259. 半年の刻限
私自身も、この反応がこんなに速く来るとは思っていなかった。
だが洪おじさんという名前が出た途端、心のなかのどこかの弦が張りつめた。
母は私を一目、見た。
眉間のためらいは完全に散り、代わりに真剣な、心配そうな表情が浮かんだ。
「さっき、あんたが静おばさんと話しているとき、私は水系魔法で、そこにいる全員の生命力の流れを感知してみた……洪おじさんの生命力は、静おばさんより、ずっと、低かった」
私は眉をひそめた。
「どれだけ、低かったのです」
「年の差で説明できる類の低さじゃない」
彼女は平静に言った。
「根元から、内側へと崩れていくような低さ、まるで木の根がもう腐り始めているのに、表面にはまだ葉がついている、そんな感じ。根本的には、もうあまり、長くは保たない」
私は返さなかった。
生命力、この世界で、ひとつの生き物の最も基礎的な生存状態を表す概念。
草木、鳥獣、人間、すべての生きているものは、生命力を消耗し、また食事、呼吸、休息を通じて、それを補っている。
正常な人間なら、この消耗と補充の循環は、相対的に均衡している。
だがもし体内の何かがそれを加速し、補充がいつまでも消耗に追いつかなければ。
「あとどれだけ、保つと思いますか」
私が訊いた。
母はすぐには答えず、ただ軽くため息をひとつ、ついた。
「おそらく……半年、だろうな」
私はこの二字を胸のなかで、長いこと押しつぶして、何も言わなかった。
食品フロアのBGMは、年代を感じさせない軽やかな旋律。
横で子どもが一人、アイスクリームを手にくるくると回り、あわや母の胸にぶつかりそうになって、横にいた大人にひょいと掬い上げられ、一言、謝っていった。
世界は、まだ、普段通りに動いている。
「何か、彼を助ける方法はありますか」
私は再び口を開いた。
「せめて、もう少しだけ長く、生きられるように」
私はこの言葉を発したとき、声は自分が思うより低かったが、安定していた。
母は、私の性急さに取り乱すことはなく、真剣に考えて、言った。
「ある。生命力が欠けているのなら、体外の生命力を体内へと注ぎ込めば、緩和はできる。私に、できる」
「だがそれは、命を繋ぐだけで、根治ではない。それに、体外の生命力と本体との親和度には限界がある。維持できる時間はあまり長くはない……おそらく、これで三年、命を繋ぐのがせいぜいだ」
「それで十分です」
この言葉が口から出た時、私自身が少しだけ驚いた。
あまりに速い。
ずっとこの返事を待っていたかのように。
だが、この言葉のなかに隠れているものは分かっている。
三年、それだけあれば、彼にユーナの顔をもう何度か見せられる。
それだけあれば、ご夫婦がもう少しだけ、一緒にいられる。
それだけあれば、この家の灯りを、あと三年、点し続けられる。
私は心のなかで、ひそかに決めた。
今夜、どんな手を使ってでも、この目で洪おじさんの身体の状態が一体、どうなっているのかを見届けよう。
母が処理するのは、生命力の問題。
だが私には、彼女より一枚、切り札が多い。
水属性は命の流れを司る。
木属性は成長と修復を司る。
この二つを合わせれば、単に命を繋ぐ以上のことが、あるいは、できるかもしれない。
夜が訪れたとき、洪おじさんの家の居間は、もう灯りを消していた。
私達の寝床は、ユーナのもともとの部屋。
彼女のベッドはダブルベッドで、ちょうど私と母が眠れる。
ユーナは自分で客間へと移った。
あそこには小さなシングルベッドがあるから、まあ一晩、どうにかなるだろうと。
それに、こうするとなんだか昔、一人で寮に住んでいた頃みたいでいい、そう自分で言って笑ったが、その笑みは、少しだけ、気が散っているように見えた。
私はその笑みを追って、何も聞かなかった。
部屋の灯りは消した。
カーテンはあの少し古びた木綿の生地で、光を通しにくい。
月明かりは細く一本の隙間だけを洩れてきて、床の上に、細く一本の銀白色の帯となって落ちている。
母はもう眠っていた。
呼吸は長く安定していて、かすかな満足感さえ感じられる。
おそらく今日、あまりに美味しいものを食べすぎたのだろう。
私は目を閉じ、静かに意識が沈んでいくのを待った。
だが、そのとき。
魔力感知に、一筋の尋常でない波動が、伝わってきた。
玄関からでも、廊下からでもない。
部屋のベランダの方角から、かすかに、滲み込んでくる。
それは異様な魔力のさざ波。
極めて微弱で、まるで何かが、誰かの生命エネルギーを、静かに消耗し続けているかのよう。
深夜のうちに、誰にも気づかれずに、少しずつ失われていく。
私は目を開き、布団をそっと抜け出し、手探りでスリッパを見つけた。
踏みつけるときには、床に落ちる足音が無視できるほど小さくなるよう、なるべく気をつけて、それからベランダの扉を押し開けた。
夜風は冷たく、木棉城の夜特有のかすかな湿り気を帯びている。
スリッパを履くという動作を終えたとき、頭のなかでは実際、もうひとつのことを同時に巡らせていた。
昼間、デパートで、母に、それで十分です、と言った。
あの言葉は直感から飛び出したものだ。
何のためらいも経ずに、あまりに速く。
口に出たあとで初めて、この背後に押しつぶされているものが何かを、私は意識した。
私がまだ竜児だったあの歳月、洪おじさんは、とても具体的な存在だった。
漠然とした恩人でもなければ、私の人格を鋳造した偉大な導き手でもない。
彼はただ、生活のなかに現れる、具体的な人。
実習の証明書にサインをしてくれる人を探せずにいたとき、彼は出勤に遅れてしまう時間のなかで、私のためにペンを持ってくれた。
私が失業してもっとも落ち込んでいたあの時期、彼は余計な慰めもなく、ただ履歴書を一版、修正してくれて、それから友人の会社が人を募集しているから、試しに行ってみないかと言った。
あの仕事には、後になって本当に行った。
本当に、ちゃんとやれた。
洪おじさんは、これを大恩だとは思っていない。
彼はただ助けて、それからやることをやっただけ。
こういう人は、どちらの人生であれ、二人目にはなかなか出会えない。
ベランダの扉を押し開けると、夜風が真正面から打ちつけた。
洪おじさんは、ベランダの隅に立っていた。
彼は私に背を向け、片手でベランダの手すりを支え、もう片方の手で濃い色の古い手拭いを一枚、握りしめ、口を押さえて、咳き込んでいる。
あの咳の音は、とても軽い。
わざと殺して、誰にも聞こえないようにしている、あの咳き込み方。
だがこの静かな夜のなかでは、どんなに軽くても、隠しきれない。
「洪おじさん。まだ起きてらしたんですか」
私の声は、自分の予想よりずっと軽かった。
この夜のなかに落ちても、小さな石が深い水に放り込まれたほどの音しか立たなかった。
洪おじさんの背中が、猛然と硬直した。
彼が振り返る動作はとても速かったが、あの手拭いを握る手は、もっと速かった。
速すぎて、意図的なほど。
素早くあの手拭いを畳み、手すりの横に掛かったあの古い布袋のなかへと押し込み、ついでに袋の口もぎゅっと握った。
全動作が淀みなく流れるようで、一度や二度のことではない。
私は彼が何を隠しているかを知っていた。
もし私がまだ以前の竜児だったら、おそらく、本当に見抜けなかっただろう。
夜色はもともと深く、あの手拭いの色ももともと濃く、洪おじさんの隠す動作も素早い。
普通の人の目は、この明かりの条件では、ただ一人の老人がベランダに立って夜風に当たっているのを見るだけ。
それだけ。
だが今の私の目は、普通の人の目ではない。
魔力のもたらす夜視能力で、私は闇のなかを猫よりもはっきりと見ることができる。
あの手拭いの上には、一筋の濃い湿り気が出現していた。
色は手拭いそのものの濃い色よりも、さらに濃く、鮮やかな赤を帯びていた。
私はすぐには口に出さず、ただ数歩近づき、彼と並んでベランダの手すりにもたれた。
夜風が吹いてくる。
通りの下を、一、二台の車の灯りが、遠くからなぞるように通り過ぎ、消えた。
「洪おじさん」
私は平静に口を開いた。
声はわざと、とても低く。
「どうか正直に、私にお話しください。身体に、何かあったのですか」
洪おじさんは答えなかった。
身体がかすかに揺れ、あの布袋を握る指が少しだけ、きつく締まった。
「隠しようとなさらなくていいんです」
私は続けた。
「なにしろ私は、こことはまったく違う世界から来ています。あの世界では、魔力を少し動かせば、人の体内の状態が、はっきりと見えます」
私はこの言葉を発するとき、語気に迫るものはなかった。
ただ、ひとつの事実を陳述しただけ。
洪おじさんは数秒、沈黙した。
それから、彼は顔を私へと向けた。
横顔は夜色のなかで、昼間より、老けて見えた。
「まさか」
彼の声は極限まで潜められ、語気には隠しきれない慌てが滲み出た。
「まさか、エイにも、分かってしまったのか」
「いいえ」
私は直接、そう言った。
この答えを、彼に待たせることはしなかった。
「彼女には、対応する魔法の属性がありません。体内の状態は見えません。今、知っているのは、私と、私の母だけです」
洪おじさんの肩が、軽く落ちた。
それは声のない、だが本物の、ほっとした息だった。
私は彼を追い詰めて口を開かせることはせず、ただ静かに待った。
夜風が再び吹いてきた。
階下の遠くで、どこの家の犬かが二声吠えた。
すぐに、止んだ。




