144. 紫荊城
紫荊城は、紅龍国においてきわめて特異な存在だ。
歴史の観点から言えば、この街はおよそ百年にわたって、国際自由貿易港という肩書きで世界に存続してきた。
この百年の間に、紅龍国本土とはまったく異なるルール体系を築き上げたのだ。
資本に対して寛容で、商業に対して柔軟で、多くの分野に裁量の余地が残されている。
そして、この百年、花の国との往来の密度もひときわ高かった。
二地域間の文化交流は日常生活の細部にまで染み込んでいる。
街中には花の国の漢字と現地文字を混在させた看板が並び、ラジオから流れる懐かしい歌の一部は花の国からアレンジされたもので、ごく普通の路上屋台でさえ二言語のメニューを用意していたりする。
それらの歌は現地にとどまらず、広まっていくうちに紅龍国本土の大勢の人々にも影響を与えた。
これは背景の話であって、語り出すときりがない。
今回の旅の核心でもない。
核心を言えば、実はとてもシンプルだ。
紫荊城を経由すると、航空券が半額近くに収まる。
前世に私が住んでいたのは紅龍国の木棉城で、紫荊城との間には水路がある。
客船の料金は良心的な範囲内だ。
木棉城直行の航空券を買うのと比べて、紫荊城で一回乗り継ぐ方が、計算するとかなりの節約になる。
魔法は物理法則を覆せても、格安航空の費用対効果には、さすがに勝てなかった。
ユーナが新しい環境に適応するのは早い。
それは前からわかっていた。
出国審査を抜けて搭乗エリアに入ると、時間はまだ早かった。
格安航空の便は深夜発で、離陸まで数時間ある。
搭乗ホール全体が照明に明るく照らされ、空気には様々な匂いが混じり合った中性的な感覚があった。
コーヒーが少し、揚げ物が少し、免税店の香水売り場から漂い出てきた匂いの断片が少し。
私とユーナはホール内をひと回りして、いくつかの店に立ち寄った。
ラグジュアリーブランドのショーウィンドウは定番の配置で、照明の当て方が精密に計算されており、商品はひとつひとつ角度まで調整して陳列されている。
値札のフォントは小さく控えめで、まるで格のない人間には見せたくないとでも言いたげだった。
ユーナがとあるケースの前で立ち止まり、じっくりと覗き込んでから、横を向いて小声で聞いてきた。
「これは……何に使うものですか?」
「装飾品」
「では、なぜあんなに多くの人が中に入って手に取っているんですか?」
「お金持ちで、暇だから」
彼女はしばらく黙ってから、こくりと頷いた。
理解した、という顔で。
歩き疲れて、コーヒーショップに腰を下ろした。
テーブルにメニューが置かれていた。
食べ物のページを開いてサンドイッチの行で目が止まった。
二人同時に黙り込んだ。
その値段が受け入れられないわけではない。
ただ、これがごく普通のハムチーズサンドイッチの値段だと考えると、この数字はいささか自信過剰に見えた。
「高い」
ユーナが先に口を開いた。
声の中にきわめて穏やかな感慨があった。
誇張した「わあ、高い!」ではなく、純粋な陳述だった。
私は何も言わず、メニューを閉じて元の場所に戻した。
花の国の物価にさほど感覚がないユーナですらこの値段に問題があると判断できたということは、つまりこの値段が本当に大概だということだ。
ただ、彼女が食べたいかどうかは一目でわかった。
座ってから、彼女はあの微妙な仕草をしていた。
眉を顰めるわけでもなく、ただ唇をそっと噛む感じで。
この動作なら知っている。
お腹を空かせているときの彼女の無意識の反応だ。
私は立ち上がった。
「ついてきて」
彼女は少し不思議そうだったが、後をついてきた。
私は搭乗ホールの一角に彼女を連れていった。
壁際に並んだ座席があり、メインの通路に背を向ける形で、視線が比較的遮られていた。
周囲を見渡し、この角に直接向いている監視カメラがないことを確認してから、手首の手環に手を伸ばした。
しばらくして、蓋つきの木製の器が手の中に現れた。
蓋を開ける。
熱気が一気に立ち上がった。
豚骨スープのラーメン。
スープの表面には油の光沢が走り、刻みネギが一つかみ盛られていて、傍らに厚切りのチャーシューが添えられている。
脂身の部分はもう半透明になるまで煮込まれ、繊維が透けて見えるほどで、ぷるっと揺れていた。
ユーナの息が、はっきりと一瞬止まった。
彼女はそのお椀をじっと見つめ、目の中に抑えているけれど明らかな輝きが浮かんだ。
私は箸を渡した。
彼女は受け取り、最初は行儀よく座ったまま手を出さなかった。
でも指はいつの間にかしっかりと箸を握り込んでいた。
たぶん三秒も保たなかった。
そのままチャーシューに箸を伸ばした。
一口かじって、しばらく噛んで。
彼女の表情はその瞬間すっかりほどけた。
あらゆる取り繕いと自制心が消えて、ただ純粋な、隠しようのない満足感だけが残った。
私は椅子の背もたれに体を預けて彼女が食べるのを眺め、何も言わなかった。
搭乗ホールは人の流れが途切れず、様々な言語が混じり合い、アナウンスが数分おきに便名を告げていた。
でも、この一角は比較的静かで、ラーメンの匂いが狭い範囲に漂うだけで、彼女がたまに食べ物を口に運ぶ細かな音だけがした。
それから私は突然、彼女が横向きに俯いて食べているこの角度が、なんとなく見覚えがある気がした。
容姿の話ではない。
食べ物に集中しているときのあの表情、外の世界を一時的にシャットアウトして、目の前の一つのことだけに向き合っているときの静けさ。
そこに、見覚えがある気がした。
記憶の隅をひっくり返してみても、対応する人物は見つからなかった。
たぶん気のせいだ。
前世でそれなりの数の人と知り合ったから、表情の断片がどこかと重なることぐらいある。
私はその考えを頭から追い出した。
ユーナは最後の一本の麺を食べ終え、スープも半分以上飲んで、ようやくお椀を押しやり、私が渡したティッシュで口を拭いた。
それから顔を上げて、私と目が合った。
次の瞬間、彼女の顔がみるみる赤くなった。
ゆっくりと上ってくるピンク色ではなく、何かに突然打ちぬかれたような速さで、一瞬のうちに耳の根まで広がった。
彼女は俯いて、声を少し抑えた。
なんとなく気まり悪そうな様子だった。
「す、すみません、クローディア様……お見苦しいところを……こんなふうにわざわざお世話を焼いていただいて……」
堪えきれなかった。
指を伸ばして、彼女の口角をそっとつついた。
「もういいじゃない、主従とか言って」
私はゆっくりと口を開いた。
「あなた、おとといの晩は……」
ユーナの顔がみるみる一層赤くなり、彼女は思わずその場にしゃがみ込んで、両手で顔を覆った。
「……お、覚えてます、でもあれはあのときで……」
「あのとき、どうしたの?」
「……」
しばらく沈黙。
それから突然立ち上がり、私の袖を引っ張った。
「あそこのお店を見てきます!」
早口で、話題転換がひどく唐突だった。
私は彼女に引っ張られながら、袖を握っている彼女の指に目を落として、笑いをこらえながらついていった。
その後の数時間、私たちは搭乗ホールをぶらぶら過ごした。
免税店に二軒入り、香水売り場に一番長く滞在した。
ユーナはあの瓶の中のそれぞれ違う香りに夢中になっていた。
買うわけでもなく、ただ試すだけ。
一本ずつ嗅いで、どれが強すぎるか、どれが野草みたいか、どれがどんな花に似ているかを真剣に報告してくれた。
私は彼女の後ろをついて歩き、たまに彼女が差し出した瓶を嗅いで、たまにひどく変なものが鼻先に来たときに顔を横に向けて、それから彼女が笑うのを聞いた。
別のレストランの外で立ってメニューをじっと眺め、顔を見合わせて、黙ってその場を離れた。
座って、立って、また一周して、また座る。
深夜二時頃になると、搭乗ホールの人々に疲れが見え始めた。
さっきまであちこちを元気よく見回っていた子どもたちが親の体にもたれかかり始め、大人たちも会話を減らして椅子の背もたれに身を寄せ、目を細めるか、あるいは無表情でスマホの画面をスクロールしていた。
空間全体のエネルギーレベルが、この時間帯に底を打っていた。
アナウンスが流れ、搭乗手続き開始を告げた。
私は立ち上がり、ユーナの肩を軽く叩いた。
「行くよ」
彼女は目をこすり、立ち上がり、バッグを背負って後をついてきた。
搭乗券を通して、ボーディングブリッジを歩いていくと、飛行機の舱口の前で足が止まった。
この角度から見る飛行機は、ターミナルのガラスの向こうから眺めるのとはまったく別物だ。
ブリッジの端に立つと、機体の側面がすぐそこにある。
円筒形の機体が照明の下で冷たい光を反射し、エンジンポッドの弧が大きく深く、縁が分厚い。
横に停まっているグラウンドサポート車が、随分と小さく見えた。
ユーナはここで、ふっと足を止めた。
また体積に圧倒されたのかと思って振り返ると、彼女は目を伏せて、少し変な表情をしていた。
驚いているわけでも、不思議がっているわけでもない。
「これ、見たことがある」というような、どこか上の空な感じだった。
それから彼女は静かに口を開いた。
「738……」
私は聞き間違いかと思って、「え?」と返した。
彼女も「え?」と返し、すぐに口を手で押さえた。
目を丸くして、「わ、私、なんでいきなりそんなことを……」と言った。
私は振り返って飛行機を見た。
737-800。
前世で出張のたびに何度も乗った型番で、見ればすぐわかる。
起落架の長さ、翼幅、エンジンのマウント位置。
どれもその型番の特徴だ。
そして、彼女がさっき言ったあの数字は、でたらめではないと気づいた。
738。
737-800の略称で、航空業界では常識的な短縮表記だ。
でも、異世界から来た人間に、その知識があるはずがない。
私はその場に立ち止まり、なにか言い表しにくいものが背骨から静かに浮かび上がってくるのを感じた。
寒気ではない。
もっと微妙なものだ。
パズルのピースがはまりそうで、でも本当に合っているのかわからないときのような、あの感覚だった。
その感覚は頭の中に数秒間漂ってから、私が意識して押さえた。
疲れと、搭乗ホールで何時間も過ごした後のどんよりした眠気が、これ以上掘り下げる余裕を残してくれなかった。
「行くよ」
私は言い、先に踏み出した。
ユーナはひと呼吸おいてから、後をついてきた。
舱門をくぐる瞬間、彼女は何も言わなかった。
でも、私にはなんとなく、彼女がまだ口元に手を当てたまま、ゆっくりとあの数字を飲み込もうとしているような気がした。
この感覚の正体は、ずっと後になってから、ようやくわかることになる。




