162. ダールトンの敗走、そして覆らない常識
チャールズは見張り台の上に立ったまま、望遠鏡が手すりの紐に引っかかって腰のそばでゆらゆら揺れているのをそのままにしていた。
周囲で人々が息をのむ音がした。
誰かが低く何か言い、誰かの足音が船室へと駆け込んでいった。
彼の目はなおも、クリントン号が消えた海面に釘付けだった。
海水が戻ってきた。
速かった。
ためらいなど微塵もなかった。
まるでクリントン号が最初からそこに存在していなかったかのように。
二十数年来ついぞ感じたことのない感覚が、足の裏からじわじわと這い上がってきた。
——制御不能という感覚だった。
これまで戦ったどんな局面でも、いかに形勢が悪かろうと、彼には必ず何かひとつ、自分の手中に残る変数があった。
風向き、弾薬、兵士の士気、敵将の個人的な戦い癖。
そのひとつを掴めば、局面を引き戻すか、少なくとも持ちこたえることができた。
しかし今、それが見つからなかった。
対岸の船がどう動くのかまったくわからない。
あの二本の金属管の原理がわからない。
なぜ帆なしで海面を進めるのかわからない。
二発の光球がいかにしてクリントン号を正確に捉えたのかもわからない。
何ひとつ、わからなかった。
副官が駆け上がってきた。
顔面蒼白で、唇が震えていた。
「子爵閣下、艦隊より伺いを——前進を続けますか?」
チャールズは黙った。
当初の計算では、接近戦の間合いへ一気に詰め寄るつもりだった——それは、相手が自分と同じ戦争の文法を使っているという前提の上に成り立っていた。
今はもう、接近が何を意味するのかさえわからなかった。
あの物体は近距離でも撃ち続けられるのか。
弱点はどこにあるのか。
そもそも何発撃てるのか。
わかることはひとつだけだった。
十分足らずで、自分はすでに二隻の戦艦を失った。
対して敵は、一本の毛筋も動かしていない。
「先の一砲は……」彼が口を開いた。
声に、いつもの落ち着きが欠けていた。
自分でも気づき、もう一度息を整えてから続けた。
「陸上から撃ってきたのだったな?」
「はい、閣下。あの山の斜面の方角から」
「そして今」彼は前方を指差した。「あの鉄の船が、さらに二発撃ってきた」
副官は答えなかった。
「つまり」チャールズはふたたび海面に目を向けた。「あれは、一種類だけではないということだ」
その結論が胸の中に沈み込み、心臓をひとつ重く打たせた。
今日は九対三だと思っていた。
読み違えていた。
今日が何対何なのか、そもそも相手の「何」と自分の「何」が同じ単位なのかさえ、もはやわからなかった。
——
無畏号の艦長は前甲板の操砲陣地に立ち、傍らでは装填手がすでに三発目の砲弾を込めはじめていた。
今この海域では、連続した打撃を受けた敵艦隊が混乱に陥り、無畏号に対して有効な圧力をまったく加えられていなかった。
「目標、右舷三番艦、主マスト位置」艦長が命じた。
操舵手が舳先を調整し、スクリューの回転数をわずかに落とした。船体がゆっくりと傾いた。
砲身も角度の変化に合わせて、新たな方角へと静かに向けられていった。
五月花号は無畏号の左舷、雪風号は右舷に並んでいた。
二隻の帆船戦艦の魔法砲手は敵艦に向けて散弾射撃を開始していた——目的は撃沈ではなく、遠距離からの魔法反撃を封じることにあった。
これも演習で三度確認済みだった。
「装填完了」
「照準は?」
「照準よし」
艦長は「待て」とは言わなかった。
そのまま命じた。
「撃て」
金属の共鳴音が二つ、夜明けの海面を転がっていった。
余韻が広がり、波の音だけだった海域を満たしていく。
——
チャールズは船室の壁から予備の望遠鏡を一つ取り出し、甲板に立って、三隻目の戦艦の主マストが二発の光球の命中によって折れ、海中へ崩れ落ちていく様子を見つめた。
マストの傍らにいた兵士たちと帆が一面、水中へと叩き込まれていった。
数えた。
二隻沈没、一隻は主マストを失い戦闘力をほぼ喪失、残り六隻は健在。
しかしその六隻のうち、あの鉄の船に対して何か手を打てる艦は一隻もなかった。
二十数種の海戦戦術が彼の頭に叩き込まれていた。
あらゆる相手、あらゆる地形と海況に対応したものだ。
しかし、「相手が理解不能な船を持っている」という状況に対応した戦術は、そこにひとつもなかった。
副官がそっと近寄ってきた。
何も言わず、ただ彼の隣に立った。
何かしらの指示を待っているかのように。
他の士官たちも、こちらを向いていた。
チャールズはその視線を感じた。
手下たちの無言の訴えを感じた。
指示をくれ、どんな指示でもいい、どこへ向かえばいいか教えてくれ。
彼は口を開きかけた。
何か言おうとした。
しかし何も出てこなかった。
どこへ向かえばいいか、自分にもわからなかったのだ。
今なお艦数では優勢と言えた。
しかし一撃で一隻を戦闘不能に追い込める相手の前では、数の優勢など、相手にいくらか余分に弾薬を消費させるだけのことでしかなかった。
チャールズ・ダールトンは旗艦の見張り台に立ち、両手でマストの横木を握りしめた。
力を込めすぎて、指の関節が白くなっていた。
遠くのあの金属の怪物を見つめる彼の目には、かつて野望に満ちていた茶色の輝きが、今では茫然とした恐怖だけが残っていた。
彼の認識の中で、海戦とはいくつかのパターンに尽きるものだった。
二隻が距離を取り合い、魔法の火球や氷矢を投げ合い、どちらの護壁が先に破れるかを競う。
あるいは接近し、接舷戦を仕掛け、乗り込んだ兵士たちが白兵で雌雄を決する。
帆船戦艦の強みは機動力にある。
風向きの読みにある。
水夫たちの経験と勇気にある。
しかし今、それらはすべて機能しなかった。
あの金属の船には帆がない。
風向きを必要としない。
満帆順風の帆船より速く走る。
その装甲は中級魔法では易々と貫けないほど厚く、その砲は魔法の射程をはるかに上回る距離から攻撃を加えてくる——しかも、恐ろしいほど正確に。
「あれは……まったく規則に従っていない」チャールズは低くつぶやいた。
自分にしか聞こえない声で。
次の瞬間、彼は何かに気づいた。
「急げ!転舵して離脱しろ!」チャールズは突如叫んだ。
あの陸上から撃ってきた一発のことを思い出したのだ。
今ごろまた、一発撃ち込まれるかもしれない。
いくらチャールズが上昇志向の強い男であったとしても、局面を見誤るほどの愚か者ではなかった。
この奇妙な新式兵器を前にしては、彼らの帆船など、動く的も同然だった。
あの距離から確実に一撃で仕留められるとわかっていて、なおも戦いを挑む気になれるか。
あの戦艦の前まで辿り着く頃には、帆船は一隻も残っていないだろう。
「閣下?」二等副官が茫然とした目で彼を見た。
ついさっきまで接舷戦を命じていた子爵が、なぜ今になって退却を口にするのか、まだ納得できていない様子だった。
「聞こえなかったのか!転舵!全速離脱!」チャールズはほとんど怒鳴るように言い、額に青筋が走った。
彼は踵を返し、見張り台を駆け下りた。
踏み外しそうになりながら。
旗艦ではすぐに水夫長の号令が響き渡った。
野太い声が甲板を揺さぶった。
「面舵いっぱい!帆を収めろ!急げ!」
巨大な帆が索具に引かれてゆっくりと畳まれ、船体が大きく横揺れた。
他の艦も旗艦の動きを見て、次々に転舵しはじめた——困惑しながらも、命令は命令だった。
こうして彼らは、主マストを失った仲間の艦——その場に置いたまま——にさっさと背を向けた。
海蛇号と呼ばれるその二等戦列艦は、今や海面に斜めに浮かんでいた。
側面の船腹が無畏号の砲火に抉られ、海水が容赦なく流れ込んでいた。
水夫たちは必死に水を汲み出し、穴を塞ごうとしていたが、誰の目にもこの艦に先はなかった。
旗艦の方角に向かって手を振り、叫んでいる者もいた。
助けに来てくれと願いながら。
しかしチャールズはちらと一瞥しただけで、視線を逸らした。
戦争には常に犠牲が必要だと彼は思った。
あの艦が敵のあの金属の怪物を数分でも引き留められるなら、あるいは一瞬でも注意を引き付けられるなら、その犠牲には意味がある。
チャールズの読みは外れていなかった。
艦隊の転舵が完了した直後、また一発の大型光球が陸上から飛んできた。
今度は軌跡をはっきりと目で追えた——暗紅色の光が空気を切り裂き、海面に一筋の短い白痕を曳いてから、外縁を走る一隻の帆船に吸い込まれるように命中した。
「リベンジャー号——!」
その艦の乗員は悲鳴を上げる間もなかった。
光球が船体に直撃した瞬間、船が真ん中から裂けた。
木材、索具、帆布、甲板上の水夫たち——すべてが空中に吹き飛ばされ、爆発の衝撃波に砕かれて細かい破片となって散った。
断裂部で炎が猛烈に燃え上がり、黒煙が空へと立ち昇った。
ほんの数秒前まで完全な一隻の戦艦だったものが、海面を漂う残骸の山と化していた。
「五隻……」チャールズは呟いた。
自分でも気づかないうちに声が震えていた。
出港時、主力戦艦は九隻だった。
今は五隻しか残っていない。
しかもそのうち二隻は、無畏号の砲撃が帆をかすめ、航速が目に見えて落ちていた。
「全速航行!一刻も早く交戦域を離脱しろ」チャールズは傍らの二等副官に命じた。
副官は命令を受けると、すぐさま甲板へ走り出し、乗員たちへ伝えた。
水夫たちは手際よく帆の角度を調整し、追い風を利用して距離を稼ごうとした。
命令を下してから、チャールズは背後のあの戦艦を振り返った。
全身を金属装甲で覆ったあの船は、速力が劣るに決まっていると、彼は信じていた。
装甲が厚いほど船体は重くなる。
吃水が深くなる。
航速は自ずと落ちる——これは海戦の常識だ。




