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19. 決闘戦の幕開け、そして旧校舎の死闘

「皆さん、先生方、今年の新入生魔法決闘戦、これより開幕です!」


校長が壇上に立ち、朗々とした声で宣言した。


会場の大半の生徒たちが歓声を上げ、顔を輝かせた。入学以来初めて参加するイベントだから当然だろう。


——まあ、私とユーナを除いて、だけど。


昨日の昼、父上から短信が届いた。内容は簡潔だった。


「明日、お前の学院内に小虫が現れる。見つけ次第、始末してくれ」


……父上、いくらなんでも表現が雑すぎですよ。


だが、ヘレナ母上は召喚される古代魔物がデーモン族だと知った瞬間、アルフレッド父上の胸ぐらを掴んで烈火の如く叱りつけたらしい。


なぜかって? 戦闘のエキスパートである母上には分かっていたのだ。小デーモンを複数体召喚するのは、ローブ会の本来の目的ではない。小デーモンを贄として捧げ、その命の対価に大デーモン王を召喚する——それこそが彼らの真の狙いだと。


叛逃者のジャックは組織内での地位が高くなかったため、計画の全貌を把握できていなかった。だが幸い、召喚場所は知っていた。まだ間に合う。


母上はただちに馬車に乗り込み、精鋭の近衛兵を数名引き連れて、アムニット市へと馬を飛ばした。


そして昨夜、市内で待機している母上から緊急の伝言が届いた。


——今日、ローブ会と名乗る組織が、学院の活動に乗じて魔王召喚による学院への襲撃を仕掛けてくる。予想される規模は制御不能なレベルで、最悪の場合、アムニット市の半分が被害を受けるまで止めることができないかもしれない。


(……本当に笑えない話だな、これ)


ただし、もっと簡単な解決策がある。彼らが召喚の準備をしている今のうちに、一気に叩き潰すことだ。


デーモン王の魔力ランクは人間基準で大魔導士9級の頂点相当。私の大魔導士7級とは、丸々一段階と二小階の差がある。それは認めよう。


だが彼らが召喚に使う"贄"——小デーモンたちの実力は全くの別物だ。大抵は魔導士クラス、高くても大魔導士1級に届くかどうかというところ。


問題は、人均学徒レベルのアムニット初等学院の生徒にとっては、その小デーモンでも十分に大虐殺になるということだ。


「……どうしたもんかな」


俺は眉を寄せながら考えた。


父上からの命令はこうだ。学院内に潜伏している連中を見つけ出し、できれば正午前に校長に活動中止を告げ、全生徒を正午前に疏散する。その後、母上が近衛兵を率いて学院内の危険を一掃する——。


では、なぜ最初から活動を中止させないのか?


もし活動が急に中止になれば、ローブ会は情報漏洩を疑う。内部に裏切り者がいると気づけば、彼らは計画を即座に撤収するだろう。そうなれば——ジャックが危険にさらされる。


ジャックが発覚すれば、私たちはローブ会を一網打尽にする機会を失う。次に奴らが何かを仕掛けてきたとき、もう情報源は存在しない。


「つまり、二時間以内に奴らを見つけ出さないと、学院全体の生徒を一時間以上かけて連れ出す羽目になる、か」


俺は頭の中で時間を計算しながら、探索魔法を全力で学院内の建物という建物に走らせた。


だが、今日は活動日だ。生徒だけでなく、保護者、行商人まで入り混じっている。人の多さが、探索の精度を著しく下げていた。


「大海の中で針を探す、か。本当に笑えない……」


俺が溜息をついた、ちょうどそのとき。


「第一試合、個人組、ケイシー・コエーリョ選手!」


校長の声が響き渡った。


——私か。よりによって今、このタイミングで?


リングの向こう側には、いかにも強そうな顔をした男子生徒が立っていた。こちらを見下すような目で何やらべらべらと話しかけてくるが、俺は探索魔法の維持に意識を割いているので、正直一言も聞こえていない。


「すみません、相手をしている暇はないので」


俺はそう一言だけ言って、飛んできた水球を軽く避け、次の瞬間——地面から太い蔓を一本伸ばし、相手をぐるぐると締め上げ、リング外の空き地へと放り投げた。


「場外、ケイシー・コエーリョの勝利!」


審判の先生が宣言した。五秒で終わった。


観客席から歓声が上がっているが、俺にはもう関係ない。リングを降りると同時に探索魔法を再起動し、学院内の隅々まで意識を広げる——


——来た。


校舎から離れた場所にある廃校舎の一画。そこで激しい魔力波動の反応が起きている。廃校舎は普段、誰も立ち入らない場所のはずだ。


「……いたな」


俺はユーナに一声かけ、会場の人混みに紛れてその場を離れた。


棄権となれば個人組の出場資格は失うことになるが、今はそんな些細なことを気にしている場合ではない。


人目のない場所に来たところで、俺は変装魔法を解除した。プラチナブロンドの髪と、精霊族の証である尖った耳が、静寂の中に姿を現す。


「どうせこれから探索に入るなら、変装魔法を維持し続けるより、感知能力を全力で使った方がいい」


独り言を言いながら、旧校舎の壁を蹴り、二階の窓枠に飛び乗る。開け放たれた窓から、音もなく中へと滑り込んだ。


(旧校舎は、アムニット市がまだ村落だった頃の集会所らしい。そう大きな建物じゃない)


魔力反応は一階の奥。俺は足音を殺して廊下を進んだ。


そして——見つけた。


黒いローブの男が、歪んだ魔法陣の前に立っていた。召喚門だ。門の向こう側から、禍々しい気配を持った生き物たちが次々と這い出てくる。中には一体のデーモンも混じっていた。


(悪魔と結託するとは。本当に度胸があるな、褒めてやらんけど)


男がこちらに気づく前に、俺は光魔法を一筋、召喚門に向けて放った。


轟音。


門は木端微塵に砕け散り、くぐり抜けようとしていたデーモン系のワームが、転送の断絶によって身体を爆裂させた。肉片が四方に飛び散り、黒いローブに降り注いだ。


「なっ——!」


男が振り返る。俺と目が合う。


「——えっと、こんにちは」


俺は軽く手を振った。


男の後ろに残っていた魔物の群れが、一斉に俺へ向かって突進してくる。魔蛇、魔狼、魔象、魔虎——雑多な編成だ。


「全員まとめて相手してあげる」


地面が揺れた。


鋭い石柱が、床を突き破って一斉に迫り上がり、群れの中へ乱立した。小型の魔物——魔蛇、魔狼の類は、石柱に貫かれて即死。魔象や魔虎の大型個体は、四肢を石と木の根で縫い止められ、動けなくなった。


「こ、これが……!」


男が目を剥く。


その隙に、俺の周囲に展開した光のリングから、細い光刃が無数に走った。動きを封じられていた大型魔物たちが、音もなく塵へと還る。男の耳元を一条の光がかすめ、耳介をきれいに削ぎ落とした。


「あ"っ!」


男は耳を押さえてのたうった。


しかし次の瞬間、男は歯を食いしばり、新たな魔法陣を展開し始めた。同時に、傍らに控えていたデーモンへ視線を送る。


「……そうか。自分の魂を贄にしてでも召喚を続けるつもりか。正真正銘の狂人だね」


デーモンと目が合った。


あちらはこちらを見下すような目をしている。女の子の姿に油断しているのか、口の端を歪めて嗤っている。


——かつて俺も、そういう目をしてたかもしれない。反省してます。


「一つ聞いてもいいか。誰かに言われたことはあるか? お前の笑い方、本当に不細工だぞ、って」


デーモンが跳躍した瞬間——光の矢が一本、その脳天を貫いた。


「あぁ"っ!」


デーモンは地面に叩きつけられた。が、三秒後、新しい頭が生えてくる。再生能力だ。脳天を撃ちぬいただけでは死なない。


俺はよく知っている。デーモンは何度でも再生する。だから逆に言えば、何度でも壊してあげればいい。


今度は頭が元に戻りきる前に、光刃が左右の腕を根本から断った。


デーモンの顔から、余裕の色が完全に消えた。


「これは練習台として最適だな」


俺は静かに、しかし楽しそうに呟いた。——デーモンを魔法の威力測定用のサンドバッグとして使うのは、これが初めてじゃない。


腕が再生したと思ったら、今度はリングから光翼が走り、背中の翼を焼き飛ばした。飛行を失ったデーモンが、勢いのまま床に落下する。


「校内では走らないでください」


「……ッ!」


床から這い上がったデーモンは、今や目の前の少女が同格どころか、遙か格上の存在だと理解していた。正面から突っ込むことをやめ、魔力を体内に集めて防御態勢を取る。


賢い判断だ。だがもう遅い。


男の新しい召喚門が、完成寸前だった。門の向こう側から、さらに多くのデーモンたちが押し寄せてくる気配がする。


(数で押してくるつもりか。残念だったな)


俺は静かに息を吸い込んで、魔力を両手の先に集め始めた。


「じゃあ、まとめて片付けよう」


光が、収束する。

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