211. ブリュンヒルデの投槍
白い光がしだいに眩しさから優しさへと変わっていき、光が褪せたあと、私の身体を包み込むように虚空から新たな装備が姿を現した。
銀鱗の鎧と、一枚の燃え盛るような紅の円盾だ。
銀鱗の鎧は私の身体にぴたりと密着していた。
一枚一枚の「鱗」はまるで最上の純銀で鍛え上げられたかのように縁がなめらかに磨き上げられ、ほのかな灯りの中であってもなお、清冽な金属光沢を湛えている。
それらは本物の魚の鱗のように幾重にも重なり合い、一切の動きを妨げることなく、それでいて強固な防御力を誇っていた。
紅の円盾は私の左腕の外側にふわりと浮遊し、盾面には精緻な魔紋が刻まれ、その中央にはかすかに輝く緑色の宝石が一つ埋め込まれている。
「これは……伝説級の武具か?」
フィオナ先生は私の変貌ぶりに、あからさまな驚愕の表情を浮かべた。
「はい。こちらはクローディア様の家系に伝わる、光属性の伝説級武具——『ブリュンヒルデの槍』にございます」
ヘイティ先生が傍らから、私の代わりに答えてくれた。
何しろ彼女はもうずいぶん長く我が家に仕えているのだから、私にどんな切り札があるかくらい当然承知していた。
「伝説級……ハーランド帝国全土でも二十振りほどしか存在しないという……」
フィオナ先生はぽつりとそう呟き、その視線は私の身体を覆う銀鱗の鎧から、私の手にあるブリュンヒルデの槍へと流れ、最後に槍の切っ先に漂う淡い光の暈の上で止まった。
「道理でね……」
身体の換装が終わると、洞穴全体を照らし出していたあの白い光は勢いを失い、周囲は再び先ほどまでの暗闇の中へと戻っていった。
しかし、まさに光が完全に消え去ろうとしたその瞬間。
私の背中から、不意に一筋のあたたかな気流が立ち昇った。
直後、一対の「光の翼」が私の背中から力強く生え出した。
その翼は全体が純粋な光の精霊で構成され、まるで月光で彫り上げられたかのような美しさだった。
一枚一枚の光の羽がかすかに震えながら柔らかな銀白色の輝きを放ち、周囲数メートルを隅々まで明るく照らし出す。
翼開長は私の両腕の幅を優に超え、光の精霊が流動するたびにかすかなうなりを立てていた。
まるで風が竪琴の弦をくぐり抜けるような、そんな幻想的な音だった。
この一対の光の翼が姿を現したことで、洞穴はもう一度、隅々まで照らし出された。
ただ、今度の明かりは先ほどの一瞬の閃光よりもずっと優雅だった。
闇を暴力的に吹き飛ばすのではなく、まるで空中に浮かぶ一つの魔導ランタンのように、穏やかで持続的な光で影を追い払うのだった。
私は振り返り、私たちを襲撃しようとしていたあの小さな魔蜘蛛たちを見つめた。
奴らはどうやら、自分たちの居場所がすべて露見してしまったことを察したらしかった。
あの不意に迸った白い光の中で、もともと岩壁の割れ目や砕石の陰に潜んでいた小さな魔蜘蛛たちは、こぞって這う足を止め、八本の脚を縮こまらせて立ち竦んでいた。
十三対の感知器官で、蜘蛛は視覚ではなく、主に振動と魔力の波動で周囲を感知するのだが。
それが白い光の中で完全に丸裸にされていた。
なかでも反応の速い数匹の幼体が真っ先に硬直から立ち直り、洞穴の奥深くへと素早く這い出し始めた。
この光の翼に照らし出された「死の領域」から逃げ出そうというのだ。残りの連中もすぐにそれに続いた。
「逃がすもんですか!」
私は本能的に追いかけようとした。
だがその時、大魔蜘蛛のほうに動きがあった。
先ほどまでずっとフィオナ先生と対峙し続けていた大魔蜘蛛は、今や目の前の脅威を完全に無視していた。
奴は身を翻し、八本の長い脚を地面の上で目まぐるしく動かしながら、その標的を明確に私へと合わせてきたのだ。
大魔蜘蛛は二対の毒牙を大きく開くと、私めを狙って数発の毒液をブチちまけた。
それらの毒液は光の翼の灯りの下では濁った灰緑色を呈し、まるで腐り果てた果汁のようだった。
空気の中に数条の放物線を描きながら、鼻を突く酸鼻な臭気をまき散らしつつ、私の方へと飛んでくる。
だが、それらの毒液が私に届くことはなかった。
私は背後に広がる光の翼を羽ばたかせ、身体を軽やかに横へとスライドさせた。
毒液は私の脇を虚しく擦り抜けていく。
そのうちの一発は、あまりに近くをかすめたために、中で渦を巻く泡の一粒までもがはっきりと目に映るほどだった。
それでも私には掠りもしない。
光の翼が私に与えてくれたのは、単なる照明能力だけではなかった。空中で短時間ホバリングし、高速で方向を転換する破格の「空中機動能力」だった。
魔蜘蛛は一撃で仕留められないと見るや、なおも執拗に毒液を連射してきた。
ひと塊、またひと塊と、灰緑色の液体が私めがけて飛んでくる。
その密度はどんどん高まり、弾道もますます悪辣なものになっていく。
どうやら奴は、この毒液で私に傷を負わせられるとは端から期待していないらしかった。
——奴は、時間を稼いでいる。
私はすぐにその意図を見抜いた。
洞穴のさらに奥深くへと逃げ込もうとしているあの十数匹の小さな魔蜘蛛たちは、おそらくこの大魔蜘蛛の子供なのだろう。
私が少しでも加速して追いつこうとするたびに、大魔蜘蛛は間髪を入れずに毒液を浴びせかけてくる。
私は否応なく、それを躱すために軌道修正を余儀なくされ、その数秒の隙に乗じて、子供の魔蜘蛛たちはさらに距離を引き離していく。
私は、親としてのその気持ちを痛いほど理解できた。
自分の子供が傷つけられるのをただ黙って見ていられる親など、それがどんな種族であろうと存在しないだろう。
だが、先に背後から奇襲を仕掛けてきたのは向こうだ。
ならば、その報いは受けてもらう。これはフィオナ先生が私に教えてくれたことだった。
『迷宮の中では、背後から襲おうとする者すべてに情けをかける価値はない』
先生はあの時、まるで教科書の一文でも読み上げるかのように、淡々とそう言ったのだ。
しかし、大魔蜘蛛の執拗な弾幕の前では、私は追撃に移行する余裕をまったく作れなかった。
毒液の防壁を突破しようと加速するたびに、二発、三発と別の角度から新たな毒液が飛来し、またも方向転換を強いられる。
ユーナとヘイティ先生が絶えず火球術を放ち、私に代わって毒液の一部を撃ち落としてくれていた。
火球の塊が私の背後の空を次々に飛び越え、灰緑色の液体を空中で正確に迎撃する。
炸裂するたびに「しゅっ」と激しい音が立ち、白い水蒸気が一面に立ち昇る。
だというのに、それでも私の前進速度にはかなりの遅れが生じていた。
幼体の魔蜘蛛たちは、もうざっと三十メートルも先へ逃げ延びていた。
このまま奴らがもっと奥の岩の裂け目へと潜り込んでしまえば、もう本当に追いつけなくなる。
そこで私は、一つの決断を下した。
もはや毒液を躱しながら追いかけるのはやめ、あの魔蜘蛛たちの逃走経路をあらかじめ予測し、その先へ狙いを定めることにしたのだ。
幼体たちは今まさに洞穴の右側、岩壁の隙間に沿って懸命に這い続けている。
奴らの狙いは、もっと奥まったところにある岩の裂け目だ。
光の翼の灯りの下でかすかに見えたが、ざっと五十メートルほど先に、奴らが十分に通り抜けられるだけの岩の裂け目が確かに存在していた。奴らはそこから逃げ延びるつもりだ。
脳内で先読みが完了すると同時に、私は手にしたブリュンヒルデの槍を高く頭上へと掲げた。
銀白色の槍身が光の翼の灯りを受けて目も眩むような輝きを反射し、その切っ先は洞穴の奥の暗黒を真っ直ぐに指し示している。
私は体内に溢れる大量の光属性魔力を、惜しみなく長槍の中へと注ぎ込んだ。
その感覚はまるで、自分の血管を流れるすべての力を一気に武器へと流し込んでいるかのようだった。
銀鱗の鎧の輝きが一瞬でさらに数段強まっていく。
光の翼のうなりもいっそう急を告げ始めた。魔力が大量に消耗されている兆候だ。
「——貫け!」
私は渾身の力を込めて、手にした長槍を投擲した。
長槍が手を離れたその刹那、銀白色の切っ先は一条の目映い尾を引き、まるで夜空を駆ける流星のように幼体たちの逃走先めがけて猛然と飛翔した。
そしてその飛翔の途上で、長槍はさらなる変化を始めた。
銀白色の槍身からは一条、また一条と白い光が分離し、分離した光の一条一条が、槍身を離れた直後に急速に形を成して、長槍とまったく同じ輪郭を持った幻影へと変貌していったのだ。
数十本ものブリュンヒルデの槍と寸分違わぬ白い光の残像が、まるで銀色の飛鳥の群れのように通路を隅から隅まで埋め尽くした。
数十本の長槍の幻影が、本体とともにあの魔蜘蛛たちめがけて降り注ぐ。
その光景は、壮観という言葉すら生ぬるいほどで、まるで現実の出来事とは思えなかった。
銀白色の光の槍が暗黒の中に数十条の平行に走る軌跡を刻み、通路全体を昼間よりもなお明るく照らし出す。
光の翼の照明範囲など、完全に圧倒されていた。
その瞬間、この洞穴のすべてが、ブリュンヒルデの槍が放つ絶対的な光によって完全に支配されていた。
幼体の魔蜘蛛たちは、そもそも反応することすら許されなかった。
「——ドオオオン!」
単発の爆音ではない。
連鎖し、一つに重なり合った轟音が、まるで洞穴の中で一連の爆縮を起こしたかのように響き渡った。
いや、それよりもずっと激しく、耳をつんざくほどの衝撃波だった。
ブリュンヒルデの槍と無数の幻影たちは、一瞬のうちに、逃げ惑う小さな魔蜘蛛たちを塵ひとつ残さず粉々に吹き飛ばした。
青黒い体液が四方八方へと飛び散った。
それらの液体はまるで、極限まで圧縮されたバネが突然解放されたかのようにあらゆる方角へと噴出し、背後の一面の岩壁さえも青黒く染め上げてしまった。
空気には濃厚な生臭さが立ち込め、蜘蛛の糸が焼け焦げた強烈な臭気が混ざり合う。
光の翼の灯りがあの青黒い染みを照らし出し、通路全体を一際不気味な緑色の反射光で包み込んでいた。
私は地面に深く突き立ったブリュンヒルデの槍を回収し、同時に、槍の中に込められていた光属性の魔力をすべて引き抜いた。
槍身の輝きはしだいに暗く沈んでいく。
私の身体を覆っていた銀鱗の鎧は、まるで氷解するように皮膚の上から消え失せ、光の粒となって空気の中へと溶けていった。
背後の光の翼もまたすぼむように収縮し、最後には小さな光の一点となって長槍の中へと吸い戻されていった。
「…………」
洞穴は再び暗闇に沈んだ。
しかし、それは今度こその完全な暗闇ではなかった。
私の手の中には、まだわずかな光属性の魔力が残されていた。
それは槍の切っ先をかすかな蛍光に変えるには十分で、私たちの周囲に最低限の灯りを提供し続けていた。




