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135. 収納魔法と、夕食の行方

 私たちは軽い買い物袋をいくつか手に提げ、地下駐車場へと向かった。


 地下駐車場の照明は薄暗く、ぽつぽつと灯っているだけで、光が弱い。


 空気には埃とガソリンの匂いが混じり合い、どこかじめじめと息苦しかった。


 私たちは盗人さながら、一台のSUVの陰に隠れ、こそこそと四方を見回した。


 ユーナのピンク色のアホ毛が、ぴんと立ち上がっている。


 体も微かに強張っていて、眼差しには緊張が滲んでいた。小声で問いかけてくる。


「クローディア様、本当に誰かに見つかりませんか?こんなところでこっそり魔法を使って……花の国の人に見られたら、面倒なことになりませんか?」


「大丈夫よ、ユーナ」


 私はそっと彼女の手を叩いた。


「私の隠身魔法は、花の国の防犯カメラよりよっぽど信頼できるから。


 魔法をかけてしまえば、すぐ目の前に立っている人にさえ私たちは見えなくなる。


 何をしているかも分からない。絶対に見つからないわ」


 そう言い終えると、私は手首の収納手環をたっぷり詰まったショッピングカートへと近づけた。


 指先でそっと魔力を起動させ、呪文を心の中で唱える。


「シュッ——」


 かすかな音がしたかと思うと、ぎっしりと商品が詰まっていたカートが、一瞬にして空っぽになった。


 すべての物資が収納手環の中へと吸い込まれ、後には何の痕跡も残っていない。


 佐藤さんはその一部始終をまじまじと目撃して、目を見開いた。


 口が微かに開いていて、そこに卵が一個入りそうなほどだ。顔には驚愕が張り付いている。


 手に持っていたレシートがぱらぱらと床へ落ちた。


 本人はそのまま固まったまま、まったく動かない。


 しばらく経って、ようやく正気に戻ったと思ったら。


 両膝をついて地面に崩れ落ちた。両手を床に突き、顔を上げて私を見つめながら、口をどもらせる。


「こ、これって……まさか……伝説の収納魔法ってやつですか!?本当に存在したんだ!漫画の中だけの話だと思ってたのに、現実に本物があるなんて!」


「そう、あなたが想像している通りよ」


 私は底意地の悪い笑みを浮かべながらしゃがみ込み、手環を彼の目の前へと近づけて、ゆらゆらと揺らして見せた。口調には得意げな色が滲んでいる。


「これが私たちの世界の収納手環。中に空間魔石が嵌め込まれていて、大量の荷物を収納できる。持ち運びも楽だし、どれだけ多くの物でも、ちょっと吸い込むだけで全部入っちゃう。本当に便利なの」


「す、すごすぎる!」


 佐藤さんの目に興奮の光が輝いた。


 手環に触れようと手を伸ばし、壊してしまうのが怖くなったのか、途中で引っ込める。


「もし花の国にもこんなすごいものがあったら……こんな製品が花の国に登場したら、絶対に世界中を驚かせますよ!大儲け間違いなしです!」


「別に大したことないわよ」


 私は得意げに顎を上げた。佐藤さんに向かって自慢げに語りかける。


「私たちの世界では、キャベツみたいに安い値段で売ってる代物よ。全然珍しくもないし。だから子供でも収納手環を使えるくらい。おもちゃや教科書を入れるのに使ったりしてるわ。本当に便利だから」


 一拍置いて、続ける。


「私たちの世界には空間魔石がたくさん採れる産地があって、この魔石は基本的に収納手環の素材として使われるのよ。魔石の純度や大きさで、収納できる量と空間の安定性が変わってくる。純度が高くて大きな魔石ほど、より多くのものを入れられて、空間も安定するの。今回は花の国でたくさん持って帰れるよう、商会で売ってる一番品質の良い手環をわざわざ借りてきたのよ」


 佐藤さんは話を聞きながら、顔いっぱいに羨望を浮かべた。眼差しには憧れが溢れている。思わず口を開く。


「あなたたちの世界って、本当に不思議なんですね。すごいものがたくさんあって。僕もあなたたちの世界を見てみたいな……きっと目から鱗だと思いますよ」


 私は彼の羨ましそうな顔を見て、思わず笑った。


「そのうち機会があったら連れて行ってあげてもいいけど……今はご飯のことを先にしましょ。お腹、もうぺちゃんこになりそうだから」


 佐藤さんはこくこくと頷き、地面からぱっと立ち上がって体についた埃を払った。


 顔から羨望の色が消えていき、代わりに興奮が滲み出してくる。


「そうだそうだ、ご飯!サゾリヨ行きましょう!」


 彼の言葉が言い終わるか終わらないかのうちに、私のお腹とユーナのお腹が、同時に「ぐ〜っ」と情けない音を立てた。


 高らかで、妙によく響く音だ。


 私は自分のお腹を撫でて、気まずそうに笑った。


 ユーナも恥ずかしそうにうつむいて、ピンク色の頬が淡く赤く染まった。


 地下駐車場を出ると、夕方の熱気がアスファルトに篭っていた。


 私たちは佐藤さんが言った例の店へ向かって歩き出したのだが。


 佐藤さんはまだしつこく「伝説の」チェーン店のことを唱え続けている。


 一遍また一遍と、聞き飽きて私の耳にたこができそうになってきた。


「もうサゾリヨって言うのやめなさいって!」


 とうとう耐えきれなくなった私は一歩踏み出し、彼の襟首を両手で掴むとがくがくと思い切り揺さぶった。


「お昼に食べたパスタ、まだ胃の中で消化しきれてないんですけど!?他のお店にしてくれない!?もう一回サゾリヨって言ったら、ここに置いていくわよ!」


 この筋金入りのオタク野郎、よりにもよって「一生食べ続けられる」なんてよく分からないことを幸せそうな顔で言い放ちやがって。


 目はうっとりと輝いていて、口端にはなんと涎まで滲んでいる。


 さすが花の国産の生粋のオタク。


 サゾリヨへの執着ぶりは、もはや狂気の域に達している。


 私は彼の気に食わない顔を見つめ、歯ぎしりするほど腹が立った。


 揺さぶる力をさらに増した。今すぐ揺り落としてやりたいくらいだ。


 そんな彼の様子を見ているうちに、私にふと妙案が浮かんだ。


 口角を小悪魔的に上げる。わざとらしく甘ったるい声を作って、ねっとりと甘えた調子で呼びかけた。


「お兄ちゃん〜」


 声は柔らかく甘ったるく、ちょっと甘えた含みがあって。


 普段の私とはまるで別人だ。


 佐藤さんは私の声を聞いた瞬間、全身がびしっと固まった。


 顔に浮かんでいた得意顔がすうっと消え失せた。


 取って代わったのは、鮮やかな紅だ。頬から耳の先まで、うなじまでもが染まっている。


 まるで茹で上がったカニのようだ。


 手に持っていた携帯が微かにぐらついて、危うく床へ落としそうになった。


 通りかかったおばさんたちが私たちの様子に気がついて、足を止めた。


 顔には慈愛に満ちた笑みが浮かんでいる。小声で話し合っている。


「あらまあ、この兄妹ったら仲がいいこと。妹ちゃん、お兄ちゃんに甘えてるのね。可愛いわあ」


「ほんとねえ。この妹ちゃん、白金色の髪でまるで小さな妖精みたい。


 お兄ちゃんもよく妹を可愛がってるのね」


「再婚家庭かしら。妹ちゃんはハーフ?」


 冗談じゃない!


 私は心の中で全力で叫んだ。


 私は四十三年の人生経験を持つ、超どっしりした立派な大人なんですけど!?


 どうしてこの引きこもりオタクの妹にならなきゃいけないの!?


 それに、私がこいつに甘えるなんて、絶対にありえない!


 あの携帯を取り返すためじゃなければ、こんなことをするわけがないんだから!


 私は心の底に渦巻く羞恥を必死に抑え込みながら、顔には甘い笑みをそのまま貼り付けた。


 さらに甘ったるい声を続ける。


「お兄ちゃん、携帯貸してよ〜。サゾリヨじゃなくて別のお店にしたいの〜」


 佐藤さんの顔がさらに赤くなった。呼吸も荒くなっている。


 目線はあちこち泳いでいて、私の顔を正視できていない。


 持っていた携帯はますます高く掲げられていくが、それでも思わずちらりと私を盗み見てしまっている。声が震えている。


「お、お前……そんなふうにするなよ……渡さ、渡さないからな……」


 言葉の調子はさっきの余裕をすっかり失っていた。代わりに慌てが混じっている。


 私のこの様子に、どうしていいか分からなくなっているのは明らかだ。


 私は彼の取り乱した顔を見て、内心したり顔でほくそ笑んだ。作戦成功ね。


 そこで私はもう居直って——前に踏み出し、彼の腕にぱっとしがみついた。


 腕にするりと頬を寄せて、顔には変わらず甘い笑みを浮かべたまま、声はさらに甘ったるく続ける。


「お兄ちゃん〜お願いだから携帯貸してよ〜」

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