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154. 逆転

「あなたね——」


 ジンさんの声は、私が想像していたよりもずっと冷たかった。


 怒鳴り声でも、甲高い叫びでもない。


 二人の警備員の足が止まった。


 経理の男も止まった。


 彼の表情が、そのとき何かに引っ張られたように歪んだ。


 あの自信、あの確信、「後ろ盾があるから何も怖くない」という余裕が、この二文字が空気を揺らした瞬間に、音もなくひびが入った。


「えっ?」


 彼は一瞬固まり、視線をジンさんと私たちの間で行き来させた。


 何かを計算し直しているような目だった。


「ジ……ジンさん、その、どういう……」


「この子たちは、私の客人よ」


 ジンさんの視線は彼の顔に据えられたまま、一分の揺らぎもなかった。


「あなた、私の客人にこんな対応をしたの?」


 銀行のフロアが少し静かになった。


 周りに残っていた数人の客が、息を飲むのがわかった。


 経理の男は口をもごもごさせた。


 何かを言おうとして、適切な言葉が見つからない。


 彼には私たちとジンさんの関係がわからなかった。


 だからあれほど躊躇なく振る舞えたのだ。


 それは私もわかっていた。


 外見から見れば、私とユーナはおそらく十二、三歳に見える。


 細い体つき、まだ少し幼さの残る顔立ち。


 持っているのは花の国のパスポートで、名前は異世界から引き継いだもの。


 紅龍国とは何の接点もない。


 ジンさんが私たちの素性を説明しようとしても、それほど言えることはない。


 私とユーナは彼女の家族ではない。


 少なくとも、この世界のどの書類にもそうは書かされていない。


 客人。


 この一言が、今この場で彼女が私たちに与えられる、最も直接的な盾だった。


 それ以上の説明は必要なかった。


 するつもりもなかった。


 あの「あなたね」の一声だけで、もう十分だった。


 経理の男は三秒ほどそこに立ち尽くした。


 それから彼の顔が、また別の何かへと変わり始めた。


 あの鋭さと不快感が引いていき、代わりに現れたのは——私がなるべく見たくないと思うものだった。


 媚び、そしてそれに伴う、無理やり張り付けたような笑顔。


 彼はジンさんの横を回り込んで、私とユーナの前に立った。


「あー、お二人さん、本当に申し訳ありませんでした」


 彼は少し腰を折り、誠実さを演じた表情を貼り付けた。


「最初からジンさんのご知人だとおっしゃってくだされば、こんな誤解は起きなかったんですよ」


 手を宙でひらりとさせながら、少し言葉を選ぶような間を置いた。


「そういうことでしたら、今からお二人のパスポートをご提出いただければ、私が直接手続きを承りますよ」


 その言い方には、微妙な自信がにじんでいた。


 おそらくこういう計算をしていたのだ。


 十二、三歳に見える女の子が、こんな場面でまだ粘り続けるはずがない。


 誤解だと認めて、挽回策を出した。


 これで手打ちだろうと。


 私は彼を見つめた。


「いいえ、結構です」


 私の声は平坦だった。


 すでに決めていた答えを述べているだけのような、抑揚のない声で。


 彼の笑顔がわずかに固まった。


「御行は、外国人のお客様は対応していないとおっしゃっていましたよね」


 私は穏やかな声のまま、ただまっすぐに彼を見た。


 彼の表情が揺れた。


 何かに火をつけられたような変化だったが、すぐに抑え込んだ。


 無意識に顎のあたりを掻きながら、少し俯いて考え込んだ。


 何か逃げ道を探していることがわかった。


「あー、お嬢さん」


 彼はまた顔を上げた。


 笑顔は再び装着されていた。


 今度は子どもをあやすような、辛抱強い口調で。


「ちょっと誤解があったみたいですね」


「私が申し上げたのはですね」


 彼は続けた。


 声を穏やかに落とし、何か善意の説明をするかのような態度で。


「地元の保証人なしには外国のお客様の口座開設はお受けできない、ということです。うちの銀行の規定でしてね。外国人のお客様の口座開設には、地元居住者の方の保証が必要なんですよ」


 一拍置いて、さらに軽い調子でこう付け加えた。


「お嬢さんも外国からいらっしゃっているわけですし、紅龍語がお上手でも、細かいところは聞き取りにくかったんじゃないですか。当時の説明をちょっと聞き違えただけだと思いますよ、気にしないでください」


 言い終えると、口角が緩んで弧を描いた。


 その弧の奥に、ある確信があった。


 これでうまく丸め込んだという確信が。


 私は黙って最後まで聞いた。


 フロアの誰も何も言わなかった。


 そのとき、隣の方向から、ある音声が流れてきた。


「消えろ、うちは外国人の手続きはやっていない」


 それは彼の声だった。


 今日の午後、カウンターの前で、パスポートを投げ捨てる直前に言った、あの一言。


 彼の顔が、何かに殴られたかのように一瞬固まった。


 口から言葉が消えた。


 ゆっくりと振り向いた。


 その録音は、隣に立っていた女性の係長のスマートフォンから流れていた。


 その女性係長はカウンターの後ろに立ち、スマートフォンの画面を上に向け、無表情のまま、まるで自分とはまったく関係ない日常業務をこなしているかのような顔をしていた。


 経理の男は彼女を見た。


 顔の表情が、ゆっくりとひしゃげていった。


 それは単純な怒りではなかった。


 その中には、言葉では言い表せない何かが混ざっていた。


 人前で暴かれた屈辱、同僚に裏切られた衝撃、大口顧客の前で顔を失った狼狽。


 それがひとかたまりになって、彼の顔の上で同時に展開されていた。


 フロアに数秒の死の静寂が落ちた。


 女性係長はスマートフォンをカウンターに置くと、歩み寄り、彼の肩を軽く叩いて、耳元に口を近づけ、非常に小さな声で言った。


「悪いわね、同期。派閥争いって、いつもこうなのよ」


 声は本当に小さく、おそらく二人にしか聞こえないほどだった。


 でも私はその瞬間、魔力でその音を完全に拾っていた。


 横を向いて、ユーナと目が合った。


 ユーナが口を押さえた。


 私も口を押さえた。


 二人同時に俯いて、肩が小刻みに震えた。


 ジンさんは口を押さえなかった。


 彼女は録音の一言に頭に血が上り、経理の男の方へちらりと目をやった。


 その眼差しに宿っているものは、うまく形容できないものだった。


 経理の男はその場に立ち尽くした。


 顔色はもう何と表現すればいいかわからなかった。


 その瞬間、彼はおそらく人生でもっともつらい三十秒を経験していた。


 まもなく、三階から急ぎ足の音が降りてきた。


 革靴が階段を踏む音は、明らかな焦りをはらんでいた。


 均一でなめらかな降り方ではなく、一歩一歩が半拍ずつ速く、大理石の段に密な音を刻んでいた。


 行長が階段の踊り場に現れたとき、私はちらりと見た。


 五十歳を少し過ぎた年齢で、髪は整然と撫でつけられ、スーツはきちんとしていたが、その背中にはわずかな不自然な張りがあった。


 何かに急かされて着てきたような。


 彼は急ぎ足でフロアに降り、状況をさっと見渡した。


 視線が経理の男、私たち二人、そしてジンさんの上にそれぞれ一秒も止まらず移り、それから顔に過不足のない笑みを浮かべて、前に進んだ。


「ジンさん、大変ご不快な思いをさせてしまいまして」


 声は低く、誠実な重みをたたえていた。


「どうぞ上においでください。ゆっくりお話を伺います」


 話しながら、私とユーナにも目を向けた。


 その眼差しの中には値踏みがあったが、軽蔑ではなかった。


 素早い評価、といった感じだった。


「お二人もご一緒に」


 彼は言った。


 ジンさんはすぐには返事をしなかった。


 経理の男がその場で口をもごもごさせた。


 何か言いかけて、出てこなかった。


「行きましょう」


 ジンさんは私たちに向き直り、声のトーンを落とした。


「上で話す」


 私とユーナはジンさんと行長の後に続いた。


 階段を上るとき、ユーナがそっと私に近づき、私たちにしか聞こえない音量で、異世界の言葉で一言言った。


 私は答えなかった。


 でも、彼女がその一言に込めたことのほんの少しは正しいと思った。


 自分で飲み込むのと、誰かに見ていてもらえて、覚えていてもらえて、最後に代わりに言ってもらえるのは、やはり別のことだ。


 行長室は三階にあった。


 広い部屋ではないが、落ち着いた調度が揃っていた。


 窓は下の通りに面していて、百葉窓の隙間から陽光が差し込み、フロアに細長い光の帯を投げていた。


 行長は私たちをソファに案内し、向かいの椅子に腰を落ち着けた。


 助手を呼んでお茶を出させた。


 その一連の所作の中で、彼はこの件の重さを隠そうとしなかった。


 ただ、空気をそれ以上剣呑にもしなかった。


 経験ある人間の立ち回りだった。


 何を言うべきか、何を言うべきでないか、そしてどういう姿勢でこの件を収めるか、すべて心得ていた。


 私たちはもう一度、事の経緯を話した。


 今回は家で話したときよりも明確に、細かな部分まで漏らさず。


 パスポートが投げ捨てられたこともすべて含めて。


 行長の表情がその箇所でわずかに沈んだ。


 微細な変化だった。


 目立ちはしない。


 でも私は見ていた。


 彼は茶碗を両手で持ち、数秒黙り、それから静かに置いた。


 小さく、しかしはっきりと一言言った。


「わかりました」


 それから出口の方に声をかけ、あの女性係長に下へ行って、私たち二人の口座開設の手続きをするよう伝えた。


 女性係長が手続きを担当してくれた。


 彼女は私たちをカウンター横の小部屋に案内して、必要な書類を一つひとつ説明した。


 声は事務的だったが、対応は丁寧だった。


 パスポート、用途の確認、サインの場所。


 私は全部その通りにやった。


 手続きが終わる頃、彼女が書類をまとめながら、ちらりと私を見て、少し口ごもった後、こう言った。


「……さっきは本当に申し訳ありませんでした。わたしも、もっと早く止めるべきでした」


 私は一瞬、彼女を見た。


 謝罪の言葉には色々な種類がある。


 責任の所在をぼかすもの、面子のためのもの、本当に心から出たもの。


 彼女のそれは、後者に近いように聞こえた。


「録音、ありがとうございました」


 私は言った。


「助かりました」


 彼女は少し目を見張り、それから小さく頷いた。


 それだけだった。


 銀行を出たのは昼過ぎだった。


 外は相変わらず暑く、石畳の路面から熱が跳ね返ってきた。


 ジンさんは出てきた瞬間、大きく息を吐いた。


 怒りが解けかけているのか、まだ少し尾を引いているのか、どちらとも取れるため息だった。


「まったく」


 彼女は言った。


「あんな男が銀行に居座っているなんてね」


「でも録音がありましたから」


 ユーナが横から言った。


「最後はちゃんとなりました」


 ジンさんはユーナを見て、少し表情を緩めた。


「あなた、ずっとあの経理の顔見ながら笑いをこらえてたでしょう」


 ユーナは一瞬固まって、それから素直に頷いた。


「……はい」


 ジンさんは今度こそ、口元をほころばせた。


「まあ、いいわよ。あたしだって少し笑いかけたもの」


 私は二人の後ろを歩きながら、その声を聞いていた。


 今日は昨日より、もう少し、何かが前に進んだ気がした。


 何がとはうまく言えない。


 ただ、そういう感じがした。

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