206. 売り子の才、そして合格の夕餉
商会の仕事に、難しいことは何もなかった。入ってきた客に、ただ商品を売ればいいだけのことだ。
店長は顎に無精髭を生やした中年の男で、姓をパーマーといった。
この業界で叩き上げて七年、一番下の荷捌き係からついに店長まで上り詰めた叩き上げだった。
彼は私たちに短い講習を行ったとき、話す速度こそ早かったが、その内容は非常に筋が通っていた。
「三つの要点を覚えておいてください。一つ、お客様が入店してから三秒以内に必ず挨拶をすること。二つ、『何をお探しですか』ではなく、『今日はどんなものをご覧になりますか』と尋ねること。前者は相手に圧力を与え、後者は期待を抱かせます。三つ、お客様が迷っているときは急かさない。ただ横に立って待つこと。沈黙もまた、立派な売り込みです」
私はこの三箇条を、黙って心に刻み込んだ。
そして、実践の中で思い知らされたのだ。
知っていることと、実際にできることとの間には、エリクソン公国からハーランド帝国へ至るよりも、遥かに遠い距離があるということを。
だが、かつてセールスの仕事を経験したことのあるチャーリーにとっては、これほど簡単なことはなかった。
彼女は売り場に立つと、まるで別人のように見違えた。
普段は通りを歩けば看板にぶつかり、大声を張り上げて話すあのそそっかしい少女が、店頭に立つと凛とした空気をまとったのだ。
その眼差しは誠実で、笑顔は極めて自然。
声のボリュームも心地よく耳に届く絶妙な大きさを保っていた。
彼女は客の後を追いかけて無理に売り込んだりはしない。
絶妙な距離感で客の視界に入り、相手から声をかけられるのを待ってから、滑らかに商品の推薦に入る。
その一連の流れには一切の淀みがなく、まるで何万回と繰り返してきた職人芸のようだった。
一人目の客である、小さな子どもを連れた中年の婦人は、チャーリーの勧めでものの五分も経たないうちに、子ども用の食器セットを二つと、台所用の調味料入れを一組買い求めていった。
二人目の客である、何を買うか決めあぐねている様子の若い男は、チャーリーが「こちらは今年の新作の剃刀で、リピーターの方も多いんですよ」と一言添えただけで、すぐに財布を取り出した。
しかし、見知らぬ人と話し、手にした商品を売り込むということは、私とユーナ、そしてニーナにとっては、やはりあまりに高すぎるハードルだった。
私は前世で、実にさまざまな仕事を経験してきた。
コンビニでレジを打ち、レストランで皿を運び、工事現場で重いレンガを担いだ。
だが、身寄りのない孤独な者だけが抱える、あの自責にも似た警戒心が、どうしても私を「他人との対話」という高い壁の前に立ち竦ませてしまう。
その感覚は、何と言えばいいのだろう。
まるで、心の中に一枚の透明なガラスの壁があるかのような。
壁の向こうにいる客の姿は見えているし、声も聞こえる。自分が何を言うべきかも頭では分かっているのに、どうしても口が開かない。
勇気を振り絞って話しかけようとするたびに、その壁が音もなく迫ってきて、私の声を喉の奥で押し殺してしまうのだった。
私は三度、挑戦した。
一度目——品の良い身なりの婦人が食器売場へと入ってきた。
私は勇気を振り絞って「いらっしゃいませ」と口を開いたが、その声は蚊の鳴くような羽音にしか聞こえなかった。
その婦人は私に気づきもせず、まっすぐにチャーリーの方へと歩いていってしまった。
二度目——恋人同士らしい若い二人連れが、調味料の棚の前で楽しげに話し合っていた。
私は歩み寄り、まさに「何かお探しですか」と言いかけたその瞬間、相手の男性がふと振り返って私の顔を見た。その視線に、悪意など微塵もなかった。
ごく普通の、人を見る目だった。
それなのに私の足は、すくんだようにピタリと止まってしまった。
口もまた、それに倣うように閉じてしまった。
三度目は……まあ、言わずにおこう。
ユーナの状況も、私と似たり寄ったりだった。
彼女は私よりは明るい性格だが、見知らぬ人を前にすると、やはり本能的に身構えてしまう。
何しろ彼女は貧民街育ちだ。見知らぬ他人に対する生来の警戒心は、私よりもずっと根深い。
彼女はどうにか一度だけ挨拶に成功したが、客に「これ、日持ちはいつまでですか?」と尋ねられた瞬間にフリーズしてしまい、助けを求めるような目で私を振り返った。
私だって知るわけがない。
ニーナに至っては、もはや言うまでもない。
彼女は売り場の隅に立ち、まるでディスプレイ用の観葉植物のように静まり返っていた。
ときおりパチパチと瞬きをしていなければ、本気で彼女が何かの金縛りの魔法でもかけられて彫像になってしまったのではないかと疑ったほどだ。
結局、私たちの担当時間が終わるまでに、三人揃ってどうにか四、五個の商品を売り捌いたに過ぎなかった。
そのうち二つは、私が無理やり腹を括って売ったものだ。
一つはパン切りナイフ、もう一つは携帯用の水筒。
パン切りナイフを売るとき、私は一度も客と目を合わせられず、ただ黙ってそっと品物を差し出しただけだった。
水筒を売るときは、あやうく値段を間違えそうになった。
幸いパーマー店長が、すかさず傍らで咳払いをしてくれたおかげで、どうにか大惨事を免れた。
一方のチャーリーはなんと百を超える商品を売り捌いていた。
そのうちのいくつかは、店長によって推奨販売品の印までつけられていた。
パーマー店長はすべての集計を終えたあと、チャーリーの恐ろしい数字と、私たち三人の目を覆いたくなるような数字を交互に見比べ、口元をピクリと引き攣らせた。
その表情が物語っていたのは、おそらく「なぜこれほどの格差が生まれるんだ……」という困惑だろう。
引率のフィオナもこれを見て、思わず目を見張った。
彼女はチャーリーを見つめ、それから手にした集計表の数字を見つめ、何か言いかけては口を閉じ、最後にはただ深く頷いて、採点表に何事かを書き込んだ。
今日の実習はあっという間に過ぎ去り、当然ながらチャーリーが「販売王」のメダルを獲得した。
それは小さな銅製のバッジで、表面には商会の象徴である麦穂のマークと『販売の星』の文字が刻まれていた。
チャーリーはメダルを両手で愛おしそうに抱え、その顔つきはさほど得意げではなく、むしろ「ようやく自分の仕事ができた」と、心底ホッとしたような安堵の表情だった。
私は彼女のそんな様子を見ていて、こちらの胸のつかえもすっと軽くなった。
人にはそれぞれ、生まれつき向いている領分があるものだ。
チャーリーと販売との関係は、おそらく私と技術との縁に近いのだろう。
努力して習得するのではない。
ただそこに立っているだけで、自然とできてしまうのだ。
私のほうはというと、やはり販売のような専門分野は、餅は餅屋、専門の者に任せるに限る。
ホテルへ戻る馬車の中で、私は車窓に寄りかかり、だんだんと薄暗くなっていく夕暮れの空を眺めながら、考えごとを巡らせていた。
クローディア商会……。
私が創設した商会だと言っているが、私が実際にやったのは、最初のグランドデザインと基本設計を描いただけに過ぎない。
本当にこの巨大な商会を動かしているのは、パーマー店長のような歴史に名を残さない普通の人たちだ。
彼らは来る日も来る日も、棚のそばに立って客に声をかけ、在庫を数え、帳簿を照合し、返品や苦情の処理に追われている。
私はこの人たちの名前をほとんどろくに呼べない。
あのときリリィに言ったことと同じだ。
野菜を育てたのは私ではない。
商会だって、私一人で支えたわけじゃない。
私はただ、企画書の最初の一ページを書いた人間に過ぎないのだ。
そう思うと、あの日リリィに告げた「誇りとは、自分の努力が誰かに認められたことから生まれるんだ」という言葉は、実のところ、自分自身に最も言い聞かせたかった言葉だったのかもしれない。
チャーリーたちとあらかじめ口裏を合わせておいたため、私たちは今日、自分たちの部屋には戻らず、チャーリーたちの別荘へと向かった。
梅の別荘と私たちの山茶花の別荘は、間取りこそほぼ同じだったが、中に流れる空気はまったく違っていた。
山茶花の別荘には、窓台の上に麦穂の勲章が置かれ、テーブルの上には飲みかけの紅茶が残り、ソファの上には昨日私が雑に放り投げたクッションがまだ転がっている。
生活感に満ちあふれているのだ。
一方、梅の別荘は、冷たく感じるほどに整然としていて、あらゆる物が定められた場所に寸分の狂いもなく置かれていた。
まるでモデルルームをそのまま持ってきたかのようだ。
ニーナの荷物に至っては、あまりの簡素さに呆れるほどだった。
一つの旅行鞄の中には、聞くところによれば、三着の着替えと、煉瓦のように分厚い古書がたった一冊しか入っていないらしい。
洗面用具すら、ホテルの備え付けのアメニティを使っていた。
今日、私たちがここにいる目的は、彼らに夕食が届けられた後、今度こそ食事の内容が改善されたかどうかを確かめることだった。
しばらくすると、レストランの給仕が夕食を届けにやってきた。
手早く配膳を済ませると、給仕は静かに部屋を後にした。
去り際に、その給仕は私のことをこっそりと盗み見ていった。
昨日と同じ、「あなたがどなたか知っていますよ」という目つきだった。私は無表情を貫き、視線を逸らした。
食卓へと歩み寄り、料理の保温カバーを外すと、料理はたしかに劇的な変化を遂げていた。
まず、ボリュームが違った。
上品といえば聞こえはいいが、あまりに皮肉だったあの極小の盛り付けは影を潜め、代わりに、まともな量の料理が並んでいた。
大盛りというわけではない。大人の女性が一人で食べて、ちょうど無駄なく完食できる適量だった。次に、食材の使い方だ。
私は銀のスプーンを手に取り、器からスープを一口、口へと運んだ。
人参と豚肉をじっくりと煮込んだ澄まし汁。
今日のスープは、昨日のように人参の中心部だけの偏った甘さではなかった。
人参を丸ごと一本使った風味が、すべてスープの中に完璧に溶け込んでいる。
外側の少し土臭さの残る野性味のある甘みと、内側の清らかな甘さが、弱火でじっくり煮られるうちに一つに調和し、そこに豚肉から染み出た上質な脂のコクが加わっている。
スープが持つ味わいの深みは、昨日の「中心部だけを使ったスープ」とは比べものにならないほど豊かだった。
私は思わず、小さく深く頷いた。今日の料理は、たしかに私の要求通りに改善されていた。
「どう?」
ユーナが隣から、伺うように慎重に尋ねてきた。
「合格よ」
私がそう告げると、ユーナは明らかにホッとしたように息を吐き、それからようやく嬉しそうに箸を動かし始めた。
すべての料理を完食し、全品が私の定める食材の取り扱い基準を完璧に満たしていることを確認した後、私たちはしばらく休息をとってから、チャーリーたちと部屋を交代して自分たちの部屋に戻り、簡単に身支度を整えてベッドに入った。
眠りにつく間際、私は窓辺に立ち、窓台をちらりと見やった。
麦穂の勲章はまだそこにあった。
月光を浴びて、温かみのある金色の輝きを放っている。
明日もまた、新しい一日が始まる。




