131. 腹痛と、君を守る拳
下腹部の痙攣が、何の前触れもなく押し寄せてきた。
まるで鋭い彎刀が、私の腹腔をざっくりと断ち割ったかのようだった。
鋭い痛みが神経に沿って全身に走り、私から一瞬のうちに体の力を半分以上奪い去った。
私はよろめきながら駅の壁に手をつき、指先が冷たく滑らかな壁面に食い込み、指の関節が白くなるほど力が入っていた。
呼吸までもが、急くように震えるようになっていた。
冷や汗が額の端を伝い、前髪を湿らせて、べたつきながら肌に貼りついていた。
偽装の魔法は激しい痛みの中でとうに解け、それまで隠していた尖った耳が、今は痛みのせいでかすかに痙攣し、その先端が薄っすらとピンクに染まっていた。
白金色の長髪は乱れて、冷や汗で濡れた首の横にへばりついており、細い首筋の線をなぞっていた。
私は唇を噛みしめ、喉元まで込み上げてくる痛みの叫びを必死に抑えながら、一歩一歩、駅のトイレへと向かった。
歩くたびに腹部の痙攣が増すようで、次の一歩でその場に崩れ落ちてしまいそうだった。
ようやく個室に飛び込んだ瞬間、もう支えていられなかった。
膝が冷たく硬いタイルの床に重くぶつかり、「ドン」という鈍い音を立て、痛みに思わず息を呑み、目の前がちかちかとした。
私は便座の縁に手をつき、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
顔を上げた時、ふと個室の壁に貼られた鏡面の広告ディスプレイが目に入った。
画面の中に映し出されたのは、真っ青に血の気が引いた私の顔だった。
その瞳には苦しみと無様さしか残っていない。
唇は噛みしめてじくじくと赤くなり、指先まで微かに震えていた。
視線を下げると、便器の中に滲む真っ赤な色が、目に刺さるように痛かった。
胸の中に複雑な感情が溢れてきた。
気恥ずかしさ、やりきれなさ、そして言葉にならない苛立ち。
震える指先でポケットをまさぐり、佐藤さんから渡されていたナプキンを取り出した。
指が震えていて、包装すら満足に開けられない。
散々格闘してようやく包装紙を破ったと思ったら、今度は粘着テープが爪に引っかかって、どんなに引っ張っても剥がれてくれない。
私は自嘲気味に笑い、目の前が真っ暗になるような虚無感を覚えた。
四十三年も生きてきて、領地のあらゆる危機を乗り越えてきたというのに、今はこんな基本的なことすら自分ではできないのか。
これ以上ないほどの皮肉だった。
どうにかナプキンをつけ終えると、腹部の痙攣は少しだけ和らいだ。先ほど飲んだイチゴ味の鎮痛剤の甘ったるい感覚が、ゆっくりと喉の奥に広がっていくのがわかった。
私は壁を支えに、ゆっくりと立ち上がった。
乱れたスカートの裾を整え、ティッシュで顔の冷や汗を拭き、深く息を吸い込んでから、個室のドアを押し開けた。
個室を出た途端、駅の構内放送から聴き慣れたメロディが流れてきた。
花の国で最も有名な漫画のテーマ曲だった。
軽やかで生き生きとした旋律が、駅全体に響き渡っている。
私は心の中で思わずぼやいた。
さすが花の国、どこへ行ってもこういうメロディが聞こえてくる。
私はその放送の方向へ足を向け、混んだ人の波をかき分けながら、改札口の方へと視線を向けた。
広場のガラスドームが、柔らかな夕陽の光を砕いて降り注がせていた。
人混みの中に降り注ぐそれは、ひときわ眩しかった。
少し離れたところに、見慣れた桃色の長髪が目立った。
ユーナだ。
だが今の彼女は、改札近くの券売機の前で、いかにも軽薄そうな三人の男に取り囲まれていた。
顔色はわずかに青ざめ、身体は無意識のうちに後ろへと後退している。
その三人の男はどれも素行の悪そうな雰囲気で、中でも先頭の男は安っぽい金髪に、てかてかに撫でつけた髪をしていた。
顔には下心丸出しの笑みが貼りついている。
男はユーナの桃色の長髪に手を伸ばそうとして、軽薄な口調で言った。
「お姉さん、その桃色の髪、すごく綺麗だね。どこで染めたの?一緒に飲みに行かない?俺が奢るよ?」
男が腕を動かした拍子に袖口がずれて、腕時計が覗いた。
文字盤のロゴは歪んでいて、どう見てもブランド品の偽物。
安っぽくて目に刺さるようだった。
ユーナはびくっと体を強張らせ、思わず一歩後ずさりした。
背中がゴミ箱にどすんとぶつかり、「ガタン」という音と共に中の物がかたかたと揺れた。
三人の男はその反応を見て、ますます図に乗ったようだった。
猥褻な目でユーナを舐めるように見ながら、一層軽薄な口ぶりで続けた。
「あれ、恥ずかしがってる?怖がらなくていいって、別に悪いことしないよ。ちょっと仲良くなりたいだけだから」
私は少し離れた場所からその一部始終を目にして、胸の奥で怒りが一気に燃え上がった。
腹部の痙攣なんて、その怒りの前では半分以上吹き飛んでしまっていた。
私はユーナのことをよく知っていた。彼女の実力は高い。
エーリクセンでの話なら、この三人などとっくに叩き伏せられていて、まともに立っていることすらできないだろう。
でも私は彼女に、花の国の人間には軽々しく手を出さないよう、きつく言い聞かせていた。
ここは見知らぬ世界だ。
身分を証明できるものは何もない。
あまり大事になって花の国の警察に目をつけられたら、どうなるかわからない。
ユーナも私の言いつけをちゃんと守っていた。
握りしめた拳の爪が掌に食い込むほど力を込めながら、その瞳には怒りと我慢の色が滲んでいる。
けれど、手は出さない。
ただひたすら後ずさりしながら、絡んでくる三人をなんとかやり過ごそうとしていた。
その時——金髪の先頭の男が、ユーナが引き続き後退するのを見て、ますます付け上がった。
手をすっと伸ばして、ユーナの胸元へと向けた。
その目に宿った猥褻さは、もはや微塵も隠す気がなかった。
「ユーナ!」
私は低く鋭く叫ぶと、ほとんど風を巻くような速さで飛び出した。
男の手がユーナに触れる寸前。
私は素早く男の手首を掴んだ。指先に力を込め、びくともさせないほど強く握る。
「いてっ——!なんだよお前、放せよ!」
男は顔を歪めて叫び、顔色が一瞬で青ざめた。必死にがくが、どうしても私の手から逃げられない。
私は何も言わず、ただ冷たい目で男を見据えながら、指先にわずかに力を加えた。
「バキッ」という乾いた音が一つ。
ユーナへと伸ばされていたその手が、あっという間に直角に折れ曲がった。
骨が外れる音がはっきりと聞こえた。
「クローディア様!」
ユーナが息を呑み、すぐさま一歩前に出て私に手を伸ばした。その瞳には心配の色が溢れている。
「大丈夫ですか?まだお腹が痛いんじゃないですか?顔色がまだすごく悪いです」
その声はかすかに震えていた。さっきの私の苦しみを見抜いていたし、私の体の不調も察していたのだろう。
私は軽く首を振り、大丈夫だと示しながら、目線は冷ややかに男へと向けたままだ。
その時——残りの二人の男が状況を見て、顔を真っ赤にした。
拳を振りかぶって私へと突っ込んでくる。
口からはよくわからない罵声が飛んでいる。
「このクソ女、俺たちの兄貴に何しやがった!ぶっ殺す!」
二人とも動きが速く重い。喧嘩慣れしているのは一目瞭然だった。
私は冷笑を浮かべ、少しも動じず、手首を折られた男を放してその場に崩れ落とした。
一人目の男の拳をさっとかわし、すかさず反撃。
拳を顔面に叩き込んだ。
「ドン」という重い音と共に男は悲鳴を上げ、鼻から鮮血を噴き出しながら、ふらふらと後ずさりした。
続けて振り返り、もう一人の顔にも同じように拳を繰り出した。
男はやはり鼻から血を吹き、後ろの花壇に派手にひっくり返り、丸まったまま地面でのたうった。
最初に手首を折られた男は地面に崩れたまま、呻きながら私を恨みながら見上げていたが、もう前に出ようとはしなかった。
明らかに私に怯えていた。
私はしゃがんで、気を失っている二人の様子を確かめた。
手を伸ばして呼気を確認し、脈を取る。
二人とも生命体征に問題はない。
ただ気絶させただけで、命に別状はない。
それを確認してから、私は静かに息を吐いた。
「これでいい」
立ち上がり、手のひらをはたいて、その声は淡々としていた。何の波も立っていない。
最初から命を奪うつもりはなかった。ただ教訓を与えたかっただけだ。
自分たちが誰にでも好き勝手できるわけではない、ということを思い知らせるために。
「ユーナ、行きましょう。時間をかけすぎると、警察に見つかってしまうから」
ユーナは頷いた。夕陽の残光の中、桃色の長髪が淡く輝いていた。
私たちは一刻も早く立ち去らなければならなかった。
周りの人たちがまだ野次馬根性でざわついている隙を突いて、人垣をそっと抜け出し、駅近くのコンビニへと向かった。
万一はぐれた場合、コンビニで落ち合おうと佐藤さんとは事前に約束していた。
道中、ユーナはずっと私の手をしっかりと握っていた。
時折、心配そうに私の顔を見る。
彼女の手のひらの温もりと優しさが伝わってきて、胸の奥が温かくなった。
コンビニに入ると、おでん、パン、飲み物が混ざり合ったなんともいえる香りが一気に押し寄せてきた。
温かい空気が、身体に染みついていた寒気を溶かしていく。
店内は広くはないが、清潔で整っていた。
棚には所狭しと色とりどりの商品が並んでいる。
私は無意識に店内を見渡し、すぐに佐藤さんを見つけた。
彼は飲み物の冷蔵コーナーの前にしゃがんで、頭をちょっと傾けて、眉間に皺を寄せ、子供みたいな顔で何を買うか真剣に悩んでいた。
乱れた黒髪とそばかすだらけの顔の真剣な表情、厚い唇を少し噛んでいる様子は、どこかおかしかった。
足音が聞こえたのか、佐藤さんが顔を上げた。
私たちが来たのを見るや、目がぱっと明るくなり、すぐさま立ち上がって走り寄ってきた。
手にはピンク色の飲み物が二本。私たちの目の前に差し出して、にっこりと笑う。
「あ、やっと来た!ずっと待ってたんだよ!ほら、これ飲んでみてよ、イチゴ牛乳!すごくお勧めなんだ、めちゃくちゃ甘くておいしいから、ユーナさんも絶対好きだと思う」
私はイチゴ牛乳を受け取り、指先が冷たい瓶の表面に触れた。
キャップを開けて、ひと口含む。
ほんのりとしたイチゴの風味と牛乳のまろやかな甘みが舌の上でゆっくりと広がって、甘すぎず、確かに美味しかった。
「のんびりしてないで」
私は苦笑しながら佐藤さんの肩を軽く叩き、少し急かすような口調で言った。
「今回の目的は領地の発展のための物資を集めることだから、コンビニで飲み物片手にのんびりしに来たわけじゃないよ。さあ行きましょう、前にある大きいスーパーを見てみたい」
佐藤さんは頭をかいて、ばつが悪そうに笑い、もう一本のイチゴ牛乳をユーナに手渡した。
「わかったよわかったよ。ちょっと甘いもので気分転換したかっただけだってば。じゃあ行こう、スーパー連れて行くよ。そっちには絶対使えるもの、たくさんあるから。期待しててよ」




