10. 私も魔法を習いたい
ユーナが魔法を習いたいと言い出した。
俺は父上に報告した。
父上は一瞬も迷わず頷いた。
「いいだろう。ユーナも、来週から一緒に授業を受けるといい」
「……それほど簡単に?」
「侍女としても、魔法が使えるほうが便利だ。お前の護衛にもなる」
父上はごく自然に言った。
俺の想定では、もっと何か言われるかと——でもそうじゃなかった。
「ありがとうございます!」
俺は深々とお辞儀をした。
「さて、と」
俺は頭を上げた。
「ただ一つ問題が」
「問題?」
「はい。ヘイティ先生が休暇中なんです」
父上が眉をひそめた。
「休暇?」
「出産の休暇だそうです。近くの別荘で静かに過ごしていて、まだ復帰の予定が」
「……なるほど」
父上は納得した。
「まあ、待つしかないな。侍女の基礎教育から始めるといい」
「はい」
俺は答えた。
……待つしかない。
この世界には週末という概念がない。貴族も使用人も、毎日働く。子供も例外じゃない。
俺はずっと授業を受けてきたし、休みなんてほぼない。
だから今回の休暇は、貴重な休息になりそうだ。
变态を焼き払った翌日の午後。
馬車が屋敷の前に到着した。
サイドに「オリバー商会」のロゴが入った馬車だ。
「お嬢様、昨日内着のご注文が届きました」
使用人が報告しに来た。
俺は廊下へ出た。
商人が複数の箱を持って立っていた。
「クローティアお嬢様、そしてユーナさん。本日はご注文の内着をお届けしました」
彼は丁寧にお辞儀をした。
俺とユーナの分、それぞれの箱を確認した。
問題なし。
……ただ、一緒に別の袋も渡されていた。
中身は——白い綿のズボンだった。
ただし、股部分だけ分厚い綿が入っている。
……これ、一体?
「おやつです」
商人が言った。
「女性の方には、必需品ですので」
「……ああ、なるほど」
俺は適当に答えた。
当時は、まだ意味が分かっていなかった。
一ヶ月後、俺はその意味を痛感したことになる。
商人が箱を渡したあと、言った。
「それから、昨日の件です。警備隊からのお知らせを持ってきました」
彼は背中のバッグから、蝋封のされた手紙を取り出した。
蝋にはアムニト市の紋章が押されていた。
「手紙をどうぞ」
俺は手紙を受け取った。
商人は丁寧にお辞儀をして、馬車に乗り込んだ。
俺は手紙を持って、母上の部屋へ向かった。
「ママ」
「あら、どうしたの」
俺は手紙を差し出した。
「昨日の件、判決が出たそうです」
母上は手紙を開いた。
彼女の目が、手紙の上を動く。
やがて——
「死刑だ」
母上は短く言った。
「午後十二時、市街の広場で公開処刑」
「……」
「首」
母上は静かに言った。
「組織の隠れ家も全部吐いたらしい」
俺は言葉を失った。
死刑。
……残酷だけど、この世界じゃそれが正義だ。
子供を狙った犯人、しかも累犯だ。
「悪いことはしちゃいけない、ね」
母上は手紙を畳んだ。
「まあ、これで一つ片付いたわ」
「はい」
俺は答えた。
母上の部屋を出て、俺はゆっくりと自分の工房へ向かった。
作ったばかりの小型魔導ロボットを、いじりたかったからだ。
でも——
「あっ」
腕を掴まれた。
ユーナだ。
「お嬢様、ちょっとお時間を」
彼女は俺を自分の部屋に引きずり込んだ。
ドレッシングルームへ。
「何のつもり?」
俺はユーナを見た。
彼女が——にやりと笑っていた。
昨日まであんなに落ち込んでいたのに、もう元気だ。
「もちろん、お嬢様をより可愛くすることですよ~」
ユーナが俺のドレスを脱がせ始めた。
淡い緑色のドレスがスルスルと落ちていく。
「あっ」
俺は反射的に胸を隠した。
でも——ユーナは手際よく、淡い緑色のブラを俺に着せた。
後ろから紐を結ぶ感触。
……俺、完全に女になったな。
男のプライドが、砕け散る音が聞こえた気がした。
「どう? 動いても痛くないでしょ」
ユーナが言った。
たしかに。
ブラのおかげで、服の摩擦から解放された。
……悪くない。
俺は鏡を見た。
淡い緑のブラに、小さな草の刺繍。
……まあ、可愛い。
「……うん、悪くない」
俺は小さく言った。
男の羞恥心なんて、とっくに消えていた。
だって俺は今、十三歳の少女だ。
そう——
「お嬢様、そろそろこっちの番ですよ」
ユーナが俺の方を見た。
彼女の隣に、木の箱が置かれていた。
ユーナの内着だ。
俺は箱を開けた。
一番上に——
淡いピンク色のブラ。
小さなウサギの刺繍がついている。
「……」
俺は箱からブラを取り出し、ユナの方へゆっくり近づいた。
「お、お嬢様!? い、いえ、私が自分で——」
ユーナが後ずさった。
「さっきまで、そんなに偉そうに言ってたのに」
俺は笑った。
「毎日いじめられてる返しだよ」
「で、でも——」
「動かないでね」
俺は木属性魔法を使った。
ユーナの足元から、小さな蔓が伸びて彼女の足首を絡めた。
「きゃっ!?」
ユーナが立ち尽くした。
もう逃げられない。
彼女は目を閉じた。
俺はゆっくりと、ユーナのエプロンドレスを脱がせた。
女僕服は着脱が簡単だ。そういう設計なんだろう。
……よく考えると、どうしてこんなに簡単に脱げるんだ?
まあ、いいか。
ユーナの下着姿が露わになった。
……あれ?
彼女はすでにブラをつけていた。
シンプルな白いブラだ。
「ユーナ、すでに——」
「はい、つけてます」
ユーナは顔を伏せた。
「働く時に、必要ですから」
……そうか。
俺はユーナのブラを外した。
そして、ピンクのウサギちゃんを着せた。
「うぅ……」
ユーナの顔が、熟れたリンゴみたいに真っ赤になった。
「……お嬢様、悪い冗談です!?」
「言ってないよ」
俺は笑った。
「似合ってる」
ユーナはしばらく沈黙した。
やがて、小さな声で言った。
「……ありがとうございます」
俺はユーナの顔を見た。
彼女はまだ少し恥ずかしそうにしているけれど——
目には、もう涙はなかった。
「お嬢様?」
ユーナが声をかけた。
「……ん?」
俺は目を開けた。
鏡に映る自分が見えた。
淡い緑色のドレスに、小さな草の刺繍のブラ。
……可愛い。
「何か、考えてる?」
ユーナが聞いた。
「うん……少し」
俺は振り返った。
ユーナは、淡いピンク色のエプロンドレスを着ていた。
胸元に、小さなウサギ。
「……似合ってるよ、ユーナ」
「!?」
ユーナが顔を赤くした。
「お、お嬢様——」
「嘘じゃないよ」
俺は笑った。
「ユーナは、ユーナでいい」
「……はい」
ユーナは小さく答えた。
その目に——小さな光が戻っていた。
私の視界
私の名前は、ユーナ・フランチ。
これは私の、一番大事な名前です。
十二歳まで、私はただの名もなき子供でした。
貧民窟で生きる。
毎日、生きるためだけに生きる。
ある人は、貧民窟の子供たちは疫病神だと言いました。
何もしない、商人の品を盗むだけ、世界の寄生虫だ——。
……悔しかったです。
でも、私たちは力がなかった。
体が細くて、重い仕事はできません。
知識もなくて、商売もできません。
酒場の店員? そういう仕事は、普通の市民が選ばれます。
貧民窟の子供が雇われるなんて、ほとんどない。
両親の顔は、知りません。
覚えている限り、私の隣には銀髪の老修女がいました。
彼女は一人で、貧民窟の古びた教会を守っていました。
年を取っていて、でも一生懸命、古いミシンで麻布を織っていました。
織った布を近くの工場に売り、捨てられた子供たちの食費にしてくれた。
毎日、同じようなものを食べました。
燕麦のお粥。
硬いパン。
でも、私は幸せでした。
修女婆婆が、私のそばにいてくれたから。
このまま、ずっと続けばいい。
そう願っていました。
大人になったら——
たくさんお金を稼いで、修女婆婆に恩返ししたい。
そう思っていました。
でも——
そんなに甘くないです。
だってここは、貧民窟です。
ある日、修女婆婆が籠を持って出かけました。
いつものように、織った麻布を売りに行くんです。
私は教会で待ちました。
でも——婆婆は帰ってきませんでした。
夜の鐘が鳴っても、帰ってきません。
あの時、私は慌てて教会を飛び出しました。
婆婆は「私がいない間は外に出るな」と言っていました。
でも、待ちきれませんでした。
婆婆のことを探しに、街へ出たのです。
婆婆はきっと、何かあっただけだ。
すぐに戻ってくる。
きっとそうだ。
見つけて、一緒に教会に帰ろう。
……そう、そうするんだ。
でも——
世界はそんなに優しくありません。
もし世界が本当に幸せな場所なら、貧民窟なんて存在しない。
私は幻を見ました。
道端に、婆婆の死体がありました。
服が剥がされていました。
だって、この世界じゃ古い修女服でも売れるから。
強盗は服も奪うのです。
胸に、いくつもの傷。
地面に、赤い液体が広がっていました。
婆婆は、死んでいました。
私はまだ何も分からない子供。
でも——人は土に帰るべきだと、知っていました。
婆婆はいい人だ。
ちゃんと埋葬してあげないと。
教会は教団の資産だから、売れません。
じゃあ、何を売る——
私自身です。
十二歳の年、私は修女婆婆を埋葬するために、自分を売りました。
金貨一枚。
奴隷商人に。
でも条件を付けました。
「婆婆を埋葬するまでは、自由にさせてほしい」
そう言ったら、商人はすぐに承諾しました。
私を哀れんだのか、それとも子供だから逃げられないと思ったのか。
後で知りました。
私と同じ理由で自分を売る人は、多いそうです。
家族や友人を埋葬するために——。
だから、商人はそんなに驚かなかったんです。




