213. 氷の幻影、そして光の炸裂
何しろ私たちはまだ課外実習のさなかだったから、迷宮に泊まることなどできはしなかった。
迷宮の探索は、どうしても陽の高いうちだけの活動だった。
夕陽が西に沈む前には、入り口から外へ出て、温泉町へと急いで戻らなければならなかった。
だから、本当に自分たちに残された時間は、あまり多くはなかった。
だが、手に汗握るその差し迫った感覚こそが、今から未来の戦いに備えることの必要性を、私に痛感させていた。
やがて私たちは、不思議な青い光を放つ、一つの地下空間へと行き着いた。
その青い光は、先ほどの寒氷虫が身に纏っていた、あの淡い青とはまったく別物だった。
寒氷虫の青が冬の薄氷のような——清らかで、希薄な——青だとするならば、目の前のこの青い光は、まるで深海に漂う燐光のようだった。
濃厚で、どこまでも神秘的だった。
洞窟の壁、地面、そして天井に至るまで、すべてに淡い青い蛍光の層がべったりと張り付いていた。
その蛍光はまるで苔のように、岩の表面を隙間なく覆い、外界からのどんな光源もないまま、ほの青く発光し、この空間のすべてをまるで一つの水晶の宮殿のように映し出していた。
「綺麗……」
ユーナは思わず足を止め、洞窟の壁の蛍光の層に、その目を奪われていた。
たしかに、とても綺麗だった。
もしこんな場所が、いつ致命の魔物が飛び出してくるとも知れない、地下迷宮のなかでさえなければ。
私は本気でここが、わざわざ足を運んで観に来るだけの価値のある、一つの名所だと思っただろう。
それだけではなかった。
この階層の洞窟のなかの気温は、その外側に比べても、ずっと、ずっと低かった。
吐き出した白い息は、もはやときおり凝結するだけではなかった。
一呼吸するたびに、目の前に濃厚な白い霧が立ち込めた。
私の指先は、もうはっきりと感覚の麻痺を感じ始めていた。
まるで手をそのまま冷蔵庫の冷凍室に差し込んだような、あの痺れだった。
「ここの環境は、もう人間に悪影響を及ぼし始めているのか」
フィオナ先生が眉をひそめた。
私は光属性の魔力をほんの少しだけ身体の表面へと誘導し、皮膚と衣服のあいだに、薄く一枚の、保温の層を作り出した。
それはごくかすかな熱の覆いに過ぎなかったが、寒さに抗うには十分で、それでいて魔力を多く消耗することもなかった。
そのときだった。
一匹の粘ついた大型の魔物が私たちの目の前に姿を現した。
それは、あの青い蛍光の層の、まさにその背後から、ゆっくりと滑り出してきたのだった。
最初に現れたのは、丸っこい一つの頭。
それから、太く逞しい四肢、そして最後には大地を引きずり、平べったい尾。
その動きは決して速くはなかったが、一歩一歩に、何ものにも動じない落ち着き払った風格があった。
まるで、この場所こそが自分の領地であるかのように。
寒氷蠑螈だった。
見たところ、おそらく間違いなく、寒氷蠑螈だった。
その体長はざっと二メートルほど、全身はどこまでも青白く、そして蒼ざめていた。
その白は、雪のような白ではなかった。
まるで骨の芯まで凍りついたかのような、あの蒼白だった。
皮膚の表面には一枚の半透明の粘液が覆い被さり、青い蛍光の映りのなかで、ほのかに蒼い輝きを放っていた。
四肢は短かったが、太かった。
一本一本の脚の太さは、ほとんど私の腰ほどにも迫るようだった。
その逞しさは、美しさのためではなかった。
この極寒の環境にあって、あの巨体を支えるためのものだった。
分厚い肉、密度の詰まった筋肉を見て、一目で防御力が低くないと分かった。
もともとは温かな水辺に棲むはずのサンショウウオの類だった。
前世で教科書のうえで見たことがある。
水草のなかにじっと潜むのを好み、動きの緩慢な、あの両生類だった。
それが、氷の魔力に侵されたことで、その身体はしだいに極限の低い気温に適応していった。
それだけではなかった。
彼らは氷属性の魔法を操って戦うようにもなり、寒い気候はもはや彼らの行動を阻害するどころか、むしろ彼らの戦闘力を高めるようになった。
つまり、この洞窟が寒ければ寒いほど、こいつはますます強くなるのだ。
素晴らしい。
まったく素晴らしい。
私は心のなかで、そっと毒づいた。
そのときだった。
どうやらこいつは、私たちの存在に気づいたらしい。
それは自分自身の、あの醜悪な頭を、私たちのいるほうへと向けた。
その頭は丸々としていて、はっきりとした首の輪郭はどこにもなかった。
まるで肩のうえに直接、頭部が乗っているかのようだった。
何よりも注意を引いたのは——その目だった。
いや、正確に言えば、それには目がなかった。
長年にわたって暗黒の洞窟のなかで生きてきたために、両の目は完全に退化して、窪み落ちていた。
もともとは眼窩があったはずの場所には、ただ二つの浅い窪みだけが残っていた。
まるで何者かに、そこだけ肉をくり抜かれてしまったかのようだった。
視覚はなかった。
だが、そいつは音を頼りに、私たちの存在に気づいていたのだった。
私たちがこの蛍光の領域へと足を踏み入れた、その一歩の足音、私たちの吐く息、そして衣服の擦れ合う音さえも。
それらすべてが、こいつにとっては暗闇のなかに灯る灯火のように、はっきりと伝わっていたのだった。
それは私たちのほうを「見て」いた。
いや、それは私たちのほうを「聴いて」いた。
「氷属性の魔物……しかも、これだけの巨体なら、少なくとも迷宮の中層クラスだ」
フィオナ先生は声を潜めた。
「みんな、気を引き締めて」
それを聞いたかのように、その影はなんと、ゆっくりと消え始めたのだった。
後退したのではない。
水のなかへ潜ったのでもない。
それはただその場に立ったままだったが、その輪郭だけが、少しずつ、少しずつ薄れていった。
まるで消しゴムが、現実のうえから少しずつ、そいつを擦り消しているかのようだった。
もともとそいつが存在していた場所は、一片の影となって、洞窟の闇のなかへと溶け込んでいった。
まったくもって、何の異変も見分けられなかった。
見たところ、どうやらこれが、こいつの持つスキルなのだろう。
自分自身を暗黒のなかへと完全に消し去る、あの能力だった。
「闇影の潜行か?」
ヘイティ先生の手はもう持ち上がっていた。
掌のうえには、真紅の魔力が凝り固まっている。
「寒氷蠑螈が迷宮で長く生きるうちに、こんなスキルまで身につけたなんて……」
「違う、闇属性じゃない」
フィオナ先生の声は冷たく、落ち着いていた。
「氷属性の応用よ。あれは体表の粘液を利用して、身体の周りに極薄の氷の膜を作り出している。氷の膜は光を屈折させ、散乱させる。その結果、身体をほとんど不可視の状態に近づけているの。本質的には、光学的な擬態ね」
「なんてすごい……」
ユーナは手にした炎の精霊の長剣を固く握り締め、その目だけは蠑螈の消えた場所を何度も往復していた。
だが、私は分かっていた。
一面の暗黒のなかから、姿が見えなくなった敵を探し出すには、目で追うだけでは到底足りなかった。
これを見て、私ももはや、温存をやめた。
私は右手を持ち上げ、洞窟全体のまさに真上に。
あの、青い蛍光に覆われたドーム状の天井めがけて。
一発の白い魔力の塊を打ち出した。
魔力の塊は手を離れたその瞬間から、まるで一発の打ち上げ花火のように、ぐんぐんと上昇していった。
それが天井に達した瞬間、一気に炸裂したのだった。
眩いばかりの白い光が、天井の中心から四方八方へと拡散していった。
まるで誰かが天井に、小型の太陽を一つ、灯したかのようだった。
白い光は洞窟の、あらゆる空間の、一筋ずつの筋までも覆い尽くした。
一枚一枚の岩の割れ目も、一筋一筋の影の隅も、潜むことのできそうな、あらゆる暗がりも。
この不意の光に照らし出され、そのすべてが細部に至るまで暴き立てられたのだった。
もともと陰のなかに身を隠していた寒氷蠑螈も、もはやその姿を晒さずにはいられなかった。
白い光がそいつに触れた一瞬、そいつの体表を覆うあの氷の膜は、まるで熱湯を浴びせかけられたガラスのように、溶け始め、砕け始めた。
「ぱきぱき」という微かな砕け散る音が、洞窟のなかをこだました。
それまですでにほぼ透明になっていたあの輪郭は、再びはっきりとその姿を現し、皮膚のうえを覆うあの氷の膜は、白い光の侵蝕を受けて絶えず蒸発し、白い霧となって立ち昇っていった。
それだけではなかった。
白い光はどうやら、そいつの表皮までも絶えず侵蝕し続けていた。
白い光に直接触れた皮膚の表面が、かすかにほんのりと赤く変色し始めた。
まるで軽い火傷を負ったかのようだった。
見たところ、光属性の魔法は、こうした暗闇属性の生き物にとっては、まさに特効のスキルだった。
「ヘイティ、行くわよ」
フィオナはさすがはハーランド魔法高等学院の優秀な卒業生だけあって、相手の隙を捉えるのがひどく巧かった。
白い光に晒されて寒氷蠑螈がその身を晒した、まさにその刹那に、フィオナはもう手にした、新たに凝り固めた土の槌を固く握り締めて、寒氷蠑螈のいる場所めがけて突っ込んでいた。
彼女の突貫の速度は凄まじかった。
足の下の金属の踵が、岩の地面を叩いて軽やかな「たたたっ」という音を立て、その背後の空にはかすかに、土色の残像が一筋、尾を引いていた。
彼女の手にした土の槌は高く掲げられ、槌の頭の上の、あの粗い紋様が、青い蛍光と白い光の混ざり合う照明のなかで、ことさら明瞭に浮かび上がった。
だが、寒氷蠑螈とて、決して単純ではなかった。
そいつはすぐさま、先ほどまでの白い光のなかから回復してみせた。
目はなかったが、そいつの二つの窪み落ちた眼窩は、まるで何かの信号を捉えたかのように、猛然と、今まさに突っ込んでくるフィオナの姿を振り向いた。
それから間を置かず、そいつは自分の身の周りに、二本の氷の円錐を凝り固まらせた。
二本の、ざっと腕ほどの長さの鋭い氷錐が、そいつの身の周りの空気のなかから、忽然とその形を成したのだった。
いや、忽然ではない。
そいつは自分の体表の寒気と、洞窟のなかに満ちる氷属性の魔力を圧縮し、凝縮させて、自分の身体のすぐ横に集めていたのだった。
氷錐は全体が透明で、錐面には細やかな氷の結晶の模様までもが見えた。
寒気が錐の先端から外へと拡散し、地面のうえに二筋の白い霜の痕を刻んでいた。
それらはフィオナのいる位置めがけて、真っ直ぐに放たれた。
氷錐の速度は極めて速かった。
先ほどの魔蜘蛛の吐き出した毒液よりも、ずっと速かった。
それらは空気のなかに二筋の、透明な弧を描きながら、その寒気のために、フィオナの頬のほとりの髪の毛までもが、一枚の薄氷で覆われた。
しかし、その二本の氷錐は、放たれて間もなく、ヘイティの放った二本の火の矢によって撃ち砕かれたのだった。
火の矢は氷錐の真ん中を射貫き、真紅の炎と透明な氷の結晶とが空中で激突し、「しゅう——」という響きを立てた。
氷錐は灼熱のなかで急速に融かされ、一団の白い水蒸気となって、地面に落ちるよりも早く完全に蒸発して消え去った。
フィオナは、速度を緩めることすらなかった。
寒氷蠑螈もまた、この結果はとうに織り込み済みだったのだろう。
あるいはそいつは最初から、この程度の遠隔攻撃に、さしたる期待を抱いてはいなかったのだ。
そいつは一片の迷いも見せず、その大きな口を開き、私たちのほうをめがけて、口のなかから一筋の、淡い青い液体を吐き出した。
その液体が口のなかから噴き出された瞬間には、まるで一筋の水の柱のようだったが、空中でしだいに分散し、一面の粘りつく扇形の液の幕へと変わっていった。
それには、はっきりとした青い蛍光が帯びていた。
液体は空中でゆっくりと落下するのと同時に、寒気が液滴の表面から外へと拡散し、その寒気に触れた岩の上には、一瞬のうちに薄氷の層が張りついた。
明らかに、ただの液体ではなさそうだった。
もしあんなものが肌にでも触れれば、おそらく凍傷で済む話ではなかったろう。
その粘度の高さからすれば、下手をすると、身動きまでも封じられかねなかった。
ユーナとヘイティ先生は、一切の手抜きをしなかった。
慌てて、あの一団の液体めがけて火球を打ち出した。
二発の火球が一つは大きく、一つは小さく。
それぞれ別の角度から、今まさに落下しつつあるあの青い液の幕へと飛んでいった。




