230. チーズバターコーン、そして料理人のまなざし
じゃがいもとトウモロコシを調理台に載せ、まずは水魔法で洗った。
この世界で身につけた習慣だ。手で洗うより面倒がなく、かつ隅々まできれいになる。
横にいた料理人はこの作業を目にして一瞬固まり、それから、なるほど魔法で野菜を洗うこともできるのかという顔で黙って受け入れた。
次は竈だ。
私は料理人に、じゃがいもとトウモロコシをそのまま、すでに火の入ったオーブンへ入れさせた。
あらかじめ切る必要もなければ、漬け込む必要もない。
丸ごと入れて、高温で外から中までじっくり焼き抜く。
焼き上がりを待つあいだ、調味料区を一回りした。
このサービスセンターの調味料の備蓄は充実している。
ソース、香辛料、油脂、塩や砂糖、種類も多い。
だが今、私が欲しいものはごく単純だ。バター、黒胡椒、塩、チーズ。
向こうの管理者に頼んで、バターを二切れ、挽きたての黒胡椒をほんのひとつまみ、ヨウ素入りの細かい塩を小皿にひとつ、それからチーズを三枚受け取った。
「これだけですか」
管理者がやや不審そうに、私の手元を見渡した。
「これだけで十分です」
彼はこの分量が少々普通ではないと思ったのかもしれない。
周りの大半の学生が受け取る調味料は山盛りで、様々な香辛料を混ぜ合わせ、いかにもそれらしい見た目をしている。
それに比べれば、私のこれらはあまりにも簡素すぎるほどだ。
だが、それでいい。
「料理の理屈は、調味料の複雑さにあるんじゃない。自分が何を求めているのか、はっきり分かっているかどうかにある」
これは前世で料理を覚えたとき、どこかの料理番組で聞いた言葉だ。
当時は気休め程度に聞き流していたが、台所で何度も失敗を重ねたあと、やっとこの言葉の意味が腹の底まで落ちてきた。
じゃがいもとトウモロコシがオーブンの高温に追い立てられて表皮に割れ目が入り、中から淡い黄色の湯気の立つ果肉が覗いたとき。十分だと分かった。
一声かけて料理人に二つの食材をオーブンから取り出させ、調理台の白磁の皿に並べさせた。
湯気が顔に迫る。
まず、黒胡椒と塩をじゃがいもとトウモロコシの表面に振りかける。
熱いうちに振りかけることで、塩の粒と胡椒の粉が食材の割れ目や筋に沿って少しだけ内部へと染み込み、表面に留まるだけでは終わらない。
それから、バターを小片ひとつ、じゃがいもの一番大きく開いた割れ目の上に載せた。
バターは食材表面の高温に触れたまさにその瞬間から溶け始めた。
その融ける過程はとてもゆっくりだが、実に美しかった。
淡い黄色のバターが固体から液体へと変わり、ゆるやかに割れ目からじゃがいもの内部の筋のなかを流れ落ち、じゃがいもの表面から四方へと滲み広がっていく。
バターの通ったあとには、薄く脂の照りを帯びた一層の光沢が残された。
トウモロコシのほうは、チーズをそっと表面に覆いかぶせた。
理屈は同じだ。トウモロコシの余熱がチーズを柔らかくし始め、粒のくっきりとしたトウモロコシのうえに、ゆっくりと薄く、細い糸を引く乳香の層となって溶け広がっていく。
これでいい。
バター焼きじゃがいも、一品。
チーズバタートウモロコシ、一品。
チャーリーの方の水煮じゃがいもも鍋から上がった。
彼女はじゃがいもを四等分に切って小さな器に盛り、表面にまんべんなく黒胡椒と塩を振りかけた。
素朴だが、清潔に仕上がっている。
ニーナのほうはもう少し手が込んでいた。丸ごと茹でてから切ったもので、切り口は平らで、振りかけられた調味料もチャーリーより丁寧だ。
四人はそれぞれの出来上がりを手に、厨房の正面奥、中央の席へと向かった。
その椅子には、一人の男が座っている。
標準的な主厨の白い制服を着て、袖口は寸分の隙もなくきちんと捲り上げられ、前掛けには今日の昼前まで厨房で働いていた食材の痕跡が付いている。
年の頃は四、五十代。髪は黒く、白も少し混じり、下顎の線はくっきりとして、目つきは鋭い。
食材を前にしたときだけに見せる、料理人特有の極度の集中力を保った眼差しだ。
彼はいま、並々ならぬ恨めしさを込めて、自分の横に立つ白髪の使用人。
シェフィールドを睨みつけているところだった。
「まったく、シェフィールド。このガキどもの料理を一口食わせるためだけに、わざわざ俺を厨房から引っ張り出したのか」
「グリーン、言葉を慎め」
シェフィールドの声が潜められ、視線がちらりとこちらの方へと泳いだ。
それから素早く振り返り、主厨グリーンの横でこっそりと腰のあたりをつついた。
主厨グリーンは最初、何が起こったのか分からず、顔には午後の仕事を邪魔された苛立ちがまだ消えずに残っていた。
シェフィールドの視線を追って自分のほうへ顔を向け、私の顔を認める。
その苛立ちは、ひどくあっさりと消え去った。
彼は姿勢を正し、居住まいを直し、うやうやしい表情に切り替えた。
私はこの態度の変化に、何の反応も示さなかった。
こういうことはもう見飽きていて、感情が大きく揺れることもない。
ただ静かに、皿を彼の前の台に置いた。
彼の視線は、その二つの皿の上で止まった。
しばしの沈黙。
「これは……」
彼はプロの料理人の目で、その二品をじっくりと吟味した。
「焼いたのか。丸ごと、オーブンに入れて焼いたのか」
「そうです」
彼はうつむき、皿にもっと近づいて、じゃがいもの割れ目の角度やバターの滲み込んだ層の様子をつぶさに観察し、チーズが溶けて放つ乳香の匂いまで嗅いだ。
「これは驚いたな」
彼の口調が変わった。もはやここに座らされて仕方なく合わせているだけの、やっつけの調子ではない。
少しだけ、本物の、自分でも制御しきれない驚きが滲んでいる。
「君たちはまさか、こんな簡単で直接的な方法で、この二種類の新しい野菜を調理するなんて」
彼はしゃべりながら、私たち数人をそれとなく眺め渡した。
「たいていの人間は新しい食材を前にすると、まず『複雑に加工してみようか、何かを足そうか、引こうか、煮込んでみようか』と考える。だが君たちは違う。この……そのまま食う。その発想は……」
「私達のやり方は、間違っていましたか」
ニーナが心配そうに口を開いた。声は相変わらずの静かさだ。
グリーン主厨は、きっぱりと否定した。
「間違いじゃない。料理に『間違い』はない。合うか合わないかの問題だけだ」
彼は言った。
「複雑で精緻であればあるほど、いい料理とは限らない。ときに、食材そのものの質感、温度、香りが、もう最高の調味料になっている。君がすべきことは、それを壊さないことだけだ」
彼はフォークとナイフを手に取った。
じゃがいもを半分に切り、湯気の立つなかの実をひと匙すくい取り、皿のバターの液体に軽く浸し、それからその一切れに小さく二度、息を吹きかけて冷まし、口へと運んだ。
咀嚼。
その二秒の沈黙は、どんな言葉よりも雄弁だった。
グリーン主厨の表情は、あの短い咀嚼のあいだに何度も変わった。
まずは本能的な味覚、それから評価、それから。覆い隠せない、心の底からの驚き。
彼は口のなかのじゃがいもを飲み込んだ。
「ただ焼いただけなのに」
彼の声には、少し制御しきれない感慨が滲んでいた。
「ここまで行けるものなのか」
それは社交辞令ではない。
数十年、この道一筋でやってきた料理人が、これまで一度も経験したことのない味の組み合わせに出会ったときの、本物の反応だ。
この世界では、じゃがいもは導入されて間もない食材で、大半の料理人はまだその特性を手探りで探っている段階にある。
私は最も直接的な方法で、じゃがいもの原初の風味とバターと黒胡椒の香りを結びつけた。
この素朴な組み合わせは、彼の経験体系のなかでは、おそらくまったくの空白地帯だったのだろう。
彼はさらに、水煮のほうも味わった。
「この一品は、問題ない」
彼は言った。
「塩と胡椒の配合がうまくいっている」
チャーリーの目がぱっと輝いた。
ニーナは小声で「ありがとうございます」と言った。
声は軽すぎて、おそらくグリーン主厨には聞こえなかっただろう。
だが彼女の表情は、満ち足りていた。
それからトウモロコシ。
グリーン主厨は、溶けたチーズの層をまとったトウモロコシを見つめ、少し躊躇った。
フォークで一粒刺そうと試みたが、トウモロコシの粒はチーズの粘りに弾かれて転がり、フォークは隣の空気を刺しただけだった。
彼はフォークを見つめ、二秒間沈黙した。
それから、あっさりと食器を置いた。
手を伸ばしてトウモロコシを掴み、チーズの一番厚い側面に狙いを定めて、そのままかぶりついた。
この動作に、私は一瞬目を奪われた。
意外だったからではない。
この五、六十歳の、正装の主厨制服を身に纏い、高級ホテルで働く大料理人が、こんなにも迷いなく「食器を捨てて手づかみでいく」選択をするとは思わなかったからだ。
「これは……」
彼はトウモロコシを咀嚼しながら言った。チーズとバターの乳の香り、トウモロコシそのものの甘い香り、そしてかすかに焦げた表皮。
三つの匂いが混ざり合い、彼の表情がまた変わった。
「チーズの乳の味とトウモロコシの甘さは……なるほど、たしかに天然の相性だな」
考え込むように、もう一口かじる。
「焼くことでトウモロコシ自体の糖分がより凝縮されて、チーズの脂肪がその甘い香りを包み込む。これ以上の調味料は必要ない」
彼はトウモロコシを皿に戻し、手を拭き、顔を上げて私を見た。
「誰の料理だ」
「私が作ったじゃがいもです」
ユーナが一拍早く先回りし、同時に私に「この成績は私のもの」という視線を向かせた。
私は天を仰ぎたくなったが、堪えた。
「二品とも、一緒に作ったものです」
私は言った。
「ユーナがトウモロコシを処理して、私がじゃがいもを」
グリーン主厨は頷いた。




