ』にすると良かったんですがね」
「私たち、『普通』にしました」
私がそう伝えると、店主は「おお……」と語尾を長く引き伸ばした。
そしてその表情を、笑顔から「なるほど、それは災難だった」という同情の色へと変化させた。
「それなら確かに、かなり苦かったでしょう! でもね、あと数口食べ進めてみてください。最後にふっと、かすかな甘みが戻ってきますから」
……甘みが戻る?
私はその言葉を心の中で何度も反芻した。
それから俯き、丼の中にまだまだたっぷり残っている米粉を見つめた。
この「甘みが戻る」という言葉を信じるだけの勇気は、どうしても湧いてこなかった。
しかし店主の返答は見事なものだった。
客に気まずい思いをさせず、同時に自分の店の名物としてのプライドも守るという絶妙な立ち回りだ。
彼はそう言い終えると、さらに一口付け加えた。
「ここに長く暮らせば、きっと現地の民の知恵というものが理解していただけますよ」
それから彼は爽やかに笑い、「どうぞ、ごゆっくり!」と言い残して厨房へと戻っていった。
私たちも「残すのは悪い」という精神を発揮し、ペースを上げて丼の米粉をきれいに平らげた。
もちろん、スープだけは大量に残してしまったが。あれだけは、どうあがいても飲み干すことができなかったのだ。
食後、会計を済ませて店を出た。
店を出る間際、母がふと振り返ってその店を見つめた。その表情は非常に複雑だった。
「あの店主は……」
彼女は故郷の言語で、ぽつりと小声で呟いた。
「根はいい人なのだがな」
「ええ」私は頷いた。「ただ、自分の米粉に絶対の自信を持ちすぎているだけです」
「今度、また叻沙城に来ることがあっても」
母は一拍置き、強い決意を込めて言った。
「私は、二度と米粉は食べん」
「では、何を食べますか?」
「……分からん。しばらく考えさせてくれ」
ユーナが隣で、耐えきれずに吹き出した。
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