170. 賢者の一撃、そして交差する視線
平原の向こうから風が吹き込んでくる。
硝煙と焦土の匂いを巻き込みながら、私の白金色の長い髪をめちゃくちゃに乱した。
だが、もうそんなことを気にしている余裕はなかった。
眼下の戦場は、墨をぶちまけた絵のようだった。
どこもかしこも歪んだ手足で埋め尽くされている。
あるものはまだ青白い煙を上げ、あるものは不自然な形のまま土のなかに固まっていた。
悪魔の力で改造された兵士たちが、地面に倒れている。
彼らのラベンダー色の紫の肌は、陽光の下で異様に目立ち、すでに息絶えているにもかかわらず、身体から漂うあの不穏な気配だけは、いつまでも消え去ろうとしなかった。
残った十数体の怪物は、すでに母の率いる鉄甲聖騎兵によって、城壁と壕のあいだに追い詰められていた。
数は当初の一割にも満たないというのに、彼らはなおも低く唸りながら前へと這い進み、濁った眼球には一片の恐怖も浮かんでいない。
私は視線を戻し、目の前の地面に倒れている一人の男に、再び意識を集中させた。
彼は私の乗る鉄甲聖騎兵の拳で、数メートルも吹き飛ばされていた。
今は草地に身を丸め、板金鎧の肩部には重い拳が残したはっきりとした凹みがある。
手にしていた長槍は先ほどの衝撃で弾き飛ばされ、二メートルほど先の泥の中に転がっていた。
「さあ、おとなしく私と一緒に来てもらおうか」
私は鉄甲聖騎兵の肩甲を軽く叩き、近づくように合図した。
全身を暗黒色の板金鎧で覆った騎士は、無言で命令を実行した。
彼は同じく甲冑をまとった戦馬を操り、ゆっくりと倒れた男の前まで歩み寄り、それから下馬した。
篭手が地面に触れた瞬間、鈍い金属音が響く。
騎士は腰をかがめ、甲冑に包まれた両手を男の肩へと伸ばした。
その瞬間——
私の背筋に、ぞくりと冷たいものが走った。
この感覚は、言葉で正確に説明できるものではない。
何かの音を聞いたわけでも、何かの姿を見たわけでもない。
それは魔力感知の奥深くから湧き上がる、まるで毒蛇に睨まれたかのような本能的な警戒だった。
私は騎兵の肩から飛び降り、両足が地面に着くのと同時に、体内の魔力をすでに動かし始めていた。
ほぼ同じ瞬間、あの鉄甲聖騎兵も何らかの脅威を察知した。
彼は即座に男を掴む動作を止め、身体を素早く後ろへ引きながら、腰の脇から突撃では一度も使ったことのない円形の鉄盾を引き抜いた。
盾が掲げられた、その直後。
熱波が天地を覆うように押し寄せてきた。
その火球は、私たちの背後やや左寄りの方向から飛来した。
大きさは通常の火球術の規模をはるかに超え、真紅の輝きが周囲の空気に目に見える歪みを生じさせている。
考える時間はなかった。
私は火球が鉄甲聖騎兵の盾に触れるよりも前に、防御魔法の構築を完了させていた。
氷系魔法は私の最も得意とする属性のひとつであり、展開速度が極めて速い。
半透明の氷の覆いが瞬く間に形を成し、私と地面に倒れたあの騎士をともに包み込んだ。
それから、世界のすべてが赤に染まった。
熱い。
氷の覆いが形を成したあと、最初に感じたのはそれだった。
何層もの氷壁を隔てているにもかかわらず、その熱はなおも私の頬を焼くように熱した。
氷の覆いの外層が急速に蒸発していくのが分かる。
水蒸気が内部で白い霧となって凝結し、私の視界をぼんやりと曇らせた。
火球の持続時間は、私の予想よりもずっと長かった。
五秒。
十秒。
十五秒。
私は心のなかで静かに秒を数えながら、氷の覆いに絶え間なく魔力を注ぎ込み、構造の完全性を維持し続けた。
だが、氷壁は目に見えて薄くなっていく。
もともと透き通っていた氷の層が、外側から一枚また一枚と溶け、蒸発し、そしてまた凝結していく。
三十秒。
およそ三十秒が経過した頃、ようやくあの息の詰まるような熱波が引き始めた。
私は慎重に氷の覆いを解除した。
最後の氷壁が砕け散った瞬間、焦げた匂いを孕んだ空気が流れ込み、思わず何度か咳き込んでしまった。
それから私は、鉄甲聖騎兵がいた位置を見た。
そこには、何もなかった。
板金鎧の残骸はない。
騎士の姿もない。
金属が溶けた痕跡すら、一片たりとも残っていない。
彼は完全に消滅していた。
一騎で百を相手にしたあの伝説の兵種。
全身を鎧で覆い、目さえも隠していたあの鉄甲聖騎兵が、たった一発の火球術の前で、こうも音もなく消え去った。
まるで、最初からそこに存在しなかったかのように。
これが、賢者級の強者というものか。
私は帝国の剣から返ってくる反応で確認した——あの騎兵の魔力接続は、完全に切断されていた。
打ち破られたのではない。
存在そのものが、消し去られたのだ。
氷の覆いが砕けた余韻もまだ消えぬうちに、一振りの長剣が風切り音を伴って、私の右側から突き込まれた。
身体が意識よりも先に反応した——身をかわし、のけぞる。刃が鼻先すれすれを走り抜け、ひやりとした冷気を置き去りにした。
「まさか、こんな小さな子がここまで追ってくるとはね」
私は声のした方へと顔を向けた。
そこには、皮鎧を身にまとった一人の男が立っていた。
年齢は三十代前半といったところか。
金色の短髪が風にそよぎ、輪郭のはっきりした顔立ちは、端正と言っていい——今、何か愉しむような笑みを浮かべているその目さえ無視すれば、の話だが。
彼の皮鎧は仕立てが良く、肩部と腕部は金属の留め具で補強されている。
どう見ても、ただの兵士の装備ではない。
左手は無造作に腰の剣の柄にかけられていた。
まるで散歩の途中で、たまたま面白いものを見つけたかのような佇まいだった。
「どうも、舐められたものだね」彼は言った。
私は頭のなかで、目の前の人物と、名前と肩書きだけが載った資料の情報とを、素早く照合した。
金髪。皮鎧。鉄甲聖騎兵を一撃で消し飛ばす賢者級の魔力。
この男が、今回の戦争を引き起こした当人——ハーランド帝国皇帝の実弟、グリーン公爵、ハインツ・フォン・ハーランド。
「へえ、ハインツ公爵様はなかなか容赦がないのね。小さな子供相手にここまで本気を出すなんて」
私は彼の目をまっすぐに見据え、口元に笑みを浮かべた。
ハインツの表情に、ほんの一瞬、微かな変化が走った。
私がこんな態度で応じるとは、予想していなかったのだろう。
その面白がっているような目に、ちらりと意外さがよぎり、すぐにまた、より深い興味にとって代わられた。
「なに、敵同士だからね。相手に出会えば、全力で当たるのが筋だろう」
彼は微笑みながら言った。
その笑みはたいそう上品で、優雅とさえ呼べるものだった——ついさっき、一人の強者を丸ごと蒸発させたあの火球術の残滓が、まだ空気に漂っていなければ。
そのときばかりは私も、彼を教養ある貴族だと素直に信じられたかもしれない。
「だが、お嬢さんがどうしても私と戦いたくないというのなら、君の後ろにいるその騎士を引き渡してくれればいい。もちろん君には手を出さない」
彼がこの言葉を口にしたときの口調は、まるで市場で値段の交渉でもしているかのように淡々としていた。
しかし、彼の目が本音を語っていた——そこには、たしかに殺意がなかった。
彼の言葉は、虚言ではなかった。
これは、興味深い細部だった。
彼はこの戦場で、自らの手で百体以上の悪魔の力で改造された、痛覚も恐怖も失った傀儡の兵士を生み出した。
その男が、ためらいもなく彼らを前線に送って捨て駒にし、同じくためらいもなく、鉄甲聖騎兵ごと一人の逃げる指揮官を奪い返すために、一騎丸ごとを蒸発させる火球術を放った。
それなのに、十三歳の少女一人を相手に、君には手を出さないなどと言う。
慈悲ではない。
彼は、あの男を連れ戻したいのだ。
私は振り返って、背後にいるあの騎士指揮官を一瞥した。
氷の覆いの残骸の陰に必死に身を隠そうとし、全身を震わせている。
紫水晶の令符が、彼の鎧の隙間から一角だけ覗き、陽光の下で鈍い紫の光を屈折させていた。
「それはできない相談ね、ハインツ公爵様」
私は再び顔を上げ、笑みをそのまま浮かべながら言った。
「何しろこれは、さっきのあの奇妙な兵士たちを調べるための人質ですもの。ここであなたに渡してしまったら、手がかりが全部消えちゃうじゃない?」
私は「奇妙な兵士」という四文字に、わざと力を込めた。
果たして、ハインツの笑みに、ほとんど気づかれないほどのわずかな硬直が走った。
彼の反応が、私の推測を裏づけた——あの悪魔の力で改造された兵士たちは、彼に直接関係している。
彼が自ら前線に現れたのは、戦闘を指揮するためではない。
あの兵士たちの秘密が、漏れないようにするためだ。
つまり、あの存在は、私が思っていた以上に、重要な意味を持っている。




