137. 凶器のパンと、星五つの謎
目の前の黒パンと塩漬けニシンを見つめ、空気中に漂う刺激臭を嗅ぎながら。
私の胸の奥で怒りの炎が一気に燃え上がった。
私は怒りに任せて佐藤さんのスマホを掴み、レストラン口コミアプリを開いた。
この店をクレームしてやろうと思ったのだ。
こんなにまずくて、こんなに不衛生なレストランが、よくもまあ営業できているものだ。
完全に詐欺じゃないか!
しかし、アプリを開いて評価を見た瞬間、私は目を疑った。
画面いっぱいの星五つ評価。びっしりと並んでいて、悪い評価はほぼ見当たらない。
私はそれらの口コミをじっくり読んでみた。そこには——
「食べ終わって初めてわかった。中世の農民がなんでしょっちゅう反乱を起こしてたのか。こんなもん食わされてたら、俺だって反乱起こすわ!」
「仇敵と一緒に食べるのがオススメ。一生忘れられない思い出になること間違いなし。どんな復讐よりも効く!」
「会社の飲み会より忘れがたい食事体験。まずいけど、個性的ではある。一度は試す価値あり!」
「本格的すぎる。中世の食感を完璧に再現している。おいしくはないけど、とても意義深い!」
「この世界の連中って、わざわざ苦しみたがるのか?」
私は思わず大声で叫んでしまった。声には怒りと呆れが満ち溢れ、瞳には怒りの炎が燃えている。
「こんなにまずくて、こんなに不衛生なレストランなのに、なんでこんなに星五つが並んでるのよ!? あんたたち、頭おかしいんじゃないの!?」
佐藤さんがぼそりと横から声をかけてきた。顔には呆れが張り付いている。
「クローディアさん、たしかあなたも地球人でしたよね。そう言うってことは、自分もそうだって言ってるようなもんじゃ……」
「黙れっ!」
彼の言葉を聞いて、怒りがさらに燃え上がった。
私は手当たり次第にテーブルの上の黒パンを掴み、彼の頭めがけて投げつけた。
「ガッ」という鈍い音とともに、黒パンは佐藤さんの頭に直撃した。彼の頭は——まるで凹んだかのように見えた。
彼の身体はふらりと揺れ、そのままピンと硬直した。
席に崩れ落ちるように気絶した。顔にはまだ、わずかな不満と呆れが残っている。
気絶した彼の姿を見て、私は思わず白目をむいた。
心の中でこっそりツッコミを入れる。
やっぱりこのパン、絶対に食べ物じゃない。
完全に凶器だろ、これ!
目の前の光景を見渡しながら、私の心は怒りと呆れでいっぱいだった。
思わず心の中で叫んでしまう。
やっぱりお前ら地球人って、とんでもなくタチの悪い連中ばかりじゃないか!
こんなものを喜んで食って、星五つをつけるなんて——まったく理解不能だ!
ユーナはそばに立って、怒り狂う私の姿を見つめ、それから気絶した佐藤さんに視線を移した。
彼女は思わず困ったように笑い、そっと私の袖を引っ張った。
「クローディア様、もう怒らないでください。早くここを出ましょう。ここ、怖すぎます。もう二度と来たくないです……」
私はうなずき、深く息を吸い込んで心の怒りを押し殺し、ユーナの手を引いてレストランの出口へと向かった。
去り際に、相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべているあの店員の兄ちゃんを、しっかり睨みつけることも忘れなかった。
レストランの入り口まで来たとき、その店員の兄ちゃんは私たちに小さな袋を差し出してきた。顔には不気味な笑みが張り付いたままだ。
「お客様各位、またのご来店を——こちら、当店からのちょっとしたお土産でございます。気に入っていただければ幸いです」
私はお土産を受け取り、開けてみると——中に入っていたのは、パピルス製の花の国通貨1000枚分の割引クーポンだった。
そこにはレストランのロゴと奇妙な模様が印刷されている。
私はこのクーポンを見つめ、思わず冷たい笑みを浮かべてしまった。
心の中でひっそりと思う。
あのパンで脳みそをやられでもしない限り。
私は二度とこのレストランに足を踏み入れることはない。
このクーポンは私にとって何の役にも立たない。紙屑以下の価値しかない。
——
私たちは気絶した佐藤さんを支えながら、レストランを出た。
夜風がそっと吹き抜け、身体に染みついたカビ臭さと干物の匂いを洗い流していく。
私もユーナも、ほっと小さく息をつき、顔に解放感が浮かんだ。
ユーナは気絶したままの佐藤さんを見て、思わず笑いながら言った。
「クローディア様、さっきは怖すぎましたよ。彼、気絶させちゃいましたけど……起きなかったりしませんか?」
「大丈夫よ。あいつはしぶといから、死にはしないわ」
私は苦笑いしながら手を伸ばし、彼の頭をそっと触ってみた。すると——やっぱり小さなコブができている。
「余計な口をきいた罰よ。自業自得ね」
私たちは佐藤さんを支えながらベンチを見つけ、腰を下ろして彼が目を覚ますのを待った。
十数分ほど経った頃——佐藤さんがようやくゆっくりと目を覚ました。
彼は自分の頭を揉みながら、顔中に痛みが走り、目には困惑が浮かんでいる。
小声でつぶやいた。
「わ、私……なんで気絶してたんですか? 何があったんです?」
私は彼の呆然とした様子を見て、思わず吹き出した。
「私が黒パンであんたをぶん殴って気絶させたんだよ」
私の言葉を聞いて、佐藤さんの顔に一瞬で不満の色が浮かんだ。
彼は頭のコブを撫でながら、小声で文句を言う。
「ひどすぎますよ……まさかパンで俺をぶん殴るなんて。頭、割れるかと思いましたよ」
「余計な口をきくからよ」私は口を尖らせて言った。
「はいはい、文句はそれくらいにして。別のレストランを探して、ちゃんと美味しいものを食べよう。傷ついた心を癒さないとね」
佐藤さんはうなずき、呆れた顔で言った。
「はいはい、今度は私が店を選びます。絶対に美味しい店を選びますから。もう二度と、あんな変な店は選びません」
そう言うと、彼はスマホを開き、グルメアプリをスクロールし始めた。
慎重に慎重にレストランを選んでいる。もう一度ハズレを引いて、また黒パンでぶん殴られるのが怖いのだろう。
私たちはベンチでしばらく待ち、佐藤さんがレストランを選び終えると、三人でその店へと向かった。
——
それからほどなくして —— あの「中世料理研究協会」で、食の安全に関する問題の噂が立ち始めた。
あのレストランで食事をした多くの人々が、腹痛、下痢、嘔吐などの症状を訴え、中には入院した者まで出たという。
その後、花の国当局の調査により、このレストラン食の安全が極めて深刻であることが判明した。
衛生状態が極めて劣悪で、食材の鮮度が保たれておらず、賞味期限切れの食材まで使用していたのだ。
関連当局によって直接営業停止処分を受け、二度と営業できなくなった。
そして——この一連の出来事の発端は、一枚の写真だった。
写真には、プラチナブロンドの少女が、黒パンを手に持ち、二十歳前後の少年をめがけて投げつけている姿が写っていた。
少年は殴られてくらくらになり、顔には不満がありありと浮かんでいる。
写真の背景は、まさにあの「中世料理研究協会」の店内だった。
誰かがこの写真をネットにアップし、多くの人々の注目を集めた。
みんな「このレストランで一体何があったのか」「なぜパンで人を殴っているのか」と好奇の目を向けた。
そうして誰かがこのレストランの調査を始め、結果的に食の安全問題が発覚し、最終的にレストランは営業停止に追い込まれた。
もちろん——これらはみな、後の話である。




