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105. 板金鎧と、不意の襲撃

 ブリオン子爵家に絡むすべての汚職者たちを、順番にアムニット市行きの囚車に押し込んだ。


 車輪の転がる音が、ブリオン城が遠ざかるのを眺めながら、俺はそっと息をついた。


 傍らのユーナがそっと俺の腕を突つき、ピンク色の長い髪を肩に垂らしながら、いくぶん軽やかな声で言った。


「お嬢様、やっとあの虫けらどもを片付けましたね。ブリオン城の平民たちも、やっと息が続けられるようになりますわ」


 俺は横を向き、ユーナの瞳に宿る光を見つめて軽く頷くと、淡白でありながらも確信に満ちた声で答えた。


「ああ。公爵邸から遣わされた役人たちはもう到着している。不当な租税も順次整理されていくし、これから先は、もう百姓たちを苛める者など現れないさ」


 二人は長居をせず、ブリオン城にある中程度の規模の宿屋に入り、隣り合う二部屋を取って暫くの足場とした。


 部屋は華美でも贅沢でもなかったが、清潔で整っていた。俺は扉を押し開けると、真っ先に窓際へ歩み寄り、カーテンの端をそっと持ち上げ、階下の通りを黙って観察した。


 この時のブリオン城は、次第に秩序を取り戻しつつあった。


 通りを行き交う人々の顔からは、往日の怯えが消えかけており、偶には公爵邸の役人たちが護衛を伴って巡邏する姿が見られた。


 平民たちは次々と足を止めて頷き、瞳の奥には感謝の念が満ちていた。


 俺は窓際に寄りかかり、指先で窓枠を軽く叩きながら、これからの行程を胸の内で計算していた。


 ブリオン城の件は片付いたが、本当の厄介事は今から始まるところだ。


 ユーナが湯気の立つ温水の入った二つの杯を手にして入ってくると、そのうちの一つを俺の目の前に差し出した。彼女の視線は、意識せずに俺の横顔に落ちていた。


 白金色の長い髪が、肌をいっそう白く際立たせている。


 碧色の瞳は水に浸かったサファイアのようで、身体つきは細いながらも一本の粘り強さが漲っており、ただ静かに立っているだけなのに、目を離せない気品が備わっていた。


 ユーナの鼓動が微かに早まり、指先で杯縁をぎゅっと掴む。


 顔に浮かぶからかうような色が幾分減り、口調に含まれる違和感がいっそう顕著になった。


「お嬢様、眉をひそめたままにしないでくださいよ。あの悩み事は、イスヴァール港に着いてからでも解決が遅くありません。今はまずゆっくり休んで、精神を整えることです」


 彼女は言葉を区切り、唇を軽く結ぶと、声のトーンをいくぶん落とし、隠しきれない不機嫌を滲ませた。


「それにしても、先ほど子爵邸であんなにまでしてあの人たちに取り入る必要なんて、本当になかったと思います。私たちには十分な実力があるというのに、どうして自分を卑下して、あんな様子をお見せになったのですか? 私が見ていて……心がとても苦しいのです」


 彼女はわざと「魅了」という二字を避け、その代わりに「取り入る」「あんな様子」といった表現で、マルソに対する俺の仮装を暗に指し示していた。


 彼女は主従の立場と教会の教義を憚り、自分が俺に対して抱いている感情を率直に口にすることができない。


 だが、不満は「あなたのためを思って」という気遣いの中に隠し、俺が他者に対して従順で依存的な様子を見せるたびに、心の底に湧き上がる酸っぱい嫉妬を抑えきれずにいた。


 俺は湯杯を受け取ると、指先に温かい杯壁の感触が伝わり、張り詰めていた神経が幾分和らいだ。


 彼女の口調に含まれる不機嫌と嫉妬を依然として看破できず、ただ彼女の気性が率直すぎて、俺が「迂遠な」方式で任務を完遂するのが気に入らないのだろうと捉えて、淡く応えた。


「ああ、君もゆっくり休みなさい。明日の朝早くにイスヴァール港へ出発するからね」


 俺は頭を垂れて一口飲んだ。


 イスヴァール港の独占商会は勢力が極めて強大で、かつてエリクソン公爵領に盤踞していたオリバー商会でさえ、ここでは足場を築くことができなかった。


 俺の母が築き上げたクローディア商会であっても、半月前にここに出店した支店が、マフィアの干渉によって完全に閉店に追い込まれ、店員の中には負傷した者さえいた。


 俺の見立てでは、ユーナの口にする「取り入る」という表現は、単にその方式があまりに卑下しすぎていると感じ、俺が自分を委屈しているのが心苦しいのだろう。


 彼女が心の奥に隠している真心までには、これっぽっちも思い至らなかった。


 前世三十年間の独身生活が、この種の晦渋な感情表現に対しては、元々から鈍感そのものだった。ましてや、ユーナが自分のことを好いてくれているなんて、露ほども考えたことはなかった。


 そのことを思うと、俺の瞳の奥を冷たい色が過ぎた。


 マフィアが横行していることは、現地の貴族たちの敷衍した責任逃れと大きな関係がある。


 彼らは明らかに管轄する能力があるというのに、「人手が足りない」を口実にして押し付け、果ては公爵に人手を増派するよう求めてさえいた。


 彼らの心の底では、今のエリクソン公爵領がハーランド皇帝の勢力に牽制されており、余分な人手など到底割けないことをよく承知していた。


 これは明らかに意地悪く難癖をつけているのであって、マフィアの暴挙を变相的に容認しているのに他ならない。


 ユーナは俺の瞳に宿る冷意を見て、そっと息をついた。彼女はわざと距離を詰め、鼻先に俺の体から漂う淡いカメリアの花香が満ちるのを感じながら、鼓動がまた数拍早まった。


 彼女は下唇を軽く噛み、口調に執拗さと懇願の色を滲ませ、不満をもはや隠しきれずにいた。


「お嬢様の任務を完遂することに反対するわけではありません。ただ、これから先も任務のために、関係のない人に対してあんな従順な様子をお見せにならないでほしいだけです」


 彼女は瞳を軽く伏せ、俺の目を見る勇気がなかった。


 自分の真心が露見されるのを怖れる一方で、俺に彼女が分限を超えていると思われることも怖れていた。


 それでも、心の底に渦巻く不満を口に出さずにはいられなかった。


 たとえ相変わらず間接的な表現であっても、以前よりもずっと率直で、隠しきれない嫉妬と占有欲が、すべて「お嬢様のためを思って」という口調の中に包まれていた。


 俺は微かに身体を横にずらし、彼女との距離が近すぎるのを避けた。顔にはこれといった表情はなかった。


 ようやくユーナの口調に含まれる違和感に気付いたものの、やはり「好き」という方向には思い至らなかった。


 ただユーナの気性が執拗で、ああいう迂遠な行動様式が気に入らないのだろうと捉え、口調もいくぶん柔和にして、辛抱強く説明した。


「先ほど子爵邸で、私があんな振る舞いをしたのは、あくまで権宜の計画に過ぎないのよ。ああしなければ、私たちは子爵邸に順調に入ることができなかったでしょう」


「その時になっても、カーター子爵の汚職と不法行為の証拠を見つけることはできないわ。あんな様子がとても不自然だったことは私も分かっているし、私だってあんな真似はしたくなかった。これから先、もっと良い方法があれば、二度と自分を委屈することはないし、君に不快な思いをさせることもないわ」


 俺の返答は純然として同伴者の感情を宥めるばかりのもので、ユーナの言葉の奥に隠された嫉妬と占有欲にはこれっぽっちも気付いていなかった。


 ただ、ユーナが自分のことを心配しすぎるからこそ、こうして執拗に不満を表現するのだろうと捉えていた。


 二人は一晩休養を取ると、翌日の朝早くにイスヴァール港へ向けて出発した。


 馬車の中で、俺とユーナはともに重型の板金鎧を身に纏っていた。


 厚い金属の鎧が二人の体を厳重に包み込んでおり、遠くから眺めると、まるで二つの不格好な鉄の缶詰めのようだった。


 魔力による自身への力量増幅のおかげで、この厚い板金鎧は負担になるどころか、戦闘の中で俺たちに最も強固な保護を与えてくれる。


 俺は馬車の内側に寄りかかり、目を閉じて休みながら、脳裏でイスヴァール港に関する情報を整理していた。


 今度のイスヴァール港行きは、子供の遊びなんかじゃない。


 マフィアは心が冷酷で、独占商会の背後には現地貴族の後ろ盾も控えている。戦闘は避けられないだろう。


 前世の俺は平和な世界に生きていたので、こんな殺し合いなど一度も経験したことがなかった。


 だが、転生後のこの数ヶ月の間に、一度また一度と重ねてきた戦闘が、とうに前世の臆病さを脱ぎ捨てさせ、いっそう沈着で果断な性格へと変えてくれていた。


 傍らのユーナがそっと俺の板金鎧を突つき、「ドン、ドン」という響きを立てた。口調にはいくぶん戯けた色が混じっている。


「お嬢様、ねえ。私たちこんなに板金鎧を着込んで、港に着いた時、怪物だと思われたりしないかなあ?」


 彼女の声は大きくはないが、弾んでいる。視線は俺の板金鎧に包まれた肩先に落ちており、心の底でそっと考える——たとえ不格好な板金鎧を着込んでいても、お嬢様はやっぱりとてもお綺麗だ、と。


 俺は目を開け、碧色の瞳にこれといった感情を湛えず、彼女をちらりと一瞥して淡く言った。


「真剣にやりなさい。港に着いたら、いつ襲撃を受けてもおかしくないわ」


 ユーナが今日はいつもより活発なのは感じ取っているが、それ以上は深く考えず、ただ彼女がこれから始まる戦闘に期待を膨らませているのだろうと捉えていた。


 ユーナはペロリと舌を出すと、からかうのを止めたものの、やはり盗み見るように俺を観察せずにはいられなかった。


 馬車がゆっくりと進み、窓外の風景が次第に農地から林地へと変わっていく。空気の中に含まれる湿り気が、いっそう重くなってきた。


 明らかに、イスヴァール港にどんどん近づいている。


 俺は再び目を閉じ、指先で右手の手環を軽く押さえ、いつでも戦闘に臨める準備を整えていた——俺には一種の予感があった。マフィアどもは、俺たちが平穏に港に入ることを容易には許さないだろうと。


 案の定、馬車が林地を抜け出し、イスヴァール港の入り口に到達しようとしたその時、牽引役の馬が突如として凄まじい嘶きを上げた。


 前蹄が路傍の草叢の中にあった正体不明の物体に引っ掛かり、重い音と共に地面に倒れ込んだのだ。


 馬車は牽引を失い、慣性の力で数メートル前方へ押し出された後、激しく横転して地面に倒れ込んだ。客車内は激しく揺れ、中の雑多な物が床に散らばった。


 俺の反応は極めて速かった。馬車が横転する瞬間、即座に魔力を運転し、背中に一対の白い光翼を浮かび上がらせた。


 同時に手を伸ばして傍らのユーナをしっかりと抱き留め、光翼の力を借りて、安定した足取りで地面に降り立った。


 着地する時、俺は膝を軽く屈めて衝撃を緩和し、懐の中のユーナが負傷しないよう確実に守り抜いた。


「ユーナ、大丈夫か?」


 俺は手を離し、振り返って横転した馬車を見上げた。その瞬間、眼底が凍りついた。


 ユーナは首を振り、身上的埃を払い、腰の黒鎚を握り締めた。声には警戒の色が混じっていた。


「はい、私は大丈夫です、お嬢様」


「よし、戦いの準備をしよう」


 俺の声には一点の揺らぎもなかった。右手を軽く上げ、手環から銀白の長槍を引き出した。ブレンヒルドの槍だ。


 槍を手にすると、微かな冷たさが掌に伝わった。槍身には複雑な紋様が刻まれ、淡い銀白の光芒を放っている。


 槍を引き出した瞬間、無数の細やかな光点が四方から集まり、全身を覆った。重い板金鎧は次第に解け、軽く柔らかな銀白の魚鱗鎧へと変化していく。


 背中の白い光翼も、いっそう大きく広がって、柔和な光輪を帯びている。


 これはブレンヒルドの槍の第一スキル——戦女神・ブレンヒルド状態だ。


 白金色の長髪が風に揺らめき、いっそう耀眼に見せている。


 ユーナは俺の姿を見て、眼底に一抹の艶めかしい色が過ぎり、すぐに漆黒の巨槌を握り締めた。


「お嬢様、準備ができております!」


 彼女の声は確かで、眼差しには戦意が満ちていた。同時に、そっと俺の側に寄り添った。


 その時、馬車の周囲の密林から、ごちゃごちゃとした足音が伝わってきた。数十名の屈強な大男が樹叢から飛び出してきた。


 いずれも面容は獰猛で、手には刃物や鉄棒などの武器を握り、黒い緊衣に身を包み、胸元には生々しい髑髏の紋様が刺繍されている。


 察するまでもない——イスヴァール港のマフィアだ。


 先に立っていたのは極めて屈強な男だった。身長が高く、肩幅が広く、腕には生々しい刺青が走っていた。


 顔には刀傷が額から下巴まで貫き、眼光は獰猛で、巨大な刃物を握りしめている。その刃にはまだ乾かない血痕がついていた。


 彼は眼光を俺とユーナに這わせ、口元に残忍な笑みを浮かべ、傲慢な口調で言った。


「小姐よ、抵抗しない方がいいぞ」


 そう言うと、振り返って横転した馬車の横で起き上がろうとしていた馬車の馭者を見つめた。眼光には半分も哀れみの色がなかった。


 彼は大きな歩みを進め、手の中の刃物を高く掲げ、迷うことなく切り下ろした。


「パリリ」という音と共に、血液が噴き出し、馭者の頭部は即座に肩から落ちた。目は見開かれたまま、死んでもなお不服と恐怖を物語っている。


「こうなったら、お前らの最後もこれと同じだ」


 屈強な男は身を屈め、地面に落ちた頭部をつかみ、サッカーボールを蹴るように、河谷の中へ思い切り蹴り込んだ。


 頭部は岩石に衝突し、重い音を立ててから、穏やかな水流に流されていった。


 彼は手を叩き、顔に浮かぶ残忍さをいっそう募らせ、眼光でユーナを蔑んだ。


「これがこの世界の——」


 彼の言葉はまだ言い終わらないうちに、紫紅色の飛刃がわきから一直線に飛び出した。スピードは速すぎて残像しか見えない。腰部に正確に命中した。


 飛刃は灼けるような熱を帯び、彼の腰に整斉な切り込みを開けた。高温が即座に切り口を焼き固めたので、血液は噴き出す暇もなく、焦げる匂いだけが漂った。


 屈強な男の体は硬直し、顔に浮かぶ傲慢さと残忍さが凍りついた。


 彼は自分の腰を見ると、上半身が切り口からゆっくりと滑り落ち、重い音を立てて地面に倒れた。眼底には信じ難い色だけが満ちていた。


「……規……則だ」


 息絶える瞬間、最後の力でこの二字を絞り出して、そのまま完全に息の根を止めた。


 ユーナは手を引っ込め、指先の紫紅色の魔力が次第に消散していく。


 彼女は地面の亡骸を見下ろし、眼底には哀れみの欠片もなく、氷のような嫌悪だけがあった。


 こんな無辜を殺す所業が最も気に障った。馭者は何もしていないのに、この巻き添えで悲惨な最期を遂げたのだから。


 まして死んだ後もあんなに辱められるなんて——彼女の怒りに油を注いだのだ。


「この外道が! 馭者さんは何もしていないのに、よくも——よくもこんなに残忍な真似ができたのです!」


 叫びのような怒号が口をついて出た。馭者が死ぬ直前の姿を思い出して、胸がキューっと痛んだ。


 いっそう、これらの悪党を根絶やしにする決意が固まった。


 マフィアの構成員たちは、先頭の大哥が瞬時に倒されたのを見て、みんな度を失っていた。


 その場に立ち尽くし、お互いに顔を見合わせ、恐怖で顔が引きつっていた。


 イスヴァール港で横行して弱い者をいじめていた彼らだった。今まで自分たちが虐める側だったのに、こんな場面を見たこともなかった。


 線が細く痩せた一人の少女が、まさかあんなに速く大哥を秒殺できるなんて——こんな認知を超越していた。


 何人かは意識的に後ずさりし、眼光には畏怖が滲み、既に逃げ出そうとする気配もあった。


 だが、一部は怒りに目を曇らせた。大哥の亡骸を見ながら眼前の二人を見て、悪心がまた湧いてきた。


 彼らは武器を握り直し、眼光で俺とユーナを見据えた。


 俺は背中の白い光翼を羽ばたかせ、そっと空に浮き上がり、マフィアの構成員たちを見下ろした。声が冷たかった。


「皆、俺たちを襲撃することを選んだのなら、覚悟はできているんだろうな……」


 俺が言い終わると同時に、光翼を羽ばたかせて人群れに向かって突っ込んだ。スピードは驚くほど速かった。


 銀白の槍身が空気を切り裂き、鋭い風を帯びながら、強大な衝撃力だけで、構成員の一人の胸を貫いた。


 その構成員は目を見開き、口から鮮血を噴き出して、力なく地面に倒れ込んだ。手にしていた鉄棒も地面に落ち、「ガシャン」という音を立てた。


 その時になって、ようやく他の構成員たちが事態に気付き、今度は本当に手ごわい相手にぶつかったのだと悟った。


 だが、今となっては、もう退路はなかった。


 彼らはよく承知していた。今さら降参したところで、いい結末など待っていはしない。


 そこで一人ひとりが狂ったように喚きながら、人群の中央に突っ込んだ俺に向かって殺到してきた。


 俺の神色は変わらず、手にするブレンヒルドの槍を柔軟に揮い、槍先が至る所、マフィアの構成員で太刀打ちできる者など一人もいなかった。


 俺は長槍から得られる戦闘増益と、自身の力量増幅魔法のおかげで、人影の中を柔軟に縫って進み、幾度もの攻撃を回避しながら、槍を一振りするごとに一つの命を連れ去っていった。


 白金色の長い髪が戦闘の中で奔放に揺らめき、銀白の魚鱗鎧が陽光の下で耀眼な光芒を放ち、背中の白い光翼が柔らかく羽ばたき、空中での柔軟な移動を支えていた。


 俺の動作はきっぱりとして無駄がなく、一つ一つの招式が正確で辛辣だった。十三歳の少女には到底見えず、むしろ百戦錬磨の老兵のようだった。


 これにはブレンヒルドの槍の恩恵もあるし、前世で大作ゲームとやらを遊んでいた時にゲーム画面を見て盗み学んだ招式も混じっている。


 さらにこの数ヶ月の間、一度また一度と重ねてきた戦闘で蓄積された経験もあった。


 それと同時に、もう一方のユーナも手を休めてはいなかった。


 彼女は腰の漆黒の巨槌を握り締め、魔力を運転して力量を巨槌の中に注ぎ込み、目の前のマフィア構成員に向かって振り下ろした。


 巨槌は強大な力を帯び、地面に振り下ろされれば重い音が響き、微かに振動すら走る。


 数名の構成員がそれを見て、即座に手の中の鉄の盾を掲げ、ユーナの攻撃をまともに受け止めようとした。


 だが彼らは、見た目が痩せ細って見えるユーナの力量が特に強大であることを思いも寄らなかった。巨槌が振り下ろされる力など、彼らの受け止められるところではなかった。


「バリッ」という音と共に、鉄の盾が瞬時に粉々に砕け散り、盾を掲げていた構成員は、巨槌でそのまま挽き肉に叩き潰され、鮮血と砕けた肉が地面に飛び散った。凄まじい惨劇だった。


 他の構成員たちはその光景を見て、魂が飛び出さんばかりに恐れおののいた。


 彼らはもう二度と盾に頼って堪えるような真似はせず、必死にユーナの巨槌を振るう動作を凝視し、用心深く事前に避けるしかなかった。


 ユーナの動作は俺ほど柔軟ではないものの、それでも極めて迅速で、一振りごとに空気を切り裂く音が響いていた。


 たとえ構成員たちが事前に避けようとしても、何人かは反応が間に合わず巨槌に弾き飛ばされ、重い音と共に樹木に激突して口から鮮血を吐き、二度と起き上がれなくなった。


 ユーナは巨槌を振るいながら、時折ちらりと俺の方角を盗み見て、俺が負傷しないか気にしていた。


 俺が人群の中を自在に行き来して、一片の傷も負っていないのを見て、彼女はようやく少し安堵した。


 そしてまた怒りの炎を目の前のマフィア構成員たちにぶつけ、眼光に満ちる獰猛さは、マフィアたちのそれにも引けを取らなかった。


 彼女は無実の馭者の仇を討ち、命を草のように扱うこれらの悪党たちに代償を払わせるつもりだった。


 戦闘は凄まじい勢いで進み、血腥い匂いがいっそう濃くなり、林地全体に満ちていった。


 マフィアの構成員たちが一人また一人と地面に倒れ、悲痛な叫び声、武器が衝突する音、巨槌が地面を叩く音が入り交じり、見る者を寒気を催させた。


 わずか数分のうちに、大半のマフィア構成員が血の池の中に倒れ伏していた。


 人群の中で、一人の小柄な構成員が、傍らの仲間たちが一人また一人と倒れていくのを見ていた。


 俺とユーナの鋭い攻勢を見て、心の底に満ちていた恐怖が遂に悪意を圧し倒した。


 彼らはこの二人の少女に到底敵わないことをよく承知していた。このまま留まっていても無駄死にするだけだ。そこで混乱に紛れてそっと数歩後ずさりした。


 彼は樹叢の物陰を借り、腰を屈めて背を丸め、遠くへ向かって走り出した。命を繋ごうとするということだった。


 彼は非常に速く走り、少しも立ち止まろうとせず、振り返って見る勇気すらなかった。一刻も早くこの危険な場所から離脱したい一心だった。


 イスヴァール港に戻り次第、商会と他のマフィア構成員たちに事態を報告するつもりでいた。


 だが彼は夢にも思わなかった。振り返って逃げ出そうとしたその瞬間、ズボンが倒刺の生えた楕円形の果実に引っ掛かってしまったのだ。


 それは俺がとうに彼の企みに気付いており、彼が振り返った瞬間に魔力で果実を操り、そっと彼のズボンに掛けたのだった。


 その中には俺の定位魔法が隠されており、彼が生きている限り、俺は定位を頼りにマフィアの本拠地を探り当てることができる。


 俺は逃げ去っていく後ろ姿を見つめ、眼底に一抹の納得が過ぎり、口元に淡い弧度を浮かべて、追おうとはしなかった。


 心の中でよく承知していた。この生き残りを残しておく方が、殺してしまうよりもずっと役に立つ、と。


 彼を通じて、迅速にマフィアの本拠地を見つけ出し、一度にすべての厄介事を解決するつもりだった。


 俺は手にするブレンヒルドの槍を振るい続け、残りのマフィア構成員を片付けていった。動作は相変わらずきっぱりとしていて、少しも躊躇はなかった。


 ユーナもあの逃げ去っていく構成員に気付き、追いかけようとしたが、俺に制せられた。


「追わなくていい。奴を生かしておくのは役に立つ」俺の声は相変わらず冷たく、手にする長槍でもう一人のマフィアの胸を貫いた。「奴は遠くへは逃げられない。すぐにでも奴を見つけ出せるわ」


 ユーナは僅かに呆けた後、頷いてそれ以上深く追及せず、目の前の敵に対処することに専念した。


 彼女はよく承知していた。俺が物事を行う際には、いつでも分別がある。生かしておく方が役に立つと言うのなら、必ずそれなりの理由があるはずだ、と。


 間もなく、最後のマフィア構成員もユーナの巨槌の下に倒れ伏し、林地の中はようやく平静を取り戻した。地面には亡骸が散乱し、濃厚な血腥い匂いが充満しているだけだった。


 ユーナは巨槌を収め、目の前の亡骸を見つめながら、依然として消えない怒りを抱えたまま、足元の小石を蹴り飛ばした。


 彼女は言った。目尻が微かに赤く染まっていた。


 馭者が死ぬ直前の姿を思い出すたびに、胸が痛んだ。マフィアどもを完全に一掃するという決意がいっそう固くなった。


 俺はゆっくりと降り立ち、ブレンヒルドの槍を収め、身上の銀白の魚鱗鎧が次第に褪せて、いつもの様子へと戻っていく。


 背中の白い光翼も次第に消散し、淡い光点だけがゆっくりと体内に融け込んでいった。


 俺は右手を差し出し、指先で淡い緑色の光を微かに凝縮させた。緑色の光が俺の食指の上で柔らかに瞬き、柔和な光芒を放っている。


 その直後、食指の上にあったあの光の塊が、ゆっくりと右前方へ向かって飛び去っていった。明らかに定位器の方角を見つけ出したのだ。


 二人は光の塊が指し示す方角に目をやった。あの緑色の光が指し示す場所こそが、イスヴァール港が所在する場所だった。


 港の輪郭が微かに見え始め、空気中の湿り気がいっそう重くなり、海風の匂いも次第に明確になってきた。


「行こう。イスヴァール港へ」


 ユーナは頷き、しっかりと俺の傍らについていった。

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