279. 山道の登り
そのときの私は、カットパイナップルを片手に目を細め、朝食会場の快適な冷房を堪能しながら、人生捨てたものじゃないな、なんて思っていた。
「今日は最初にどこへ行くの?」
ユーナがお粥に豆腐乳を一匙すくい、顔を上げて尋ねてきた。
「叻沙城で一番有名な観光地だよ」
私はスマホを開き、あらかじめ調べておいた写真を彼女の前に差し出した。
「山の頂に建つお寺。地元の人たちは『孟勒金塔寺』と呼んでる」
ユーナはスマホを受け取ると、じっくりと画面を見つめた。
写真の中には、青空の下で輝く金色の多層の尖塔と、それを囲む緑の木々と白い回廊が写っていた。
陽射しが降り注ぎ、塔の頂をまるで燃え上がる炎のように照らし出している。
塔身は細長く、尖端に向かって幾重にも重なりながら狭まっていく。
紅龍国でよく見かけるお寺とは全く異なる建築様式だ。
もっと繊細で、華やかで、南方の奥深くからやってきたような異国情緒に満ちあふれていた。
「これは……」ユーナはしばらく見つめてからつぶやいた。「花の国や紅龍国のお寺とは、ずいぶん違うね」
「そうなんだ。彩雲行省は南の周辺文明の影響を強く受けていて、このお寺も南伝仏教の様式で建てられているんだよ。金塔は、そういう建築の象徴なんだ」私は説明を続けた。「『孟勒』は現地の少数民族の地名につく言葉で、『金塔』は文字通りあの金色の塔の頂点を指している。お寺は山の上に建てられていて、カートやエスカレーターで登ることもできるし、歩いて登ることもできるんだよ」
母が私の手からスマホを手に取り、真剣な表情で写真を一枚一枚めくっていった。
「歩いて登る」
彼女は何の迷いもなく、即座にそう宣言した。
「私も歩いて登るのがいいと思います」私は同意した。
ユーナは少し考えると、肩をすくめた。
「いいよ。どうせ私たちには魔法があるし、疲れたりしないでしょ」
食後、私たちはスマホでタクシーを呼び、最初の目的地へと向かった。
車は叻沙城の街並みを抜けて郊外へと走り、沿道の建物は次第にまばらになっていった。
代わりに両脇の熱帯植物が勢いを増していく。
ゴムの木、バショウ、燃えるような赤色の鳳凰木、そして名前も知らない蔓植物が塀を覆い尽くしていた。
暑い。
太陽は昇ったばかりだというのに、早くも地面を蒸し器のように焼き始めている。
私は窓枠に手を置き、走り抜ける熱風を感じながら、流れていく道端の屋台に目をやった。
早くもスイカを切り売りしている人がいる。
赤い果肉に白い種、見るからに冷たそうだ。
母は今日、動きやすい服装に着替えていた。
薄手の明るいグレーのスポーツトップスに、クリーム色のゆったりとした長ズボン、足元は昨日木棉城で買ったスニーカー。
後部座席に座り、金髪を後ろで一つに束ねた彼女は、じっと窓の外の遠くを見つめていた。
車が角を一つ曲がると、前方に連なる山並みが急にはっきりと姿を現した。
孟勒金塔寺のある山は、さほど高くはない。
麓から見上げると丸く緩やかな形をしており、深い緑の中に一本の白い石段が山腹へと伸びているのがかすかに見えた。
例の金塔といえば、午前の陽光をいっぱいに浴びて透き通るように輝き、樹々の梢を突き破って青空の下に静かに聳え立っていた。
「この山か?」
母は緑豊かなその丘を見つめ、あからさまに落胆した表情を浮かべた。
それは極めて微妙な表情だった。
蔑みでも嫌悪でもなく、長く期待していた分、実物を目にしたときにどうしても溢れ出てしまう「え、これだけ?」というあの落差の顔だ。
「母上、この山はお寺をお参りするための山であって、挑むための山ではありませんよ」
「うむ……」母は表情を引き締め、改めて金塔へ視線を戻した。「たしかに、あの金塔は美しいな」
彼女は懸命に山の標高から意識を逸らし、建造物そのものへと興味を移そうとしていた。
そうして、どうにか現実を受け入れたようだった。
「それに」私は一呼吸置き、わざと声を潜めた。「この後で向かう『風花城』と『雪月城』は、本当の深山幽谷の中にありますからね」
母の目が、その瞬間にガラリと変わった。
それまでの形ばかりの興味が、一瞬にして本物の熱量へと取って代わったのだ。
普段、彼女が何か手応えのある任務の話を聞いたときに見せる、あの集中と期待。
まるで狩人が獲物の足跡を見つけたかのような目つきだった。
「深山幽谷の中、だと?」
「ええ。彩雲行省の最奥部です。あちらの山々こそが本物ですよ。標高は四、五千メートルに達し、一年中雲と霧に包まれています。峰によっては、まだ人未踏のものさえあるそうです」
「……」母は一瞬、絶句した。「誰も登頂したことのない峰……?」
「そのうちの一峰、『雲龍雪山』と呼ばれる山は、現在に至るまで誰一人として完全登頂できていないそうですよ」
母はすぐには返事をしなかった。
だが、その瞳の奥に宿る熱量は、もはや言葉で説明する必要もないほどだった。
それは熟練の冒険者だけが持つ、掲げられた旗を見れば駆け出さずにはいられない、あの本能だった。
車が止まった。
到着したのだ。
孟勒金塔寺の麓の入口には赤いカートが数台停まっており、その脇から立派な石段の参道が伸びていた。
石段の両脇にはミャンマーカツラがずらりと植えられ、クリーム色の小花を咲かせている。
濃厚な甘い香りが参道全体に立ち込め、叻沙城の朝の熱気の中でことさら存在感を放っていた。
参拝客は脇にある屋外エスカレーターに乗ることも、カートを使うことも、あるいはそのまま徒歩で登ることもできる。
もし私が前世の三十代の体のままだったなら、迷わずお金を払ってエスカレーターかカートを選んだだろう。
腰は痛むし、膝はときどき疼くし、長時間の残業の後に山登りをする余力など微塵も残っていなかったはずだ。
山登り? あの頃の私にとって、それは週末の丸二日を養生に費やさねばならない単なる体力の浪費であり、娯楽などでは断じてなかった。
しかし、二度目の人生を歩んでいる今の私はまだ十四歳。
まさに体力のピーク、精力が満ちあふれている時期だ。
足取りは軽やかで膝の動きもスムーズ、収納の腕輪には魔力ポーションまで忍ばせている。
最悪でも自分に身体強化の魔法を一発かければ済む話だ。
だからこそ、自分の足で登りたいと思うのは当然のことだった。
そしてユーナも、明らかに私と同じ考えだった。
彼女は扇子を畳んで腰に差し込むと、ピンクの髪を手早く高いポニーテールに結い直した。
石段の一段目に足をかけるその表情は、まるでこれから一仕事終えて大物を縛り上げようとするときの、あの準備万端な顔つきそのものだった。
母ヘレナにいたっては言わずもがなだ。
百戦錬磨の元冒険者である彼女が、この程度の小さな山に怯むはずがない。
麓で見上げたときのあの落胆は、むしろウォーミングアップでも始めるかのような気楽さに変わっていた。
この山は彼女にとって挑戦などではなく、ほんの準備運動に過ぎないのだ。
足元にある荷物を軽く持ち上げて、また静かに下ろす、その程度の運動量でしかない。
「行くぞ」
母が真っ先に石段へ足を踏み出した。その足取りは力強く、少しもペースを落とす気配がない。
私とユーナは顔を見合わせ、その後に続いた。
石段の両脇から漂うミャンマーカツラの香りは、上に登るにつれていっそう濃くなっていった。
時折、山の斜面を吹き抜ける熱風が枝を揺らし、クリーム色の小さな花びらがひらひらと舞い落ちて石段の隙間を埋めていく。
中腹まで登ったところで、私たちは何組かの観光客に追いついた。
四、五人の小さなグループで、どうやら他の街からやってきた旅行者のようだった。
二十代か三十代くらいのカップルが二組と、その後に大きなリュックを背負った男の子が一人、ぽつんと続いていた。
ほぼ同時に登り始めたこともあり、自然と一つの隊列のようになって進んだ。
最初のうち、彼らのペースは悪くなかった。
登り始めの数分間は全員がしっかりとした足取りで、グループの一人の女の子などは道の両脇に咲く花をスマホで撮影しながら歩いており、シャッター音が途切れず響いていた。
だが、山を半分ほど登ったところで、形勢は一気に悪化した。
叻沙城の強烈な暑さが、この中腹あたりで本領を発揮し始めたのだ。
石段は日差しを浴びてフライパンのように熱せられ、足裏からじりじりと熱が伝わってくる。
たまに木陰が遮ってくれるものの、ひとたび日向に出れば、さらに容赦ない太陽光が待ち受けていた。
真っ先に音を上げたのは、例の大きなリュックを背負った男の子だった。
重いリュックに加え、側面に刺した二本の水筒のうち一本はすでに空になりかけている。
白いTシャツは汗でぐっしょりと背中に張り付き、一歩登るたびに荒い息づかいに合わせて肩が激しく上下していた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




