117. 激戦
俺とユーナは顔を見合わせた。お互いの目の中に、確かな息吹を感じ取った。
そうして、俺たちは後方へ下がり始めた。
一歩一歩、ゆっくりとエリフェンの視界から退出していく。
エリフェンは俺たちが後退するのを見て、心の中でこっそり安堵の息をついた。
顔にはほくそ笑むような笑みが浮かび、心の中では得意になっていた。
やっぱり、人質って手はよく効くな。
あと少し時間を稼げば、ボスが来る。その時になったら、まだあんな威張った真似ができるのか見てやる!
彼の張り詰めた体も次第に緩み始め、少女を掴んでいた手にもほんの少し力が抜けていった。
彼は思っていた。自分が主導権を握り、自分の命を繋いだのだと。
だが彼は知らない。これらの一切は、俺の計画の内だったのだと。
彼が警戒を緩めたまさにその瞬間、俺は突如として手にしたグリーンマンランク帝国剣を掲げた。
指先に魔力を注ぎ込み、エリフェンめがけて眩い黒い光を放った。
その黒い光は目が眩むほど速く、夜空に流れる流れ星のように、濃厚な魔力を従えて、瞬時にエリフェンの目の前まで到達した。
エリフェンはまだ心の中で自分が命を拾ったことを喜んでいた。
まるで反応する暇などなかった。彼がその黒い光を目にした時には、とっくに避けるには遅すぎた。
彼はただ目の前が真っ暗になったと感じただけで、強大な吸引力が伝わってきた。
体が瞬時にその黒い光に飲み込まれ、続いて、彼の姿は何もない空間から消え去った。
断末魔の叫び声一つ上げる間もなかった。
これと同時に、俺も体内の魔力を渦巻かせ、姿が瞬時にその場から消え去った。
エリフェンに続いて、俺もその黒い光の中に吸い込まれていった。
ユーナはそれに驚きなどしていなかった。彼女はとっくに俺の腹の内を見抜いていた。
俺が消えた瞬間、即座に手にした巨槌を掴むと、少女の方角へと素早く駆け出した。
彼女の速度は極めて速く、数歩で少女の傍らまで駆け寄った。
エリフェンの拘束がなくなったことで、その少女は瞬時に自由を得た。
彼女はよろめきながら数歩後退し、目の前の光景を見て、怖じ気づいて全身が震え、立っているのもやっとという有様だった。
だが、事態はそれほど単純ではなかった。
エリフェンが連れてきたマフィアたちだ。
彼らはまだ呆然とした状態にあり、何が起きたのかに反応できていない。
だが、少女が誰にも監視されていないのを見て、即座に状況を理解し、次々と少女を取り囲むように迫っていった。
彼らも人質を攫い、時間を稼いで、自分たちの命を繋ごうと考えたのだ。
ユーナはそれを見て、目の色を凛とさせると、即座に少女を自分の背後に護り、手にした巨槌を振るい始め、取り囲むマフィアたちをめがけて振り下ろしていった。
「ドシン!ドシン!ドシン!」
数回の鈍い音が響いた後、最も前を突っ込んできた数人のマフィアが、ユーナの巨槌に打ち据えられ、断末魔の叫び声を上げながら地面に倒れ伏し、二度と立ち上がることはできなくなった。
残されたマフィアたちは、ユーナのこの凄まじい気迫に怯え、これ以上むやみに前へ出ることはできず、その場に立ち尽くすしかなかった。
警戒するような目でユーナを見つめ、膠着状態に陥ってしまった。
ユーナはしっかりと少女を護り、冷たい目でマフィアたちを睨み付けている。
「誰か一歩でも動いたら、脚の骨を砕いてやる!」
これと同時に、黒い光に飲み込まれたエリフェンは、手にした短剣を掴んだまま、惨めに地面に倒れ伏していた。
彼はよじ登って立ち上がろうともがくが、慌てふためいて四方を見回すと、自分が真っ黒な暗幕に覆い尽くされた円形の場所にいることに気づいた。
この場の四周は高く聳え立つ石塀に囲まれていて、壁面には斑の血痕がびっしりとついている。
空気には濃厚な血の臭いと絶望感が立ち込め、地面には破損した武器や骨が散乱していた。
彼は慌てて四方をきょろきょろと見回し、出口を見つけようと試みるが、どれだけ探しても、逃げ出せるような道など一つも見つからない。
石塀は高くそびえ立って雲に届くほどで、とても攀じ登れるような代物ではない。
地面も硬くて堅牢そのもので、掘り起こすことなど到底できそうにない。
強烈な恐慌が瞬時に彼の全身を襲った。
彼の体は思うがままにならずに震え始め、手にしていた短剣も「ガラリ」という音を立てて地面に落ちた。
まさにその時、一本の白金色の影が、ゆっくりと彼の目の前に現れた——クローディアだ。
俺は場の中央に立っていた。白金色の長い髪が暗幕の風にそっと吹かれている。
俺の目は冷たく、一片の感情もなく、エリフェンを死に物狂いで睨み付けている。まるで死人を見るような目だ。
エリフェンは俺を見て、顔には恐怖の表情を浮かべた。彼は無意識に数歩後退し、口の中で独り言を呟いている。
「こ、ここは……どこだ?お前……どうしてここにいるんだ?」
彼は明らかにまだ気づいていない。
自分がもう俺に引き摺り込まれて、独立した空間にいることを。
さらに、自分を待ち受けているのがどれほど恐ろしい末路かなど、夢にも思っていない。
俺はもちろんこの空間に見覚えがある——かつて百人隊長が俺を囚えた闘技場のことだ。
それはまた、グリーンマンランク帝国剣の第一技能、ロイエ城闘技場でもある。
そしてあの黒い光線は、剣を持つ者が標的に対して発動する強制的な一対一の招待のことだ。
一度招待を受ければ、拒否する権利などない。
強制的にこの闘技場に引き摺り込まれ、剣を持つ者と一対一で決闘しなければならないのだ。
俺は彼の質問には答えず、ただゆっくりと手にしたグリーンマンランク帝国剣を、傍らの地面に放り投げた。
「ガラリ」と言う音と共に、長剣が地面に落ち、清らかな音を立てた。
この静寂に包まれた闘技場の中で、それは格別に耳ざとく響いてしまう。
続いて、俺は拳を固め、指の関節が力みで真っ白になるのを感じながら、エリフェンをめがけてゆっくりと歩いていった。
俺の足取りは非常に遅いが、重苦しい圧迫感を伴っている。
一歩一歩踏み下ろされる度に、まるでエリフェンの心臓の上を踏みにじるようで、彼の恐怖をさらに濃厚なものにしていく。
「エリフェン」俺の声は冷たく、濃厚な怒りを込めて。
「お前は無辜の一般市民の命を盾にして俺を脅かし、数々の悪事を働いてきた。今日という日は、俺の怒りをお前が一身に受けるためにある」
俺の前世は三十歳の人間だった。あの頃から、俺はずっと正義を支える心を持ち続けていた。
この世でも、未だ未成年のエルフの少女に転生してしまったが、見た目はほんのりとして弱々しい。
だが、前世からのあの正義の気は、このような卑怯な手段で俺を脅かし、無辜の人間を傷つける者を決して許さない。
「や……やめてくれ……」
エリフェンは、俺が一歩一歩と自分に近づいてくるのを見て、顔の贅肉が恐怖のあまりに激しく震えている。彼は瞬時に怖じ気づいて、ついには失禁してしまった。
芳しくない尿の臭いが、彼の体から立ち昇ってきた。
彼はへたり込んで地面を後退り続け、手足を駆使して逃げようともがくが、どだい逃げ切れるはずもなく、ただ目を瞠って俺が一歩一歩と近づいてくるのを眺めるしかなかった。
彼の口からは絶え間なく哀願の声が漏れ、涙と鼻水が混じり合って、惨憺たる有様だ。
どこにマフィアの部下としての威張った気炎が半分だって残っているものか。
「お嬢様、私が悪かったです。二度とこんな真似はしません。
お願いですから許してくれ。二度と一般市民を盾にして脅かすような真似はしません。
今すぐあの少女を解放しますから、お願いです、殺さないでくれ……」
俺は彼のその惨めに哀願する様子を見て、心の中に一片の憐れみも湧いてこない。
このような卑怯で恥知らずな、無辜の人間を傷つける者に対して、どんな憐れみも、彼に傷つけられた人たちに対する不公平でしかない。
俺は彼に向かって歩き続け、拳をさらに強く握りしめた。
目の底に燃える怒りは、もう溢れ出さんばかりだ。
今日、俺は必ず彼に、自分が働いてきたことの代償を、凄惨なものとして払わせてみせる。
エリフェンは俺がこれっぽっちも情けをかける気がないのを見て、怖じ気づいて全身が震え、泣くことさえできずに、ただ地べたに丸くなって頭を抱え込み、ブルブルと震えながら口の中で「殺さないでくれ」と念仏のように唱え続けている。
彼はこの瞬間にやっと理解したのだ。
自分は千万にしてもしてはいけないことをしたのだ、少女を人質にすることも、俺やユーナに楯突くことも、と。
だが、今更何を言ったところで遅い。
彼はただ死の訪れを待つしかない。
しかし、俺のような人間が、どうしてそんなに楽に逝かせてやることができようか?
そして一方では、ユーナはすでにあの少女を攫おうとしたマフィアたちを始末し終えていた。
彼女はしゃがみ込むと、優しく少女の頭を撫でた。口調をずっと穏やかにして、慰めを込めて言った。
「怖がらなくていいよ。もう大丈夫だよ。あの悪い人たちは、みんな私が追い払ったから」
彼女の口調は、さっきマフィアたちに向けられた時の凶暴さとは、まるで別人のようだ。
俺と無辜の人間の前でだけ、彼女はこのような優しい一面を覗かせるのだ。
少女は顔を上げてユーナを見つめ、目にはまだ涙を溜まっているが、それでも軽く頷くと、小さな声で言った。
「あ、ありがとう……お姉様」
彼女の声はとても小さく、ほんの少しの震えを伴っていた。
ユーナはふっと笑むと、手を伸ばして少女の頬に溜まった涙を拭き取った。
自分のマントを解くと、それを少女の体に羽織らせて、優しく告げた。
「さあ、お姉さんが家まで送ってあげるから。これからは、二度と誰にも虐められることなんてないよ」
そう言うと、彼女は慎重に少女の手を取った。
警戒するような目で四方を見回し、他にマフィアがいないことを確認してから、やっと少女を連れて遠くの住宅街へと歩き出した。
闘技場の中で、俺はすでにエリフェンの目の前まで歩み寄っていた。
俺は地べたに丸くなっている彼を見下ろしている。
目は冷たく、一片の感情もない。
エリフェンは俺の視線を感じ取り、体がさらに激しく震えた。顔を上げることさえ怖くてできず、ただ必死に頭を抱え込んだまま哀願を続けるしかなかった。
「お前が最初に短剣をあの小さな少女の首筋に突き付けた時、今日のような日が来ることなど考えもしなかったくせに」
俺はしゃがみ込むと、冷たい口調で言った。
「お前は無辜の者を傷つけ、数々の悪事を働いてきた。今日がお前の死に目だ。だが、絶対にそんなに楽な死に様では済ましてやらない!」
そう言い放つが早いか、俺は拳を固め、エリフェンの顔面めがけて、思い切り拳を振り下ろした。
この一撃には、俺の持てるすべての怒りが込められていた。
同時に、彼に傷つけられた人たちに対する俺の呵責の念もまた、この拳に込められていた。
エリフェンは一際凄まじい断末魔の叫び声を上げた。
顔は瞬時に腫れ上がり、口角からは生血が溢れ出した。
彼は抵抗しようともがくが、どうだい力など残っておらず、ただ俺に拳を浴びせられ、蹴りを浴びせられるがままだ。
口から漏れる哀願の声も、次第に弱々しいものになっていく。
俺は手を止めない。拳を一つまた一つと彼に振り下ろしていく。どの拳も十分な力を込められている。
俺は彼に思い知らせてやりたい。
無辜の者を虐げ、一般市民の命を盾にして俺を脅かすことが、一体どれほどの末路を迎えるのか。
どれほど殴り続けたのか分からない。
エリフェンの顔にはすでに傷痕がびっしりと刻まれ、全身が血に染まっていて、以前のような威張った気炎はもう一片も残っていない。
今の彼は呼吸するのさえ弱々しくて、まさに今にも息が絶えようとしているところだ。
俺は拳を止め、立ち上がると、見下ろして言った。
「これがお前の働いてきた悪事の代償だ」
エリフェンはよろよろと顔を上げ、俺を見つめる。
目には恐怖と後悔が満ちているが、もう一言も発することができない。
彼の体がふにゃりと力を失い、完全に倒れ伏した。
それ以上息をしている気配はもうない。
エリフェンを始末した後、俺は深く息を吸うと、心の底に渦巻く怒りを押し込め、腰を屈めて地面に落ちていたグリーンマンランク帝国剣を拾い上げた。
体内の魔力を渦巻かせ、姿が瞬時に闘技場の中から消え去った。
俺が芝生に戻った瞬間、ユーナがその場に立っているのが見えた。
彼女は港の方角を警戒するような目で見つめ、眉をひそめていた。
足音を聞いて、彼女は急に振り返った。俺だとわかると、張り詰めていた体が瞬時に緩み、速い足取りで俺の傍らまで歩み寄ってきた。
彼女は手を伸ばしてそっと俺の腕に触れた。
口調には隠しきれない心配が混じっている。
「お嬢様、ご無事ですか?あの卑怯者は始末しましたか?」
「心配ない、始末した。」俺は軽く頷くと、彼女の手をトントンと叩いた。
指先が彼女の温もりある掌に触れ、深く考えずに手を引っ込める。
「あの少女は家まで送り届けたか?」
「はい、近くの住宅街まで送り届けました。近隣の人にもしっかりと伝えておきました。」
ユーナはそう言いながら、再び目を港の方角に向け、口調を重苦しいものにした。
「だが、さっき港の方から大勢の人間が来るのが見えた。服装を見るとどうやらマフィアの大部隊らしい。おそらく、彼らのボスが来たんだろう」
彼女の言葉が終わるか終わらないかのうちに、重苦しい足音が遠くから聞こえてきた。
乱雑な怒声や武器が打ち付け合う鈍い音を従えて、黒い波のような群衆が港の方角から押し寄せてくる。
密集していて、一目見ただけではその果てが見えやしない。
大雑把に数えても、優に百人はいるだろう。
彼らは皆武器を手にしていて、その形相は凶悪そのものだ。
体全体からは濃厚な殺気が立ち昇り、俺たち二人を芝生の中央でぐるりと包囲してしまった。
群衆がゆっくりと左右に分かれると、華麗な黒いローブを纏った一人の男が、取り巻きたちに囲まれながらゆっくりと歩み出てきた。
彼はおそらく五十歳頃で、体格は肥満しているが、顔には無駄な肉付きはない。
しかしその顔には陰湿で残忍な雰囲気が漂っていて、三角形をした目は濁っているようでいて鋭い光を湛えている。
地面に横たわる死体に目をやっても、一片の動揺もない。
まるでそこに倒れているマフィアたちなど、道端の雑草と同じ程度にしか思っていないかのようだ。
彼の指には黒い宝石を嵌めた指輪が幾つも嵌められている。
指先には冷たい光が宿っていて、体全体からは吐き気を催すような血の腥さが立ち昇っている。
それは長年にわたって生血と罪悪に塗れ続けてきた者の放つ匂いだ。
彼こそが、イスヴァール港マフィアの真のボス、バルクなのだ。
バルクは足を止めると、三角形の目を俺とユーナに死に物狂いで睨み付け、口元に残酷な笑みを浮かべた。
その声は嗄れていて冷たく、まるで錆び付いた鉄板が擦れ合うような音だ。
「お前たち二人の小娘が、俺の部下を殺り、エリフェンまで始末したのか?」
彼の口調には怒りなど微塵もない。
あるのはただ、猫が鼠を弄ぶかのような戯れの色だけだ。
まるで俺たち二人はとっくに彼の掌の上にいるものと確信しているかのようだ。
俺は手にしたグリーンマンランク帝国剣を一段と強く握りしめ、碧色の瞳には冷たさが満ちている。
無駄口など一切叩かない。
「そうだが、それがどうした?お前たちは悪事を働き続けて、港の住人たちを虐げ、金品を奪い、命を奪ってきた。今日という日が、この港をお前たちという毒腫から清め出す日だ」
「俺たちを清め出すだと?」バルクはまるでこの世のすべての滑稽さを聞かされたかのように、ハハッと高らかに笑い出した。その笑い声は耳障りで不快極まりない。
「二人の小娘が、よくもそんな大言壮語を吐けたものだ。俺様がイスヴァール港で悪事を働いてきた年数、殺してきた人間の数となったら、お前たちが見てきたものよりもずっと多い」
虐げてきた平民の数となったら、港から城外まで列をなすほどだ!
「俺に逆らった者たちは、俺によって挽き肉に叩き潰されるか、海に投げ捨てられて魚の餌になるか、どちらにせよその亡骸すら見つからないほどだ!」
そう言って、彼はさらに陰湿な目つきにすると、手を上げて背後へと振った。
取り巻きの一人が即座に血に染まった袋を一つ手渡してきた。
バルクはその袋を受け取ると、何気ない様子で地面に放り投げた。
袋が裂け、数本の血に染まった指が転がり出てきた。
指先には粗末な銀の指輪がまだ嵌められたままだ。
「見たか?これはさっき俺に逆らった一人の老いぼれの指だ。俺の行く手を阻もうなどと企てやがったから、俺はその手を切り落とし、一族郎党を皆殺しにしてやった。まだ生まれてもいない赤子にまで命を刈り取ってやったほどだ!」
ユーナは怒りのあまり全身が震え、巨槌を握る手には青筋が浮き出している。
彼女は歯をギリギリと鳴らして罵った。
「この悪魔め!まさか妊婦にまで手を出すとは!」
「悪魔だと?」バルクは鼻で笑うと、顔の残忍さはさらに増した。
「この港では、俺様が天だ!俺様が死ねと言えば死ななければならない!俺様が金品を奪い、家を占領し、身内を殺してどうしたというんだ?こいつらなどはただの卑しい平民に過ぎん。生まれながらにして俺様に虐げられるためにあるのだ!」
そう言って一旦言葉を切ると、目を地面に残るエリフェンの血痕に走らせ、口調を冷たいものにした。
「お前たちは俺の部下を殺り、俺の拠点を壊した。今日という日は、お前たち二人に生よりも辛い目に遭わせてやる日だ!お前たちの骨を一本一本へし折り、肉を一片一片削ぎ落として犬に喰わせてやる。俺に逆らうすべての者たちに、俺に歯向かった末路を見せつけてやる!」
そう言うが早いか、彼は背後に控えるマフィアたちに向かって鋭い声で怒鳴った。
「かかれ!この二人の小娘を捕らえろ。俺様が自ら苦しめてやる!誰が先にこいつらに傷を負わせられるか、黄金百両をくれてやる!」
百人のマフィアは瞬時に沸き立った。
目には貪欲と凶悪さが走り、次々と手にした武器を振り回しながら俺とユーナに向かって突進してくる。
密集した群衆は潮のように押し寄せ、俺たち二人の退路を完全に塞いでしまった。
彼らは口から野太い咆哮を上げ、顔には獰猛な形相を浮かべている。
どうやらバルクの賞与と残忍さに魅了されたらしく、俺たちがこれまでに見せてきた実力などはお構いなしだ。
ユーナは即座に俺の身の前に立ち塞がると、巨槌を握りしめ、冷たい目で突進してくるマフィアたちを睨み付け、断固とした口調で言った。
「お嬢様、ご安心ください。私が彼らを阻みます!」
彼女はわかっている。俺たちは二人きりだが、俺がいれば必ず勝てると。
だがそれでも、彼女は無意識に俺を護ろうとしてしまう。
「いいや、共に戦おう」俺はそっと彼女の肩を叩くと、手にしたグリーンマンランク帝国剣を一段と強く握りしめた。
体内の魔力が急速に渦巻き、剣身には濃厚な黒気が立ち昇ってきた。
剣身からは眩い黒い光が放たれ、黒気が俺の目の前で急速に集約して、次第に一つまた一つの巨大な影を形作っていった。
それはグリーンマンランク帝国の兵士の傀儡だった。
彼らは皆、厚ぼったい暗紋の青銅鎧甲を纏っている。
鎧甲の縁には帝国の紋章が彫られ、特製の武器を手にしている。
その表情は彫像のように粛穆としていて、目は冷たく一片の動揺もない。
彼らからは長きにわたる戦場を生き抜いてきた鉄のような血気と威厳が漂っている。
一人一人が千鍛百錬の戦闘経験を積んでおり、前に一時的に召喚した披甲戦士などには比肩しない。
最も前方には、十名のグリーンマンランク帝国重歩兵がいる。
彼らは身の半分の高さのある円形の青銅盾を手に持ち、盾面には帝国の紋章が刻まれている。
それに付随するように、寒光凛冽とした長矛と盾牌を装備している。
鎧甲は城壁のように厚ぼったく、肩当ては突出し、胸当ては堅牢そのものだ。
その身形は鉄の塔のように巨大で、まるで移動する要塞のように俺とユーナの目の前にしっかりと立ち塞がっている。
盾と盾が密に連なり、突破不可能な防衛陣形を構築している。
両側には、八名の帝国鉄甲聖騎兵がいる。彼らは体全体が真っ黒で鉄甲を纏った戦馬傀儡に跨がっている。戦馬の四肢には防具が覆われ、馬の頭には鉄製の面甲が装備されている。
騎兵は二重の鉄甲を纏い、長さを増した帝国騎兵槍を手にしている。
その姿は凛としていて雄健で、目は鷹のように鋭い。
馬蹄が地面を踏み付ける音は重々しく力強く、いつでも突撃を開始して敵の命を刈り取れる構えだ。
後方には、十五名のグリーンマンランク帝国弓兵がいる。
彼らは特製の長弓を手にしていて、弓身は帝国の千年古木から作られている。
矢筒には微量の黒気を滲ませた鋭利な矢が満たされている。
弓弦は満月のように張り詰められ、矢先は突進してくるマフィアたちを正確に狙い定めている。
指先は弓弦を軽く弾こうとしている。
わずか数秒のうちに、数十名の兵士傀儡の召喚が完了し、突進してきた百名のマフィアたちと対峙する態勢が形成された。
数の上では劣勢にあるものの、傀儡たちから放たれる鉄のような血腥さは、マフィアたちの足を一旦止まらせるほどの圧力となった。
彼らの顔に浮かんでいた威張った様子や貪欲さは、次第に恐怖へと置き換えられていった。
彼らにはわかる。これらの傀儡たちは、自分たちが今まで見てきたどの兵士よりもずっと屈強だということが。
バルクの顔色も微かに変わった。
どうやら、俺がこれほど多くの屈強な兵士傀儡を召喚できるとは予想だにしていなかったらしい。
だが彼はすぐに陰湿な目つきを取り戻すと、鋭い声で怒鳴った。
「何を怖がる!こいつらはただの傀儡に過ぎん。どれだけ多くてもどうだというんだ!かかれ!一寸でも退いた者は、俺様が殺してやる!」
彼の残忍さに震え上がり、マフィアたちは再び勇気を振り絞り、野太い喚き声を上げながら突進してきた。
彼らが近づいた瞬間、俺は鋭い声で下令した。「進撃!」
言葉が終わるか終わらないかのうちに、グリーンマンランク帝国の重歩兵が真っ先に出撃し、斉声で低い鬨の声を上げた。
紋章を刻んだ青銅盾を掲げ、肩で盾面を押さえながら、マフィアたちをめがけて思い切り体当たりしていった。
「ドゥンドゥンドゥン」と言う鈍い音が立て続けに響き、最も前を突っ込んできた数人のマフィアは反応する間もなく、盾にぶつかって胸骨が砕け散り、口から鮮血を吐きながら後方へ弾き飛ばされた。
彼らは重々しく地面に倒れ伏し、二度と立ち上がることはできなかった。
続いて、鉄甲聖騎兵が披甲戦馬に跨がり、斉声で低く重々しい突撃の号令を響かせた。
馬蹄が地面を踏み付けると「ドンドン」という轟音が響き、まるで雷鳴のようだ。
戦馬が体を躍らせると、騎兵は戦馬の突進力を借りて、マフィアの群衆めがけて猛スピードで突撃していった。
長槍が正確にマフィアたちの武器を打ち砕き、彼らの鎧を切り裂く。軽ければ重傷、重ければ致命傷だ。
マフィアたちの悲鳴、武器の折れる音、戦馬の嘶き声が、瞬時に港全体に響き渡った。
グリーンマンランク帝国の弓兵も同時に力を発揮し、弓兵の指先が緩むと、矢は密集した雨粒のように放たれた。
風を切る「シュシュ」という音を立てて、一矢一矢が正確に目標に命中する。
ある矢はマフィアの胸郭を刺し貫き、またある矢は彼らの頭蓋骨を撃ち抜く。
中には一人のマフィアの肩を射ち抜け、さらに後ろにいた別の者の喉笛に釘付けにした矢もあり、少しの狂いもなかった。
傀儡たちの動作は手際が良く、連携は極限まで息が合っている。
重歩兵はぐっと防衛線を守り、盾でマフィアたちの攻撃を防ぎながら、同時に長矛で近づいてくる敵を刺し殺す。
鉄甲聖騎兵はマフィアの群衆の中を縫って突撃し、行く先々で誰もが阻めない。馬蹄が踏み過ぎた場所は、すべてマフィアの死体だ。
弓兵は後方から遠距離で攻撃し、防衛線を突破しようとする敵を正確に排除する。
この一連の連携の下では、マフィアたちには到底反撃の力などなく、一人また一人と地面に倒れていった。
鮮血が街全体を赤く染め、足元の青石板でさえ浸透してしまい、暗く沈んだ血の光を放っている。
ユーナも劣らず奮闘し、巨槌を振るいながら、傍らのマフィアめがけて振り下ろしていった。
巨槌は千鈞の力を帯びていて、一撃一撃がマフィアを粉々に砕くことができる。
砕石と鮮血が飛び散る。
彼女のピンク色の長い髪は鮮血に染まり赤くなっているが、顔には少しの表情もなく、目の底に燃える怒りだけが絶え間なく燃え盛っている。
彼女はバルクによって傷つけられたあの平民たちのために、公道を取り戻そうとしているのだ。
俺はグリーンマンランク帝国剣を握りしめ、人混みの中を縫って移動している。
剣身から立ち昇る黒気はいとも容易くマフィアの鎧を刺し貫くことができる。
剣を振り下ろすたびに、少しの躊躇もない。
バルクの残酷さを前にして、俺は一片の憐れみも抱かない。
俺は戦いながらバルクの動向に気を配っている。
彼は取り巻きの保護下に隠れ、陰湿な目つきで戦場を見つめている。
どうやら機会を探しているらしく、俺たちを奇襲しようと目論んでいるようだ。
バルクは自分の部下が一人また一人と倒れていくのを見て、顔色がますます見苦しいものになっていった。
彼は思いも寄らなかった。これらの傀儡がこれほど屈強だとは。わずか数分で数十名のマフィアが地面に倒れてしまったのだ。
残された者たちも一人一人恐れの色を浮かべ、次第に敗退していき、以前のような威張った気炎はもう一片も残っていない。
彼は歯を食いしばり、目の中に一瞬残忍な光が走ると、腰元からそっと毒を塗った短刀を抜き放った。
傀儡たちがマフィアを囲み撃っている隙を突いて、俺の背後にいるユーナをめがけてそっと忍び寄っていった。
彼は知っている。ユーナは俺の弱点だと。ユーナさえ捕まえれば戦局を掌握できるのだ。
ユーナは目の前のマフィアに対処することに集中していて、背後の奇襲にまったく気づいていなかった。
俺の目の隅でバルクの動きを捉え、心の中が一気に引き締まると、鋭い声で叫んだ。「ユーナ、背後に気をつけろ!」
ユーナはその言葉を聞いて即座に振り返ると、バルクが毒を塗った短刀を握りしめ、自分の胸元めがけて突き刺してくるのが見えた。
距離が近すぎてもう避ける間などなく、冷たい刃風はすでに衣元にまで届いていた。
まさにこの危機一髪の際、一人のグリーンマンランク帝国の重歩兵が猛スピードで防衛線から飛び出してきた。
躊躇なく青銅盾を掲げ、死に物狂いでユーナの目の前に立ち塞がった。
「プチッ」という鈍い音と共に、毒を塗った短刀は無理やり青銅盾の紋様を刺し貫き、重歩兵の鉄甲の中へと突き刺さった。
黒い毒液が傷口から蔓延し、黒気が瞬時に鎧の隙間から溢れ出した。
傀儡に生命はないが、猛烈な毒によって魔力の核を蝕まれ、次第に戦闘力を失っていく。
重歩兵の動作が一瞬止まったが、それでも死に物狂いで盾を掲げたまま、少しも退く様子を見せなかった。
「この外道が!」ユーナは怒りに任せて一喝すると、巨槌を振るいながら、バルクめがけて思い切り振り下ろしていった。
バルクは傀儡に阻まれるとは思いも寄らず、顔色を変えて急いで後ろへ避けようとした。
辛うじてこの一撃を避けたが、巨槌が地面に振り下ろされると、再び一枚の青石板を粉々に砕き散らした。
俺は素早くユーナの傍らまで駆け寄ると、冷たい目でバルクを凝視し、口調に満々の殺意を込めて言った。
「バルク、よくもユーナを奇襲しやがったな!」
バルクは俺を見て、顔に一筋の陰湿な笑みを浮かべると、手にした短刀に毒の光を湛えながら言った。
「教えてやろう。お前たちがどれだけ傀儡を持っていようと、俺様を殺ることはできねえ!この俺の手にある刃物は猛烈な毒を塗ってある。少しでも切り傷を負えば即座に毒が回って死ぬ。死にたくなければかかってくるなよ!」
そう言うと、彼は再び俺めがけて突進してきた。
短刀には毒の光を帯びていて、俺の胸元を真っ直ぐに突き刺そうとしている。
彼は知っている。俺が傀儡の召喚者だということを。
俺さえ殺せば傀儡は自動的に消滅し、その時ユーナは孤立無援となり、俺の好き放題にできるのだ。
俺は目を凛とさせると、手にしたグリーンマンランク帝国剣を一段と強く握りしめ、バルクの短刀めがけて振った。
「カーン」という澄んだ音と共に、長剣と短刀が打ち付け合い、火花が四方に飛び散った。
バルクの力は強大で、俺の体は細く華奢なため、一瞬のうちに彼に弾かれて数歩後退させられてしまった。
ユーナはその様子を見て、即座に巨槌を振るいながら、バルクの背中めがけて振り下ろしていった。
後退させようと目論んでのことだ。
バルクは背後からの攻撃に気づくと、侮ることなく急いで体を翻し、短刀で辛うじてユーナの巨槌を防いだ。
「ドシン」という轟音と共に、彼は巨槌の千鈞の力に弾かれて次第に後退させられ、腕が痺れて虎口が裂け、短刀が手から滑り落ちそうになった。
まさにこの時、数名のグリーンマンランク帝国の鉄甲聖騎兵がマフィアの残余防衛線を突破し、披甲戦馬に跨がって猛スピードで駆け寄ってきた。
戦馬が前脚を掲げると、バルクめがけて思い切り踏み付けに行く。
騎兵槍は同時に振られ、彼の首筋や胸元など、体全体の急所めがけて突き刺さる。
バルクの顔色が大きく変わり、急いで短刀を振るいながら、軽騎兵の攻撃を防いだ。
彼の纏った長袍は剣刃に切り裂かれ、内側の鎧が露わになった。だが彼はそれでも必死に抵抗し続け、目の中の陰湿な色は少しも薄れていない。
彼は防ぎながら、野太い絶叫を上げている。「お前たち全員死ね!俺様が負けるわけがねえ!お前たち全員道連れにしてやる!」
だが彼の足掻きも結局は無駄に終わるだけだ。
残されたマフィアたちは、すでに傀儡たちによって完全に撃破され、ある者は殺され、ある者は跪いて降参し、もう二度と抵抗する力など残っていない。
バルクは軽騎兵たちに囲まれて攻撃され、体にはすでに数ヶ所の傷口が刻まれている。
毒を塗った短刀には傷つけられていないものの、次第に体力が尽きてきて、動作が鈍くなってきた。
俺は好機と見るや、体内の魔力を渦巻かせ、グリーンマンランク帝国剣に魔力を注ぎ込んだ。
剣身から眩い黒い光が放たれ、俺はバルクの胸元めがけて思い切り突き刺した。
「プチッ」という音と共に、長剣はバルクの鎧を刺し貫き、彼の胸元へと突き刺さった。
黒気が瞬時に彼の体内へと押し寄せ、五臓六腑を蝕み始めた。
バルクの体が急に硬直した。三角形の目を見開き、顔には信じられないと言った表情が浮かんでいる。
彼は口を開き、何か言おうとしたが、ただ鮮血を一口噴き出すだけで、体がふにゃりと倒れていった。
死に臨んで、彼の目には相変わらず陰湿な色と不満が満ちている。口の中で独り言を呟いている。
「俺は納得いかねえ……俺が負けるはずがねえんだ……」
俺は長剣を抜き取ると、黒気がバルクの傷口から溢れ出し、彼は完全に息を引き取った。
彼の死体を見つめながら、俺は一片の憐れみも抱かず、ただ心地よい晴れ晴れとした気分だけが込み上げてきた。
イスヴァール港の毒腫はついに除去された。彼によって傷つけられた平民たちはようやく安息できるのだ。
ユーナが俺の傍らまで歩み寄り、地面に横たわる死体を見つめながら、長く息をついた。
彼女の顔には一筋の疲労が浮かんでいるが、同時に晴れ晴れとした色も混じっている。
彼女は手を伸ばしてそっと俺の顔についている埃を拭い取ると、口調に一筋の優しさを込めて言った。
「お嬢様、私たち勝ちましたね」
俺は頷くと、目の前の戦場を見渡した。地面全体に横たわる死体と、青石板に浸透した鮮血だ。
凄惨ではあるが、これもまたこれらの悪党たちに相応しい末路なのだ。
俺はグリーンマンランク帝国剣を収めると、体内の魔力は次第に収束していった。
あのグリーンマンランク帝国の兵士傀儡たちもまた、幾筋もの黒気となってゆっくりと大気の中に消散していった。
ただ大気の中に残る鉄と血の匂いだけが、この激しい戦いの激しさを物語っている。
「ああ、勝った。これからは、イスヴァール港で二度とマフィアが平民を虐げることなんてない」
重要設定説明 — 読者の皆様へ
本作における「地球」側設定について
本作の今後の展開において、作中キャラクターが「地球」に渡る描写が登場する予定です。
しかし、作中に登場する地球側の国家・地名・組織は、すべて作者が創作した架空のものです。
重要なお願い
作中に登場する国家名・地名は、現実のいかなる国や地域とも一切の関係がありません。
現実世界の政治・地理・文化・歴史を反映させたものではありません。
読者の皆様におかれましては、現実世界の国や出来事への当てはめ(リアル代入)をなさらないよう、くれぐれもご留意ください。
なぜこの設定にしたのか
物語の舞台として「地球」という親しみやすい背景を用いることで、読者の皆様により深い共感と想像の余地を提供したいと考えています。
しかし同時に、現実世界の複雑な事情に言及することは本作の意図するところではなく、また不必要な誤解やご迷惑をおかけする恐れもあるため、あえてすべての地球側設定を完全なフィクション(架空設定)として構築しています。
総括
本作は完全なフィクションです。
作中の地球側描写において、現実の国家・地域・団体・出来事などとの類似性がある場合であっても、それは一切意図しておらず、すべての地球側設定は純粋な創作です。
読者の皆様には、本作を純粋なエンターテインメントとしてお楽しみいただければ幸いです。
最後になりましたが、本作をお読みいただき、ありがとうございます。
引き続き、クローディアたちの冒険をお楽しみください!




