129. 満員電車、折れる骨、治癒の光
彼女の小さな驚きの声だったが、それでも近くにいた女子高生数人の目を引いた。
彼女たちは花の国の制服を着て、きちんと髪をポニーテールに結び、ユーナの驚きと困惑の表情を見て思わず笑い声を漏らしていた。
彼女たちは寄り集まって、ひそひそと小声で話し合っている。
目には好奇心があふれていて、ちらちらと私たちの方を見ていた。
何しろ私とユーナの服装はあまりに異質だった。
私のプラチナブロンドの長い髪、ユーナのピンクの長い髪をポニーテールにまとめた姿、そして私たちの身につけている服も、花の国の日常的な服装とはまったく違う。
そのうえ、ユーナの反応が加わったのだから、どう見てもこの土地の人間とは思えない。
彼女たちが何を話しているのかは想像がつく。
おそらく私たちの出自や、ユーナがなぜあんな大げさな反応をするのかに興味を持っているのだろう。
私はそっとユーナの背中を軽くぽんぽんと叩き、優しく落ち着かせた。
「魔法じゃないわよ、ユーナ。これは物理の慣性。電車が発車するときに前方に力が働いて、私たちの体がまだ慣れてないからふらついちゃうだけ。慣れれば大丈夫よ」
ユーナはわかったような、わからないような顔でこくりと頷いたが、それでも私の腰にぎゅっとしがみついたまま離れなかった。
私の胸に頬を寄せて、私の心臓の鼓動をはっきり感じているようだ。
目に浮かんでいた衝撃は、少しずつ好奇心に変わっていった。
おずおずと顔を上げて、車内の様子を見回している。
整然と並ぶ座席、ちらちらと光る電子表示板、車内の壁に掛かった広告、窓の外を猛スピードで後退していく風景。
どれもこれも彼女には新しく映り、瞳には探究の光が満ちていた。
「クローディア様、窓の外の建物、どうしてみんなあんなに高いんですか?」ユーナがそっと尋ね、細い指で窓の外を指した。「エーリクセンのお城よりも高いし、しかもびっしりと隣り合って並んでいて、見た感じすごく整っていますね。中にはたくさんの人が住めるんでしょうか?」
私は彼女の視線を追って、窓の外に並ぶ高層ビル群を見た。
外壁はなめらかで、ガラスのカーテンウォールが陽の光に反射して、なんとも壮観だった。
私は笑顔で説明した。
「そうよ。これらは花の国の集合住宅で、中にはたくさんの人が住めるの。花の国は人口が多くて土地が限られているから、人々はこうやって高い建物をたくさん作ったの。そうすれば土地を節約できて、みんなも暮らしやすくなるでしょ」
ユーナは熱心に耳を傾けて、ときどき小さく頷きながら、小声で呟いた。
「なるほど……この世界は本当に不思議です。泡が出る飲み物があったり、自動で商品を売る機械があったり、こんなに高い建物があったり、馬がいらないのに動く電車があったり……エーリクセンとはまったく違います」
彼女の好奇心と憧れに満ちた様子を見て、私は心の中でひそかに思った。
これからもっといろんな新しいものを彼女に見せてあげて、この世界でも彼女が楽しさを感じられるようにしよう、と。
佐藤さんは少し離れたところに立っていて、うつむいてスマホを弄りながらも、ときどきこちらをちらりと見ている。
分厚い唇をにやりと開き、顔には甘ったるい笑みを浮かべ、小声で呟いた。
「ふふ、仲がいいねぇ。どこ行ってもくっついて離れないとか、歩くフラグ製造機じゃん。俺、もうお腹いっぱいだわ」
私はあきれて彼を睨みつけ、目で「それ以上ふざけるな」と警告した。
彼はすぐにうつむき、熱心にスマホを弄っているふりをしたが、肩がかすかに震えている。
どう見てもこっそり笑っている。
ユーナは私の胸元に寄りかかって佐藤さんの呟きを耳にし、頬がさらに熱くなったようで、そっと私の腰をつまみながら小声でからかってきた。
「お嬢様、彼の言ってることは本当ですよ。私たち、ちょっとくっつきすぎでしょうか?」
私も頬がほんのり熱くなったが、わざと落ち着き払った表情を作って言った。
「彼の言うことを真に受けないで。ここは人が多いから、あなたがはぐれてしまわないか心配だし、怖がるかもしれないからよ」
ユーナは笑って、目に甘やかすような光を宿しながら、そっと私の肩にすり寄った。
それ以上は何も言わず、ただ私の腰にぎゅっとしがみついて、安心したように私の胸に身体を預けていた。
――
しばらくすると、電車はゆっくりと大きな駅に滑り込んだ。
ここは乗り換え駅で、花の国でもかなり賑わっている駅の一つだった。
駅には人がたくさんいて、電車が停まった瞬間、大量の乗客がどっと乗り込んできて、それまで広々としていた車内はあっという間に身動きできないほど混雑し、人と人の間にほとんど隙間がなくなった。
人の流れが激しく動き、気がつけば私とユーナは人の波に押されて電車のドア付近に追いやられ、体と体がぴったりと密着していた。
彼女の体温の温かさと、彼女の身にまとうかすかな梅の花の香りがはっきりと伝わってくる。
私はとっさに彼女の手を強く握り締めた。人の波に押し流されてはぐれてしまわないように。
ユーナもまた私の手をぎゅっと握り返し、指先に力を込めて私にぴったり寄り添い、動こうとしなかった。
佐藤さんは別の方向から押し寄せる人波に逆側へ押し流されていった。
隙間のない人混みの向こうで、彼の頭のてっぺんだけがかろうじて見える。
彼は両手を振り回しながら大声で叫んだ。
「クローディアさん!ユーナさん!無事ですか?動き回らないでください。降りるときは出口で合流しましょう!離れちゃだめですよ!」
私は彼のいる方向に向かって大きく頷き、大きな声で応えた。
「わかった!あなたも気をつけて、人に押されて転ばないように!」
車内は騒がしく、人声が溢れていて、私の声はかき消されそうだった。
幸い、佐藤さんは私のジェスチャーを確認して頷き、それ以上叫ばずに、ただ私たちの方へ必死に近づこうとしていた。
だが人の壁にがっちりと阻まれて、まったくたどり着けない。
混雑した人混みを見て、私は内心まずいと思った。
こんなに人が多くて、しかもみんな見知らぬ人たち。
ただでさえ緊張しているユーナが、今こうして人波に押されて、きっともっと怖がっているはずだ。
私はそっと彼女の手の甲を叩き、小さな声で言った。
「怖がらないで、ユーナ。私から絶対に離れないで。あなたをはぐれさせたりしないから。電車が駅に着いたら降りて、佐藤さんを探しにいくからね」
ユーナはこくりと頷き、私の手をぎゅっと力強く握って、頭を私の肩に預け、目には不安がいっぱいだった。
車内はひどく混み合っていて、人と人の間に隙間はほとんどなく、肩が肩に当たり、肘が肘にぶつかっていた。
電車がわずかに揺れるたびに、みんなが思わず互いにぶつかり合った。
最初のうちは、誰かの手が私の太ももに触れたのを感じた。
冷たくて、じっとりと湿っていた。
私は反射的に眉をひそめ、心の中でさっと考えた。
たぶんどこかの乗客がうっかりぶつかっただけだろう。
こんなに混んでいるんだから、身体の接触は避けられない。
わざとユーナの方に体を寄せて、その手から遠ざかろうとした。
同時にユーナの手の甲をそっと叩き、怖がらないように合図を送った。
ユーナが顔を上げて私を見た。
目には依存の色があり、またこっそりと私の胸元にすり寄って、小声で呟いた。
「クローディア様……ここ、人が多すぎて、ちょっと息が苦しいです」
彼女の声はとても小さく、車内の喧騒にかき消されてほとんど聞こえなかった。
私は顔を伏せて彼女の耳元に近づき、優しく応えた。
「もう少しだけ我慢して。もうすぐ駅に着くから、都心に着けばこんなに混まないわよ」
だが、まさか。
そのじっとり湿った手は、私が避けたからといって離れるどころか、出てきた。
太ももから、ゆっくりとスカートの裾の中へと這い上がってくる。
指先はざらざらとしていてぬるぬると不快で、太ももの付け根の肌をなぞったときの、あの吐き気を催す感触が、一瞬で全身に突き抜けた。
強い嫌悪感が心の底からどっと溢れ出して、何とも言いがたい羞恥が混ざり合った。
前世の私は三十歳の男性で、こんなハラスメントを受けた経験など一度もなかった。
今、このエルフの少女の身体で、見知らぬ男にこんな凌辱を受けて。
怒りが一気に燃え上がった。
ずいぶんと舐められたものだな。私が大人しいとでも思ったのか?
私は目を細めた。
目の優しさは一瞬で消え去り、ただ冷たい寒気だけが残る。
右手がまるで鉄の万力のように、ガッと。
スカートの中でまだ暴れているその手首をがっしりと掴んだ。
指先に力を込め、びくとも逃げられないようにぎりぎりと締め上げた。
「は?な、なに——」
「ぎゃああああああああああっ!!」
男の悲鳴が一瞬で爆発した。鋭く、耳をつんざくような悲鳴だ。
その声は電車の車輪がレールと擦れるガタンゴトンという音さえもかき消して、混雑した車内全体に響き渡った。
周りの乗客たちはこの突然の悲鳴に一瞬で驚かされ、次々と会話をやめて私たちの方に振り向いた。
その目には驚きと困惑があふれていた。
私はゆっくりと振り返り、無表情で目の前の男を見据えた。
彼は花の国でよく見かけるカジュアルな服装をしていて、髪はボサボサで、目は濁っていた。
顔には下品な笑みが浮かんでいる。
いや、今は痛みで顔全体がひどく歪んでいた。
額には青筋が浮き上がり、冷や汗が頬を伝い落ち、口からは絶え間なく呻き声が漏れている。
私には一片の憐れみもなかった。
指先にわずかに力を込めると、彼の手首の骨の形がはっきりと感じ取れた。
次の瞬間、指先で彼の手首の骨を、一本一本、ゆっくりと砕いていった。
「バキッ——ボキボキッ——」
乾いた骨折の音が、喧騒に満ちた車内でもこの上なくはっきりと響き渡った。
折れた枝のような音だった。
周囲の乗客たちが一斉に息を呑む音が小さく広がり、何人かは思わずあとずさった。
目は恐怖で満ちている。さらにスマホを取り出して、こっそりこの光景を撮影している者もいた。
私は周りの視線など気にもかけなかった。これは彼にふさわしい罰だ。
「治癒。」
薄く開いた唇から、淡々とした声が漏れた。
かすかに冷たさを帯びて。
指先が淡い緑色の光を宿した。
柔らかな光の輝きが、男の砕かれた手首を包み込む。
目に見えて、折れた手首の骨がゆっくりと癒え、腫れ上がった手首も次第に元の形を取り戻していった。
男の悲鳴も徐々に収まり、代わりに荒い息遣いが漏れてきた。
彼はぐったりと人混みに崩れ落ち、顔色は紙のように青白く、目は恐怖に染まっていた。




