227. 禁呪の白き光、そして剥がれ落ちた鱗
その後の数分間、時間は極めて主観的なものへと変わった。
一秒一秒が引き延ばされるように感じられた。恐怖のせいではない。処理しなければならない情報量が多すぎたのだ。
地淵巨蛇の攻撃頻度が大幅に上がった。
淵潮の吐息は三十秒ごと。毎回、フィオナ先生の土壁とユーナの火球による二重の迎撃が必要だった。
潜地奇襲の頻度もどんどん増していく。
潜地のたびに現れる位置が違った。私の背後だったり、フィオナ先生の近くだったり、あるいはエドアルド先生の方角へまっすぐ突き進んだり。
ユーナの火系灼熱で炙り出すのも、どんどん厳しくなっていた。潜地の速度そのものが上がっているからだ。
地脈の檻による持続的な全場制圧。
フィオナ先生が裂け目をひとつ抉じ開けても、五秒から十秒しか保たない。
鉄甲聖騎兵は平均三十秒に二、三騎の割合で失われていく。
帝国の剣は絶えず新たな騎兵を補充するが、補充された騎兵が地淵巨蛇の目前まで駆けつけるには時間がかかる。
そしてその時間の隙に、地淵巨蛇は防衛線を突破し、エドアルド先生へ突き進もうとする。
地淵巨蛇が鉄甲聖騎兵の防衛線を破って東へ移動するたびに、私は鉄肩から飛び降り、光系魔法でやつの前に障壁を作り、動きを遅らせなければならなかった。
フィオナ先生が地脈の檻の裂け目を抉じ開けるたびに、ユーナはその数秒の隙を捉えて、可能な限りの火力を叩き込まなければならなかった。
これは精緻な、いや、精緻などではない。狂気じみた、完全に直感と反応速度だけが頼りの乱戦だった。
どれだけの時間が経ったか、もう覚えていない。
三分だったかもしれない。
四分だったかもしれない。
私の魔力は急速に消耗している。光系の障壁は展開と破砕のたびにかなりの量を消費する。
帝国の剣もまた、絶え間なく出力を続けている。騎兵たちを指揮しながら、私は自身の魔力だけでなく、精神力を同時に投入し続けなければならなかった。
フィオナ先生の顔色はどんどん青白くなっていく。地脈の檻との持続的な対抗は、私以上に彼女を消耗させている。
ユーナの服は汗と泥水でぐっしょりと濡れていた。だが彼女の炎だけは、一度も弱まったことがない。
それから、変化が来た。
北東方向の岩の高地から、巨大な魔力の波動が猛然と炸裂した。
徐々に強まったのではない。突然の、極限まで圧縮されたバネが一瞬で弾けたような爆発だった。
淡い緑の輝きが、刺すような純白へと変わった。
エドアルド先生の詠唱が、最終段階に達した。
その魔力の波動はあまりにも巨大だった。
あまりに巨大で、沼のすべての魔力元素が彼の方角へと吸い寄せられていく。
空気中の魔力密度は一瞬のうちに、恐ろしいまでに低くなった。外界の魔力が突如として希薄になったせいで、私は体内の魔力循環が鈍るのを感じ取ることができた。
地淵巨蛇も、それを感じ取った。
全身の、頭から尾の先まで、すべての鱗甲が逆立った。
やつは最後の決断を下した。
もう絡まない。
もう羽虫どもを一匹ずつ片づけることなどしない。
あの銀髪の精霊を、直接殺しに行く。
地淵巨蛇の巨体が、猛然と、すべてを泥沼のなかへと沈めた。浮上しない。頭部を再度覗かせることもない。
完全潜地。
そして進む方角は、まっすぐに北東。
「エドアルドに向かってます!」
フィオナ先生の声が極限まで張り詰めた。
再び騎乗している余裕はない。私は帝国の剣を頭上に掲げ、魔力を全力で流し込んだ。
「出よ!」
黒い霧が爆発のように猛然と溢れ出した。十数騎、いや、二十数騎の鉄甲聖騎兵が同時に霧のなかから飛び出し、扇形の防衛線を組んで、地淵巨蛇の進む方角へと追走する。
だが速度が足りない。
地淵巨蛇の泥土のなかの移動速度は、鉄甲聖騎兵が地上を駆ける速度をはるかに凌いでいる。
泥沼の表面を、北東方向から、盛り上がった一本の泥波が高速で移動していく。地淵巨蛇が泥層の下を猛進した痕跡だ。
鉄甲聖騎兵は追いつけない。
「ユーナ! 地面を!」
ユーナは多くを必要としなかった。両手を泥沼の表面に押し当て、橙赤色の炎が掌から地面へと流れ込んでいく。
灼熱ではない。
区域全体の地面の温度を上昇させる。
泥沼の表面から大量の蒸気が噴き出し始めた。泥層の下の温度が急激に上がっていく。
「ギシャアアア!!」
地淵巨蛇の巨体が、高温に追い立てられ、泥のなかから一部を浮上させた。全身ではない。だが、頭部と上半身が露出した。
怒っている。
あの灰緑色の目が蒸気のなかで危険な輝きを放ち、それから前方の岩の高地を視認した。岩の上で胡座をかく、銀髪の精霊。
口を開いた。
淵潮の吐息が、エドアルド先生を狙う。
距離は約五十メートル。
この距離の淵潮の吐息には、フィオナ先生の土壁は届かない。ユーナの火球も間に合わない。
考える余裕はなかった。
身体が脳より先に動いた。
私は収納の腕輪からブリュンヒルデの槍を取り出した。
銀白の槍身が蒸気のなかで一瞬輝き、私は光系魔力を槍身に流し込んだ。槍の穂先が、一筋の光の矢を放つ。
地淵巨蛇に向けてではない。
淵潮の吐息の軌道上に放たれた。
光の矢は宙で炸裂し、一瞬の光の幕を作り出した。淵潮の吐息の黒い水が、光の幕に直撃する。
光の幕は、一秒と保たずに腐食し尽くされた。
だがその一秒で十分だった。
淵潮の吐息は光の幕を貫いたあと、残存する運動エネルギーが約三分の一にまで削られていた。
岩の高地の縁に命中する。黒い水柱が岩の上で炸裂し、大穴をひとつ腐食し、砕石が飛び散った。
だがエドアルド先生には命中していない。
彼は依然として、岩の上で胡座をかき、詠唱を続けている。
「終わった」
彼の声は、とても軽かった。
だがその一瞬、世界がすべて静まり返った。
白い光が彼の身体の中心から、四方へと拡散していく。
柔らかな輝きではない。破壊の力を帯びた純粋な魔法の力だった。
光が泥沼に触れた一瞬、すべての水分が蒸発した。
漸進的な蒸発ではない。一瞬の、徹底的な、暴力的な蒸発。
沼全体がコンマ数秒のうちに、湿潤から乾燥へと変わった。
泥土はひび割れ、水蒸気は立ち昇り、地表温度は急上昇する。
空気中には大量の白い蒸気が充満し、蒸気の密度は手を伸ばしても指先が見えないほどだった。
地淵巨蛇の身体が、蒸気のなかに露わになった。
やつは泥沼で、己の家を失った。
五十メートルの巨体が、完全に乾いた地面の上に晒されている。黒岩の鱗甲を覆っていた水苔と湿った泥が、高温のなかで急速に乾き、ひび割れ、剥がれ落ちていく。
それから、やつの土水共生が断ち切れた。
鱗甲の表面に、幾筋もの亀裂が走っていくのが見えた。
物理的な打撃で生じた亀裂ではない。日照りの大地のように、内部からひび割れていく。
亀裂の隙間からは、もはや淡い青の光が溢れてこない。呼び出せる水土の元素が、すでに存在しないのだ。
ヴォルソーンは、その生涯で最も恐ろしい咆哮を発した。
蛇の嘶きではない。もっと根源的で、もっと狂暴な、絶望を帯びた遠吠え。
雨林全体がその咆哮に震え、頭上の樹冠が揺れ、地面の亀裂が広がっていく。
やつはもがきながら、再び地中へと潜り込もうとする。だが地面はすでに乾いている。泥土は水分を失って粉末状になり、もはや潜地能力を支えることなどできなかった。
狂ったように巨体をくねらせる。五十メートルの巨蛇が乾いた地面のうえを転げ回る様は、岸に上げられた魚そのものだった。
それから、やつの腹部に、一筋の淡い青の光が露出した。
潮脈の核。
すべての鱗甲と泥土が剥ぎ取られたあとに、その拳大の、淡い青い光を放つ球状の器官が、ついに空気中へと露わになった。
「今です!」
エドアルド先生の声が蒸気のなかから届いた。
しゃがれた、虚ろな、だがそれでもはっきりとした声。
彼の魔力は完全に底をついている。
止めは、私たちがしなければならない。
フィオナ先生はすでに動いていた。
彼女は誰の指示も必要としない。
靴の踵がひび割れた地面に差し込まれ、魔力が伝導する。
土竜が乾いた地面を穿ち、姿を現した。
水分を失った泥土は脆くなっている。だがフィオナ先生の土竜術は、そもそも泥土の強度に頼るものではない。魔力の凝縮密度に頼るものだ。
土竜の巨大な顎が、正確に地淵巨蛇の腹部の潮脈の核を狙った。
地淵巨蛇は狂ったように巨体をくねらせ、回避を試みる。
土竜の顎が鱗甲の上を引き裂く。だが土水共生を失った鱗甲は、すでに紙片のように脆かった。
ガリという破壊音が響く。
鱗甲が砕けた。
だが土竜の攻撃角度がわずかにずれた。潮脈の核を直接捉えることはできず、核のすぐ脇の胴の一節を噛み砕いた。
傷口から鮮血が噴き出す。黒い、土臭さを帯びた血液。
フィオナ先生の魔力は極限まで消耗していた。顔色は紙のように白く、身体がかすかに揺らいだ。
だが彼女は、半歩しか退かなかった。
「ユーナ!」
ユーナはすでに走っていた。
地淵巨蛇の胴に沿って走る。乾いた地面の上では、泥沼のときより何倍も速い。
桃色の長髪が背後にたなびき、一面の旗のようだった。
潮脈の核めがけて突進する。地淵巨蛇の尾が、彼女へ向けて薙ぎ払われた。
こんな状態でも、攻撃力だけはやはり恐ろしい。
五十メートルの巨体の薙ぎ払いの力は、小さな丘ひとつを平地に変えるのに十分だ。
「クローディア!」
ユーナが叫んだのが「助けて」と言ったのか、「離れて」と言ったのか分からない。だが私の身体はすでに反応していた。
帝国の剣を、今度は鉄甲聖騎兵を召喚するためではなく……
ユーナの前に、剣を横にかざした。
黒い霧が剣身から湧き出て、地淵巨蛇の尾が届くより前に、一面の黒い霧の障壁を作り出した。
ドン、と凄まじい着弾音が轟く。
薙ぎ払われた尾が、黒い霧の障壁に直撃した。




