167. 魔導巨砲の一撃、そして城門の外へ
そのとき、背後から低く重い轟音が響いた。
魔導巨砲が火を噴いた。
「轟——!!!」
暗い赤色の光球が城壁の上から射出され、夜明けの光の中に長い光の尾を引きながら、悪魔兵士たちのいる地点へと叩きつけられた。
光球は回転しながら飛翔し、表面には不安定な魔力の波動が渦巻いており、芯は周囲の光をすべて飲み込んでいるかのようだった。
その軌道上で、空気が歪み、耳をつんざく鋭い唸り声が走った。
悪魔兵士たちも、その光球の存在には気づいていた。
盾を持つ兵士の一部は盾を頭上に高く掲げ、光球を防ごうとした。
その盾は人の腰ほどの高さがあり、厚みも並ではなく、表面には荒い呪紋まで刻み込まれていた。
おそらく防御力を高めようという魂胆だろう。
しかし、それは無駄だった。
暗い赤色の光球が盾に命中した瞬間、爆発はなかった。
火柱も上がらなかった。
あったのは、一つの深い渦だけ。
まるでブラックホールのように。
光球は着弾点を中心に、半径五メートル以内の兵士たちを一瞬で飲み込んだ。
悲鳴を上げる間もなく、彼らはその吞噬の力に引き裂かれ、細片となって光球の深奥へと消えていった。
五メートル外側にいた兵士たちも、その飲み込む力の余波を免れなかった。
目に見えない力に引っ張られ、体が制御を失って光球のほうへ傾く者、隣の兵士に縋りつこうとしてともに引きずり込まれる者。
そして、腕を一本ごと生きたまま引き剥がされ、飛んでいく手足の欠片が渦に吸い込まれていく者。
血肉、そして鎧の破片、その一切合切を、光球は飲み干した。
光球が最終的に消散したとき、直径およそ十メートルの深い穴が残された。
穴底からはまだ細く青白い煙が立ち上り、周囲の土壌は高熱で焦げた黒に焼き固められていた。
「これが、クローディア、あなたが発明した魔導巨砲の威力なの?」
ヘレナの声に、いくぶんの驚きが滲んでいた。
造船のとき、魔導巨砲の本体を目にしてはいたが、実際の破壊力は知らなかったのだろう。
私は誇らしげに頷き、胸を張って笑いながら言った。
「もちろんよ。まあ、弾薬代が少々かかりすぎるという欠点さえ目を瞑れば」
しかし、視線を敵の方陣に戻した瞬間、私たちの顔色が変わった。
士気は崩れていなかった。
同胞が目の前で飲み込まれるのを見た悪魔兵士たちの顔には、恐怖がなかった。
動揺もなかった。
怒りすらなかった。
彼らはただ、無表情に立ち尽くしていた。
眼差しは虚ろで、まるで魂を持たない操り人形のようだった。
そして、前進を再開した。
大股で、ブレン関隘へ向かって歩みを進める。
隊列は均一で、たった今何かが起きたかのような気配すらない。
「……そんな、馬鹿な」
私が絶句したのは、飲み込む力で腕を生きたまま引き剥がされた兵士が、それでも傷口を押さえながら前進し続ける場面を目の当たりにしたからだった。
左腕は付け根から千切れ、肩口には血肉の断面だけが残っていた。
鮮血が絶え間なく溢れ、その不自然な紫の肌を赤く染めている。
しかし、彼は止まらなかった。
右手で傷口を押さえ、ただひたすらに足を動かし続けた。
顔に苦悶の色はなく、眼差しは死物のように空洞だった。
いや、死物よりずっと恐ろしかった。
死物は自分では動かないのだから。
「痛覚が、抑制されているの……?」
私は低く呟いた。
声がわずかに震えていた。
「痛覚だけじゃないわ」
母の声が耳元に届いた。
語調は静かだったが、その奥底に重いものが宿っているのが分かった。
「恐怖、躊躇、自己防衛の本能、それらがすべて封じ込められている。あの子たちは今、ただの道具よ。命令に従うだけの道具。」
父が少し沈黙し、それから命じた。
「砲撃を続けろ。魔導巨砲、射石砲、弓兵、全砲門、開け。城壁に近づけるな」
「はっ!」
伝令が駆け出した。
城壁が再び轟いた。
しかし今度、悪魔兵士たちには備えがあった。
隊形を崩して散開し、互いの間隔を広げ、魔導巨砲による一撃の被害を減らそうとした。
射石砲の石弾が飛来すると、彼らは避けるか受け止めた。
命中する者も少なくはなかったが、大半はすり抜けた。
その速度は異常なほど速かった。
魔導巨砲はすでにフル稼働だった。
一発一発、十枚の金貨が砲口から打ち出されていく。
しかしそれでも、砲門が一門しかない以上、あの怪物たちの前進を止めることはできなかった。
十枚の金貨、二十枚の金貨、三十枚の金貨。
私は城壁の櫓の上に立ち、頭の中で計算を繰り返しながら、砲弾を浴びても動きを止めない怪物の躯を見つめ続けていた。
前世で磨き込まれた理性の警戒線が、じりじりと張り詰めていく。
普通の兵士であれば、とうの昔に潰走していた。
だが、あれらは違う。
魔導巨砲に直撃された者は、周囲ごと消える。
しかし、爆風の余波を受けた範囲では、腕がなくても歩き、足が欠けても引きずって進んでくる。
まるでスイッチのない機械だ。
完全に破壊するまで、止まらない。
問題は、こちらの砲が一門で、あちらが百体以上いるということだ。
魔導巨砲の砲撃を受け続け、損耗は半数を超えた。
それでも彼らは止まらず、関隘の城壁の麓まで、もう目と鼻の先だった。
もし城壁に取りついたら、想像する先が恐ろしかった。
半人高の悪魔兵士が厚い木製の城門を素手でこじ開ける光景は、もはや誇張でも何でもない。
射石砲の石弾を素手で弾き飛ばした瞬間から、それはすでに現実だった。
「お、お嬢様! 砲身の魔導法陣が過熱状態に達しました! 一時使用不能です!」
傍らに置いていた通信機が突然響き、声には急いた息が混じっていた。
砲台のほうも、もう限界だったのだろう。
私は振り返り、後方の丘に据えられた魔導巨砲を見た。
砲身は朝の光の中で燃え盛る炭のように赤々と透き通り、周囲の空気がその表面でかすかに歪んでいた。
過熱。
深く息を吸った。
「お父様、魔導巨砲、しばらく使えません」
私は早足で父に近づき、状況を手短に伝えた。
アルフレッドは一瞬沈黙した。
白い髪が風に揺れ、碧の瞳が城壁の外をじわじわと前進してくる黒い塊を捉え、拳が音もなく握り締められた。
「分かった。城外に打って出るしかないな」
良い選択ではない、彼も分かっていた。
私も分かっていた。
城壁の上は、もう乱れていた。
胸壁の隙間から下を覗き込む徴召兵の中には、城壁に手をつき、昨夜の夕飯を吐き出している者もいた。
職業兵士のほうがまだましで、顔は蒼白で、武器を握ったまま、だが動けずにいた。
砲弾で腕や脚を失ってなお前進してくる躯を見て、本能の恐怖が脊髄を走り抜け、それまでの訓練をすべて押し潰していた。
恐怖というものは、ときに敵よりも手ごわい。
私は周囲を見渡した。
父は士官たちを集めて出撃ルートを協議しており、老兵たちが最後の整備を終えようとしていた。
「お父様、この戦いは私に任せてください」
一歩踏み出し、声に出してみると、思ったより落ち着いていた。
アルフレッドがはっと振り返り、表情が変わった。
「駄目だ。クローディア、これは戦争だ。お前はまだ、まだ子供だ。そんな無茶はさせられない」
首を振った彼の眼差しには、指揮室の外では初めて見せる、ある種の色が宿っていた。
公爵としての冷静な判断ではない、父親としての本能的な拒絶だ。
前世の三十歳の男から、今は十三歳の女の子へ。
この身体に宿る記憶も成熟も年齢を遥かに上回っているが、年齢という数字そのものは、父の目には越えられない壁として映り続けるのだろう。
「でも、お父様。分かっているでしょう。ここで一番適任なのは私なんです」
私は穏やかに言い添えた。
口に出してみると、十三歳の子供が言う言葉としては少々おこがましく聞こえるかもしれない。
しかし、これは自惚れではない、事実だ。
母ヘレナが得意とする魔法属性は水と金属。
海上、あるいは水流が豊富な環境では戦闘力が大幅に増幅される。
しかし目の前のこの平原は乾燥した開けた地形で、大きな水源はない。
水属性魔法の射程も威力も、ここでは削られる。
父は土属性と木属性が得意で、この二属性は本質的に防御と補助に傾いており、大規模な地形改変には絶大な効果を発揮するが、近接攻撃は強みではない。
そして私、クローディア。
全属性魔法を操る天才。
それだけでこの部隊の頂点に立つ。
それに加えて、誰も本当の上限を知らない武器がある。
グリンマンランク帝国の剣。
手環をつけた手を持ち上げた。
何も説明しなかった。
ただ、待った。
父は私を見て、それから隣に立つ母を見た。
母が静かに頷いた。
その目には心配が宿っていたが、同時に了解の色もあった。
彼女は戦争学を学んだ人間だ。
「最適任者」という言葉の意味を、父よりも正確に理解している。
アルフレッドは長く息をついた。
その一息の中に、父親としてのすべての不本意が詰まっていた。
そして最後には、一言に溶けていった。
「……分かった。ただし、無茶はするなよ。何かあれば、すぐに退け」
私は頷き、余分な言葉は言わずに、城門に向かって歩き始めた。




