164. 燃える海原、怒れる公爵、そして関隘の夕暮れ
「蛟龍」号は魔導巨砲の直撃を船体中央に受けた。
この一撃はこれまでのどれよりも正確だった。
光球は甲板を貫通し、船底の竜骨をも突き破り、船倉内部で爆発した。
巨大な衝撃波が船体を真ん中から引き裂いた。
木材、金属、帆布、そして船上の三百余名の水夫——それらすべてが瞬時に粉々になった。
炎が天を衝き、濃煙が空を覆った。
残る四隻の帆船の水夫たちは、全員が固まって動けなくなっていた。
彼らは目の前で、自らの旗艦——ダールトン子爵領の誇りであった「蛟龍」号が、わずか数秒のうちに燃え残る廃墟と化すのを、ただ呆然と見守るしかなかった。
やがて、恐慌が爆発した。
「子爵様が……!」
「旗艦が沈んだ!」
「逃げろ!早く逃げるんだ!」
もはや陣形も命令も、誰の耳にも届かなかった。
残った四隻の船はそれぞれ勝手な方向へ逃げ散り、東へ向かうもの、西へ向かうもの、さらには慌てふためいて沿岸の暗礁地帯へと突き進むものさえいた——そこに暗礁があることなど、露ほども考えずに。
無畏号の艦橋で、ウィリアム・スターリングは望遠鏡を下ろし、長く息を吐いた。
「目標、命中」
彼は平静にそう言った。
声にはさしたる感情は込められていなかった。
艦橋内にはしばしの静寂が流れ、やがて歓声が爆発した。
「やったぞ!」
「敵旗艦を撃沈した!」
「勝った!俺たちの勝利だ!」
ウィリアムは歓呼には加わらなかった。
彼は振り返って操縦席に向かい、通信器の送話口を握った。
「全艦注意。敵旗艦は撃沈された。残存敵艦は敗走、戦闘終了」
彼の目が舷窓の外、燃え盛る海面を捉えた。
かつて「蛟龍」号があった海域。
今、そこに残っているのは漂流する木板と油膜、そして数多くの焼け焦げた死体だけだった。
これが戦争だ。
君死するか、我亡きんか、そのどちらかなのだ。
「艦長」
技師のジョンがそっと近づき、おずおずと尋ねた。
「我々、これから……どうしますか?」
ウィリアムは計器盤に目をやった。
動力システムは全損。
砲塔は旋回不能。
船体は漂流中にゆっくりと流向を変えながら進んでいた。
「救助信号を発信。メイフラワー号と雪風号に、こちらまで曳航してくるよう伝えろ」
彼は言葉を区切り、付け加えた。
「それと、戦闘の詳細を記録しろ。動力システムの故障、ボイラー爆発、魔導巨砲の実戦データ……すべてを詳細に記録するのだ」
「はっ!」
ジョンは頷き、走り去った。
ウィリアムは再び窓の外に目をやった。
遠方の水平線上、敗走する四隻の帆船は小さな黒点と化し、次第に見えなくなりつつあった。
レイク郡沖海戦——。
こうして、それは終わりを告げた。
その三日後、レイク郡沖海戦の一報が、ハインツ・フォン・ハーランドの手元に届いた。
このグリーン公爵は今、自らの陣営幕舎の中にいた。
目の前にブレン関周辺の地形図が広がっていた。
幕舎内にはいくつかの油ランプが灯り、黄ばんだ光が地図の上に揺らめく影を落としていた。
ハインツは自らの金の短髪を指で掻きながら、忌々しげに報告書に見入っていた。
報告書は今朝、後方から最速の伝令によって届けられたものの、到着は丸二日も遅れていた。
伝令が陣地に駆け込んできた時、馬はその場に倒れ込むほど疲弊し、伝令本人の顔色も紙のように蒼白だった。
「……レイク郡沖戦況報告」
ハインツは声を潜め、報告書の冒頭をつぶやくように読んだ。
そして、その読み進める速度は次第に落ちていった。
表情は最初の穏やかさから疑惑へ、やがて驚愕へと移り、最後には顔全体が強張った。
「…… チャールズ・ダールトン子爵、レイク郡沖の海戦にて戦死。同子爵配下の海軍主力は壊滅的損害を受けた……」
ハインツはこの一文を繰り返し読んだ。
そこには何かの間違いがあるのではないか、誤解があるのではないかと探そうとするかのように。
だが、報告書の記述は明解だった。
ダールトンは九隻の主力戦艦を率いてレイク郡沿岸を襲撃したものの、相手の新鋭艦隊の反撃に遭った。
六隻は撃沈され、二隻は敗走時に暗礁に乗り上げて沈没。
一隻は甚大な損傷を負い捕らえられ、子爵自身は戦死した ——。
彼は思いも寄らなかった。
ハーランド帝国内で随一と謳われたダールトン子爵率いる艦隊が、まさか一戦にして壊滅したとは。
ましてや、その当人が戦場で死ぬとは。
「……醜態だ」
ハインツは報告書を脇に放り投げ、声にはっきりと怒りを滲ませた。
彼は兄、エイドリアン皇帝からの密命を受け、ランカスター公爵、ダールトン子爵と共にエリクソン領へ侵攻してから、すでに五日が経過していた。
元来なら三対一、優勢はこちらにあったはずだ。
ダールトン子爵は海路から攻撃を仕掛け、グリーン公爵とランカスター公爵は東正面からブレン関隘を主目標に攻め込む。
エリクソン領がいかに頑強に抗おうとも、持ち堪えられるはずがなかった。
だが、結果として彼が予想だにしなかったのは、ブレン関隘の守備が二人の予測を遥かに超えて厳重だったということだ。
あの城壁は桁違いに厚く、守備軍の抵抗も尋常ではないほど頑強だった。
五日間に及ぶ強攻を続けたが、城壁上にいくつかの破損を残しただけで、ほとんど進展はなかった。
そして今、子爵を一人失った。
さらに現在、エリクソン公爵一家がブレン関隘に到着している。
斥候の報告によれば、アルフレッド・フォン・エリクソン本人が昨日の午後に関隘に到着し、妻のヘレナと娘のクローディアも同行しているという。
グリーン・ランカスター両公爵連合軍がブレン関隘を陥落させる可能性は、さらに低くなった。
ましてや、ダールトン子爵家の海軍護衛を失った今、ブレン沿岸付近はすでにエリクソン公爵の戦艦部隊によって制海権を握られている。
彼らはいつでも前後から挟撃されるリスクを負っていた――エリクソン海軍が沿岸から上陸し、彼らの後方へ回り込めば……。
「忌々しい……」
ハインツは激昂のあまり、手にしていた報告書を引き千切り、粉々に引き裂いた。
紙屑が空中に舞い散り、机の上や床、そしてあの地形図の上に降り積もった。
彼は本当に思いも寄らなかった。
公爵領一つを落とすのに、これほど手間取るとは。
道理で言えば、エリクソン領の面積は広いが地形は複雑で、海岸線も長く、防衛圧力ははるかに大きいはずだった。
さらに情報によれば、エリクソン領の軍隊数はグリーン領のそれよりも遠く及ばず、装備もまた精良ではなかった。
だというのに、現実はこうだ。
彼らは五日間攻め続け、千人余りを死に落としながら、ブレン関隘の外壁すら突破できていない。
「来い!」
ハインツは幕舎の入り口に向かって怒鳴った。
すぐさま、重厚な甲冑を身につけた衛兵が一人、幕舎内に入ってきた。
彼はハインツの親衛隊長であり、長年彼に従って戦場を共にしてきた老兵だった。
「公爵閣下。何かご命令で?」
親衛隊長は深く一礼した。
「明日、あいつらを戦場に上げろ」
ハインツは平静にそう言った。
まるで何の造作もないことでも言うかのように。
親衛隊長は固まった。
「閣下、何をおっしゃっているのです! エイドリアン殿下が当時……」
親衛隊長は「あいつら」という言葉を耳にした瞬間、心の中に強い慌てを感じた。
「反論は許さん。今すぐ支度をさせろ!」
ハインツの口調がにわかに厳しくなった。
親衛隊長は口を開き、何か言おうとしたが、結局それを飲み込んだ。
彼は頭を垂れ、声を重くした。
「……畏まりました……」
そう言うと、彼は幕舎を後にし、明日の戦闘に向けた準備を始めた。
幕舎内に再び静寂が戻った。
ハインツは机の脇に歩み寄り、紙屑に覆われた地形図を眺めながら、その眼差しを次第に冷たいものへと変えていった。
「エリクソン……これは貴様らが、我を追い詰めたのだ」
私は城楼の上に立ち、平原の彼方に広がる二大公爵連合軍の野営地を眺めていた。
ブレン関隘の城楼は高い。
ここに立てば、彼方の平原に広がる幾多の幕舎をはっきりと見渡すことができる。
既に夕暮れ時である。
夕日が空を橘色から茜色へと染め上げ、野営地では点々と灯がともり始め、炊煙がうなだれて立ち昇っていた。
だが、あの幕舎の数は、確かに心が躍るほど多かった。
「少なく見積もっても……五万か」
私は小さく呟いた。
ユーナは私の傍らに立ち、同じく彼方の野営地を眺めていた。
彼女は今日、軽便な皮甲を装備し、その上から濃色のマントを羽織っていた。
これは父の指示だった。
何しろ彼女は今、名目上は私の「護衛」なのだから。
「クローディア、心配なの?」
彼女が小さな声で尋ねた。
私は首を振り、そして頷いた。
「全く心配ではないと言えば嘘になる。でも、それ以上に……興奮している、っていうか?」
「興奮?」
ユーナが不思議そうな顔で私を見た。
「うん」
私は彼女を振り返って笑った。
「考えてごらんよ。私たちが持ち込んだ新兵器たちが、ついに実戦テストの機会に恵まれたんだよ? これ、興奮しちゃいけないことかな?」
ユーナは一瞬呆けたような顔をしたが、やがて彼女も笑みを浮かべた。
「まったく、あなたは……」
今日、レイク郡沖にて我が海軍がダールトン子爵の艦隊を完敗させたという知らせが届いた瞬間、全域の関隘守備兵の士気は一気に湧き上がった。
知らせは今朝、通信器を通じて伝わってきた。
父は直ちに、城壁上でそれを大声で読み上げさせた。
当時、私もその傍らにいたが、疲弊の色を見せていた兵士たちの目が、一つ一つと輝きを取り戻していくのをこの目で見たのだ。
「勝ったぞ! 海軍が勝った!」
「ダールトン子爵が死んだ! あいつの艦隊は全滅だ!」
「エリクソン万歳!」
歓声が城壁上にこだまし、やがて関隘内部まで響き渡った。
その一瞬に、私ははっきりと感じた。
関隘全体の空気が変わったのだと。
それまでの重苦しく圧迫されたような雰囲気が、希望に満ちたものへと——。
それとは対照的に、二大公爵連合軍はダールトン子爵軍の壊滅を聞いて、その日は尻尾を巻いて撤退した。
午後の攻勢は二時間にも満たないうちに打ち切られ、遺体の回収さえ満足に行わずに、まるで踵を返すように逃げ去っていった。
「奴ら、怖くなったんだ」
父は当時、私のそばに立って、穏やかにそう言った。
「海軍の勝利が、この戦争が奴らが思っているほど甘くないことを悟らせたのさ」
今日、ブレン関隘に到着した時、要塞全体は沈黙に覆われていた。
城壁にははっきりした損壊の痕が残っており、数カ所に板を張って応急補修が施されていた。
守備兵たちの顔には疲弊が濃く、その眼差しには張り詰めた緊張と不安が透けて見えていた。
何しろ今、彼らと対峙している敵軍は、自軍と比べ三倍以上の規模だったのだから。




