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139. 弾丸を斬る

 路地に転がる連中をそのままに、私は手を払いながら振り返り、さっさと店に入って焼き肉でも頼もうと口を開きかけた。


 その時だった。


「おい、皆、武器を持て!こんな小娘に舐められてたまるか!」


 群衆の中からどこからともなく現れた一人の「お利口さん」が、ポケットに手を突っ込み、黒い拳銃を取り出した。


 私の足が一瞬止まった。


 怖じ気づいたわけじゃない。


 その銃に視線を奪われたのだ。


 異世界で長年過ごしてきて、刀剣や弓弩は嫌というほど見てきたが、現代の制式銃器など。


 花の国のチンピラ風情が、どうやってこんなものを?


 銃規制がこれほど厳しい場所で、これは一体どこから?


 そんな疑問が脳裏を巡った、その瞬間——「バン!」


 暴発だった。


 その「お利口さん」自身も予想していなかったのだろう。


 引き金にうっかり指を掛けてしまい、銃声と同時に腰を抜かしてその場にへたり込んだ。


 手にした銃からは白い煙が立ち昇り、彼は呆然と銃口を見つめ、顔中に「俺のせいじゃない」と言わんばかりの恐怖が張り付いている。


 弾丸は既に発射されていた。


 私の視点からは、その小さな金属の尖端が弾道に沿ってこちらへ飛んでくるのが見える。


 速度は速い。


 普通の人間なら反応する間もなかっただろう。


 だが、私は普通じゃない。


 衆人環視の中、私は右手を上げた。手首の腕輪が微かに音を立てる。


 黒い霧を纏った長剣が掌中に現れた。黒気が夜闇の中で揺らめき、静かに、そして危険に満ちて蠢いている。


 剣光が一閃した。


「チン」


 微かな金属の衝突音。半截の弾丸が剣刃の左側に逸れ、空気を裂いて地面に落ちた。


 残る半截は跳ね返り、道端の電柱にめり込み、浅い刻み痕を一つ残した。


 私は長剣を収め、袖で剣面を拭い、再び腕輪に収めた。一連の動作、一秒とかかっていない。


 周囲の者は誰一人として口を開かず、息さえも潜めていた。


 地面に座り込んだあの「お利口さん」は、口を半開きにしたまま、目は虚ろだった。


 銃が手から滑り落ち、乾いた音を立てて地面に落ちたが、彼はそれすら見下ろそうとしなかった。


 彼の目の前にいる、まだ十二、三歳にしか見えない白髪の少女が、剣を抜き、弾丸を断ち切り、剣を収める。


 その一連の流れは淀みなく、余計な動作もなければ、表情一つ変えなかった。


 まるで、彼女が斬ったのが弾丸ではなく、ただの空気の一片であったかのように。


 これはもう、地球人の領域ではない。


 私は歩み寄り、彼の目の前に立った。上から見下ろすように。


 彼はゆっくりと顔を上げた。


 その顔に張り付いた恐怖は、既に人間の驚愕反応の域を超え、目には「今日、この世界にあってはならないものを見てしまった」という茫然さが宿っている。


 私は手を伸ばし、彼の襟首を掴んで、地面から吊り上げた。


 彼の両足が宙に浮き、両手は無意識に私の手首を掴んだが、本気で力を込める度胸もなく、ただ震えながら吊り下げられている姿は、まるで猫に首根っこを咥えられたハムスターのようだった。


「銃、どこで手に入れた」


 私は彼の手から銃を拾い上げ、掌で軽く重さを確かめた。


 九ミリ口径、傷みも少ない。粗悪品じゃない。


 銃規制の厳しい花の国でこれを入手するには、背後に何らかのルートが存在するはずだ。


 彼は一瞬呆けた後、反射的に否定しようとしたが、私の目を見た。


 その碧色の瞳は、夜闇の中で一片の温度も宿していない。


 彼ははっきりと悟った。


 目の前のこの白髪白肌の小娘は、自分と交渉しているわけではない。


「あ、あにき……兄貴からです……」彼の声は震えていた。


「その兄貴はどこだ?」


 彼の体が強張った。


 言ってはいけないことを口にしたことに気づき、慌てて口を押さえ、首を振った。


「言わないなら、今すぐ飛ばしてやる」。


 私はもう一方の握り拳を持ち上げた。


 彼は猛烈な勢いで心の中で天秤にかけた。


 兄貴には確かに申し開きができない。


 だが、目の前のこのお方は。


 彼は無意識に、レンガ塀にめり込んだまままだ這い上がれずにいる仲間をちらりと見て、唾を飲み込んだ。


 結局、生存本能が勝った。


 彼は震える手で、ポケットから出したレシートの裏に住所を書き、二本の指で摘まむようにして私に差し出した。


 余計な接触は一切避けたかったのだろう。


 私はそれを受け取り、残る数人に住所の真偽を確認してから、この「お利口さん」を地面に下ろした。


「行け」と私は言った。


 数人は互いに目配せをし、事態を理解するや否や、深々と一礼してから脱兎の如く走り去った。


 靴底から煙が出るほどの勢いで。


 私は住所を折り畳んでポケットにしまい、振り返って佐藤さんを見た。


 彼はその場に立ち尽くし、口がまだ完全には閉じていない。


「……クローディアさん」彼はしばらくしてようやく自分の声帯を取り戻した。


「そのお武芸は……」


「異世界で学んだの」私は平静に答えた。


「地球じゃ到底、弾丸を一刀で断ち切るなんて無理よ」


「だよねぇ……」彼は大きく息を吐き出し、肩の力を抜いた。


「地球人に絶対できるわけないよ、そんなこと……」


「よし」私は手を叩いた。


「店に入って、ご飯にしましょ」


「……たぶん、無理だと思いますよ」


 佐藤さんが何とも言い難い表情で口を開いた。


「何が?」


「さっきの銃声」彼は周囲を見回した。


 道端では既に数人が携帯を取り出し、こちらを窺っている。


「花の国は異世界とは違いますから。ここは一応、法治国家です。銃声がすれば通報する人もいます。それに、お二人とも身分証明書が……」


 私は二秒ほど沈黙した。


 この問題を完全に見落としていたことに、今更ながら気づかされた。


 異世界から戻ってきて、まだ二日も経っていない。


 花の国の住民証など、持っているわけがなかった。


 警察に無戸籍者として確保されるのは、今夜の最良のプログラムではなさそうだ。


「……私の落ち度ね」


 私は周囲を見渡した。


 街灯の下、ちらほらと野次馬が顔を覗かせている。


 私は深く息を吸い込み、頭の中で魔力配分を整理し、視界に入る傍観者たちに一人ずつ失憶魔法を掛け始めた。


 彼らの記憶から、私たち三人の顔立ちに関する部分だけを、メスのように正確に削ぎ落とす。


 他の記憶には手を触れず、ただ「あれは誰だったのか」という問いだけが、彼らの頭の中から静かに消えていった。


「行くわよ」


 私はユーナの手を引いて歩き出した。背後で、佐藤さんが赤くなった首筋を擦りながら、小走りで追いかけてくる。


 口の中ではまだぶつぶつと、「あの焼き肉屋、本当に良さそうだったのに……」と呟いている。


「次ね」私は振り返らなかった。


「次っていつのことです?」


「黙れ」


 深夜、気温がぐっと下がった。


 私とユーナは黒いマントに着替え、夜色の中を、住所が指し示す方向へと早足で歩いていた。


 花の国の深夜の街路は静かではない。


 遠くからは時折車の音が聞こえ、近くでは猫が鳴いている。


 風には一晩越しの揚げ物の匂いが混じり、異世界の澄んだ山野の空気とはまるで違っていた。


「クローディア様」ユーナが左側を歩きながら、低く声をかけてきた。


「あの兄貴ってやつ……銃の出所を探るおつもりですか?」


「うん」私はマントに手を突っ込んだまま答えた。


「公爵領の今の状況は知ってるわよね。あの新人兵士たちの剣術だけじゃ、周辺の公爵領の正規軍との差が大きすぎる」


 もし現代の銃器を大量に入手できればたとえ小銃だけでも、ごく基本的な型でも、それを使いこなせる兵士に装備させ、異世界に元々ある魔法防御と組み合わせれば、戦場の状況は一変するはずだ。


「大量に銃を手に入れたいんですね」とユーナは返した。


 その声に是非はない。「そして、持ち帰る、と」


「まずはこのルートをはっきりさせるの」と私は言った。


「地球での違法武器の売買には、必ず背後に組織がいる。源流を見つけてこそ意味がある」


 ユーナは小さく「うん」と頷くと、そっとマントの下から手を伸ばし、私の指先に触れた。


 私が俯いて彼女を見ると、彼女は目を細めて何も言わず、ただそっと自分の指を私の指に絡めてきた。


 私はその手を握り返し、再び歩き出した。


 廃工場が視界に現れた時、それは予想よりもずっと大きな規模だった。


 工場区域の外側には錆びついた鉄条網が張り巡らされているが、数基のソーラー式センサーライトは新しく取り付けられたもので、誰かが定期的に手入れをしている証拠だ。


 外周を見張る見張り役は全部で四人。二人一組で、巡回周期はおおよそ六分に一回。


 私は工場の外れの暗がりにしゃがみ込み、頭の中で時間を計算した。


「これから二分ね」と私は低くユーナに伝えた。


 彼女は頷いた。


 私は魔力の行使を最小限に絞り、四人の見張り役に同時に麻痺系の魔法を正確に放った。


 失神ではない。


 筋肉が一時的に指令を受け取れなくなるだけで、体はその場に固定される。


 意識はあるが、身動きは取れず、声も出せず、警戒も引き起こさない。


 まるで、四つの異なる風船に、同時に針先をそっと押し当てるように。


 破ってもいけない、緩めてもいけない。


 私は心の中で息を吐き出し、魔力が安定して流れているのを感じ取った。


「よし、行くわよ」


 私たちは身を低くし、鉄条網の影を伝って工場区域の正門へと移動し、センサーライトの死角を縫って最初の鉄門を抜け、工場区域の内部へと入った。

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