誰が魔王か
「招待状。新魔王ルカ即位の式典にご招待、か。まったく、面白い真似をするじゃないか、幼帝」
かいつまんで事後報告を聞いただけだが、俺を殺そうと躍起になった周辺の貴族や名のある大魔族。連中に嘘の場所、それも勇者が滞在している街の情報を伝えて軍勢を送らせた。
ていうか本当に大魔族たちは俺が魔王になる世界戦ってやつを嫌ってるんだな。
連中のプライドを巧みに擽り、軍を起こさせ、勇者に始末させる。それも、神託を封じたんだ、運がよければ勇者を始末する算段でもあったのだろう。
大胆で素早い。良いと思ったら信じて突き進む。魔法の特性上、信じなきゃいけないってのがあるんだろうが、ミミは既にあるラインを越えている。
覚悟だ。全軍が自分の指揮一つで死ぬという覚悟。勇者ども、お前らにこの覚悟、あるのか?
「自慢の魔王パーティーの自慢をひとつ言ってもいいだろうか。勇者が長い旅を通して成長し、憎しみや悲しみを乗り越えて一丸となり、魔王を倒す。俺が死ぬほど見て来た英雄譚のストーリーラインは大体こんな感じだ。そこにつけて、成長前に叩こうとしたソラは最高の外伝を描いてくれたよ。だから俺も、それにならおうと思う」
俺は目の前に立つ数人の大魔族及び、魔王軍将軍たちの前で手を鷹揚に広げた。
「貴族ルカ。父君の功績を盾に魔王様の玉座を私物化し、あまつさえいたずらに勇者軍との戦争を進めるその蛮行、これ以上は見過ごせません」
「直ちに退けば、父君の功績からある程度の身分を保証し、命を助けましょう」
「それで? 飼い慣らして魔王軍が負けるのを見てろって? 酷い冗談だな。お前ら、分かってるのか? 俺は親父を尊敬している」
「我らが勇者と呼ばれるものと戦い続けて300年。魔王様が国を作って90余年。間もなく100年の記念すべき日を魔王として迎えるのはあなたではない」
「なるほど、道理だ。俺が魔王になればいいって訳じゃない。だけどお前らは勝てるのか? 勇者に。腕っぷしだけで魔王になるって言うなら、かかって来い――」
斬撃が俺の頬を掠めた。
動体視力で追えない。物理的なものではないな。
魔法か……まったく、未来視が使えていれば、オートで防御、ないしは反撃も出来た。
「今のあなたは容易く殺せます、ルカ様」
「その通りだ。固有魔法は魂を使って術式を刻む。俺の場合、その術式が焼けたせいでもう使えない。俺が使えない以上、再現はできない。良い魔法を失ったよ」
「ならば――」
お礼剣を向けた将軍の両腕が、跳ね飛ばされた。
本当にこいつは亡霊みたいだな……俺の魔力探知と気配探知を越えて来た? 有り得ない。こいつ、人じゃないのか?
「なあ、ソレ。休んでろっていっただろ、血が足元に落ちてんぞ」
「黙れ。貴様に死なれては困る」
剣を紫のオーラが包み込む。
強烈なプレッシャーと明確な殺意。心の弱い奴なら、この黒鎧と対峙しただけで恐れをなすだろう。
すぐに自身の腕を傍付きの魔法使いに治癒させる将軍。
無論、将軍一人に戦わせるはずもなく、他の将軍も兵士を纏めてソレに襲い掛かる。
ソレは地面を蹴り上げ、獣のような低い軌道で、大魔族の首を狙う。
腕で受けた大魔族の腕をそのまま切り飛ばし、首に深々と剣を刺し込んだ。
「馬鹿な……防御、術式……が」
「悪刀――」
肉に埋まる剣を無理やり横に倒して斬り払い、大魔族を殺すとすぐに近場の兵士に跳び、膝を打つと同時に片手で投げ飛ばす。
同時に加速。兵士の胴体に剣を突き刺し、一気に仕留めた後、すぐに振り返って飛んできた火球を斬る。
真っ二つに割れた下級の一部が俺に飛んでくるが、ゆっくり首を傾げて避けた。
「魔法を切っただと……馬鹿な、なんだ貴様は!」
「悪、刀」
縦に大ぶりの斬り落とし。床が割れ、衝撃波が大魔族、将軍に賈華立部手の魔法や防御術式を払った。
大魔族や将軍は普通の魔族よりも魔力量が多く、また戦闘に慣れている。
「戦うために魔法を研鑽し、人を殺すため、勇者を殺すために長い時間を術式の開発及び取得に費やすことでようやくその地位に上り詰められる。そんな連中を、ただの一般魔族にしたら、どうなるんだろうな」
俺の問いは目の前の殺戮が回答してくれた。
魔法が壊される。魔法が効かない。魔法が頼れない。
究極の状況でも、しかし将軍は巧みな兵の指揮と自身の剣の腕を使ってソレに対抗する。
ソレの戦い方はおおよそ剣術と呼べるものじゃない。
獣の戦い方。剣を力いっぱい振るっているだけに見えて、一撃一撃が命を刈り取るのに合理的なものになっている。
異常なのは、そんな乱暴な戦い方なのに剣が壊れないことだ。
攻撃を受けても反撃して命を奪う。あまりにも強調された肉を切らせて骨を断つ戦術はソレの命を担保にした戦い方だ。
俺は加勢しようとしたが、思いとどまった。
信じることが、何よりも大事なのだと。この程度で俺が動いていては、今後勝てないと。
別にソレは俺の期待に応えたいって訳じゃなかっただろう。ただ、目の前の脅威を討ち払っていただけだ。
雄々しく戦う獣のように見えて、俺の目には、恐怖に震える小動物に見えてならない。
ソレが最後の大魔族を討った頃、体に限界が来たらしく、膝から崩れ落ちた。
墜ちる直前に体を支える。思った以上に軽いな。
「お疲れさん。それとありがとう。強いじゃねえか」
「黙れ」
「はいはい。飯食って寝な」
「あ、あれ? ウチ、遅れた?」
おずおずとした様子で姿を現したのは、ユリエルだった。
「なんだどうした」
「ミミさん、が、もしかしたら魔王城にルカさんがいるって嗅ぎつけた連中が来るかもだから、手伝え、って」
「全部ソレがやってくれたよ。幼帝んとこに戻ってやりな。ありがとな」
「わ、わかった」
小さな魔法使いの背中を目で追って、俺は親衛隊長を呼び出した。
襲撃の時から俺を守ろうとしていたが、さすがに大魔族相手には分が悪い。
親衛隊は控えさせていた。
「こいつを治療室へ」
「ご命令のままに、魔王様」
「まだ魔王じゃねえよ。親衛隊長、手紙を届けて大事はなかったか」
「報告が遅れ申し訳ありません、閣下。部下を数名失いました。また、一部の貴族が暴れたため、やむなく」
「ほっ、意外とやるな。死んだ兵士の家族に金を渡して親衛隊を補充しろ。北の未開拓地があったよな、アレをお前に渡そう。俺の土地だ」
「閣下、そのような――」
「安心しろ。信頼を金で買ってるだけだ。つっても荒れ地だ、苦労するのはお前の方だぜ」
「ありがたく」
「ソレが起きたらうまい料理を食わせてやろう。こいつ、金がいるとかそう言うタイプじゃなさそうだしな」




