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132. 鉄の檻と、動く階段

九月の陽光が街道に降り注ぐ。


正午の刺すような眩しさはなく、木の葉の隙間からこぼれ落ちる光の斑が私たちの体にかかって、心地よかった。


今日は花の国の祝日。街道はいつにも増して賑やかで、行き交う人の波が絶えない。


足音、会話、笑い声が折り重なって、生活の活気にあふれていた。


私たちは混み合う人混みを縫うように歩き、往来する車を慎重に避けながら、少し先にある大型スーパーへと向かった。


ユーナはしっかりと私の手を握り、好奇心あふれる眼差しで辺りを見回している。


道沿いの店舗や行き交う車を指差しては、小声でいろんな質問を投げかけてくる。


私が一つひとつ丁寧に答えるたびに、佐藤さんが横からちょこちょこ補足を入れた。


やがてスーパーの入口に辿り着いた。


外観は堂々たるもので、ガラスのカーテンウォールが日差しを反射し、眩しいほど明るい。


分厚いガラスの自動ドアを押し開けると。


冷気、焼きたてのパン、フルーツの清々しい香りが混ざり合って一気に押し寄せてきた。


私は思わず目を細め、外の白い光から蛍光灯の明かりへと視覚を馴染ませる。


店内は賑やかだった。


試食係の元気な呼びかけ、客同士の会話、カートが転がる「コロコロ」という音。


それらが入り混ざって、生活の匂いがあちこちに漂っていた。


その音を聞きながら、私は前世の記憶を辿った。


友人と一緒にスーパーをぶらぶらして、週末の食材をまとめ買いしたあの日々。


あの頃の私はただの会社員で、たまに友達と笑いながら買い物をして、それだけで十分幸せだった。


まさか何年も経った今も、この国のスーパーがあの頃と変わらず懐かしい顔をしているとは。


ただ見たことのない新商品がいくつか増えているだけで——。


「人が多いわ……」ユーナが小声でそう呟いた。


驚きの滲んだ眼差しで、本能的に私のそばへにじり寄り、手をきゅっと握り締める。


圧倒的な人波と活気に気圧されているのは明らかだった。


彼女はずっとエーリクセン領で育ち、こんなに多くの人も、これほどの品数も、生まれてこの方見たことがない。


目の前のすべてが、彼女には未知で新鮮だった。


「これが……あなたたちの世界の『商会』なの?」


ユーナは目を丸くした。


碧緑色の瞳を輝かせながら、整然と並んだ棚を指差す。声がかすかに震えていた。


その視線の先には食品、日用品、工具、衣類……ありとあらゆる商品が蛍光灯の下で光を放ちながら、果てしなく並んでいた。一目では見渡せないほどだ。


少し先ではエスカレーターがゆっくりと動き、まるで魔法のように人々を上下へと運んでいる。


ユーナはエスカレーターに釘付けになって、口を半開きにしたまま、信じられないとでもいうような顔をしていた。


棚の上の電子ディスプレイには、カラフルな広告が次々と流れ、商品紹介の映像が切り替わっていく。


彼女はそちらにも目を奪われ、まばたきもせずに見入っていた。


「どうしたの?花の国じゃよくあることよ」


私は笑いながらユーナの髪をやわらかく撫でた。


「ここは商会じゃなくて、スーパーよ。花の国の人たちは日常の買い物をここでするの。品揃えが豊富で、とても便利なの」


「これって……」


ユーナは息を呑んだ。目の前の光景への衝撃がまったく薄れていない。


「エーリクセン最大の商会だって、これほどの品数も、これほどの人も、ないわ……」


そう言いながら、私の手をそっと離して数歩前へ出る。


棚に並ぶ食品を物珍しそうに眺め、指先で包装をそっと触った。


眼差しが好奇心でいっぱいだった。


そのとき,佐藤さんがスーパーの隅からカートを押して戻ってきた。


金属のカゴが蛍光灯に照らされて鈍く光り、車輪が床を転がる音が「コロコロ」と小さく響く。


音に気づいたユーナが振り向く。


カートを見た瞬間、顔色がさっと変わった。


右足を半歩引いて体を硬直させる。警戒の眼差しで小声で言った。


「……なんでそんな鉄の檻を持ってくるの?私たちに何か企んでいるの?」


その反応に、私は思わず吹き出しそうになった。


ユーナはカートを見たことがない。


彼女の目には、金属のカゴが付いた、転がるこの物体が。


人を閉じ込める鉄の檻に見えているのだ。


笑いをこらえながら近づいて、ユーナの手を優しく引いて説明する。


「怖くないよ、ユーナ。これは鉄の檻じゃなくて、ショッピングカートよ。買いたい商品をここに入れておけば、ずっと抱えて歩かなくていいの。こうやって——」


そう言って、近くの棚からじゃがいもの袋を手に取り、カートのカゴの中にそっと置いて見せた。


ユーナはじゃがいもを見て、カートを見て、また私を見てから。


なんとなく納得したようにゆっくりと頷く。


目の警戒が薄れ、代わりに好奇心が芽生えてきた。


恐る恐る手を伸ばし、カゴにそっと触れる。


それから軽く押してみると、カートがゆっくりと動いた。


ユーナの顔に驚きが広がった。


「わ……ひとりでに動く。すごい……」


佐藤さんが横に立ってユーナの様子を眺めていたが、もう笑いを堪えられなかった。


「ユーナさん、ショッピングカートはスーパーの必需品ですよ。どんなに買い物しても、これに入れて押すだけ——超便利でしょ?さ、行きましょう。クローディア様、根菜類の種が欲しいって言ってましたよね?青果コーナーはこっちです」


私は頷いて、ユーナの手を引きながら佐藤さんの後について青果コーナーへと向かった。


青果コーナーは賑やかだった。


色とりどりの野菜と果物が棚に整然と並び、みずみずしく、ほのかな清々しい香りが漂っている。


私は種になりそうな根菜類を丁寧に選んでいった。


じゃがいも、さつまいも……それぞれ少量ずつ選んでカートに入れる。


頭の中では計算していた。


これらをエーリクセンに持ち帰り、職人たちに栽培してもらえれば、領地の食糧問題の解決に一役買えるはずだ。


ユーナは私のそばで棚の野菜や果物を物珍しそうに見て回り、時々指先でそっと触れては、小声で尋ねてくる。


「クローディア様、これって全部食べられるの?エーリクセンの野菜とは違って見えるし、色がとても鮮やか」


「ぜんぶ食べられるわよ」と私は微笑んで答えた。


「花の国の特産の野菜や果物よ。味も良くて栄養もたっぷり。帰るときに少し持って帰って、領地の人たちにも食べてもらいましょう」


種の選定が終わったところで、今度は工具コーナーへと足を向けた。


コーナーに入った瞬間、ユーナが小さく息を呑んだ。


その視線がずらりと並んだ棚を端から端へとゆっくり動いていく。驚きと好奇心で瞳が輝いていた。


棚にはさまざまな工具がびっしりと並んでいた。


メジャー、ノギス、スパナ、ドライバー、ハンマー……


どれも精巧に作られていて、エーリクセンの粗削りな工具とは比べ物にならない。


私は軽く笑って、ユーナの驚きには構わず、まっすぐ計測工具コーナーへと歩いていった。


今回の目的の一つは、エーリクセンの職人たちが使える計測工具を探すことだ。


エーリクセンの職人たちは今も古くて精度の低い道具を使い続けており、大工も鍛冶師も細かい仕事が思うようにできずにいる。


もしこの世界の計測工具をエーリクセンに持ち帰り、職人たちが再現してくれれば、領地の製造業のレベルは大きく上がるはずだ。


「このメジャーは使える。これ、ノギスじゃない——これも絶対要る!」


工具を手に取り、掌で重さを確かめながら、指先で質感を感じる。


目が自然と細くなった。


「エーリクセンの職人たちがこの二つを再現できれば、木工の精度が少なくとも二段階は上がるわ。


家具を作るにも、家を建てるにも、もっと正確で美しい仕事ができるようになる」


一人呟きながら、選んだ工具をカートに入れていく。


金属工具同士がぶつかって「チリン」と澄んだ音を立てた。


同じ工具を意図的に二セットずつ取った。


一セットは日常使い、もう一セットは職人たちに解体・研究させるためだ。


内部構造をじっくり調べれば、再現するだけでなく、さらに改良を加えることもできるかもしれない。


標準分銅セットと巻き尺を合計二十セットカートに入れ終えたところで——ユーナがとうとう声を上げた。


首を傾けて、不思議そうな眼差しで私を見上げる。


「クローディア様、どうしてこんなにたくさんの木の棒と金属の塊を買うの?こういうものならエーリクセンでも手に入るし、いっぱいあると思うけど……」


可愛らしい疑問だった。ピンクの睫毛がふわりと揺れて、目の奥に困惑の色がある。


なぜわざわざこの世界でこんなありふれたものを買うのか、彼女にはまったく理解できていないようだった。


「エーリクセンの計量単位を統一するためよ」


私は手を止めて振り返り、ユーナに向けてやわらかく笑いかけた。


ユーナは領地の家事と政務の一部を手伝っているとはいえ、計量単位については詳しくない。


だからちゃんと説明してあげなければ。


「例えばエーリクセン領の中だけでも、重さの計量単位が五種類も存在しているの」


少し間を置いて、続けた。


「大工には大工の計算方法があって、鍛冶師には鍛冶師の基準がある。


普通の村人が使う単位もまたバラバラ。つまり、領地の職人たちが一緒に仕事をしようとすると。


どの単位を使うかをめぐって口論が始まって、工期が遅れて効率が落ちる。


それが今の現状なのよ」


ユーナは真剣に聞いていた。時々ゆっくり頷きながら、顔の困惑が少しずつ消えていく。


領地のさまざまな業務を普段から手伝っているだけあって、統一した基準がなければ仕事がどれほど大変になるか。


彼女なりによくわかっているようだった。


自分の知らない計量単位で仕事をするのは嫌だ。


それは彼女にも理解できるはずだ。


「そうだったのね……」ユーナが小声で言った。


「計量単位がバラバラだと、こんなに面倒なことになるなんて、考えたことなかったわ」


「そうよ」私はもう一度彼女の髪をそっと撫でてから、続けた。


「この世界の標準計量単位は、何百年もかけて発展してきて、今では非常に成熟し、統一されているの。


重さでも、長さでも、体積でも、明確な基準があって、シンプルで分かりやすいから広めやすい。


ゼロから私たちの新しい基準を作るより、この世界の単位をそのまま取り入れるほうが、ずっと楽だし、ずっとお金もかからない。


自分たちで新しい基準を作ろうとすれば、膨大な金貨と時間と労力を注ぎ込まないといけなくなるから」

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