表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
167/230

166. 悪魔

 徴召軍は砲撃を受けたのち、小さな集団からじわじわと崩れ始めた。


 叫び声、逃げ惑う足音、そして呆然と立ち尽くす者。


 あらゆる反応が入り乱れて、隊列のそこかしこから湧き起こっていく。


 第二波が着弾すると、徴召軍は完全な混乱に陥った。


 彼らはただの農民だ。


 食い扶持のためにかり出されただけの、普通の人間である。


 訓練などを受けていない。


 戦う意思もない。


 そもそも自分がなぜここにいるのかすら、わかっていない者もいるだろう。


 一度も顔を見たことのない領主のために、自分の血の一滴まで流そうなどと、誰が思えるだろうか。


 かくして、かろうじて整えられていた方陣は崩れていった。


 武器を投げ捨てて逃げる者、地べたに座り込んで泣く者、来た道を引き返そうとして督戦隊の長槍に阻まれる者。


 それぞれが思い思いの方角へ散っていく。


 私はため息をつき、もはや戦力を失ったその烏合の衆から視線を外すと、別の一角へと目を移した。


 そちらが、本当の脅威だ。


 しかし、見た瞬間、眉間にしわが寄った。


「……あの連中、どうにもおかしい」


 その兵たちの立ち姿はばらばらで、秩序のかけらもない。


 それだけではない。


 体の輪郭が、徴召兵に比べて数倍はあろうかというほど大きいのだ。


 職業兵士のほうが農民より食事が豊かなのは確かだが、それでここまでの差が出るはずがない。


 魔力で強化した視力を使って細かく観察すると、彼らの顔に異様なものが見えた。


 ラベンダー色、いや、くすんだ薄紫の染みが肌に滲んでいる。


 生まれつきの肌の色ではない。


 何かに侵食された痕跡を思わせる、不自然な色だった。


 上半身には衣服がない。


 あの不自然な筋肉が、そのまま剥き出しになっている。


 筋肉の輪郭は誇張されて、ほとんど奇形的なほどに盛り上がっていた。


 一塊一塊が皮膚の下に石でも詰め込んだかのようで、今にも皮膚を突き破らんばかりに隆起している。


 下半身は、最低限の部分だけを覆うように粗布が一枚巻かれているだけだ。


 武器は、体格に合わせた特注品である。普通の人間の体より幅の広い刀身、成人の身長よりも長い槍。ただそれを持つだけで、常人には想像もできない膂力が必要になる。


「これは……普通の人間じゃない」


 私は思わず呟いた。


 嫌な予感が走った。


 私は急いで塔楼を駆け下り、父のいる指揮所へと向かった。


 石段で危うく踏み外しそうになりながら、全速力で走る。


 ユーナが後ろからついてきた。


 息が少し上がっていたが、一言も言わなかった。


「お父様」


 両親に前世のことを打ち明け、自分が本物のクローディアだと認めてから、この呼び方は以前とは少し違って聞こえる気がする。


 強制的に受け入れた呼び名ではなく、心から出た言葉として。


 指揮室の中では、父アルフレッドが大きな作戦地図の前に立ち、母や他の武官たちと何かを議論していた。


「ん? 何か気づいたことがあったか」


 アルフレッドが振り向き、私を見た。


 白い髪が朝の光を受けて淡く光っている。


 その碧の瞳には疲労の色が見えたが、それでもまだ鋭かった。


 開戦以来、彼はほとんど休めていない。


「はい」


 私は頷き、地図の前に立って、先ほど観察した内容を順に追って説明した。


「……顔に不自然な薄紫の染みがあり、上半身は裸で、筋肉が異様に肥大化していて、武器は特注の大型のもの……」


 一語一語、丁寧に伝えた。


「あの兵士たちは絶対に普通ではありません」


 母の表情に、険しさが滲んだ。


 母は草の根出身の父とは異なり、幼い頃から系統だった貴族教育を受けている。


 軍事理論もそのなかに含まれていた。


「確かに……おかしいわね」


 彼女の声は落ち着いていたが、底に緊張があった。


「上陸作戦は、少し待ったほうがよさそうね」


「上陸作戦ですか」


 私は思わず聞き返した。


「海軍を使って海岸線から敵の後方に上陸し、挟撃する予定だったんだ」


 父が説明した。


「だが、敵軍にあんな未知の戦力があるなら、迂闊に兵力を分散するわけにはいかない」


「慎重にいくのが正解だと思います。こちらは人数が多くないので」


 私は答えた。


 アルフレッドの傍らに立つ武官たちは何か言いかけたが、これがヘレナ妃殿下の判断となると、口を噤むしかなかった。


 模擬演習では彼女に一度も勝てたことがないのだから、無条件に従うしかない。


「確認しに行きましょう」


 母が言った。


 二人は私と共に作戦室を出て、近くの城楼に登った。


 元いた塔楼ほど高くはないが、あの異様な兵士たちを見るには十分だった。


 朝の陽光がすっかり昇り、戦場を明るく照らしている。


 ヘレナとアルフレッドは、遠くのあの兵士たちを目にした途端、表情を引き締めた。


 アルフレッドは目を細め、あの兵士たちを舐めるように観察し、やがてその薄紫の染みに視線が止まった。


 顔色が、じわりと暗くなる。


「これは……悪魔の気配だ!」


 アルフレッドの声に、隠しきれない驚愕が混じっていた。


 私は固まった。


「悪魔、ですか」


 思わず目を凝らして、あの兵士たちを見つめた。


 何かを感じ取ろうとしたが、何も感じない。


 ヘレナも頷いて口を開いた。


「エイドリアンというあの男、オリヴィア教の教義を踏みにじって現地の大司教を脅迫し、偽教派『ハーランド派』を立ち上げ、人族の宗教だなどと称しておきながら……まさか悪魔と契約まで結んでその力を得ているとは」


 彼女の声には、明らかな怒りと嫌悪が混じっていた。


「お母様、彼らが変異したのは悪魔のせい、ということですか」


 私は疑問を口にした。


「私も悪魔と戦ったことがありますし、あの気配は記憶しているはずなんですが……あの兵士たちからは、悪魔の臭いがまったくしないんです」


 あの学院で思い切り叩きのめした悪魔を思い出した。


 醜悪ではあったが、気配だけはかなり濃かった。本能的に嫌悪感を催す、腐敗臭じみた何か。


 でも、あの兵士たちからは、そういったものが何も感じられない。


「そうよ、クローディア」


 ヘレナが振り向いて私を見た。


 厳しかった顔が、一瞬で柔らかくなる。


 彼女は手を伸ばし、私の頭をそっと撫でた。小猫をあやすような、あの手つきで。


「あの悪魔の臭いを消す方法は私にもわからないけれど、顔がああも紫に変色しているのは、明らかに悪魔の気配に汚染されているからよ」


「でも、私が前に戦った悪魔、かなり弱かったですよ」


 私はあの兵士たちを見ながら首を傾けた。


「悪魔の力を借りた程度で、私たちの相手になりますか」


 アルフレッドは苦笑まじりのため息をついた。


「クローディア、お前の基準で計ってはいけない……」


 そうして父は、悪魔という種族について説明を始めた。


「悪魔は冥界に生きる生物だ」


 父の声は重く、慎重だった。


「等級があり、最下級の小悪魔から、最高位の魔王まで、その実力差は果てしなく大きい」


「お前が遭遇したあの悪魔は、悪魔の中でも最も下の小悪魔だ。それでも、学校中の生徒と教師を全滅させるだけの力はあった。お前に出会わなければ、本当にそうなっていただろう」


 私は頭を掻いた。


 少し気恥ずかしい。


「人間が悪魔の力を宿し、悪魔の気配に染まり、超人的な力を得るためには、最低でも悪魔伯爵レベルの存在が必要だ」


 父は続けた。


「人間の階梯で換算すれば、賢者三級相当というところだろう」


「賢者三級……」


 私は小さく繰り返した。


「その水準は、徒手空拳で一万人を相手に戦っても、傷一つなく生還できると言われている」


 父が私をまっすぐに見た。


「それは、普通の人間が太刀打ちできる相手ではない」


 母が引き継いだ。


「あの悪魔の力に染まった兵士たち、見た限りでは普通の兵士の十倍は強いと思う。肉体が悪魔の気配に侵食されることで、力、速さ、打たれ強さが大幅に上がる。それに——」


 彼女は一拍置いた。


 声にさらに重みが加わる。


「——痛覚と恐怖心の大半を、おそらく失っている。つまり重傷を負っても戦い続け、完全に行動不能になるまで止まらない」


 そのとき、頭上を風切り音が駆け抜けた。


 数十発の石弾が、射石砲と投石機から放たれ、あの悪魔兵士たちに向かって飛んでいった。


 石弾は弧を描いて空を翔け、沈んだ破空音を引きずりながら、あの兵士たちの集団へと降り注いだ。


「危ない——!」


 誰かが叫んだ。


 しかし、石弾がその怪物たちに当たろうとした瞬間、奴らが動いた。


 ただ腕を、一振りしただけだ。


「ドン! ドン! ドン!」


 石弾が、あの巨大な腕に弾かれた。


 あの重い石の塊が、まるで軽い風船のように空へ打ち飛ばされ、遠くの地面に落ちて、ぼこぼこと浅い穴を穿っていく。


 三人揃って、絶句した。


 射石砲の二射で徴召兵を散らした、あの砲撃が、こいつらには飛んできた石ころを払うのと同然だというのか。


 射石砲の威力は、農場で実際に目の当たりにしている。


 魔力強化を施した正規の盾兵ですら、一発まともに受ければ肉塊になる。


 たとえ弾いたとしても、その衝撃で内出血を起こす。


 それを、奴らは腕を振っただけで弾き返した。


「……馬鹿な」


 私は思わず、声に出した。


 徴召軍は砲撃を受けたのち、小さな集団からじわじわと崩れ始めた。


 叫び声、逃げ惑う足音、そして呆然と立ち尽くす者。


 あらゆる反応が入り乱れて、隊列のそこかしこから湧き起こっていく。


 第二波が着弾すると、徴召軍は完全な混乱に陥った。


 彼らはただの農民だ。


 食い扶持のためにかり出されただけの、普通の人間である。


 訓練などを受けていない。


 戦う意思もない。


 そもそも自分がなぜここにいるのかすら、わかっていない者もいるだろう。


 一度も顔を見たことのない領主のために、自分の血の一滴まで流そうなどと、誰が思えるだろうか。


 かくして、かろうじて整えられていた方陣は崩れていった。


 武器を投げ捨てて逃げる者、地べたに座り込んで泣く者、来た道を引き返そうとして督戦隊の長槍に阻まれる者。それぞれが思い思いの方角へ散っていく。


 私はため息をつき、もはや戦力を失ったその烏合の衆から視線を外すと、別の一角へと目を移した。


 そちらが、本当の脅威だ。


 しかし、見た瞬間、眉間にしわが寄った。


「……あの連中、どうにもおかしい」


 その兵たちの立ち姿はばらばらで、秩序のかけらもない。


 それだけではない。


 体の輪郭が、徴召兵に比べて数倍はあろうかというほど大きいのだ。


 職業兵士のほうが農民より食事が豊かなのは確かだが、それでここまでの差が出るはずがない。


 魔力で強化した視力を使って細かく観察すると、彼らの顔に異様なものが見えた。


 ラベンダー色、いや、くすんだ薄紫の染みが肌に滲んでいる。


 生まれつきの肌の色ではない。


 何かに侵食された痕跡を思わせる、不自然な色だった。


 上半身には衣服がない。


 あの不自然な筋肉が、そのまま剥き出しになっている。


 筋肉の輪郭は誇張されて、ほとんど奇形的なほどに盛り上がっていた。


 一塊一塊が皮膚の下に石でも詰め込んだかのようで、今にも皮膚を突き破らんばかりに隆起している。


 下半身は、最低限の部分だけを覆うように粗布が一枚巻かれているだけだ。


 武器は、体格に合わせた特注品である。


 普通の人間の体より幅の広い刀身、成人の身長よりも長い槍。


 ただそれを持つだけで、常人には想像もできない膂力が必要になる。


「これは……普通の人間じゃない」


 私は思わず呟いた。


 嫌な予感が走った。


 私は急いで塔楼を駆け下り、父のいる指揮所へと向かった。


 石段で危うく踏み外しそうになりながら、全速力で走る。


 ユーナが後ろからついてきた。


 息が少し上がっていたが、一言も言わなかった。


「お父様」


 両親に前世のことを打ち明け、自分が本物のクローディアだと認めてから、この呼び方は以前とは少し違って聞こえる気がする。


 強制的に受け入れた呼び名ではなく、心から出た言葉として。


 指揮室の中では、父アルフレッドが大きな作戦地図の前に立ち、母や他の武官たちと何かを議論していた。


「ん? 何か気づいたことがあったか」


 アルフレッドが振り向き、私を見た。


 白い髪が朝の光を受けて淡く光っている。


 その碧の瞳には疲労の色が見えたが、それでもまだ鋭かった。


 開戦以来、彼はほとんど休めていない。


「はい」


 私は頷き、地図の前に立って、先ほど観察した内容を順に追って説明した。


「……顔に不自然な薄紫の染みがあり、上半身は裸で、筋肉が異様に肥大化していて、武器は特注の大型のもの……」


 一語一語、丁寧に伝えた。


「あの兵士たちは絶対に普通ではありません」


 母の表情に、険しさが滲んだ。


 母は草の根出身の父とは異なり、幼い頃から系統だった貴族教育を受けている。


 軍事理論もそのなかに含まれていた。


「確かに……おかしいわね」


 彼女の声は落ち着いていたが、底に緊張があった。


「上陸作戦は、少し待ったほうがよさそうね」


「上陸作戦ですか」


 私は思わず聞き返した。


「海軍を使って海岸線から敵の後方に上陸し、挟撃する予定だったんだ」


 父が説明した。


「だが、敵軍にあんな未知の戦力があるなら、迂闊に兵力を分散するわけにはいかない」


「慎重にいくのが正解だと思います。こちらは人数が多くないので」


 私は答えた。


 アルフレッドの傍らに立つ武官たちは何か言いかけたが、これがヘレナ妃殿下の判断となると、口を噤むしかなかった。


 模擬演習では彼女に一度も勝てたことがないのだから、無条件に従うしかない。


「確認しに行きましょう」


 母が言った。


 二人は私と共に作戦室を出て、近くの城楼に登った。


 元いた塔楼ほど高くはないが、あの異様な兵士たちを見るには十分だった。


 朝の陽光がすっかり昇り、戦場を明るく照らしている。


 ヘレナとアルフレッドは、遠くのあの兵士たちを目にした途端、表情を引き締めた。


 アルフレッドは目を細め、あの兵士たちを舐めるように観察し、やがてその薄紫の染みに視線が止まった。


 顔色が、じわりと暗くなる。


「これは……悪魔の気配だ!」


 アルフレッドの声に、隠しきれない驚愕が混じっていた。


 私は固まった。


「悪魔、ですか」


 思わず目を凝らして、あの兵士たちを見つめた。


 何かを感じ取ろうとしたが、何も感じない。


 ヘレナも頷いて口を開いた。


「エイドリアンというあの男、オリヴィア教の教義を踏みにじって現地の大司教を脅迫し、偽教派『ハーランド派』を立ち上げ、人族の宗教だなどと称しておきながら……まさか悪魔と契約まで結んでその力を得ているとは」


 彼女の声には、明らかな怒りと嫌悪が混じっていた。


「お母様、彼らが変異したのは悪魔のせい、ということですか」


 私は疑問を口にした。


「私も悪魔と戦ったことがありますし、あの気配は記憶しているはずなんですが……あの兵士たちからは、悪魔の臭いがまったくしないんです」


 あの学院で思い切り叩きのめした悪魔を思い出した。


 醜悪ではあったが、気配だけはかなり濃かった。


 本能的に嫌悪感を催す、腐敗臭じみた何か。


 でも、あの兵士たちからは、そういったものが何も感じられない。


「そうよ、クローディア」


 ヘレナが振り向いて私を見た。


 厳しかった顔が、一瞬で柔らかくなる。


 彼女は手を伸ばし、私の頭をそっと撫でた。小猫をあやすような、あの手つきで。


「あの悪魔の臭いを消す方法は私にもわからないけれど、顔がああも紫に変色しているのは、明らかに悪魔の気配に汚染されているからよ」


「でも、私が前に戦った悪魔、かなり弱かったですよ」


 私はあの兵士たちを見ながら首を傾けた。


「悪魔の力を借りた程度で、私たちの相手になりますか」


 アルフレッドは苦笑まじりのため息をついた。


「クローディア、お前の基準で計ってはいけない……」


 そうして父は、悪魔という種族について説明を始めた。


「悪魔は冥界に生きる生物だ」


 父の声は重く、慎重だった。


「等級があり、最下級の小悪魔から、最高位の魔王まで、その実力差は果てしなく大きい」


「お前が遭遇したあの悪魔は、悪魔の中でも最も下の小悪魔だ。それでも、学校中の生徒と教師を全滅させるだけの力はあった。お前に出会わなければ、本当にそうなっていただろう」


 私は頭を掻いた。


 少し気恥ずかしい。


「人間が悪魔の力を宿し、悪魔の気配に染まり、超人的な力を得るためには、最低でも悪魔伯爵レベルの存在が必要だ」


 父は続けた。


「人間の階梯で換算すれば、賢者三級相当というところだろう」


「賢者三級……」


 私は小さく繰り返した。


「その水準は、徒手空拳で一万人を相手に戦っても、傷一つなく生還できると言われている」


 父が私をまっすぐに見た。


「それは、普通の人間が太刀打ちできる相手ではない」


 母が引き継いだ。


「あの悪魔の力に染まった兵士たち、見た限りでは普通の兵士の十倍は強いと思う。肉体が悪魔の気配に侵食されることで、力、速さ、打たれ強さが大幅に上がる。それに——」


 彼女は一拍置いた。


 声にさらに重みが加わる。


「——痛覚と恐怖心の大半を、おそらく失っている。つまり重傷を負っても戦い続け、完全に行動不能になるまで止まらない」


 そのとき、頭上を風切り音が駆け抜けた。


 数十発の石弾が、射石砲と投石機から放たれ、あの悪魔兵士たちに向かって飛んでいった。


 石弾は弧を描いて空を翔け、沈んだ破空音を引きずりながら、あの兵士たちの集団へと降り注いだ。


「危ない——!」


 誰かが叫んだ。


 しかし、石弾がその怪物たちに当たろうとした瞬間、奴らが動いた。


 ただ腕を、一振りしただけだ。


「ドン! ドン! ドン!」


 石弾が、あの巨大な腕に弾かれた。


 あの重い石の塊が、まるで軽い風船のように空へ打ち飛ばされ、遠くの地面に落ちて、ぼこぼこと浅い穴を穿っていく。


 三人揃って、絶句した。


 射石砲の二射で徴召兵を散らした、あの砲撃が、こいつらには飛んできた石ころを払うのと同然だというのか。


 射石砲の威力は、農場で実際に目の当たりにしている。


 魔力強化を施した正規の盾兵ですら、一発まともに受ければ肉塊になる。


 たとえ弾いたとしても、その衝撃で内出血を起こす。


 それを、奴らは腕を振っただけで弾き返した。


「……馬鹿な」


 私は思わず、声に出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ