218. 問い詰めの夕べ、そして隠しきれない証拠
そう言うと、彼女は顔を正面に戻し、ゆっくりと歩み寄ってくるフィオナとヘイティへと再び視線を向けた。
フィオナとヘイティは教師の巡回を装い、丘の反対側から歩いてきた。
二人とも普段の教師の服装に着替えており、つい先ほどまで激しい魔物戦を繰り広げていた痕跡など微塵も感じさせない。
少なくとも、外見からは。
フィオナの表情は相変わらず平静で淡々としており、まるでただ散歩に出かけてきたかのようだった。
ヘイティはその後に従い、鼻にかけた眼鏡を押し上げ、学生たちと視線が合うと穏やかな微笑みを浮かべた。
「はい、今日の実習はここまでです」
フィオナが隊列の前に立ち、声は大きくないが全員に十分届く音量で告げた。
「荷物を片付けて、丘の下の集合場所で馬車を待ちなさい」
学生たちは三々五々、道具と成果物をまとめ、山裾へと向かって歩き出した。
馬車が走り出すと、私たちは再び別荘群へと戻っていった。
午後の陽射しが斜めに温泉町の通りを照らし、道の両側の木々の影を長く伸ばしている。
チャーリーは私の向かい側に座っていた。
彼女は道中、一言も口をきかなかった。
ただ、「今あんたの不義理を帳簿につけてるからね」と言いたげな表情で私をじっと見つめ続けている。
ニーナはチャーリーの隣に座り、窓にもたれて目を閉じていた。
青い長髪が馬車の揺れに合わせて軽く揺れ、その面差しはまるで居眠りでもしているかのように穏やかだ。
だが寝てはいないことは分かっていた。
右手の指が膝の上でとんとんと軽く叩かれている。
考え事をしているか、苛立っているときの彼女の小さな癖だ。
ユーナは私の隣に座り、窓の外を見つめている。
その表情からは特別な感情は読み取れない。
だがよく観察すれば、口元がわずかに下へと引き結ばれているのが分かる。
「私も怒ってるけど、チャーリーみたいに真正面からぶつけるタイプじゃない」そんな表情だ。
車内の空気はあまりに微妙で、他の班の学生たちは自然と私たちから距離を取っていた。
別荘群に到着すると、フィオナが玄関前で解散を宣言した。
学生たちは散らばり、それぞれの別荘へと戻っていく。
そして私は——
まだ二歩も踏み出さないうちに、襟首を掴まれた。
「あんたたち二人、こっちに来なさい」
チャーリーの声が背後から響いた。
拒否を一切許さない固さが滲んでいる。
片手で私の襟首を掴み、もう片方の手でユーナの手首を掴んで、ずるずると自分たちの宿舎の方へ引っ張っていく。
ユーナはよろめきながらも抵抗しなかった。
自分が二人に借りがあることを、たぶん自覚していたのだろう。
梅の別荘の玄関前で、ニーナは黙って鍵を取り出し、扉を開けた。
そして四人は中へと入っていった。
チャーリーは私とユーナを向かいのソファに押し付けた。
居間は静かだった。
秋の午後の陽射しが床までの窓から差し込み、木の床に暖色の層を敷いている。
ソファの向かいの卓の上には、すっかり冷めたお茶が二つ。
おそらく、私たちが戻る前に二人が淹れたものだろう。
チャーリーは卓の前に立ち、両手を腰に当て、極めて真面目くさった表情で私を見下ろした。
「言いなさい」
チャーリーの声は不気味なほど落ち着いていた。
「こっそりどこへ遊びに行ってたの? 二人で四人ぶんの仕事をさせるくらい、よほど楽しかったんでしょうね」
憤慨した口調だ。
「二人で四人分の仕事……本気で死にかけた」
ニーナも同調した。
口調はチャーリーほど激しくはないが、その静けさの奥に滲む疲労は隠しようがない。
目の下には淡い青黒さが浮かび、青い髪もやや乱れている。
どうやら今日は本当にこたえたらしい。
私はため息をついた。
実はこの別荘に足を踏み入れた瞬間から、白状する覚悟はできていた。
チャーリーという人間を、私はよく知っているからだ。ああ見えて大雑把な性格だが、筋の通らないことをするタイプではない。
ただのサボりや手抜きなら、文句を何度か言って終わりにしてくれただろう。
だが今回は違う。
四人に割り当てられた仕事量を、私とユーナが何も言わずに消えたせいで、残りの二人がすべて背負うことになった。
二倍の労働量。
温泉町の実習という強度のなかで、軽々しくこなせるものではない。
しかも——二人は私たちがどこへ行ったのかすら知らない。
彼女たちの視点では、私とユーナは人手が一番必要なときに、何の前触れもなく姿を消したのだ。
信じていた相手に置き去りにされる。そんな感覚こそが、チャーリーを本当に怒らせた原因だった。
「ごめん」
私は先に口を開いた。
「私とユーナは……遊びに行ったんじゃないんだ」
「じゃあ何をしてたっていうのよ」
チャーリーが眉を吊り上げた。
「ダンジョン」
短い沈黙。
「……ダンジョン?」
チャーリーの眉がきゅっと寄った。
「流浪迷宮。温泉町の近くの山に現れたやつだよ」
ユーナが横から補足した。
「フィオナ先生とヘイティ先生が、私たちを連れて行ったの」
チャーリーは私を見、それからユーナを見た。
表情は怒りから困惑へ、困惑からさらに複雑なものへと変わっていく。
「先生が……連れて行ったの?」
「うん」
「四人で? 先生二人と、あんたたち二人で?」
「そう」
チャーリーはしばらく黙り込み、それからニーナの方を振り向いた。
「……ダンジョンに行ったんだってさ」
「聞こえてた」
ニーナが低い声で答えた。
再び沈黙。
「……じゃあ、なんで教えてくれなかったのよ」
チャーリーの声が突然少し大きくなり、すぐに引き戻された。
「前もってひとこと言ってくれれば、それで済んだのに。私とニーナだって、強い魔物と戦えなくても、荷物を運んだり手伝いくらいならできたわよ。何も言わずに消えるなんて、なにそれ……」
後半になるにつれ、声にかすかな震えが戻り始めた。
怒りの震えではない。
悔しさの震えだ。
私とユーナが何も言わずに仕事を押しつけて、丸一日こき使っておいて、戻ってきて「ああ、ボス戦に行ってきたんだ」なんて言われたら——誰だって不公平に思うだろう。
「危険すぎたからだよ」
私は言った。
「あのダンジョンの魔物の強さは、学院生の対応できる範囲をはるかに超えていた。あんたはもちろん、ユーナだってなかの。」
「ユーナは中にいたんでしょ!」
チャーリーが言葉を遮った。
「……そうだけど」
「ユーナは、あんたたちの隣で、魔物と戦ってた」
「……うん」
「でも私は行けない」
「……」
「ニーナも行けない」
「……」
「つまりあんたたちの理屈はユーナは良くて、私とニーナはダメってこと?」
チャーリーの視線が真っ直ぐに私を見つめる。
その大きな瞳には午後の陽射しと同時に、どう返せばいいか分からない問いかけが映り込んでいた。
彼女の言う通りだ。
彼女の立場からすれば、この理由はまったく筋が通らない。
ユーナもチャーリーもニーナも、同じクラスメイトだ。
本当に危険なら、なぜユーナは行けて彼女たちは行けないのか。
「ユーナには火属性の才能があるから」そんな言い訳は、口にした瞬間にもっと傷つけるだけだ。
「……危険だけが理由じゃないんだ」
私は言葉を選んだ。
「先生のパーティ編成には人数制限があった。流浪迷宮の転送陣の許容量は四人が限界だったんだ。それに私とユーナはもともとフィオナ先生の教え子で、私たちの実力は先生もよく把握しているから——」
「分かったわよ」
チャーリーが突然言った。
私は虚を突かれた。
「なにが?」
「分かったって言ったの」
チャーリーは深く息を吸い込み、表情が詰問から諦めへと変わった。
「理由は分かったわ。先生の判断で、人数制限があって、あんたはわざと私達を置き去りにしたわけじゃないってことはね」
彼女はソファの横まで来ると、どさっと腰を下ろし、両手で顔を覆った。
「でも……」
指の隙間から片目だけを覗かせて、私を見た。
「せめて後からでいいから、教えてくれればよかったじゃない。戦いが終わって隊列に戻ったときに、こっそりひとこと『ねえチャーリー、さっきボス戦に行ってきたんだ』って言ってくれれば、それでよかったのよ。私とニーナが、あんたの仕事を代わりにやりながら、一体どこへ消えたのか不安なままでいるより、ずっとマシだったわ」
「……ごめん」
「それから」
チャーリーが手を下ろし、ユーナに向き直った。
「ユーナも同じ。あんたは一度も、私に何の合図も送らなかった。知ってる? 私、作業しながらずっと考えてたんだからね。ケイシーとユーナは、何かに攫われたんじゃないかって。何かあったのか、先生に相談すべきかって……」
ユーナはうつむいた。
「……私も、ごめんね」
声はとても小さかった。
「あんたたち二人はね。」
チャーリーは深く息を吐き、それから突然、ニッと笑みを浮かべた。
普段の元気いっぱいの笑みではない。
「まあ許してあげるけど、しっかり大きな貸しだからね」という笑みだ。
「とにかく!」
彼女はソファから跳ね起き、スカートのしわをパンパンとはたいた。
「あんたたち二人は、私とニーナにきちんと落とし前をつけてもらうから!」
彼女は私に向き直った。
「ケイシー」
「はい」
「あんた、私に大きな借りがあるからね」
「……あるよ」
「それと、さっきあんたが言った『ダンジョンの魔物は学院生の対応範囲をはるかに超えてる』ってやつ。」
彼女の目が突然、危険な好奇心を帯びて輝いた。
「一体、何と戦ってきたのよ?」
「えっと……」
「ごまかさないで。あんたたち四人の服には、洗っても落ちない痕がついているわ。フィオナ先生の肩には何かに腐食された跡があったし、ヘイティ先生の眼鏡のレンズには、すごく小さなひび割れがひとつ。私、全部見てるんだから!」
彼女の観察眼は、ときに本当に恐ろしい。
私は降参するように、長いため息をついた。




