245. 三つの鞄
この分配比率は、これから花の国と紅龍国で行う調達計画から逆算して割り出したものだ。
花の国では主に、正規ルートでは入手しにくいものと電子機器を調達する。
紅龍国では主に、農産物の種子と、花の国では価格の高い工業製品を。
青龍幣の使用量が最も少ないのは、青龍国からは旧型の銃器といくつかの旧式工業製品だけを買い、収納の首飾りで運び戻して解体し、領地の技術発展を進めるつもりだからだ。
「小事だ」
沖田は封筒も麻袋も脇に押しやり、それからかすかに顔を横へ向けて、扉の外に何かを言った。
翻訳の魔導器の出力が耳孔のなかで響いた。
彼が言った言葉は「銀行へ行ってこい」。
扉の外からかすかな足音が聞こえた。
花の国の極道映画なら意図的に身を低くした早足で表現される類の足音だが、実際に耳にすると、むしろ、この者たちは専門の訓練を受けているという圧迫感があった。
五分ほど経つと、三台の黒いセダンが、私たちが通ってきたあの門から出ていった。
沖田の手下たち。
銀行かどこかの両替所へ金を取りに行ったのだ。
彼らが金を取りに行っているあいだ、沖田は私にいくつかの質問をした。
そのひとつが、青龍国のビザも一緒に手配できるか。
この問題は、来る前から考えていた。
私は当初、沖田の人脈網で私、ユーナ、そしてヘレナの青龍国ビザをまとめて取ってもらい、その後の青龍国行きで転送魔法に頼らずに済ませるつもりだった。
転送魔法は便利だが、使うたびに魔力を消耗するし、青龍国のような広大で人口の少ない場所では、転送座標の固定そのものが精確に行いにくい。
だが沖田の返事で、私は考えが甘かったと悟った。
「ビザというものはな」
彼はすっかり冷めた茶を一口啜った。
口調には「俺が助けたくないんじゃない、本当にできないんだ」という率直さがあった。
「青龍国のような、ああいうだだっ広い場所ですら、正規の入国ビザは国のシステムを通す。俺の人脈がどれだけ強くても、入国審査システムのなかにお前に合法の入国記録をでっち上げることだけは、できん」
彼は一拍おき、私をちらりと見た。
私はしばらく黙った。
「分かりました」
私は言った。
「青龍国は、別の方法を考えます」
沖田は頷いた。
「別の方法」が何かを詮索することはしなかった。
知らないほうが安全なこと、たまにある。
これは彼が花の国という土地で七八十年を生きてきた心得であり、私にほど「お世話」されたあとでも完全に崩壊しなかった理由でもある。
金が届いたときには、空はもうやや西に傾いていた。
黒いブリーフケースが三つ、あの黒スーツの男たちにしっかりと手に持たれて、和室へと入ってきた。
彼らはブリーフケースをローテーブルの反対側に置き、それからとても手際よく、ケースの留め金を開き、蓋を自然に広げさせた。
なかは札束だった。
花の国の金、紅龍国の通貨、そして少量の青龍幣。
紙幣の色はそれぞれ異なる。
花の国の円はあの茶色と青を主調にした、細かな偽造防止紋様の紙。
紅龍国の通貨は色がもっと豊かで、高額の数種にはホログラムの偽造防止帯までついている。
青龍幣は量が一番少なく、ほんの一束だけで、色は緑がかっている。
これだけの現金を目の前にすると、視覚の衝撃力はかなり強い。
総額がどれほど大げさかというより、現代社会の日常生活では、普通の人がこれほどの量の、無造作に広げられた紙幣を、一度に目にすることなどまずないからだ。
みんな電子マネーや銀行口座の冷たい数字に慣れきっている。
これらの「紙」は、花の国の日常のなかで、すでにどんどん「時代遅れの媒体」になりつつある。
だがヘレナにとって、これらの「紙」の意味はまったく別だった。
彼女はローテーブルの反対側に立ち、かすかに首を傾げ、それからとても小さな、だが私とユーナの両方に聞こえる、声で訊いた。
「娘よ、パン一斤にも満たないこの紙切れが、本当に買い物に使えるのか」
この言葉の困惑は、中世の異世界から来て、金貨・銀貨・銅貨の三段階通貨体系に慣れた人間が、信用貨幣に直面したときの本能的な反応だ。
彼女の認識では、貨幣の価値は素材そのものから来る。
金貨に価値があるのは、金でできているから。
銀貨が羊一頭を買えるのは、銀でできているから。
そして目の前のこれらの紙、薄くて、ひらひらしていて、力を込めて破ればすぐに破れる紙、が、なぜ物と交換できるのか。
「はい」
私は低い声で答えた。
「この世界は貴金属を通貨として使うのをやめて、紙幣という信用貨幣で取引をしています。これによって重さを減らし、使いづらさを下げ、同時によりよい金融活動ができるようになりました」
「信用貨幣とは何だ」
彼女が追及した。
「金融とは」
この二つの問いは、もし現代経済学の背景がまったくない人に説明しようとすれば、少なくとも三十分と、図を描くための紙ナプキンが一枚は必要だ。
「この問題は」
私は声を潜めた。
「エリクソン公爵領に戻ったときに、母上にご説明します」
まずはごまかしておく。
いや、ごまかしではない。
タイミングが合わない。
沖田の和室で信用貨幣の発行メカニズムを議論するなど、どう考えても絵面がおかしい。
ヘレナは私を一瞥した。
「うん。クローディア、これからはもっと、この世界のことを私に教えておくれ」
彼女はようやく紙幣から視線を外した。
口調にはなお平静が滲んでいるが、その言葉のなかに、ほんの一筋の好奇心があるのを、私は感じ取ることができた。
「とても興味がある」
沖田邸を出たときには、空はもうやや暗くなっていた。
花の国の都心の人工灯がひとつ、またひとつと灯り始め、ネオンの看板が暮色のなかでひときわ目に刺さる。
私達三人は歩道を歩いている。
背後で、あの濃い茶色の木の扉が夜風に一度、かすかに「ぎしり」と鳴き、誰かが中から戸を閉め直した。
「まずはホテルに戻る。明日、彼が人を寄越してパスポートを届けてくれる。品物を確認したら、紅龍国へ向かう準備ができる」
ホテルに戻ったときには、空は完全に暗くなっていた。
私は先頭を歩き、右手にあのブリーフケース三つぶんの現金を入れた手提げ袋を提げ、左手は無意識に外套のポケットにある沖田家の金製の勲章を握りしめている。
ユーナは私の左手側を歩き、歩みは安定していたが、視線は絶えず周囲を走査していた。
母は一番後ろを歩き、足音は大人とは思えないほど軽やかだ。
見た目はまるで異世界旅行に来て、満足そうに戻っていく西欧の気品あふれる大人の女性。
「先に戻って荷物を置こう」
私が言った。
エレベーターがゆっくりと上昇するあいだ、三人とも口を開かなかった。
気まずさではない、私たち全員が、同じことを考えていたからだ。
ブリーフケース三つぶんの金を、どうやってこの世界の銀行システムのなかに預けるか。
答えは、とても面倒だった。
理由はとても簡単。
この三袋の現金をホテルの部屋に置いておけば、誰も落ち着いて眠れない。
ホテルが「最高レベルの警備システム」を謳っていようが、玄関に二十四時間勤務の警備員がいようが。
異世界から来て「金貨を収納の腕輪に入れて肌身離さず持ち歩く」ことに慣れた人間にとって、部屋いっぱいの紙幣を運命に委ねる、それだけで十分、不眠になる理由だ。
だから私たちは、今夜のうちに預けに行くことにした。
花の国のATMは、この街のあちこちにある。
コンビニの入口に一台、地下鉄の駅に三、四台、ショッピングモールの中庭にすら一、二台、置いてある。
だが実際に預金を始めてみて、初めて分かった。物事は想像より簡単ではなかった。
一台目のATMは、ホテルの階下のコンビニの入口にある。
私はキャッシュカードを差し込み、暗証番号を入力し、「お預入れ」を選び、それから紙幣を一枚一枚、紙幣投入口へと入れていった。
機械は「シャッ、シャッ、シャッ」という音を立て、紙幣が一枚ずつローラーに呑み込まれるたびに、画面に現在の預金残高が表示される。
……この過程の効率は、私の想像よりずっと低かった。
「娘よ、何をしているんだ」
母が私の背後に立ち、好奇心に満ちた目であの青い光を放つ機械を見つめている。
「預金です」
私は顔も上げずに答え、手にした一束の花の国の金を紙幣投入口へと差し込んだ。
「どこに預けるんだ」
彼女が追及した。
「……一枚の、プラスチックのカードに」
言い終えたあとで、すぐに気づいた。この説明は、中世の異世界から来た人間には、まったく意味をなさない。
母の表情が私の判断を裏づけた。彼女はますます困惑しているようだった。
「プラスチックのカード?」
彼女が繰り返した。
口調には「聞き間違いだろうか」という不確かさが滲んでいる。
私はとりあえず説明を後回しにすることにした。
目の前のATMの画面が、すでにひとつの表示を弾き出していたからだ。
「本日のご預入限度額に達しました。キャッシュカードをお取りください」




