表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/142

130. 大都会と、離さない手

 彼女の小さな驚きの声だったが、それでも近くにいた女子高生数人の目を引いた。


 彼女たちは花の国の制服を着て、きちんと髪をポニーテールに結び、ユーナの驚きと困惑の表情を見て思わず笑い声を漏らしていた。


 彼女たちは寄り集まって、ひそひそと小声で話し合っている。


 目には好奇心があふれていて、ちらちらと私たちの方を見ていた。


 何しろ私とユーナの服装はあまりに異質だった。


 私のプラチナブロンドの長い髪、ユーナのピンクの長い髪をポニーテールにまとめた姿、そして私たちの身につけている服も、花の国の日常的な服装とはまったく違う。


 そのうえ、ユーナの反応が加わったのだから、どう見てもこの土地の人間とは思えない。


 彼女たちが何を話しているのかは想像がつく。


 おそらく私たちの出自や、ユーナがなぜあんな大げさな反応をするのかに興味を持っているのだろう。


 私はそっとユーナの背中を軽くぽんぽんと叩き、優しく落ち着かせた。


「魔法じゃないわよ、ユーナ。これは物理の慣性。電車が発車するときに前方に力が働いて、私たちの体がまだ慣れてないからふらついちゃうだけ。慣れれば大丈夫よ」


 ユーナはわかったような、わからないような顔でこくりと頷いたが、それでも私の腰にぎゅっとしがみついたまま離れなかった。


 私の胸に頬を寄せて、私の心臓の鼓動をはっきり感じているようだ。


 目に浮かんでいた衝撃は、少しずつ好奇心に変わっていった。


 おずおずと顔を上げて、車内の様子を見回している。


 整然と並ぶ座席、ちらちらと光る電子表示板、車内の壁に掛かった広告、窓の外を猛スピードで後退していく風景。


 どれもこれも彼女には新しく映り、瞳には探究の光が満ちていた。


「クローディア様、窓の外の建物、どうしてみんなあんなに高いんですか?」ユーナがそっと尋ね、細い指で窓の外を指した。「エーリクセンのお城よりも高いし、しかもびっしりと隣り合って並んでいて、見た感じすごく整っていますね。中にはたくさんの人が住めるんでしょうか?」


 私は彼女の視線を追って、窓の外に並ぶ高層ビル群を見た。


 外壁はなめらかで、ガラスのカーテンウォールが陽の光に反射して、なんとも壮観だった。


 私は笑顔で説明した。


「そうよ。これらは花の国の集合住宅で、中にはたくさんの人が住めるの。花の国は人口が多くて土地が限られているから、人々はこうやって高い建物をたくさん作ったの。そうすれば土地を節約できて、みんなも暮らしやすくなるでしょ」


 ユーナは熱心に耳を傾けて、ときどき小さく頷きながら、小声で呟いた。


「なるほど……この世界は本当に不思議です。泡が出る飲み物があったり、自動で商品を売る機械があったり、こんなに高い建物があったり、馬がいらないのに動く電車があったり……エーリクセンとはまったく違います」


 彼女の好奇心と憧れに満ちた様子を見て、私は心の中でひそかに思った。


 これからもっといろんな新しいものを彼女に見せてあげて、この世界でも彼女が楽しさを感じられるようにしよう、と。


 佐藤さんは少し離れたところに立っていて、うつむいてスマホを弄りながらも、ときどきこちらをちらりと見ている。


 分厚い唇をにやりと開き、顔には甘ったるい笑みを浮かべ、小声で呟いた。


「ふふ、仲がいいねぇ。どこ行ってもくっついて離れないとか、歩くフラグ製造機じゃん。俺、もうお腹いっぱいだわ」


 私はあきれて彼を睨みつけ、目で「それ以上ふざけるな」と警告した。


 彼はすぐにうつむき、熱心にスマホを弄っているふりをしたが、肩がかすかに震えている。


 どう見てもこっそり笑っている。


 ユーナは私の胸元に寄りかかって佐藤さんの呟きを耳にし、頬がさらに熱くなったようで、そっと私の腰をつまみながら小声でからかってきた。


「お嬢様、彼の言ってることは本当ですよ。私たち、ちょっとくっつきすぎでしょうか?」


 私も頬がほんのり熱くなったが、わざと落ち着き払った表情を作って言った。


「彼の言うことを真に受けないで。ここは人が多いから、あなたがはぐれてしまわないか心配だし、怖がるかもしれないからよ」


 ユーナは笑って、目に甘やかすような光を宿しながら、そっと私の肩にすり寄った。


 それ以上は何も言わず、ただ私の腰にぎゅっとしがみついて、安心したように私の胸に身体を預けていた。


 ――


 しばらくすると、電車はゆっくりと大きな駅に滑り込んだ。


 ここは乗り換え駅で、花の国でもかなり賑わっている駅の一つだった。


 駅には人がたくさんいて、電車が停まった瞬間、大量の乗客がどっと乗り込んできて、それまで広々としていた車内はあっという間に身動きできないほど混雑し、人と人の間にほとんど隙間がなくなった。


 人の流れが激しく動き、気がつけば私とユーナは人の波に押されて電車のドア付近に追いやられ、体と体がぴったりと密着していた。


 彼女の体温の温かさと、彼女の身にまとうかすかな梅の花の香りがはっきりと伝わってくる。


 私はとっさに彼女の手を強く握り締めた。


 人の波に押し流されてはぐれてしまわないように。


 ユーナもまた私の手をぎゅっと握り返し、指先に力を込めて私にぴったり寄り添い、動こうとしなかった。


 佐藤さんは別の方向から押し寄せる人波に逆側へ押し流されていった。


 隙間のない人混みの向こうで、彼の頭のてっぺんだけがかろうじて見える。


 彼は両手を振り回しながら大声で叫んだ。


「クローディアさん!ユーナさん!無事ですか?動き回らないでください。降りるときは出口で合流しましょう!離れちゃだめですよ!」


 私は彼のいる方向に向かって大きく頷き、大きな声で応えた。


「わかった!あなたも気をつけて、人に押されて転ばないように!」


 車内は騒がしく、人声が溢れていて、私の声はかき消されそうだった。


 幸い、佐藤さんは私のジェスチャーを確認して頷き、それ以上叫ばずに、ただ私たちの方へ必死に近づこうとしていた。


 だが人の壁にがっちりと阻まれて、まったくたどり着けない。


 混雑した人混みを見て、私は内心まずいと思った。こんなに人が多くて、しかもみんな見知らぬ人たち。


 ただでさえ緊張しているユーナが、今こうして人波に押されて、きっともっと怖がっているはずだ。


 私はそっと彼女の手の甲を叩き、小さな声で言った。


「怖がらないで、ユーナ。私から絶対に離れないで。あなたをはぐれさせたりしないから。電車が駅に着いたら降りて、佐藤さんを探しにいくからね」


 ユーナはこくりと頷き、私の手をぎゅっと力強く握って、頭を私の肩に預け、目には不安がいっぱいだった。


 車内はひどく混み合っていて、人と人の間に隙間はほとんどなく、肩が肩に当たり、肘が肘にぶつかっていた。


 電車がわずかに揺れるたびに、みんなが思わず互いにぶつかり合った。


 最初のうちは、誰かの手が私の太ももに触れたのを感じた。


 冷たくて、じっとりと湿っていた。私は反射的に眉をひそめ、心の中でさっと考えた。


 たぶんどこかの乗客がうっかりぶつかっただけだろう。


 こんなに混んでいるんだから、身体の接触は避けられない。


 わざとユーナの方に体を寄せて、その手から遠ざかろうとした。


 同時にユーナの手の甲をそっと叩き、怖がらないように合図を送った。


 ユーナが顔を上げて私を見た。


 目には依存の色があり、またこっそりと私の胸元にすり寄って、小声で呟いた。


「クローディア様……ここ、人が多すぎて、ちょっと息が苦しいです」


 彼女の声はとても小さく、車内の喧騒にかき消されてほとんど聞こえなかった。


 私は顔を伏せて彼女の耳元に近づき、優しく応えた。


「もう少しだけ我慢して。もうすぐ駅に着くから、都心に着けばこんなに混まないわよ」


 だが、まさか。


 そのじっとり湿った手は、私が避けたからといって離れるどころか、出てきた。


 太ももから、ゆっくりとスカートの裾の中へと這い上がってくる。


 指先はざらざらとしていてぬるぬると不快で、太ももの付け根の肌をなぞったときの、あの吐き気を催す感触が、一瞬で全身に突き抜けた。


 強い嫌悪感が心の底からどっと溢れ出して、何とも言いがたい羞恥が混ざり合った。


 前世の私は三十歳の男性で、こんなハラスメントを受けた経験など一度もなかった。


 今、このエルフの少女の身体で、見知らぬ男にこんな凌辱を受けて。


 怒りが一気に燃え上がった。


 ずいぶんと舐められたものだな。私が大人しいとでも思ったのか?


 私は目を細めた。目の優しさは一瞬で消え去り、ただ冷たい寒気だけが残る。


 右手がまるで鉄の万力のように、ガッと。


 スカートの中でまだ暴れているその手首をがっしりと掴んだ。


 指先に力を込め、びくとも逃げられないようにぎりぎりと締め上げた。


「は?な、なに——」


「ぎゃああああああああああっ!!」


 男の悲鳴が一瞬で爆発した。鋭く、耳をつんざくような悲鳴だ。


 その声は電車の車輪がレールと擦れるガタンゴトンという音さえもかき消して、混雑した車内全体に響き渡った。


 周りの乗客たちはこの突然の悲鳴に一瞬で驚かされ、次々と会話をやめて私たちの方に振り向いた。


 その目には驚きと困惑があふれていた。


 私はゆっくりと振り返り、無表情で目の前の男を見据えた。彼は花の国でよく見かけるカジュアルな服装をしていて、髪はボサボサで、目は濁っていた。顔には下品な笑みが浮かんでいる。


 いや、今は痛みで顔全体がひどく歪んでいた。額には青筋が浮き上がり、冷や汗が頬を伝い落ち、口からは絶え間なく呻き声が漏れている。私には一片の憐れみもなかった。


 指先にわずかに力を込めると、彼の手首の骨の形がはっきりと感じ取れた。


 次の瞬間、指先で彼の手首の骨を、一本一本、ゆっくりと砕いていった。


「バキッ——ボキボキッ——」


 乾いた骨折の音が、喧騒に満ちた車内でもこの上なくはっきりと響き渡った。


 折れた枝のような音だった。


 周囲の乗客たちが一斉に息を呑む音が小さく広がり、何人かは思わずあとずさった。


 目は恐怖で満ちている。さらにスマホを取り出して、こっそりこの光景を撮影している者もいた。


 私は周りの視線など気にもかけなかった。これは彼にふさわしい罰だ。


「治癒。」


 薄く開いた唇から、淡々とした声が漏れた。かすかに冷たさを帯びて。


 指先が淡い緑色の光を宿した。


 柔らかな光の輝きが、男の砕かれた手首を包み込む。


 目に見えて、折れた手首の骨がゆっくりと癒え、腫れ上がった手首も次第に元の形を取り戻していった。


 男の悲鳴も徐々に収まり、代わりに荒い息遣いが漏れてきた。


 彼はぐったりと人混みに崩れ落ち、顔色は紙のように青白く、目は恐怖に染まっていた。


 だが、私にはそれで許すつもりなどなかった。


 彼が三回息をつく間も与えず、私は再び彼のついさっき癒えたばかりの手首を握りしめ、指先に急に力を込めた。


 また一際澄んだ骨折の音が響き渡り、男の悲鳴がもう一度炸裂した。


 前回よりもさらに凄まじく、涙と鼻水がぐちゃぐちゃに混ざり合い、惨めったらしい有様だった。


「おま……おまえ、いったい何者なんだ……もうやめてくれ、もう二度としない、頼むから許してくれ……」


 彼は泣き叫びながら必死に許しを乞い、声は震え、言葉もまともに続けられなかった。


 悲鳴と荒い息遣いが交互に車内に響き、周りの乗客たちも次第に事の真相を理解し始めていた。


 誰かがこの男のことを覚えていたらしく、小さな声で噂し合う。


 彼がよくこの電車で女性にちょっかいをかけていること、以前にも被害者がいたのに誰も立ち向かえなかったことなどを。


 今こうして彼が私にひどい目に遭わされているのを見て、乗客たちは同情するどころか、次々と拍手を送り始めた。


 こっそり歓声を上げる者もいる。


「よくやった!こんな変態はきっちり懲らしめないと!」「やっと彼を退治してくれる人が現れた、ほんと胸がすくよ!」


 私は身をかがめて、男の耳元に顔を近づけた。


「これはお前への警告だ」


 指先が彼の再び癒えたばかりの手首をそっと撫でる。声は淡々としていた。


「もしお前が今後また他の女性にちょっかいを出したり、何か不埒な真似をしたりしているのを私が見つけたら、今日の苦しみが何百倍、何千倍にもなってお前に降りかかる。言ったからには必ず実行する」


 私の言葉が言い終わるか終わらないかのうちに、男の体はぴたりと固まった。


 股間のあたりが一瞬でぐっしょりと濡れ、鼻をつく生臭い小便の臭いが空気に乗って広がっていった。


 周りの乗客たちは思わず鼻を押さえて、慌てて後退した。


 その目には軽蔑の色が浮かんでいた。


 男の顔は一瞬で真っ赤になり、羞恥と恐怖が入り混じり、彼は私をもう二度と見ようとせず、体をがくがくと震わせながら、口からは絶え間なく許しを乞う声が漏れていた。


「わ、わかりました……もうしません、もう決してしません……頼むから行かせてください……」


 ちょうどその時、電車のアナウンスが流れた。優しい女性の声が告げる。


「まもなく到着、市街中心駅。お出口の準備をし、順にお降りください。足元にご注意ください」


 アナウンスの声が終わるか終わらないかのうちに、電車がゆっくりと停まった。


 車体がかすかに揺れ、ドアが「プシュー」という音とともに開くと、外の人波が一気に流れ込んできて、車内の乗客たちと入り交じった。


 男はまるで救いの藁を掴んだかのように、勢いよく身をよじって私が掴んでいた手を振りほどき、転がるように這いずりながらドアの方へ走り去った。


 途中で何人もの人にぶつかったが、謝罪の一言すら口にできなかった。


 彼はついに一度もこちらを振り返らず、正視もできずに、みっともなく外の人波の中に紛れ込み、あっという間に姿を消した。


 慌てふためいて逃げていく彼の後ろ姿を前に、私の目の底に少しの波も立たなかった。


 ただ静かに手を引き戻し、指先にまとわりつく嫌なぬるつきに吐き気がこみ上げた。


 ポケットからシルクのハンカチを取り出して、指を丁寧に拭った。


「クローディアさん!ユーナさん!お二人ともご無事ですか!」


 佐藤さんの声が人込みの向こうから聞こえてきた。


 焦りが滲んでいる。


 彼はだいぶ苦労して、ようやく反対側からこちらにたどり着いたようだった。


 黒い短髪は押されてひどく乱れ、そばかすだらけの顔には汗がびっしょりで、分厚い唇で少し息を荒げている。


 見た感じややみっともない有様だった。


 彼が私たちのそばにたどり着き、私たちの姿を上から下まで確認して、私もユーナも無事だとわかると、ほっと息をつき、額の冷や汗を拭いながらわざとらしい大声で言った。


「まったくもう、さっきの悲鳴、めちゃくちゃ怖かったですよ。あんなに大勢の人を隔てても聞こえてきたんだから。さすが異世界の精霊様、今の一撃はすごくえげつなかったですね。あの男、一生トラウマになったと思いますよ」


 私は微笑みながら痴漢に乱されたスカートの裾を整え、指先でそっとシワを伸ばした。


 まるで先ほどのあの衝撃的な制裁など、最初からなかったかのように。


 私だけが知っている。あの男の手首を治癒したとき、ついでに彼の体内に目に見えない魔法陣を刻み込んだことを。


 それは懲罰の魔法陣だ。


 彼がこれからまた女性にちょっかいをかける痴漢行為を働けば、今日手首を砕かれた苦しみが再び彼に降りかかる。


 しかも一度ごとに激しさを増し、彼がその悪癖を完全に改めるまで、決して止まらない。


「ただの教訓よ」


 私は淡々と言った。


 声に一片の波もなかった。


「こういう人間は、よほど痛い目を見なければ、決して反省なんてしないから」


 佐藤さんは深く頷き、しみじみと言った。


「まったくです!こういう変態はきっちりやっつけないと、もっと多くの女の子が被害に遭いますからね。でもクローディアさん、さっきの姿、めちゃくちゃ怖かったですよ。無表情で、僕まで危うくびびりそうになりました」


 ――


 私たちは人波に乗って、ゆっくりと電車を降りた。


 ドアから一歩出た瞬間、目の前に広がる光景に度肝を抜かれた。ここは花の国の市街中心駅。


 私たちがそれまでに通り過ぎてきた小さな駅よりも、何倍も巨大だった。


 広々としたホーム、つるつるとした床、高くそびえるガラスの天蓋、そして絶え間なく行き交うおびただしい人々。


 人波はまるで潮の満ち引きのように押し寄せ、足音と、話し声と、アナウンスの声が入り混じり合って、えも言われぬ活気に満ちていた。


 ユーナは瞬時に、この巨大な人の流れに圧倒されてすくんでしまった。


 私の手をぎゅっと握り、指の関節がかすかに白くなり、体がかすかに震えている。


 目には衝撃があふれ、息さえも潜めていた。


「クローディア様……ここ、ここにはどうしてこんなにたくさんの人がいるんですか?」


 彼女の声はとても小さく、周囲の喧騒にほとんどかき消されてしまった。


 私は彼女の耳元に顔を寄せて、大きな声で言わざるを得なかった。


「ここは花の国の市街中心地だからね。もともと人がとても多いの。怖がらないで。私があなたの手を引いているから、絶対にはぐれたりしないわ」


 私はユーナの手をぎゅっと握りしめた。


 彼女の手は温かくてやわらかく、指先にはかすかな震えが走っている。


 この賑やかで見知らぬ環境に、どうやらすっかり怯えてしまったようだった。


 私は無意識に彼女を庇ってやり、行き交う人波からかばいながら、誰かにぶつかられないように気をつけた。


 佐藤さんは私たちの後ろを歩きながら、人をかき分けつつ小さな声でぼやいていた。


「ああもう、ここ人が多すぎませんか。この時間に来るんじゃなかったよ、潰されそうだ」


 彼の背は高くないので、人込みの中にほとんど埋もれてしまっている。


 つま先立ちで懸命に私たちのあとを追いかけていた。


 ユーナが好奇心いっぱいに周囲の様子を見渡し、目の衝撃は次第に好奇心へと塗り替えられていった。


 彼女の視線がホームの電子掲示板に留まる。


 画面の上では赤い数字がピカピカと点滅し、花の国の文字が絶え間なく更新されて、次の電車の到着時刻や運行ルートが表示されていた。


「クローディア様、この上の数字は何なんですか?それにこの変な記号は、どういう意味ですか?」


 彼女は電子掲示板を指差し、大きな声で尋ねた。


 目には疑問がいっぱいで、ピンクのまつ毛がかすかに震えている。


 その仕草は、なんともあどけなかった。


 私も彼女の指の先を追い、笑顔で説明した。


「その数字は、次の電車がいつ来るかを示す時間よ。たとえばこの『5』なら、あと5分で次の電車が入ってくるという意味。そしてあの変な記号は、花の国の文字ね。エーリクセンの文字とは全然違って、彼らが意思を伝え合うための記号なの」


 ユーナは熱心に耳を傾け、ときどき小さく頷きながら、小声で呟いた。


「なるほど……この世界は本当に不思議です。数字も文字も、私たちのところとはまったく違うんですね」


 佐藤さんが近づいてきて、電子掲示板を指差しながら補足した。


「ユーナさん、これは電子掲示板って言うんです。花の国では駅にもデパートにもあって、時間や便名、各種のお知らせが表示されてて、すごく便利なんです。あとでデパートにも案内しますけど、もっとすごいものがいっぱいありますよ。絶対にびっくりしますから」


 ユーナは目を輝かせ、期待でいっぱいの表情で慌てて頷いた。


「はいはい!見に行きたいです。花の国にはまだどんな不思議なものがあるのか見てみたいです」


 駅の構内アナウンスがまた流れて、各電車の到着情報と安全の注意を伝えた。


 優しい女性の声が、この広い駅の中に響き渡る。


 陽の光が駅のガラス天蓋を貫いて降り注ぎ、私たちの上に落ち、ぽかぽかと温かく、電車の中の冷房で冷え切った体をじんわりと温めてくれた。


 陽の光が床に交差する影を落とし、私のプラチナブロンドの長い髪が暖かな金色の光を帯び、ユーナのピンクの長い髪もかすかに輝いて、私たちの影法師はぎゅっと寄り添い合い、なんとも温かだった。


 ユーナは私の手をしっかり握ったまま、好奇心にキラキラと瞳を輝かせて周囲をきょろきょろと見回していた。天を突く高層ビル群。


 駅のガラス天蓋越しにも見えるそれらは、一棟また一棟と隣り合い、すき間なく並び立っている。


 外壁はなめらかで、ガラスのカーテンウォールが陽の光を反射して、なんとも壮観だった。


 行き交う人々はさまざまな服を身にまとい、急ぎ足で歩いてゆく。


 うつむいてスマホを見ている者、誰かと話をしている者、急いで道を急ぐ者。


 それぞれにそれぞれのリズムがあった。さらには制服を着た駅員たちが構内を行ったり来たりして秩序を保ち、顔には礼儀正しい笑みを浮かべている。


「クローディア様、あの高層ビルをご覧ください、とても高いです!」


 ユーナが窓の外の高層ビル群を指差し、大声で感嘆の声を上げた。


 目には憧憬の色がいっぱいだ。


「エーリクセンのお城よりもずっと高いです!中にはたくさんの人が住めるんでしょうね?それにあの人たちの服も、私たちの服とは違って、すごく変わってます」


 私は笑顔で頷いて言った。


「そうよ。あの高層ビルは花の国の集合住宅やオフィスビルで、中にはたくさんの人がいて、大勢の人がここで働いているの。彼らの服は日常着で、私たちエーリクセンの服とは違って、もっと軽くて、ここの気候にも合っているのよね」


「わあ、すごすぎます!」


 ユーナの顔に輝く笑顔が浮かび、目には興奮が満ちあふれていた。


 先ほどの緊張や怖がりは、一瞬でどこかへ消え去ったようだ。


「あのビルの中がどうなっているのか見てみたいです!それに花の国の商会にどんな良いものがあるのかも見てみたいです!」


 彼女の興奮した様子を見て、私も思わず笑ってしまい、そっと彼女の髪を揉みほぐした。


「焦らないで。ゆっくり見ていきましょう。ここにはまだまだたくさんあるから、ぜんぶあなたに見せてあげるわ」


 佐藤さんは後ろを歩きながら、私たち二人のやりとりを見てはあきれ顔で白目を剥き、小声で呟いた。


「ちっ、まったく仲良しこよしだなぁ。どこ行ってもくっついて離れないしさ。俺、空気すぎてまぶしいわ」


 彼の声は大きくはなかったが、やはり私の耳には届いていた。私は振り返って彼を睨みつけた。


 彼はすぐさま口をつぐみ、分厚い唇を一文字に結んで、あらぬ方をきょろきょろと見回すふりをし、口を開く勇気もなくなった。


 そばかすだらけの顔に気まずそうな笑みが浮かんでいた。


 ユーナも彼の呟きを耳にして、頬がわずかに赤くなり、そっと私の肩にすり寄って小声でからかった。


「お嬢様、彼は私たちがくっつきすぎだって言ってますよ」


 私の頬もほんのり熱くなったが、落ち着き払った様子で言った。


「彼の言うことなんて気にしちゃダメ。人が多いから、あなたがはぐれてしまったら大変だし、それに初めて来た場所だから絶対に怖がるでしょ。私がそばで手を引いていれば少しは安心できるわ」


 ユーナはふふっと笑って、私の手をぎゅっと握り返した。


「はい。クローディア様が手を引いてくれているから、私はまったく怖くありません」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ