180. 組み立て、そして泥のような眠り
足元は硬い岩の地面。空気には山の冷気と、松の清らかな苦みが滲んでいる。
夜風が谷を抜けて、低く唸るような音を立てていた。
頭上に広がる星空は、レイク郡よりもずっと明るい。
ここは海岸から遠く、水蒸気の屈折がないからだ。
星が天幕いっぱいに、隙間なく敷き詰められている。
私とユーナの姿は、そこに現れた。
着地点は正確だった。誤差は二メートル以内。
どうやら転移の精度は確かに上がっている——浴槽宛てでなければ、の話だが。
私は額の汗をひと拭いした。
まだ息を整えきる間もなく、ユーナの手を引いて、山の上の指揮室へと駆け出した。
夜の山道は歩きにくい。砕けた石が足元で細かく音を立て、灌木の虫の声は私たちの足音に驚いて一瞬止み、すぐにまた鳴き始めた。
仮設司令部の木の扉を押し開けて、私はまっすぐに父の姿を捉えた。
アルフレッドは指揮台の前に座っていた。
目の前には地図が広げられ、脇には燃え尽きかけの油灯が一つ。
彼は数日前よりも、またひと回り痩せて見えた。
頬骨がさらに際立ち、眼窩も深く窪んでいる。だが、あの目は、私を見た瞬間にかすかに輝き、すぐにまた平静へと戻った。
「戻ったか」
二文字。挨拶はなかった。余分な感情の表れもない。
彼は私が出てから今まで、ずっと起きていた——机のうえの茶碗は三度も取り換えられ、茶殻が盆のなかに小さな山を築いている。
「戻りました。全部、片付けてきました」
私は首飾りを外して、彼に差し出した。
彼が受け取ったとき、その手がずしりと沈んだ。
彼はあの深緑色の水晶にちらりと目を落としてから、顔を上げて私を見た。何も言わず、ただ一度、頷いた。
「海岸砲が一式、艦載砲が二式。それに、二日分の砲撃を支えるだけの魔晶鉱もあります」
私は素早く明細を並べた。
「十分だ」
彼は立ち上がった。
それから隣の副官に一言、短く伝えると、副官はすぐさま駆け出していった。
「来い」
父はそれ以上の説明をせず、まっすぐ指揮室を出た。
私とユーナが後ろに続く。
山道はさほど急ではないが、夜で足元が見えない。
幸い、前方の者が小型の光属性の照明板を掲げてくれていた。
明るさは高くないが、足元の三歩先までは確かに照らし出してくれる。
工事用の内側通路を伝って山を登ること、およそ十分。視界が、不意に大きく開いた。
私は言葉を失った。
目の前に広がっていたのは、信じがたいほど平らに整えられた土地だった。
半面のサッカー場ほどの広さの平台が、山の岩盤のなかから、まるで「削り出された」かのように存在している。
表面は定規で測ったかのように均され、縁は切り揃えられ、地面の砕石一つすら、きれいに取り除かれていた。
平台のうえには、石灰でいくつもの目印がすでに描かれている——あらかじめ決められた砲座の設置位置だ。
そしてこれらすべてを、土魔法師たちが、たった一日とかからずに完成させていた。
「……すごい」
私は思わず声に出していた。
土属性魔法は私にも使える。
だが、私の土属性の腕前といえば、せいぜい「石煉瓦を操れる」程度だ。
一日で山の頭を丸ごと削り平らにするには、魔力だけでは足りない。
地形構造の正確な判断、岩盤の層理への深い理解、そして膨大な実地経験。
そのすべてが必要になる。
たとえ私が土魔法に極めて長けていたとしても、これを成し遂げられるかと言われれば、決して容易ではない。
ここに集まっていた金系の魔法師たちは、すでに長いあいだ待機していた。
彼らの大半はクローディア農場から派遣されてきた専門の職人で、父と私が歩み寄るのを見ると、軽く身を屈めて礼をした。
「これが海岸砲の構成部品だ」
父は手環から首飾りを取り出し、水晶の収納空間を開いて、部品を一つひとつ平台のうえへと開放していった。
金属のぶつかり合う音が夜の谷あいに木霊する。澄んで、そして重い。
職人たちは直ちに集まった。
ボルト、連結部品、砲身の支持フレーム。
彼らは番号をもとに一つひとつを識別し、その手際はまるで、何度も組み立てた積み木をまた組み直すかのような手慣れたものだった。
なにしろ、彼らは人並みの言葉で言うなら、これら魔導巨砲の創造者なのだ。当然、その構造には精通している。
私は脇に立ち、手環から魔導陣の金属ブロックを取り出した。
これこそが、魔導巨砲の心臓部にあたる構成部品だ。
魔晶鉱の内部に蓄えられた原初の魔力を、複雑な魔法の陣式を通じて、呑み込む効果を持つエネルギーの衝撃波へと変換する役割を担う。
精度は極限まで要求される。
わずかな誤差がエネルギー変換の失敗を招き、果ては逆方向の爆発すら引き起こしかねない。
だからこの工程だけは、他人の手に委ねられなかった。
「これは、私が取り付ける」
私は金属ブロックを砲塔土台の所定の溝に置き、深く息を吸い込み、意識を集中させた。
魔力が指先から、金属ブロックの表面に刻まれた魔導の文様へと注がれていく。
文様が発光し始めた、最初は淡い銀白色、それから徐々に、鮮やかな金色へと変わっていく。
一筋一筋の文様を、土台のうえの接続口に寸分違わず合わせていく。精密な手術のようだった。
金魔法を使えば、取り付けを加速させることはできる。
だが、その危険は冒せなかった。
金魔法は私の魔力で駆動する。
もし取り付けの最中に残留魔力が魔導陣の内部へと染み込めば、エネルギーの変換回路に干渉し、発射時に弾道の誤差を生みかねない。
戦場において、一発の誤差は、数十人の命の違いだ。
だからこそ、私は素手を選んだ。
金属ブロック、一つ。二つ。三つ……
どれ一つとして、全神経を集中させずに済むものはなかった。金属の表面を這う指先の振幅は、寸分の狂いすら許されない。
魔力を注ぎ込む速度は均一でなければならず、速すぎても遅すぎてもいけない、まるで綱渡りだ。
集中のなかでは、時間の感覚が溶けていった。
最後の金属ブロックを取り付け終え、砲塔の土台から身を引いたとき、空はすでに白み始めていた。
遠くの谷あいから、鳥の声が届く。
東の空に、最初の一条の朝の光が滲み、平台のうえで忙しく立ち働く人々の姿を、金色に染め上げていた。
私はだるく強張った指を揉みほぐしながら、二歩下がって、目の前の完成品を見つめた。
海岸砲が、山の頂の平台に聳え立ち、砲口を関隘の前方に広がる開けた土地へと向けている。
ここから見下ろせば、遠くの平原に、グリーン公爵軍の野営地のうっすらとした輪郭が見えた。
幕舎、焚き火、そして行き来する巡察の兵士たち。
もし向こう側から誰かが望遠鏡でこちらを見ていたなら、この山の頂に突如として現れた巨大な黒い砲身の存在に気づいただろう。
だが、構わない。
奴らがそれが何かをはっきりと見極める頃には、こちらの第一弾が、もう奴らの眼前にあるはずだから。
「取り付け、完了しました」
私は父のほうへ振り返って言った。
彼は頷いた。
私は平台の縁に立ち、視線を走らせた。この土地は土魔法師たちが、たった一日で山の頂に平らに拓いたものだ。均一で、堅牢で、広さも申し分ない。
砲台だけではない。もし戦後に、これらの力を都市建設に活かしたなら。
道路を敷き、地盤を均し、運河を掘り開く。
前世の記憶のなかの、あの大型の掘削機やブルドーザーが担っていた作業を、これらの土魔法師たちは魔力で成し遂げてしまう。
効率はそれ以上で、しかも燃料も要らず、排気ガスも出さない。
私はその削り平らげられた山の頭を見下ろしながら、頭のなかではすでに、「戦後インフラ整備計画」の雛形を描き始めていた。
考えは多すぎる。ひとまず、胸の奥にしまっておこう。
戦後のことは、戦後でいい。
いま最優先でやるべきことは、五日間でブレンの関所を守り抜くことだ。
戦争は、すぐそこまで迫っている。
レイク郡から帰還したあと、私とユーナはブレン要塞のなかの部屋へと向かい、休息を取ることにした。
なにしろレイク郡へ発つ前から、私はすでに一度、戦闘を経験し、心身ともに疲弊しきっていた。
あの悪魔兵士との遭遇戦は短いものだったが、精神的な張り詰め方は、まるで限界まで引き絞られた弓弦のようで、戦いが終わったあとも、その震えの余韻は神経の末端に残り続けていた。
レイク郡では、現地の工兵隊とともに魔導巨砲の解体にあたり、在庫の確認を終えると即座にレイク郡を発って帰還した。
帰還後は、そのまま工兵隊とともに山へ登り、魔導巨砲の組み立てにも立ち会った。
私は、もう十分に、身を削ってきた。
だから父——アルフレッド公爵——が、今にも倒れそうな私の姿を見たとき、何もかもを察して、ただ手を振っただけだった。副官に、私を休ませるようにと。
「数時間、寝ろ」
父の声は低く、短かった。
「今のお前の状態では、役に立たん」
その言葉は、少しばかり耳に痛かった。
だが、彼の言うことは事実だと、私にも分かった。
瞼は鉛を詰めたように重く、指先はまだ微かに震えている。
長時間にわたって高強度の魔力を使い続けたあとの、あの後遺症だ。
「行きましょう、お嬢様」
ユーナの声は、とても軽かった。
「休まなければ」
そうして私は、ユーナに肩を支えられながら、ブレンの関所の要塞のなかに臨時に用意された一室へと足を踏み入れた。
部屋は狭かったが、きれいに片付いていた。木のベッドが一脚、小さな机が一脚、油灯が一つ。
壁には色褪せた地図が掛けられ、関所周辺の地形が書き込まれている。
隅にはいくつかの木箱が積み上げられ、おそらく雑貨の収納用だろう。
私はほとんど転がるようにしてベッドにたどり着き、それから全身が泥の塊のように、どさりと倒れ込んだ。
意識がぼやけ始める。
「お嬢様、せめてお顔を拭くだけでも……」
ユーナの声が、ずいぶん遠くから聞こえた。
彼女が私の肩を押して、起こそうとしているのを感じた。だが、指一本持ち上げる力すら、もう残っていなかった。
「……風呂……」
私ははっきりしない声で、そう呟いた。
「先に風呂に入らないと……ベッドに……」
これは前世から染みついた習慣だった。どんなに疲れていても、風呂に入らずに寝床へ入ると、全身が落ち着かない。
だが今は、その習慣も、生理的な欲求の前では、これ以上なく些細なものにすぎなかった。
ユーナはまだ何かを言ったようだが、もう聞き取れなかった。
それから、掛け布団が一枚、そっと私の身体の上に掛けられた。
布団の手触りは少しざらついていて、かすかに、日に干したあとの匂いがした。
「おやすみなさい、お嬢様」
ユーナの声が、水底から響くように聞こえた。
「ここに、一緒にいますから」
何か応えようとした。だが、喉は何かに塞がれたように、声が出なかった。
それから、闇が私を呑み込んだ。
今度こそ、深い眠りだった。
夢もなく、意識の断片もなく、ただ純粋な、果てのない暗闇だけがあった。
外の世界の音、要塞のなかの足音、遠くから響く工事の音、ときおり鳴る角笛。
そのすべてが、厚い綿の層に隔てられたかのように、眠りに沈んだ私の意識には届かなかった。
どれほどの時間、眠り続けたのか、私には分からない。




