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121. 協力者

 何より、オタクという人種は戦闘力も社交力もほぼゼロに等しい。


 だから俺の秘密が外部に漏れるはずもない、そう踏んでいた。


 それに、いつでもこの男を始末することはできる。


 万が一秘密を漏らそうとしたところで、彼にそんな力などあるはずがない。


 俺が指名手配される? そんなことを心配する必要もない。


 この世界では、俺の戸籍はとっくに抹消されている。怖れるものなど何もない。


 こう考えた俺は、すべてを包み隠さず話すことに決めた。


 本音を打ち明ければ、佐藤からより頼もしい協力を得られるのは間違いないからだ。


 例えば、地球の先進技術に関する書籍を取り寄せてもらえば、それをエーリクセン領に持ち帰り、領地の発展に役立てられる。


 俺は佐藤を眺め、淡々とした口調で一切隠し立てせず話し出した。


「実は私は、この世界の人間ではない。別の異世界からやってきたのだ。君とは違う世界の住人だよ」


「ま、マジで!?」


 佐藤は驚きのあまり椅子から飛び上がり、手に持っていた漫画本を床に落とした。


 その表情は驚愕と興奮、そして半信半疑な気持ちが入り混じり、見ていても分かりやすい。


(転生なんて本当に存在するのか!? ラノベの中だけの話だと思っていたのに……)


 彼は興奮しきった様子で俺の前まで歩み寄り、俺を中心に一周りすると、ひっきりなしに独り言を呟いている。


(すげえ!目の前に本物の転生者がいる!それで、異世界ではどんな立場なの?王女様?それとも魔法使い?特殊な能力とか持ってる?ちょっと見せてくれよ!)


 熱弁をふるう彼の姿を見て、俺は半ばあきれて白目を向いた。手を伸ばして彼の肩を押さえ、静かにするよう合図した。


「うるさい奴だな。私は異世界・エーリクセンの公爵令嬢だ。魔法を扱える。特殊な能力といえば、傀儡を召喚する術と、先ほどここへ来るのに使った転移魔法くらいだ」


 ユーナは俺の傍らに立っていた。


 会話の内容までは聞き取れないものの、佐藤の激しい興奮と、俺の少しあきれた表情を見て、思わず柔らかく微笑んだ。


 ピンクの長い髪がそよぎ、その笑顔は愛らしい。


 俺は振り返って彼女をちらりと見やり、瞳に微かな柔らかさを宿らせた。


 そっと彼女の手の甲を撫で、大丈夫だと伝える。


 肩を押さえられた佐藤はようやく落ち着いたが、興奮は収まらない。


 俺を見つめる瞳には、崇拝の気持ちがあふれていた。


(公爵令嬢で、しかも魔法使い…… 本当にすごい!今回こちらの世界に戻ってきたのは、何か用事があるのか?もしかして地球の品物を異世界に持ち帰るつもり?)


 俺は眉を少し上げた。


 彼が内心を見抜いたことに意外さを覚え、頷いて答えた。


「その通りだ。この世界の先進技術を学び、役立つ品々を異世界に持ち帰りたい。領地の発展のためにな。これから色々と手伝ってもらうことになるだろう。例えば、地球の科学技術を紹介してもらったり、必要な品物を見に連れて行ってもらったりだ」


「任せてくれ!問題ない!」


 佐藤は慌てて頷き、顔中を興奮で染めた。


「俺はオタクだけど、地球の科学技術にはかなり詳しい。スマホやパソコン、家電製品など一通り見せられるし、花の国の技術や文化も紹介できる。絶対満足してもらえるよ!」


 熱意に満ちた彼の様子を見て、俺は内心でほっとした。


 オタク気質の彼は受け入れがたい話でもすんなり受け入れてくれるし、話もしやすい。


 俺は頷き、淡々と続けた。


「頼りにしている。そういえば、ここは君の部屋か?今後何度かここを訪れることになるが、邪魔にはならないだろうか」


「全然問題ないです!」佐藤は慌てて首を振った。


「俺は一人暮らしだし、部屋も広い。いつでも気軽に来てください。それに、異世界から来た人と友達になれるなんて、これ以上嬉しいことはない!」


 言いながら彼は頭をかき、のんびりとした笑みを浮かべた。


 見た目はごく普通の青年だが、笑顔は悪くない。


 そこへユーナが俺の袖をそっと引き、小さな声で問いかけてきた。


「お嬢様、お話は終わりましたか?あの方が何を話しているのか全然分からないし、少し退屈です」


 口調にはわずかな不満が混ざり、瞳の奥には仄かな嫉妬が滲んでいる。


 俺と佐藤が楽しそうに話し込んでいるのが、気に入らないようだ。


 俺は微笑み、事前に作っておいた言語翻訳魔導器を取り出してユーナに渡し、柔らかい声で言った。


「ごめんね、ユーナ。これを忘れていた。これをつければ相手の言葉が聞き取れるし、会話もできるようになる」


 ユーナは翻訳魔導器を受け取って耳に装着し、一言試しに話してみた。


 佐藤の返答を聞いた瞬間、彼女の瞳が輝き、先ほどの不満は跡形もなく消え去った。


 佐藤も耳の翻訳器に目を留め、再び驚いた表情になった。


(わあ、これは何?言葉まで翻訳できるの?すごすぎる!異世界の技術はここまで進んでいるのか?)


「私が自作した魔導器だ」


 俺は自慢することもなく、淡々と答えた。


「言語翻訳用の道具だ。彼女は地球の言葉が分からないからな。これがあればコミュニケーションがずっと楽になる」


 佐藤は俺を見つめ、崇拝の気持ちが一層強まった。


「クローディアさん、本当に万能だ!魔法が使えるだけでなく、こんな素晴らしい道具まで作れるなんて」


 俺は黙って頷き、ユーナの方を向いて問いかけるような目を向けた。


「ユーナ、まずはこの辺りを見て環境に慣れよう。それから佐藤さんに色々と案内してもらうが、いいか?」


「はい、お嬢様の仰る通りにします」


 ユーナは笑顔で頷き、瞳には俺への従順と依存があふれていた。


 佐藤は二人の様子を眺め、含みのある笑みを浮かべると、そっと俺の側に寄り、小声で囁いた。


(ねえクローディア、ユーナさんって…… もしかして君のことが好きなんじゃない?君を見る目つきが、普通じゃないよ)


 俺は一瞬きょとんとし、疑わしげな表情になった。


「…… 好き?そんなはずない。ユーナは私の侍女で、ただいつも世話を焼いてくれているだけだ。元々優しい子なのだ」


 俺はまったく気づいていなかった。


 ユーナの視線に、優しさや依存だけでなく、深い慕情が隠されていることに気づいた。


 前世が男性だった俺は、こうした繊細な感情にはずっと鈍感だった。


 ユーナが自分に恋心を抱えているなんて、思いもしなかった。


 佐藤の言葉を聞いたユーナは、瞬く間に頬を真っ赤に染め、軽く佐藤の肩を叩いた。


 拗ねたような怒りが口調に混ざる。


「でたらめを言わないでください!私はお嬢様の侍女です。お嬢様に恋心など抱くはずが……!」


 彼女は目を泳がせ、俺と視線を合わせることができず、耳まで真っ赤になっている。


 明らかに心当たりがある様子だ。


 叩かれた佐藤も怒る様子はなく、ただ笑いながら手を振った。


「はいはい、でたらめは言わないよ。分かった分かった」


 彼は俺とユーナを交互に眺め、得心したような笑みを浮かべた。


 どうやらユーナの弁解を信じていないらしい。


 慌てふためくユーナの姿を見て、俺は多少の疑問を抱いたが、深くは考えなかった。


 ただ、からかわれて照れているだけだと思ったのだ。


 俺はユーナの肩を軽く叩き、柔らかい口調で言った。


「気にするな。さあ、部屋を見て回ろう。それから外の様子も案内してもらおう」


 ユーナは頷き、深く息を吸って気持ちを落ち着けようとした。


 顔の赤みは次第に引いたものの、視線はまだ落ち着かず、俺と目を合わせるのを避けている。


 佐藤は二人のやり取りを見届け、再び含みのある笑みを浮かべた。


 余計なことは言わず、自ら案内役を買って出て、部屋の中を紹介し始めた。


 机の上のパソコン、スマホ、数々の漫画を熱弁をふるいながら説明する。


 俺は彼の話を聞きつつ、部屋の中のあらゆるものを観察し、頭の中で記録していた。


 どの品物、どの技術が異世界の役に立つか、じっくりと見極める。


 ユーナも傍らから時折質問を投げかけ、佐藤は一つ一つ辛抱強く答えてくれる。


 部屋の中は、次第に和気あふれる雰囲気に包まれていった。

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